<博士論文>
名勝史跡「坊津」にみる「坊津八景」の景観的意義とその保全条件に関する研究

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概要 1.背景・目的
 本研究は,鹿児島県薩摩半島に位置する名勝史跡「坊津」にみる「坊津八景」の景観的意義とその保全条件に関する体系的研究である.本論では,これまで探られてこなかった「坊津八景」全景の具体的な場所を特定し,その景観的意義と保全のための諸条件を把握・解析することを目的とした.これまでの名勝史跡「坊津」及び集団表象としての「坊津八景」は,数々の史料・文献記述があるものの,いずれも具体的な場所が...特定されないまま,検証作業が放置されてきた.既往研究を精査すると,歴史的・文化的観点からの史実の紹介及び解説が中心であり,本研究のごとく,景観研究の観点から原位置踏査を実施し,「坊津八景」を実証的研究の積み上げにより,地域固有の資源としての評価と,保全・活用策に言及した調査研究事例は見当たらない.
2.研究方法の検討と本研究の意義
 本研究の中核は,歴史的な事象を単に調査・整理したのではなく,地域の歴史的まちづくりの制度に照らした戦略的観点,坊津地域の「八景」の自然景観が今日まで保存されてきた意義と「坊津八景」の文化財としての保全の必要性と方向性を提示することにある.そこで本論では,(1)「坊津八景」に係わる文献『三国名勝図会』の解析を通じ,その歴史的・文化的価値を確認するとともに,文献に示された記述に適合する場所を原位置踏査により確認した.より具体的には,(2)「坊津八景」を構成する自然景観要素の同定と「八景」全ての眺望点の位置の特定である.さらに,(3)調査・分析を通じて,「八景」の景観形成上の価値を明らかにし,「八景」という風景の観賞様式を保全し伝える,という学術的な立場から調査対象地域の適切な保全計画上の諸問題を明らかにすることを追究した.
 その意味で,景観研究としての本研究は,「坊津八景」を扱い評価する先行研究として位置づけられる.
3.調査結果と評価
 本論では,「景観」を主体と対象間の現象と位置づけ,誰にとっての景観かという主体の重要性と,その主体による評価(=価値付け)が時間(=時代)を超えて,どう扱われるべきかという問題点の検討・解明に着目した.考察の結果,集団表象としての「八景」の価値を解明し,その定型化された景観の「型」を地域プランニングに生かそうとするもので,主体の存在は,一見わかりにくいが,集団表象という形で時代を重ね多くの人々に共有されている景観像をモデルにするという意味で,暗に安定的な不特定多数の主体が設定されると考えた.さらに,景観研究の観点からかつて定型化されていた集団表象「八景」の存在を仮定し,現代に再生可能か,さらに表象から現場が同定された「八景」は現場の保全に加え,再び復古的また新規に表象化される必要があるのか,等に検討を加え,結論を導き出した.
 調査・分析の結果,調査対象地域の歴史的・自然的景観の保全にあたり,国に対する名勝指定範囲の追加・拡大を念頭に置き,次の3点に配慮した保全活用が検討される必要があると考察した.
①「坊津八景」には,国の名勝指定を受ける地域がふくまれること.
②八景として具体的に同定できた場所が現存すること.
③八景の価値を高める眺望点との空間的な広がりのある関係が構成されていることと,それぞれの役割が明確であること,等である.
 以上の調査結果から,「坊津八景」は「瀟湘八景」を踏襲したものである点,また,文献記録から『三国名勝図会』のなかで絵図・挿歌,解説書とも揃った南九州最古の八景である点が確認できた.さらに,当世一流の文化人(近衛信輔)が詠んだ「坊津八景」の位置が明らかになり,絵図と現状を比較すると,宅地化や道路・漁港整備や植生の変化も見られるが,各景とも比較的安定した状態で残っていること,また,全国の「八景」と比較しても八景の保存状況は特筆に値する.これは,この地域の地層特性が四万十層群を基本に形成され,風化や劣化は進むものの極めて安定した状態が保たれていること,また,植生も遷移は認められるものの比較的安定した自然状態で維持されているためである,と考察した.
 今後は,それらの成果をまちづくりの生かすための,計画領域の設定を前提とした『景観条例』の特定等に反映可能な地域固有の資源をいかした文化財としての保存と活用策を展開する必要があると考える.こうした観点からの環境の評価は,これまでの名勝「坊津」地域の歴史環境保全にはない新たな知見であり,地域生活の継続性の保全や,それによる地域の個性やアイデンティティの確認のために非常に有効であると考える.
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レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06

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