<博士論文>
住民意識に基づく集合住宅の色彩計画に関する研究

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概要 要旨
 本論文は、集合住宅の外装色彩の景観上の問題を解決するため、住民の積極的な参加を実現するシステムを構築することを目ざし、住民意識に基づく集合住宅の外装色彩計画のプロセスを提案したものである。
1.研究の背景及び目的
 本研究では、景観に大きな影響を及ぼすと考えられる集合住宅の外装色彩に着目した。
 日本と韓国の双方において、地域のアイデンティティを作る動きから景観への関心が高まっているが、多くの自治...体では、地域の特性を生かした体系的な色彩計画の方法論や具体的なガイドラインが不十分な状態である。
 集合住宅の画一的な色彩計画は、住民意識を考慮せず、どの地域でも同じ外装色彩が用いられ、各地域の特性のない、どこに行っても同じような都市景観になるという問題を引き起こしている。そこで、外装色彩計画に住民意識を反映させる方法により、集合住宅の景観の画一化やガイドライン不足を解決する色彩計画のプロセスを提案する。
2.研究方法
 ①計画的に都市開発が行われ集合住宅が密集している地域である、果川(韓国)と福岡(日本)に居住する住民を対象とし、住民意識調査(調査1)を行った。両地域の集合住宅が位置する周辺環境の分類として、緑地、水辺、都心を設定し、各環境別に「好む色」と、その色に対する「言語イメージ」がどのように異なるのかを確認した。
 ②調査1から得られた「好む色」を用いてサンプルを作り、周辺環境別に住民が「好む色」とその「イメージ(言語)」の関係を検証し、同時に職業や教育、経験などのデザイン経験の有無による評価の差異を確認するため、イメージ評価調査(調査2)を行った。
 ③調査2の結果から、デザイン経験者の評価をより重視し、各地域の周辺環境別ごとにカラーパレットを作成した。さらに、応用として両地域の同じ環境で好感度の高い色を挙げ、両地域に共通するカラーパレットの作成を試した。
 以上の結果をまとめ、住民意識に基づいた外装色彩計画のプロセスを提案した。
3.研究の結果と考察
 ①住民意識調査(調査1)の結果より、好む色は、果川に居住する住民は、福岡に居住する住民に比べてより、彩度が高い鮮明な色彩を好んでいることがわかった。そして、好む色に対する言語イメージで最も多かったの、果川の場合、緑地は「明るい」、水辺は「涼しい」、都心は「目立つ」であった。福岡の場合、緑地は「落着きのある」、水辺は「明るい」、都心は「落着きのある」であり、求めるイメージが全く異なっていることがわかった。
 ②イメージ評価調査(調査2)の結果より、デザイン経験の有無によって多少差が見られたが、両地域とも各環境で中彩度が良いと評価された。
 ③カラーパレットの作成より、緑地は、両地域でYR系に好感度が高いと評価された。果川は福岡より明度が低く、彩度は高いほうが高いと評価された。水辺は、両地域で10YR8/4が高いと評価された。果川ではGY系、福岡ではPB系が高いと評価された。都心は、両地域で高く評価された色の色相の分布が広かった。果川では、緑地と水辺環境より低彩度が高く評価され、福岡では、緑地と水辺環境より彩度の高い色が高いと評価された。
 このように、住民が「好む色」とそれに対する「言語イメージ」が地域および周辺環境によって異なるため、住民の意識を把握することや色とイメージを結び付けて評価することが重要である。そして、住民の「好む色」に専門的な視点を取り込むため、デザイン経験者の評価を重視したカラーパレットの作成することが重要であると考えられる。
4.住民意識を用いた色彩計画のプロセスの提案
 ①住民意識調査
 「好む色」は、マンセル表色系のカラーチャートを提示し、一色を選んでもらう。そして、その色に対してどのようなイメージを持っているかを形容詞で答えてもらう。
 ②サンプル画像と形容詞対の作成
 ①の結果から、「好む色」の結果をもとに、刺激となるサンプル画像を、「言語イメージ」の結果をもとに尺度となる形容詞対を作成する。
 ③イメージ評価調査
 「住民意識調査」の結果より作成したサンプル画像とアンケート用紙を用いて、デザイン経験の有無に分け、SD法による「イメージ評価調査」を行う。
 ④イメージ評価調査の分析によるイメージマップを作成
 「イメージ評価調査」の分析は、尺度を変量とした主成分分析を行い、主要な主成分を軸として色に対する評価を詳細に調べる。
 ⑤カラーパレットを作成
 デザイン経験者と一般人が共に好感度が高く評価した色を選定する。さらに、デザイン経験者の好感度が高く評価され、かつ、一般人に好感度が低く評価されなかった色も加える。
 このような過程を通して住民意識に基づく色彩計画のプロセスを提案した。
5.今後の展望
 本研究の成果である色彩計画のプロセスを用いて、住民の意見を色彩計画に取り組むプロセスとして有効であり、住民と行政が一体となった景観づくりを進めることが期待される。現在、集合住宅の密集している画一的な景観が改善され、景観色彩分野において地域の個性を生かすことが期待される。
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詳細

レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06

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