<博士論文>
楽器の音色を視野に入れた音高構成理論の研究 : 感覚的協和理論の音楽への応用
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概要 | 音楽における単旋律の時代は遠い昔に終わり,複数の音が同時に鳴る音楽が生まれた。周波数の異なる音が結合するとき心地よい響きが感じられれば,その結合は「協和」と呼ばれた。19 世紀以降の西洋音楽においては,音響現象が次第に複雑なものとなり,調性和声的な価値観から見れば,楽曲全体は一貫して不協和な響きに支配されていく傾向にあったといえる。その結果として,音素材分類のための「協和」「不協和」の有効性も失わ...れることとなり,12 音技法に代表されるような,調性和声に代わる20 世紀の新しい様式の音楽を統御するための音楽理論からは「協和」への関心は失われ,構造,構成的な側面が強調されることになったと言えよう。 しかしながら,音楽は聴覚を前提とした芸術であるので,調性和声的な視点の有効性が失われたとしても,音楽の理論にとって聴覚との関連性が重要であることに変わりはないだろう。それ故,本論文の目的は聴覚との関連において,音楽の構造(具体的に言えば,楽譜に音符として記された音高の結合という構造)分析に適した音高構成理論(pitchcombination theory)の構築にある。 一般に音楽は楽器によって演奏される。楽器の音は倍音(あるいは部分音)から成り,複数の音を同時に奏すれば,隣接する倍音同士の干渉によって「うなり」が生じる。本研究においてR 不協和度と呼ぶ,この「うなり」がもたらす“roughness"に起因する不協和は,楽器の部分音構造(各部分音の振幅と,基音に対する各部分音の周波数比)を定義し,数学モデルを用いることによって計算され,本研究においては重要な役割を担う定量的な指標である。 第1 章においては「協和概念」の歴史が概観され,調性和声以後の20 世紀の音高構成理論の特徴が述べられている。さらに,同じ音程構造を持つ和音を比較する予備実験を通して,現代の音楽の複雑な音程構造を聴覚的に把握することの困難さについて述べられている。この実験の結果は,現実の状況に合った,聴覚との関連を持つ音楽構成理論が求められていることを示唆し,そのような理論にとって,楽器音の倍音(より正確には部分音)構造が非常に重要な要素であると考えられる。 第2 章では,R 不協和度を算出するための数学モデルが決定され,実際に使用される形に沿って説明されている。このモデルは,亀岡モデルに基づいているが,音高集合構成音の倍音(あるいは部分音)が一致する際におこる問題に配慮し,補足修正が加えられている。 第3 章では,モデル的な音色構造が設定され,R 不協和度が算出されることによって,調性和声的協和の背景ともなり,本研究でR 協和と呼ぶ,感覚的協和理論における協和のメカニズムが定性的に説明されている。A ,B 二つの音の基本周波数を揃えたときのA 音の任意の部分音の周波数がi ,B 音の任意の部分音の周波数がj であれば,A 音を基準音と考えて固定し,B 音の高さを変化させていくとき,B 音の基本周波数が[A の基本周波数×i/j]となる場合には二音のR 協和性は相対的によい。基準音とR 協和な関係にある音の集合である「R 協和音列」は基準音を中心として音程的に上下対称であり,M.Hauptmann 等が提唱し,H.Riemann によって最終的な発展を見た和声二元論における,上方,下方倍音列を例証することについても述べている。 第4 章では,前章において導入されたR 不協和度に関する着想が,現実の楽器の倍音構造にまで拡張される。しかしながら,現実の演奏においては強弱の変動が激しく,実際の倍音構造を用いることは極めて困難であるので,文献より得られたホルンとトランペット等の現実の楽器に近い倍音構造を含む,モデル的音色が使われている。基音の高さ,音量,二音聞の距離とR 不協和度との関係等が述べられ,結果として,音楽におけるR 不協和度の一般的な特徴が導き出されている。 第5 章では,音楽における声部の澄明性が同時に鳴る音高集合の構成音の澄明性として考えられている。この声部の澄明性は音高集合の構成音の配置の違いによって異なるが,オーケストレーションやオルガン,電子楽器のレジストレーションを評価する基準としても重要である。心理実験の結果,「音楽における声部の澄明性を表す指標」として,隣接した声部のR 不協和度を算出し,平均した値である「声部間R 不協和度平均」が提案されている。 第6 章では,感覚的協和理論の音楽への応用法が述べられている。まず,R 不協和度と声部間R 不協和度和(隣接した声部間のR 不協和度の総和)の間には強い相関(1%水準で有意)があり,声部間R 不協和度和も音楽構造を分析する際の指標となりうることが示されている。次いで,基音の振幅が57dB SPL であり,倍音の振幅がオクターブ毎に6dB 減衰していく倍音数18 の音色が「標準的音色」と命名され,その音色を用いて算出した音高集合全体のR 不協和度,声部間のR 不協和度の総和,声部間R 不協和度平均がそれぞれ,「標準的不協和度」,「クラスター総和」,「クラスター度」と呼ばれることになる。この三つの指標を同時的な音高集合だけではなく,分散された音高集合にも適用することによって,ジャンルを超えた音楽の理解が深まることを提案している。 第7 章では,「標準的不協和度」と「クラスター度」によって作られる対比関係がJ.S.Bachの前奏曲,B.Bartok のミクロコスモス144 の冒頭部分の分析を通して例示されている。旋律やリズム同様に「標準的不協和度」と「クラスター度」が音楽の要素として考えられ,標準的不協和度とクラスター度の継時的変化に暗示されるBach の音楽的意図,アタック音の累積としての全体の音高集合は高いクラスター度を持ちながら,継時的に発音される部分集合においてクラスター度の対比を作るBartok の書法の特徴について述べられている。 第8 章では,構成音の異なった配置によって得られた「標準的不協和度」と「クラスター度」の差により,意図的に対比関係を構成した創作例(GRADATION Ⅰ)が示されている。この作品は,1 オクターブ内に還元したときの相対的な音程関係という構造としては,一つの音高集合の連続であるが,標準的不協和度が計算されると共に,第6 章において導入された方法に基づき,隣あった二つの声部間のR 不協和度の一般的な傾向から概算されたクラスター度によって対比関係が考えられている。 第9 章では,この音高構成に関する研究の主な結果の要約が行われている。感覚的協和理論の適切な応用と,二音聞に発生する「うなり」に起因する濁り感についての概念の拡張が,音楽における声部の澄明性を表わす有効な指標である,隣接する2 声部間のR 不協和度の平均という着想を生んだ。さらに,標準的不協和度とクラスター度という二つの概念は音楽の文脈の中で,有効に生かすことができる。最後に,楽曲分析と創作の例を通して,標準的不協和度とクラスター度の差によって作られる音楽的コントラストが例示されている。続きを見る |
目次 | 目次 研究の概要 第1章 研究の背景 第2章 同時に鳴る音高酒豪のR不協和度の算出 第3章 R協和のメカニズム 第4章 音楽におけるR協和の一般的な性格 第5章 音楽における声部の澄明性を表わす指標 第6章 感覚的協和理論の音楽への応用 第7章 音楽の要素としての標準的不協和度とクラスター度(1) 第8章 音楽の要素としての標準的不協和度とクラスター度(2) 第9章 結論 謝辞 参考文献 付録A 構造による音高酒豪の分類 付録B 理論値計算プログラム 付録C 基準音とその上方、下方にある音とが作る標準的不協和度続きを見る |
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k062-001 | 22.9 KB | 803 | 表紙 | |
k062-002 | 248 KB | 564 | 目次 | |
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k062-006 | 1.07 MB | 486 | 第3章 | |
k062-007 | 1.52 MB | 454 | 第4章 | |
k062-008 | 1.52 MB | 441 | 第5章 | |
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k062-011 | 2.93 MB | 450 | 第8章 | |
k062-012 | 184 KB | 424 | 第9章 | |
k062-013 | 175 KB | 361 | 謝辞 | |
k062-014 | 286 KB | 654 | 参考文献 | |
k062-015 | 1.45 MB | 395 | 付録A | |
k062-016 | 1.10 MB | 359 | 付録B | |
k062-017 | 1.32 MB | 381 | 付録C |
詳細
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授与日(学位/助成/特許) | |
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登録日 | 2014.01.24 |
更新日 | 2020.10.06 |