<博士論文>
奄美大島における集落・民家の空間構成原理に関する研究

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概要  第1章では、本島集落の信仰祭祀空間の空間構成の分析を通じて、本島集落の空間秩序を成立させている基軸を明らかにした上で、本島集落の空間構成がどのような空間概念モデルとして描けるのかについて試論を展開した。
 その結果、本島集落においては、集落内の全ての信仰祭祀空間の配列、ミャーの空間構成、トネヤとアシャゲの形態・位置関係から、集落の信仰祭祀空間を貫く空間秩序として、信仰軸を基軸とし、カミヤマを背にハ...マ方向に開ける空間秩序が存在することを明らかにした。さらに、このような空間秩序は、集落の信仰祭祀空間を結ぶ信仰軸を基軸とする集落の空間概念モデルとして表されることを示した。
 第2章では、伝統的な平面形式をもつ分棟型民家の平面構成、配置構成、各部屋の使われ方等を明らかにし、その結果に考察を加えることによって民家の空間秩序を読み取ることを試みた。
 その結果、本島の分棟型民家には、オモテとウチの間の「表―奥」とトコの正面性を確保しようとする「上―下」という直交する2軸を基軸とする空間秩序が認められることを明らかにした。さらに、このような空間秩序は、奄美分棟型民家の平面構成モデルとして表されることを示した。
 第3章では、第1章で述べた集落の空間秩序と第2章で述べた民家の空間秩序との関係を、集落と民家の基軸およびトコの指向性に着目して捉えること、また両者の関係を民家の復原という時間的な観念で捉えることを主目的として検討を行った。
 その結果、トコの向きはカミヤマへの指向性、言い換えればカミヤマを背とする指向性を示すことが分かった。したがって、第2章で指摘した分棟型民家に存在する「表―奥」と「上―下」という直交する2本の基軸のうち、トコを基点とする「上―下」軸を基軸とする空間秩序は、カミヤマを背に正面をハマへ向ける「背面―正面」軸(信仰軸)を基軸とする集落の空間秩序に呼応するものとして捉えることができた。
 さらに、本島民家の藩政期から現在に至る変化は、配棟形式、平面構成、配置構成のいずれについても小さいこと、上記の空間構成を規定する空間秩序に関しては、現在から藩政期に遡ってみても大きな変化は認められなかったこと、このような本島民家の空間構成および空間秩序の復原的考察によって、その伝統的形態が保全される場合はもちろんのこと、大きく変容した場合でもその基層となる信仰や生活習慣に基づく居住者の空間概念は継承され、空間秩序として新しい形態の一部に顕現されることを指摘した。
 第4章では、第1章~第3章で述べた本島の集落および民家の空間秩序を、南西諸島の他の住文化圏のそれと比較考察することによって、本島集落および民家の空間概念の住文化論的位置づけを試みた。その結果、以下の知見を得た。
 奄美集落の空間秩序は、沖縄の集落における聖地―ハマ軸を基軸とし、御嶽を背にハマ方向へ開ける「背面―正面」の有軸的な空間秩序の影響を受けつつ、三方を急峻な山で囲まれた海岸部に立地するという地形上の制約から、孤立的性格をもち、集落移動もほとんどなく、隔絶的な空間秩序が存在していたことを指摘した。
 奄美大島の民家はトコを貫く軸線とトコに平行な軸線に規定される2方向の正面性を有している。さらに、奄美住文化圏においては、そのうちの一軸が集落の基軸に呼応し、集落民家を貫く空間秩序として存在している。奄美大島の民家は、以上の点で沖縄の民家、鹿児島県本土の民家とは異なる空間秩序を示しており、かつ琉球統治時代における琉球住文化の影響および薩摩統治時代における薩摩住文化の影響がうかがえることを指摘した。
 以上の各章から得た知見を総合して、結びとする。
 奄美大島の集落においては、集落空間および信仰祭祀空間を貫く空間秩序として信仰軸を基軸とし、カミヤマを背にハマ方向に開ける空間秩序が存在する。このような空間秩序は、有軸性の空間秩序を示す琉球住文化を基層としつつも、地形上の制約から集落ごとの局所的方位に規定され隔絶的に形成された空間秩序として捉えられる。さらに、このような空間秩序は、集落の信仰祭祀空間を結ぶ信仰軸を基軸とする集落の空間概念モデルとして表すことができる。
 奄美大島の分棟型民家においては、トコを基点とする「上―下」の空間秩序と部屋の使われ方や配列からオモテを「表」とし、ウチ(ネショ、ナンド)を「奥」とする空間秩序が認められる。トコを貫く軸線とトコに平行な軸線に規定される2方向の正面性が存在する。このような空間秩序は、トコの正面性を強調する琉球住文化とトコに平行な軸線に規定される正面性を示す薩摩住文化が重層した奄美大島独特の空間秩序として捉えられる。
 奄美大島の民家は、以上の点で沖縄の民家、鹿児島県本土の民家とは異なる空間秩序を示しており、そこに琉球統治時代における琉球住文化の影響と薩摩統治時代における薩摩住文化の影響を読み取ることができる。
 奄美大島の民家は、以上の点で沖縄の民家、鹿児島県本土の民家とは異なる空間秩序を示しており、かつ琉球統治時代における琉球住文化の影響と薩摩統治時代における薩摩住文化の影響を読み取ることができる。
 このような奄美大島集落の空間秩序は集落空間―信仰祭祀空間―敷地空間―民家内部空間を貫くものであり、藩政期から現在に至るまでほとんど変化していないと結論付けた。
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報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.16

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