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概要 |
音楽演奏が楽譜を忠実に再現したものではないことは、よく知られている。この、実際の音楽演奏と楽譜とのずれは、「芸術的逸脱」と名付けられ、旧来から様々な側面において研究が行われている。このような中で、時間的側面における芸術的逸脱についても、様々な角度から研究が行われてきた。しかし、音楽演奏には、演奏者が自らの音楽表現のために積極的に付加する、いわゆる「芸術的」表現によるずれだけではなく、演奏者の時間的...制御能力に限界があるために、どうしても意図するタイミングからわずかにずれてしまうという、「制御能力の限界」に起因するずれも含まれている。そこで本研究では、音楽演奏における時間的側面における楽譜からのずれの様子を「ゆらぎ」として捉え、このゆらぎを、 1)演奏者の時間的制御能力の限界に起因するゆらぎ 2)演奏者が芸術表現のために付加するゆらぎ の2要因に分解し、それぞれの要因のゆらぎについて測定、検討することで、音楽演奏に含まれる時間的ゆらぎについて明らかにした。 本論文は6章で構成されており、第1章では、本研究の背景、目的などについて述べている。 第2章では、上記の第1の要因である、演奏者の時間的制御能力の限界によるゆらぎについて、等間隔タッピングの課題によって明らかにした。その結果、制御能力の限界に起因するゆらぎは、テンポにかかわらず一定の性質を持つことが示された。すなわち、このゆらぎの生成には、過去約20タップの間隔の情報が記憶され、これらの情報によって次の間隔が決定されるという機構が介在することが分かった。またこの機構によって生成されたゆらぎにおいて、時間間隔の平均値と標準偏差との間にほぼ定比的関係が成り立っており、その変動係数は約4.3%であることが分かった。 第3章では、第2章で示した制御能力の限界に起因するゆらぎが、音楽演奏経験によって変化するかどうかについて検討した。その結果、音楽演奏の熟練者と初心者の間でこの要因のゆらぎにはほとんど違いがないことが分かった。すなわち、第2章で示された制御能力の限界に起因するゆらぎの性質は、テンポだけでなく、音楽演奏経験によっても変化しない一般的性質であることが明らかになった。音楽演奏の訓練によって向上するのは、基本的な時間制御能力ではなく、むしろ、複雑な身体運動を調和させて一連の動きを形成する能力であることが分かった。 第4章では、上記の第2の要因である、演奏者が芸術表現のために付加するゆらぎについて調べた。芸術表現のゆらぎを3要因に分け、それぞれの要因のゆらぎのパワーを制御能力の限界に起因するゆらぎのパワーと比較することで、芸術表現によるゆらぎの「平均的」様相が以下のようなものであることが明らかになった。すなわち、リタルダンド表現によるゆらぎは制御能力の限界によるゆらぎの約85倍のパワーを持ち、繰り返しリズム表現によるゆらぎの成分は制御能力の限界によるゆらぎの同じ周波数成分に対し約500倍のパワーを持つ。また、リタルダンド表現、繰り返しリズム表現以外の芸術表現に起因するゆらぎは、数タップの短い周期および数百タップの長い周期においては、制御能力の限界によるゆらぎと同等、または数倍程度のパワーを持ち、数十タップの周期では、制御能力の限界によるゆらぎの数十倍のパワーを持つ。これらのゆらぎを全て包含した芸術表現によるゆらぎ全体のパワーは、制御能力の限界に起因するゆらぎの約100倍のパワーを持つ。以上が、芸術表現のゆらぎの平均的様相である。 第5章では、同じ楽曲を異なる演奏者が演奏するとき、その時間的側面における芸術表現にどのように演奏者の独自性が発揮されているのかについて、事例研究を行った。演奏から得られたゆらぎについて物理的に検討を行ったところ、演奏テンポおよびリタルダンド表現に演奏者の独自性が発揮されていることが分かった。また、時間ゆらぎを持った合成演奏を作成し、心理実験を行った結果、リタルダンド表現の違いに比して、演奏テンポの違いの方が、聴感上の演奏者の独自性に大きく寄与していることが分かった。 第6章では、以上の結果をまとめ、本研究の成果の自動演奏の制作過程への応用について考察するとともに、今後の課題について述べた。続きを見る
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目次 |
目次 第1章 序論 第2章 演奏者の時間的制御能力の限界に起因するゆらぎ 第3章 時間的制御能力は音楽演奏経験によって変化するか 第4章 芸術表現に起因するゆらぎの抽出 第5章 芸術表現のゆらぎに見る演奏者の独自性 第6章 結論 謝辞 文献
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