<博士論文>
アニメーション映像における運動の省略表現と誇張表現の自動化に関する研究 : モーションキャプチャーを利用したリミテッドアニメーションの制作方法について

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概要  本研究の目的はモーションキャプチャのデータを最大限に活用して手描きアニメーションの動きのニュアンスを自動的に描出することである.モーションキャプチャから有用性のあるフレームをキーとして抽出し,キーフレームのタイミング,および当該フレームのキャラクターのポーズを修正変更することにより,動きの誇張と省略を計算機によって行うための方法について考察した.
 日本製アニメーションにおけるリミテッド表現技法上...の特徴は,少ない作画枚数でタイミングを調整しながら記号的な表現を行うことで緩急のついた外連味のある動きとして表現することである.それゆえに現実の動きを標本化したモーションキャプチャデータを直接適用することは効果的ではない.モーションキャプチャは記録であり,リミテッドアニメーションは表現だからである.
 しかし,モーションキャプチャデータは作画イメージの修正・変更が簡便であり,データベース化による効率的な運用が可能である.このように多くの特徴を有しているモーションキャプチャデータを工夫して積極活用する利点は大きい.利点が効果として作用した場合,時間コストの省力化だけでなく人材育成における教示システムの構築が可能となる.よってアニメやゲームをはじめとするメディアコンテンツ関連施策の要件にも合致することになり,副次的効果も期待できる.
 本論文は以下の6章より構成されている.第1章では序論として研究の背景・目的・意義について論じた.考察を進めるにあたり,手法の汎用性を高め,プログラムとして計算機に実装が可能であることを目標とした.よってモーションデータはBVHファイル形式を対象とした.
 第2章では標本化された連続フレームから,作画上重要なキーとなるフレームを抽出し,次いでモーションキャプチャの動きとキーフレームを抽出してスプライン補間した動きの差異の評価とその結果について論じた.まず,モーションデータの全てのフレームについて,回転量変化の大きいフレームをキーフレームの候補としてマーキングした.これらの作業を各部位全てについて行った.それらを一覧化し,最も多くの候補を持つフレームをキーフレームとみなした.その結果キーフレームは高い精度で抽出することが出来た.試作対象として選定したモーションは,循環運動(歩行,疾走,リフティング)と非循環運動(投球,打球,後転とび,キック)である.選定理由は,これらの運動は日常的な動きであるため,印象評価の信頼性を得ることができるということと,比較的時間解像度が高い動きであるため,デフォルメ要素が高く,手描きアニメーションとの比較対照を行いやすいということである.
 第3章では第2章において抽出したキーフレームのポーズに対して加工処理を行うことについて論じた.手描きによるアニメーションはデフォルメ表現が施されているが,このデフォルメ表現によって特徴のある動きを抽出している.この動きを抽出するために,手描きアニメーションの分析によって要因の特定を行った.アニメーションにおける“らしい動き”とは,実際の運動との物理的整合性ではなく,人間が視覚や身体感覚によって心に描くメンタルイメージ,つまり運動表象が影響していることがわかった.このことをふまえ,ポーズの量子化などを自動的に行う手順を考察した.
 第4章ではキーフレームとフレームのタイミングを変えてフレーム全体を再配置し,リミテッドアニメーションに合致した時間のデフォルメを行うことについて論じた.限られた作画枚数で効果的に動きを見せるには,動きの連続性を均等にではなく,偏りをもたせる必要がある.アニメーター経験則とスポーツ運動科学では,運動を大きく三つの流れに文節化して捉えている.本研究においてもこの考え方を援用した.これらの文節化された運動には時間推移がある.そこで処理対象とすべきフレームがどの分節に相当するかを判別し,キーフレームの中で最も重要なキーを見つけた.そしてその前後のキーを設定した閾値で調整しながら,近接もしくは遠隔させることによりタイミングに緩急を付けることが可能であることを示した.
 第5章ではこれらの手法の有効性を検証するために試作アニメーション画像を制作し,印象評定実験を行った.実験参加者として30名の大学生を対象とし,実験条件として試作アニメーション画像と手描きアニメーション画像をPC画面上にてそれぞれ10回繰り返して提示した.評価方法は,SD法による評定尺度を用い,評価語は既往研究から25語を用いた.そして評定平均値からプロフィール曲線を作成し,試作アニメーションと手描きアニメーション画像の心理的な近似性を検証した.その結果,ほぼ同じ印象評価結果を得ることができた. 
 第6章では実用レベルで運用できる品質の映像を作成できることを示し,本研究の成果によってモーションキャプチャを利用したリミテッドアニメーションの制作方法について有効性を実証した.最後に今後の問題点と展望を述べ結論とした.
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レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06

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