<博士論文>
鉄道構造物騒音の数値計算による予測に関する研究

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概要  鉄道騒音は複数の音源から生じる複合騒音で,鉄道の中でも特に高速化の著しい新幹線の騒音は,車両下部騒音,構造物騒音,車両上部空力騒音,集電系騒音の4つに分類されている.更なる高速化に伴い音源のパワーが増大すれば,音源側での対策を強化すると共に既存遮音壁の高さを増す必要が生じてくる.遮音壁の嵩上げが行われれば,遮蔽効果の増加により構造物騒音以外の騒音源からの寄与が相対的に小さくなる一方で,放射面積の...増加等により遮音壁からの放射音寄与が大きくなり,その影響が無視できなくなることも予想される.構造物騒音は沿線における寄与が最も小さいため,実測することが非常に難しく,構造物騒音のみの放射性状についてはあまり把握されていない.既存の新幹線騒音予測法として鉄道総研による予測法(以後「鉄道総研予測法」と呼ぶ)があるが,構造物騒音に対しては,遮音壁からの放射やその構造材料が変化することによる影響については言及されていない.本論文では有限要素法(FEM)と境界要素法(BEM)という2つの数値解析手法を用いて,遮音壁からの放射も含んだ形での構造物騒音の予測手法を確立し,その放射性状を把握することを目的とする.
 本論文では構造物振動解析をFEMによって行い,そこで得られた振動速度を境界条件として,BEMによって放射音場の解析を行う.本論文では問題を2次元に簡略化することとした.すなわち,構造物横断面がその縦断方向に無限に続くものとして取り扱い,縦断方向の単位幅について解析した.加振力については,移動する点加振源(車輪)を同相の線加振源に置き換えた.床版の支持条件については,構造物縦断方向に生じる振動をT形梁の振動で近似し,その鉛直方向振動速度の空間2乗平均値と同じ速度を生じる1自由度振動系のバネのバネ定数を算出し,このバネが橋脚の代わりに構造物縦断方向に無限に接続され,床版を支持するものとして取り扱った.このようにして構造物縦断方向の平均的な振動し易さを模擬した.
 この解析モデルによって構造物騒音の騒音レベルの予測を行い,軌道間中心・床版裏面からの距離減衰特性について鉄道総研予測法による計算値と比較した.その結果,本論文の手法による計算値は,250km/h走行時には,鉄道総研予測法による計算値よりも2~5dB低い値に収束する傾向を示した.車両走行速度と両手法の予測値の関係について検討を行った結果,両手法の車両走行速度に対する依存性は異なるが,車両走行速度が180km/h~255km/hの範囲では,本論文の手法による計算値が鉄道総研予測法による計算値の±3dBの範囲内に収まることが分かった.このように,本論文の手法によって得られた結果は,鉄道総研予測法によって得られた結果とある程度の整合が得られたことから,構造物騒音の放射性状が遮音壁を含む構造の違いによってどのように変化するかを把握するためには,十分な精度を有するものと考えた.
 この手法を用いて,まず,構造物騒音全体に対する遮音壁からの放射音の寄与について検討した.その結果,沿線における広い範囲で遮音壁からの放射音の寄与が影響していることが分かった.全体的には床版からの寄与が大きいが,条件によっては遮音壁の寄与が床版の寄与を上回る領域も見られた.また,放射パワーについて検討した結果,床版と遮音壁から放射される音響パワーは,その放射面積にほぼ比例していることが分かった.
 次に,遮音壁の構造材料が異なる場合の放射性状比較を行った.既存遮音壁を嵩上げした場合は,既存遮音壁の場合と比較して沿線における計算値が局所的に6dB以上も上回ることがあるという結果が示された.検討の結果,これは放射パワーの増加よりも放射指向特性の変化したことによる影響が大きいことが分かった.また,既存遮音遮音壁を嵩上げした場合と既存遮音壁の場合に対する計算値の差が6dB以上になる地点において,鉄道総研予測法を用いて,遮音壁の嵩上げによる各騒音源の寄与の度合いの変化について検討した.その結果,遮蔽効果の増加によって構造物騒音以外の騒音源からの寄与が低下するのに対し,前述のこの地点における本論文の手法による予測結果を考慮して構造物騒音の寄与が6dB上昇するものとすれば,構造物騒音の寄与は他の騒音源と比較して最も大きくなり,結果として新幹線騒音全体のレベルが計算通りに下がらないという結果が得られた.このように,地点によっては,遮音壁の高さを増すことが新幹線騒音全体の効果的な低減に繋がらない可能性があることが示唆された.
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詳細

レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06

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