注記 |
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和牛の改良が,ほとんど体型審査の得点だけに依存する選択登録によつて進められていることは周知の事実であるが,その審査得点の意義を裏付けするような能力検定は,現在のところまだ実施されていない.しかもそのいわば唯一の指標である審査得点が,はたしてどの程度遺伝的要因によつて支配されるか,ひいてはそれによる選抜がどの程度の遺伝的進歩をもたらすか,という問題については全く検討されていない実情にある.これに反して外国では肉牛の能力検定が普及し,その検定項目には生時体重・離乳期体重・仕上げ期体重・増体日量・飼料効率などの計量的特質のほかに,離乳期及び仕上げ期の体型等級,あるいは枝肉の等級などの審査成績が含まれ,それらのいわゆる経済的特質に関する統計遺伝学的研究が数多く公表されている.たとえば主としてヘリタビリチーやレピータビリチーを取扱つたものとしては,Knapp and Nordskog(1946), Knapp and Clark(1950), Kogar and Knox(1952),Dawson et al.(1955), Warwick and Cartwright(1955), Shelby et al.(1955), Koch and Clark.(1955), Rollins and Wagnon (1956), Carter(1957), Kincaid and Carter (1958), Krehbiel et al. (1958), Dinkel(1958),Carter and Kincaid(1959)などがあり,これらの大部分は体型等級にもふれている.また検定項目間の表型及び遺伝相関を取扱つたものとしては,Kohli et al.(1951), Knapp and Clark(1951), Rollins and Guilbert(1954), Koch and Clark(1955), Brown et al.(1956),Magee et al.(1958) Carter and Kincaid(1959)などがあつて,これらの過半数は体型等級を成分に含めているので,これと他の経済的特質との関連を知ることができる. もつとも我国でも熊崎(1956)が黒毛和牛の発育に関する研究で, 生時の体重・体高・腰角幅・管囲などのヘリタビリチーを評価した例がある.これはこの類の研究で公表されている唯一のものと思われるが,審査等級とは関係がない.本研究は,以上の事情に着目し,体型審査得点のヘリタビリチーを各審査部位別にもれなく評価し,これによつて審査得点だけによる個体選抜の有効性を検討し,あわせて審査部位別区分そのものの合理性についても,検討を加える目的をもつて企画された.なお本研究の要旨は昭和35年度日本畜産学会に講演され,第1回家畜育種研究会にも話題として提供されたことを付記する.
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