概要 |
本研究では、文字表記された擬音語からイメージされる音の印象および音の種類や音源・事象について一連の主観評価実験と自由記述実験を行い、擬音語表現との関係を考察した。
第1章では、擬音語の定義について述べ、関連する文献や研究を概説した。また、擬音語によって音を表現・伝達する過程において過去の研究がどのように位置づけられるかを論じ、本研究の目的を設定した。
第2章および第3章では、擬音語辞典か...ら選んだ擬音語と実際の音を表現した擬音語を刺激として、イメージされる音の印象の類似性判断および「音の大きさ」「音の高さ」「音の長さ」についての一対比較法による実験を行った。多次元尺度構成法(MDS)で得られた刺激布置は刺激群で異なっていたが、各心理属性と擬音語表現の関係には一致した傾向が見られた。「音の長さ」は擬音語のモーラ数や長音・促音の度数、「音の高さ」は母音/i/および濁音の度数と相関があり、「音の大きさ」は濁音と長音の組み合わせとの関連が見られた。
第4章では、第2章および第3章で用いた擬音語に対してSD法による音色評価実験を行い、主成分分析の結果、美的・迫力・金属性主成分が得られた。さらに、擬音語の音韻的特徴と音色との関係を調べたところ、各主成分と特定の擬音語表現の間で相関が得られた。特に、美的主成分得点と濁音の度数の間では両方の刺激群で有意な相関が得られており、濁音を含む擬音語から「汚い」音色がイメージされることがわかった。
第5章では、擬音語表現と音色について系統的な検討を行うために、「子音+母音+語尾(撥音・促音・長音)」からなる2モーラの擬音語を用いて、SD法による音色評価実験を行った。次に、音色評価値が擬音語の各音韻の影響によって決まるとするモデルを仮定し、林の数量化理論第Ⅰ類によって各音韻カテゴリに与えられる数量を求めた。このモデルでは、擬音語の音韻カテゴリの数量および定数項の線形和によって音色の予測値が得られる。さらに、モデルによる予測値と他の実験で得た実測値の比較を行ったところ、予測値と実測値にはよい対応が見られ、モデルの有効性が確認された。
第6章および第7章では、擬音語からイメージされる音の種類や音源・事象に関する自由記述実験を行い、「打撃・衝突音」「動物の声」「摩擦による音」などのカテゴリに擬音語を分類した。「打撃・衝突音」では、第1音節の音韻と音源となる物体の材質・形状・大きさ・重さや衝撃の強さ、音の長さに関する擬音語表現と残響時間の変化などが関連していた。2モーラの擬音語の場合、語尾が長音のパターンでは、「電子音・サイン音・ノイズ」に分類される擬音語が多く、「摩擦による音」では、音素/ky/と母音/u/の組み合わせが見られた。「風・空気に関する音」には、/s/,/h/,/sy/,/hy/といった摩擦音を含む擬音語が分類された。「打撃・衝突音」では、第1音節に/k/,/g/,/t/,/d/,/p/,/b/といった破裂音が用いられており、音源となる物体の材質・形状・大きさ・重さや衝撃の強さと関連していた。さらに、木材および金属の板に鉄球を落とした「衝突音」を擬音語で表現させる実験を行ったところ、金属板では母音/i/および子音/k/,/g/、木材板では母音/a/,/o/や子音/t/がよく用いられていた。
第8章では、本研究の実験結果について考察を行い、得られた知見および今後の課題を明らかにした。また、音の発生および聴取と擬音語による音の表現・伝達の過程について論じ、音と擬音語の音響的類似性が擬音語によるコミュニケーションを成立させていることを述べた。さらに、音源・音・擬音語表現の関連性から、「擬音語における音象徴は、元の音の音響的特徴および音源・事象の属性に基づくものである」との仮説を提示した。
第9章では、本研究を総括し、擬音語についての著者の考えを述べた。
本研究をとおして、擬音語からイメージされる音の印象および音の種類や音源・事象と擬音語表現の関係が明らかになった。擬音語からイメージされる音の印象については、各心理属性と特定の擬音語表現に関連が見られた。特に2モーラの擬音語では、擬音語の音韻的特徴によって音色を予測するモデルを構築することができた。擬音語からイメージされる音の印象は、擬音語の音韻的特徴によって規定され、比較的安定したものであるといえる。擬音語からイメージされる音の種類や音源・事象については、「打撃・衝突音」「摩擦による音」などのカテゴリに固有の擬音語表現や、音源となる物体の材質・形状・大きさ・重さや衝撃の強さと関連する擬音語表現が見られた。また、立ち上がりの音色や時間パターンに対応する擬音語表現が、音源・事象を認知する手がかりとして重要であることが明らかになった。続きを見る
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