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概要 |
ミキシングコンソールは,音響制作を行うスタジオには必須の機器の1つである。スタジオでは,最も音響性能の厳密さが要求されるリスニングポイント近傍に,このような機材を設置しなければならない。一方,ミキシングコンソールは音響的に透明とは言い難い大きさを有しており,リスニングポイントへの音響的影響は避けられないものであると考えられる。
リスニングポイントにおける音響特性は,その周波数特性がフラット...であることが理想とされる。現実的には,完全にフラットである必要はないが,顕著なピークやディップの無い特性が望まれる。一方,多くのミキシングルームでは,100Hz近傍におけるディップがリスニングポイントにおける周波数特性として観測されている。
以上の観点から,本研究では,ミキシングコンソールの存在とスタジオの音響特性の関係に関して,検証を行っている。本研究の主旨は,リスニングポイントにおける100Hz近傍のディップの発生メカニズムとミキシングコンソールの関係を明らかにし,そのようなディップを排除することである。
本研究では,境界要素法による数値解析を主な解析手法としている。解析には,スタジオの垂直断面をモデル化した2次元音場を仮定し,壁,天井等の室境界は無視している。数値解析結果に関しては,模型実験や実際のスタジオにおけるインパルスレスポンス測定により,その妥当性に関して検証を行っている。以下,本研究により検証された事項を記す。
1) 100Hzのディップとミキシングコンソールとの関係
音源距離が3m前後のスタジオでは,直接音と床からの反射音との行路差により150Hz近傍にディップが生じる。ミキシングコンソールの存在は,そのディップに影響を与える。その結果,ディップの周波数が,100Hz近傍に移動する。
ミキシングコンソールは音場に対してクロスオーバフィルタ的な役割をする。ミキシングコンソールより上の音場からの入射波に対してはハイパスフィルタとして振る舞い,下の音場からの入射波に対しては,ローパスフィルタとして振る舞う。ハイパスフィルタとしての振る舞いは,ミキシングコンソールの表面反射によるものである。ローパスフィルタとしての振る舞いは,ミキシングコンソールの存在により,床からの反射音のうちの低域成分のみがリスニングポイントに対して伝搬されることを意味している。
リスニングポイントと実音源及びリスニングポイントと虚音源との距離差は,このようなミキシングコンソールのクロスオーバフィルタ的な特性に歪みを与える。ミキシングコンソールによる歪んだクロスオーバフィルタとしての特性が,リスニングポイントにおける100Hz近傍の特性に大きく影響している。
まとめると,直接音と床からの低域反射音により生成された100Hz近傍のディップに対して,ミキシングコンソールの表面反射による高域成分の寄与が加わることで,リスニングポイントにおける100Hz近傍のディップの最終特性が形成されると考えられる。
以上の事項をもとに音場を単純化した等価回路モデルによるシミュレート結果は,境界要素法による数値計算結果と良い対応をなしており,ミキシングコンソールに関する上記の解釈が正しいことが確認される。
2) ディップの改善手法の検討
床からの低域反射による寄与を軽減することにより,100Hz近傍のディップの改善が期待できる。そのための手法として,「床面の吸音」及び「ミキシングコンソールの吸音」の2種類の方法が考えられる。
音源位置からミキシングコンソールの先端までの床面を吸音した場合,吸音率0.5以上の吸音により約5dB以上のディップの改善が可能となる。但し,吸音率が1となるような過度の吸音は,ディップの様子だけでなく特性全体を大きく変えてしまうため注意が必要である。
ミキシングコンソールの底面を吸音率0.5以上で吸音することで,約3dB以上のディップの改善が可能となる。ミキシングコンソール底面の吸音は,ディップ周波数近傍の低域にのみ作用することから,吸音率が1となるような高い吸音や音圧反射率が-1となるようなソフト境界による処置は高い改善効果を得ることができる。
以上の事項をもとに,音響管を用いたソフト境界をミキシングコンソールの下部に適用する改善手法を提案し,現実的な処置としての有用性が確認された。
以上より,中小規模スタジオでは,壁及び天井の音響的影響を無視したとしても,ミキシングコンソールにより影響受けたディップが,リスニングポイントにおける100Hz近傍の周波数特性として必然的に生じることが分かった。また,そのようなディップは,ミキシングコンソール周辺の音響処理により軽減できることが確認された。今後,音響管を用いたディップ改善手法及び,室境界とミキシングコンソールの影響に関する詳細な検証を行うことで,より高性能なディップ改善手法の検討が可能になると思われる。続きを見る
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目次 |
目次
第1章 序文
第2章 検証モデル
第3章 数値解析
第4章 測定
第5章 測定及び解析結果
第6章 実音源及び虚音源からの寄与
第7章 等価回路モデル
第8章 100Hz近傍に生じるディップの改善
第9章 総括
謝辞
付録A:境界積分の計算
参考文献
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