<博士論文>
日本における陶磁器用ワラ包装の造形的特質

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論文調査委員
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概要  日本の陶磁器産地と消費地を結ぶ流通において,稲ワラを素材とする陶磁器専用のワラ包装が広く行われていた。しかし,これまで陶磁器用ワラ包装に関する研究は極めて少なく,わずかな研究が特定の地域に限定された個別的な研究にとどまっている。  破損しやすい陶磁器を衝撃から守る役割だけにとどまらず,低コストのワラ包装技術は,荷役の効率化,合理的格納性,包装内容の示唆,開梱後は自然に返るワラの処置的機能,そ...して造形的に整えられた形態など,いわゆるパッケージデザインの高度な機能を具有していると考えられる。  本研究は,ワラ包装の造形に着目して,陶磁器用ワラ包装の生産的価値や文化的価値を含めた系統的研究を目指したものである。ワラ包装の具体的事例を日本を主軸に中国,韓国の窯業地に求め,実地調査を通してワラ包装形態とその機能,構造,包装加工技術を造形の視点で検討することを目的としたものである。  本論文は、序章,第1章~第3章および結語により構成している。序章では,研究の目的,論文の構成を重点に、ワラ包装の定義および陶磁器用ワラ包装の定義を規定する。また研究の位置づけを明らかにするために既往の関連研究を挙げる。さらに研究の方法と調査対象地を示し、論文の構成と概要について述べる。  第1章「日本におけるワラ包装の変遷」では,窯業地に継承されてきたワラ包装技術と形態の特性を明らかにするために,日本のワラ包装の形態と技術文化の展開を確かめその変遷をたどる。人々の生活の中に見られたワラ包装の成立やその発達を裏付ける既刊の絵画資料を通して図像的に概括し,包装の技術要素が関与していると認められるワラ包装を抽出して,俵(たわら),苞(つと),菰・莚(こも・むしろ),縄(なわ)4タイプに分類する。中でも縄の役割が多岐な包装の形成に関連しており,ほとんどの包装は縄の結束で成立していると言っても過言ではない。次に,「陶磁器用包装の変遷」を通して多岐にわたる包装形態の展開の中で,陶磁器用ワラ包装の位置付けを確認する。  第2章「日本における陶磁器用ワラ包装の展開」では,日本の窯業地において陶磁器用ワラ包装技術と包装形態の実態を把握するために,復元を伴う調査の結果,産地別のワラ包装形態の標本作成をし,ワラ包装の技術工程を模式化により図説して「ワラ包装技術工程図」(以下,ワラ包装工程図)を作成する。ワラ包装工程図をもとに包装形態の形成のプロセスを解明し,工程の部分を構成する機能の異なる技術要素を明らかにして陶磁器用ワラ包装形態の分類をする。さらに類型を対象にワラ包装形態とその機能,構造,包装加工技術を造形の視点で検討する。日本における陶磁器ワラ包装の諸形態を造形の視点から比較考察を加え,ワラ包装の諸形態は,陶磁器の形状から大型器種系に対応する「太縄巻きタイプ」および小型器種系に対応する「ワラ包みタイプ」の2つのタイプの包装技術と8種の類型に分類することができた。また,調査地の8割以上に太縄巻きタイプとワラ包みタイプの包装技術が共に定着していた。以上のこことから日本における産地のほとんどが形態や技術を共有しながら同一傾向,類似の包装原理を共有していたことになる。ワラ・縄の文化を基盤に産地別に包装システムが確認され,産地の加工技術を共有することで特色ある陶磁器包装産業技術に発展したと推察される。  第3章「中国,韓国における陶磁器用包装技術と形態」では,中国,韓国における調査の結果,産地別のワラ包装形態の標本作成をし,「ワラ包装工程図」を作成する。ワラ包装工程図をもとに包装形態の形成のプロセスを解明するとともに,包装形態を類型化し,陶磁器用ワラ包装形態を造形の視点から比較検討する。中国では,草縄梱包(ワラ縄包装)のみが用いらる地域と,ワラ包装を主力とする景徳鎮等の地区とに2分される。景徳鎮の場合,ヨーロッパに伝存する18世紀半ばの磁器生産工程図に見る「ワラでカラゲ桶に詰める」(束草装桶)包装方法から推量すると,明らかに清代以降に現在の稲草包装に変化していることが示唆されている。景徳鎮のワラ包装は,近距離輸送には摸龍(もりゅう)巻きと遠距離輸送には,捻龍巻きが行われており,機能と目的に応じて使い分けられている。  景徳鎮の捻龍巻きの技術は,調査の限りでは、中国国内では他に例を見ない独自の包装技術である。しかし日本に捻龍巻きの共通技術が実在し,同一目的で使用され継承されていることは見逃せない。時代によって変化がみられる中国の包装技術に対して,日本の産地のほとんどが2つのタイプの形態や技術を共有しながら同一傾向,類似の包装原理を共有していたことも,日本における陶磁器用ワラ包装の造形的特質といえる。日本では中国で行われている一般陶磁器の等級別包装は見あたらない。韓国における包装技術は,むしろ,東アジアに共通の技術であるカラゲやワラ包みが見られ,日本でも共通した技術が継承されていて注目される。  「結語」では,現地調査の結果をふまえ,1章,2章,3章の検証を通して本研究で得られた日本の陶磁器用ワラ包装についての考察をもとに総括を行う。  日本のワラ包装の構成要素を探り,考察を通して得られた造形の本質を,さらに技術的側面から整理すると,「カラゲの技術文化」に集約される。カラゲの技術文化は,包装の基盤になっている縄そのものが機能を発揮する。「ワラを綯う」という唯一の技術によって太さを自由に調整し,またワラの集積によって広さや強度を得る。つまりワラという素材は,縄によってカラゲの技術文化を生み出すフレキシブルな材料特性を備えているといえよう。先人から脈々と受け継いできたワラを綯うという技術文化が陶磁器包装に活かされていたのである。  「日本における陶磁器用ワラ包装の造形的特質」に取り組み,第1章,第2章,第3章において,復元を伴う調査研究を通して得られた結果から,わら包装の生産技術過程にみる造形の本質を,デザイン思考の中に活用していくことを,今後の課題として提示した。続きを見る
目次 目次 緒言 序章 第1章 日本におけるワラ包装の変遷 第2章 日本における陶磁器用ワラ包装の展開 第3章 中国,韓国における陶磁器用ワラ包装技術と形態 結語 資料 謝辞

本文ファイル

pdf o007-01 pdf 153 KB 230 表紙
pdf o007-02 pdf 114 KB 206 諸言
pdf o007-03 pdf 1.00 MB 201 序章
pdf o007-04 pdf 4.16 MB 247 第1章
pdf o007-05 pdf 8.78 MB 212 第2章
pdf o007-06 pdf 4.83 MB 230 第3章
pdf o007-07 pdf 0.99 MB 170 結語
pdf o007-08 pdf 806 KB 268 資料
pdf o007-09 pdf 70.4 KB 168 謝辞

詳細

レコードID
査読有無
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
受理日
部局
所蔵場所
所在記号
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.11

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