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概要 |
本研究は,公共空間の音環境が抱える様々な問題を解決するために,すべての人のためのデザインであるユニバーサルデザインの概念を取り入れた新たな音環境デザイン手法を提示することを目的とした. まず,公共空間を利用する人の特性による音環境や音情報へのニーズ,および聴覚情報の利用実態把握のために,視覚障害者を対象とするアンケート調査を行った.この結果,視覚障害者は音響式信号機や盲導鈴の音,駅・車内での...案内放送,各種サイン音といった付加された音ばかりでなく,様々な環境音も積極的に活用しており,自動車の騒音も貴重な音情報と捉えて活用していることがわかった.また視覚障害者の聴覚情報利用には年齢や障害の度合,歩行訓練経験の有無といった個人属性によって様々な傾向があり,特に歩行訓練を受けることでより多くの情報を音から得ることができるようになるが,高齢の視覚障害者は音を利用することに困難を生じていることも明らかになった.これらのことから,視覚障害者の音による移動支援は,視覚障害者すべてを一様に捉えるのではなく属性ごとに検討し,各々に適した手法を構築していく必要があることを示した. 次に,高齢者数名を対象とし,各自が日常的に行動エリアとする公共空間をなるべく普段通りに行動してもらい,その行動を観察すると共に日常生活の様子や音に関するインタビューを行うフィールド実験を実施した.この結果,高齢者はバスの車内放送についてはよく利用しているものの,電車の車内放送や駅の構内放送,バスターミナルの案内放送や行き先案内放送等は,聞き取りにくいことを理由にほとんど利用していないことがわかった.しかし,日常的な行動エリアにおいては,現状の音による情報伝達について事故等の緊急時以外は特別な不便を感じているとは言えない.一方,日常的な行動エリアを出て単独で行動することについては,電車やバスの乗り換えなどに不安を感じるために消極的な調査対象者が多かった.これは聞き取りにくいことを普段は問題視していない各種の案内放送に耳を傾け,乗り換え案内のサイン表示を見て行動したり,時刻表を調べたりするという行為を億劫だと感じると共に,間違った行動を取ってしまうことへの不安や緊張が,単独での非日常的行動エリアへの外出に対する消極性につながるものと考えられる.これらのことから,音に対して特別な注意を向けなくても,不安を感じずに行動できる環境をつくり,拡げていくことが音環境の高齢者対策として重要であることを示した. また,これまでに行われた公共空間における音環境デザイン事例に対して,高齢者,視覚障害者,一般利用者および従業員を対象に印象評価実験を行い,高齢者・視覚障害者に対する音環境デザインの有効性,ならびに音環境デザインが空間の印象に与える影響と効果について検討した.この結果,音環境デザインは高齢者および視覚障害者に対しても有効なデザインであること,空間の印象に大きな変化をもたらすこと,受ける印象自体はそれぞれの音環境デザインによって異なることが示された.また季節によって同じ音環境デザインが異なる印象で受け止められることもわかった.一方,従業員が感じる空間印象の変化は,来場者の増加や客層の変化等によっても現れるが,業務負荷の増加は必ずしも悪い印象にはつながらず,今回の調査ではリニューアルによっておおむね良い印象に変化していた.音環境デザインについては,それまで無頓着だった音環境というものへの興味が生まれ,新たな顧客サービスの一つとして音環境を活用しようという意識の創出につながった.このように公共空間における音環境デザインは,高齢者・視覚障害者に対しても有効なデザインであり,対象となる施設や空間の音環境の質的向上に資すると共に,施設や空間全体の印象をも向上させる.また,そこを利用する人々およびそこで働く人々の意識や,意欲の変化にも寄与する可能性があることが示された. 以上から,利用者特性を超えて公共空間の音環境が抱える最大の問題点は.音による案内等の聞き取りにくさ,つまり聴覚情報入手の困難さであることを示すと共に,公共空間に求められている音環境は,少なくとも現状の都会の状態よりも静かな雰囲気であり,喧騒感の少ない状態をつくり出す必要があることを導いた.そして,環境騒音の標準を現状よりも低い音圧レベルにすることで,音による案内等を聞き取りやすくすると共に,これまで埋もれていた様々な音を聴覚情報として活用する,音環境のユニバーサルデザインの概念を提示した.また,音環境デザインが「環境性」,「情報性」,「演出性」の三つの構成要素から成り立つことを示し,これら三つ全ての面から良好な音環境デザインが行われていれば,利用者が自由かつ効果的にその音環境を活用することができることを示した. さらに,音の問題だからといって音による対策だけで対処するのではなく,より広い視点で問題を見直し,取り入れる工夫も必要であり,公共空間における音環境のユニバーサルデザインとは,すべての人のための音環境デザインであると同時に,すべての人による音環境デザインであることを示した.続きを見る
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目次 |
目次 第1章 序論 第2章 視覚障害者の聴覚情報利用の現状と問題点 第3章 公共空間を歩行する高齢者が手がかりとする聴覚情報 第4章 公共空間における音環境デザイン事例の評価と検討 第5章 公共空間における音環境のユニバーサルデザインの検討 第6章 総括 参考文献 謝辞 付録A 高度情報案内システム 付録B 第2章で用いたアンケート調査票 付録C ロービジョン
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