<博士論文>
匿名的建築におけるデザインの展開に関する基礎的研究 : マンション外装デザインを事例として

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概要  本研究の目的は,学術的に取り扱われ難い匿名建築家の設計活動及び建築物の実態を解明することにある。この論文において「匿名」建築とは,所謂「有名」建築に対する対義語であり,歴史的にまた文化的に取り扱われない一般建築物を指す。特に本稿では市街地景観を構成する主建築物であるマンションを事例として,その外装デザインの実態解明に焦点を置いている。有名建築が先端的なデザインを行うことで建築業界,また文化的の中...心として重要な位置を占めるならば,それらと相互関係で成り立つ匿名建築も,建築業界全体の担い手として,また文化的に極微量と中心部以外の周縁部を請け負っており重要な役割を担っている。匿名建築の実態を明らかにすることで,建築計画上の全一的な分析,個々の研究,さらに有名建築との接点,相対関係の解明が可能となろう。
 第一章「建築分野における「匿名」の取り扱われ方」では,本論の初歩段階として,建築分野全域での匿名建築に関する研究動向を概略的に追う。そこで各研究・活動における匿名性の取り扱い方,研究の方向性を検証するとともに,本研究における「匿名」の位置付けを試みる。主にルドフスキー,ヴェンチューリの研究について,日本では今和次郎などを対象に分析を行った。結果,匿名に関する言説の方向性は,大きく「風土性」に関するもの,文化論的に「ロー・カルチュア」に関するものに分けられる。本論が対象とする匿名建築物は両者ともに該当せず,やや強引にいうならば「ミドル・カルチュア」のような存在とするのが妥当と思われる。
 第二章「建築設計事務所の設計活動に関する意識調査」,第三章「マンション外装デザインに関する意識調査」では,地場型の建築設計事務所を対象にアンケート・ヒヤリング調査を行い,事務所の設計活動の実態を明らかにすることを目的としている。第二章は続く第三章の事前調査としての役割が強く,大局的な設計手順や近年の建築デザインに対する意識,設計に対する倫理観について質問している。分析結果から,事務所が平面主導型の設計活動を行っていること,設計手法のマニュアル化が生じていることがわかった。また近年の建築デザイン動向に対して,賛否両論あるも参考資料として多少自らのデザインに反映されている可能性が高いこと,地域性や景観配慮に関して関心が高いことなどがわかった。
 続く第三章では,より具体的にマンション外装デザインに関する意識調査に限定した設問を用意した。設問内容は大きく,設計者に対する与条件(コスト問題,ディベロッパー・消費者の要望との関係性)に関するもの,設計者のデザインに対する基本理念(地域性,時代性に対する意識)に関するものにわけられる。分析結果,コストの増減によって左右されやすい外装箇所は,面積の大きい「壁面部」や「バルコニー部」,「屋根部」などであり,タイルの質を下げること等でコスト削減に大きな貢献ができる箇所である。一方「色彩」はコスト問題にはあまり関係せず,地域性が表現されやすい箇所でもあった。「玄関部」は最もディベロッパーと消費者の関心が高い箇所であり,デザイン上重要視されやすい箇所であり,「ワンポイント的装飾」と合わせ,時代的の反映されすい箇所であった。このコスト問題との関係性を示し,外装部全体の占める割合の低い箇所がデザイン潮流の影響を受けやすいことがわかった。
 第四章「マンション外装デザインに関する実態調査」では,前章の分析結果を含めて,様々な要因から決定される最終的な外装デザインの実態を把握すべく実地調査を行い,時系列グラフを用いて各外装デザインの時代的差異及びその要因について分析を行う。分析結果より,バブル絶頂期にあたる80年代中盤に外装デザインの変革期が訪れたことがわかった。それ以前は,玄関部の装飾性が低く,パルコニー形状が「凹凸型(斜)」で「鉄製縦格子」,屋根形状が「傾斜パラペット」,タイル使用面積が限られている壁面仕上げなど,コストを低く抑えることが可能で,比較的単純なデザイン手法であった。一方新しく普及していったデザインは,好景気に対応した形で,ポーチ形状の玄関,手摺部で鋳物風装飾の使用,傾斜屋根などで,コスト増加が予想でき装飾性の高いデザインであった。但し,バブル崩壊以降もこれらデザインは衰退せず,一度出現したデザイン手法は,容易に衰退しないことがわかった。また,所謂ボトムデザインが少数ながら確認でき,トップで出現したデザインは本論で対象として匿名建築物に10年程度の時間を経て浸透しているのではないかとの仮説がたてられた。
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目次 目次
 序章
 第一章 建築分野における「無名」の取り扱われ方
 第二章 建築設計事務所の設計活動に関する意識調査
 第三章 マンション外装デザインに関する意識調査
 第四章 マンション外装デザインに関する実態調査
 終章

本文ファイル

pdf k066-01 pdf 36.2 KB 310 目次
pdf k066-02 pdf 590 KB 288 序章
pdf k066-03 pdf 767 KB 352 第1章
pdf k066-04 pdf 1.52 MB 255 第2章
pdf k066-05 pdf 2.65 MB 236 第3章
pdf k066-06 pdf 4.01 MB 313 第4章
pdf k066-07 pdf 422 KB 233 終章

詳細

レコードID
査読有無
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
受理日
部局
所蔵場所
所在記号
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.16

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