<博士論文>
マルチ映像によるコミュニケーションの特性に関する研究

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概要 マルチ映像は、複数の映像を同時に提示する方法と構成の総称である。1960年代、すなわちコンピュータによる制御技術の進展と同時期に、マルチ映像も数多く制作されるようになったが、表現やシステムの特殊性ゆえに研究例は少ない。そこでマルチ映像の特性を、映画に代表される1画面映像との比較において明らかにすることによって、コミュニケーションメディアとしての機能と表現の可能性を体系的に考察する。 本論文は時代考...査、作品分析、実験、概念提示等を統合しながら所期のテーマをまとめたもので、8章から成る。  第1章では、視覚情報の多元化、エンタテイメントの多元化、ビジュアルプレゼンテーションのマルチ化といった現代的状況を、きわめて日常化してきた現象としてとらえ、情報過多の時代性と符号した表現方法と解釈した。 マルチ映像の媒体特性は制作者と鑑賞者の2つの視点で検討しなくてはならない。  第2章では、マルチ映像の最も初期の作品であるアベル・ガンスの『ナポレオン』で採用された「トリプルエクラン」を考察対象として、制作者の立場から構成分析を試みた。分析の対象としたのは1927年の原版(既に散逸)ではなく、1981年の再編集版である。この結果、3つの要素映像の同時展開、3面連続のパノラマ構成、さらに多重露光された映像の組み合わせなど、現在のマルチ映像の多くの表現要素を取り入れていることを明らかにした。「ポリビジョン」といわれる多映像展開は文字どおり視覚的交響楽であり、マルチ映像の嚆矢である。  一方第3章は、鑑賞者の立場から、マルチ映像がどのように<見られて>いるかを実験的に検証した。マルチ映像の作品を上映し、アイマークレコーダを装着した被験者に鑑賞してもらった。この結果、①マルチ映像は鑑賞者によって注視する映像が異なり、選択される映像の順序、注視の時間、その回数などまちまちで、必ずしも同じ<見かた>がなされていない。②映像が点灯した瞬間やカット替わりなどの視覚的刺激が与えられる場合は、被験者に共通した視点の移動がみられる。③提示された映像のすべてが鑑賞の対象となっているとは限らない、等の鑑賞態度が確認された。これらは「選択的鑑賞」と「視覚的誘導」の可能性を示唆している。  第4章は、従来の映画に代表される1画面映像と、マルチ映像の視覚思考の違いを考察した。映画が<直線的集約思考>の鑑賞態度をとるとすれば、マルチ映像は<分散的拡散思考>である。同じように<知性的認知>と<直覚的認知>の違いがある。これらはマルチ映像が視覚的な文脈が同時に見とおせることで、要素映像の文脈における意味がより見えやすくなっていることに起因している。さらに<選択>というマルチ映像独特の鑑賞は、視覚的緊張から視覚的平衡状態への移行であり、ある意味では鑑賞者の本能的な行動である。一方で演出の立場から、特定の映像へ注意を向けることもある。これが視覚的誘導である。  第5章では、1画面映像との表現の違いや、鑑賞態度の特性をふまえてマルチ映像の構成法、すなわちマルチプルモンタージュの考察を試みた。マルチ映像の基本的な構成は2つある。要素映像が網目のように相互に関係しあって全体を構成する<散在映像型>と、特徴的な映像を中心にして、捕捉的な映像が結合している<中心映像型>である。またマルチ映像では映画と異なり、先行した映像と現前の映像との照合、すなわち概念形成のための映像の突き合わせは、記憶像に頼るという心理的負担が軽減される。さらにこの映像には2つのモンタージュが存在する。制作者のモンタージュと鑑賞者のモンタージュである。制作者が構成した意図どおりに、必ずしも鑑賞されるとは限らないところに、構成と解釈の難しさがある。2つのモンタージュはいうまでもなく<二重の情報構造>の存在を意味している。  第6章では、過去の作品を参考にして、時間・空間の側面からマルチ映像の構成法の抽出と分類を試みた。on-off効果、順送りの変化、中心映像だけの変化、連続パターン、アクセント映像、図と地、一部を使う、対称構成等はその代表である。  第7章は、コミュニケーションメディアとしてのマルチ映像のあるべき方向を考察して最終章とした。マルチ映像は動態性の強い構造をもった映像である。従って要素映像は、同時性の中で総合化されることによってイメージの強化がはかられていく。マルチ映像はテレビや映画の1画面映像の対極として積極的にメッセージを発信したとき、もっとも独自の効果を発揮する、表現力に富んだコミュニケーション手段として認知されるにちがいない。  第8章は、1~7章をまとめて総括した。 映画が誕生して100年がすぎた。その間論じられてきた1画面映像の構成論は、マルチ映像の出現で新しい視点からの考察を必要としている。本研究は、体系化された研究がほとんどないマルチ映像を、実験と概念提示をとおして考察してきた成果をまとめたものである。続きを見る

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登録日 2013.07.09
更新日 2023.11.21

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