<博士論文>
残響室内音場の解析と制御に関する研究

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概要  残響室は、拡散音場を模擬した音場として種々の音響測定に用いられる実験室である。世界各地の試験機関に導入され、幅広い用途で運用されている。残響室で行われる測定のうち、代表的なものとしてランダム入射吸音率の測定が挙げられる。ランダム入射吸音率とは、ある材料にあらゆる方向から音波が入射したときの吸音率である。このランダム入射吸音率の測定に関して、残響室で測定した値には誤差があることが知られている。同一...試料を国内外の試験機関で検査したラウンドロビンテストにおいて、誤差の値が大きいということが定量的に報告されている。このような背景の中、残響室を解析し、その誤差を制御しようという研究が盛んに行われている。
 残響室の解析については、有限要素法や境界要素法を用いた解析が行われているが、計算対象となる周波数を高い周波数に設定すると、スーパーコンピューターの導入が必要となるほど計算規模が大きくなる。そのため、手軽に数値解析を行うのは難しいのが現状である。大規模計算を可能にする手法として、近年音響の分野で時間領域有限差分法(Finite Difference Time Domain法、以下FDTD法)が注目を浴びている。省メモリかつ高速に計算可能という特徴があり、残響室規模の音場の解析にも適している。ただし、FDTD法では多孔質材料などの内部解析を行うのはやや煩雑で吸音材を配置した残響室を解析するのは難しいという問題がある。
 誤差の制御については、室に大きな板を設置し回転させるという回転拡散板を用いる手法、Deep-Wellと呼ばれる面積効果低減のために周囲を低い壁で覆う手法、電気的なフィードバック回路を応用した手法などが、様々な手法が提案されている。そして、残響室内の測定値の分散が減り、また残響曲線の読み取りが安定するなど、一定の効果を上げている。
 しかし、これらの手法は未確定な要素が大きく、理論的な解釈については今後の研究が待たれている。特に電気的な制御手法について考えると、制御対象となるのがゲイン、残響時間、周波数特性などであるため、材料へのランダム入射などが保証できている手法ではない。そのため、制御効果の確認が残響時間などの間接的な値に頼らざるをえないという問題がある。
 以上をまとめると
・ランダム入射吸音率は、音響設計上重要な物理特性である
・しかし、残響室特有の誤差のため注意深く測定、運用しなければならない
という背景のなかで
・残響室のような大規模音場に対する数値解析手法が確立されていない
・測定誤差の制御手法が確立されていない
という問題がある。本論文では、これらの問題に対して
・FDTD法での内部解析に適した媒質モデルを提案する
・入射条件に着目した、残響室制御手法のコンセプトを提案する
という2つの提案を行う。この2つが本研究の成果である。
 以下に、論文の構成を示す。
第2章
 拡散音場に関する既存の研究について述べる。拡散音場と、その波動的な解釈としてEbelingらのランダム音場のモデルと、Waterhouseのランダム入射のモデルについて説明を行う。残響室でのランダム入射吸音率の測定について、「残響室のジレンマ」という観点で問題を整理する。残響室のジレンマとは「拡散音場でなければ測定できないのに、測定のために拡散音場を壊さなければならない」状況のことを指す言葉である。また、制御方法についても現状提案されているものを述べる。
第3章
 既存の数値解析手法として
・固有モード展開法
・有限要素法
・境界要素法
・時間領域有限差分法
の4つの数値計算手法について、定式化を踏まえて説明を行う。それぞれの数値計算の特徴を比較し、時間領域有限差分法が、残響室規模の音場の解析に適していることを述べる。ただし、材料内部までを時間領域差分法で解くには、煩雑な手法しか提案されておらず、それが残響室を数値解析する上での問題点となっていることを示す。
第4章
 第3章で明らかとなったFDTD法の問題点の解決策として新たな媒質のモデルを提案する。提案するのは
・V.D.S.C(Variable Density and Sound speed per Cell)媒質
・一般化Rayleighモデル
 という2つの媒質であり、それぞれの媒質について、既存のFDTD法の実装コードと比較しながら述べる。そして一般化Rayleighモデルがどの程度現実の多孔質材料をモデル化できるか、ということについて実験的に示す。また、SIMD(Single Instruction Multiple Data)によるFDTD法の高速化手法についても述べる。ソースコードを挙げながら説明することで、SIMDによる並列計算が比較的簡単に実現できことを示し、より大規模な音場の解析が高速に行えることを示す。
第5章
 新しいコンセプトの制御器の提案を行う。制御器設計のコンセプトで新しい点は、材料への入射角度をセンサーで検知する点である。制御器の定式化について説明し、既存のアクティブノイズコントロールで行われる手法に方向重みの概念を導入することで、室内のインテンシティの向きを制御できることを示す。また、定常状態と過渡状態の両方について、制御器が音場に与える影響を検討し、制御器による測定の可能性について示す。
6章
 2~5章までの内容をまとめ、今後の課題と展望を示す。
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詳細

レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06

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