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| 概要 |
本研究では，都市化・混住化が進行する農業流域を対象とした水環境保全・改善のための適切な流域管理手法の提言に資することを目的として，空間統合ツールとして地理情報システム（GIS）技術を援用した分布型窒素・リン負荷流出モデルを開発した．流域規模に応じて流域データを適宜選択し，GISを用いてモデルの入力データにあたる流域圏データベースを構築することによって，高精度かつ汎用性の高い分布型流出モデルの構築を...目指した．解析対象は水量ならびに全窒素（TN），全リン（TP）とした．まず，大規模流域を対象とした流出解析の実施を目的として，九州北部地方に位置する一級河川である筑後川流域を対象に分布型窒素・リン負荷流出モデルを構築した．本モデルは，水量流出過程として水循環サブモデル，栄養塩負荷流出過程として窒素・リン負荷流出サブモデルより構成される．対象流域の流域圏データベースを基に流出解析を行った結果，河川流量では非常に高い再現結果を得ることができた．TN・TPについては，計算値は実測値を概ね再現しており，降雨時の濃度変化も再現できていることから，モデルの妥当性が確認できた．つぎに，本モデルを用いて，様々な排出負荷削減対策を想定したシナリオ分析を実施した．その結果，シナリオで想定した排出負荷削減対策の効果は土地利用形態によって異なる結果となり，混住化流域において対策を考案するうえで，流域内の各地域の土地利用形態ならびに汚濁負荷排出の傾向を把握し，それらに応じた対策の考案が必要不可欠であることが確認できた．また，畜産業および水田の水質浄化に関するシナリオにおいて，水質改善が顕著にみられたことから，農業地域における対策の重要性が確認できた．つづいて，小規模流域への適用に向けた本モデルの精緻化を目的として，福岡県福岡市西部および糸島市東部に位置する二級河川の瑞梅寺川流域を対象に同モデルによる流出解析を実施した．まず，し尿処理状況および家畜飼育状況，水田における営農状況を中心に，より詳細な流域情報を収集し，データベースの精緻化を行った．そして，本モデルへの適用の際，水田における水管理や施肥量・施肥スケジュールなどを中心に，データベースに準じてモデルの精緻化を行った．流出解析の結果，河川流量およびTN，TPを概ね良好に再現することができた．さらに，対象流域における主要な負荷発生源として生活系排水，畜舎排水および農地に注目し，シナリオ分析による将来予測を行った．まず，負荷削減対策シナリオとして，浄化槽から下水道への完全移行では流域全体にわたって水質の改善が顕著にみられ，畜舎での排出負荷削減では畜舎付近において局所的な水質改善がみられた．また，営農形態の変化に関するシナリオとして，水稲栽培から畑地への転換を想定したが，特に灌漑期において河川中の流出負荷量に大きな減少がみられ，水稲栽培が河川の水質環境に大きな影響を与えることが示唆された．本モデルの特徴は，多様な土地利用形態を有する混住化流域を対象とした流出解析が可能であること，大規模流域から小規模流域まで適用可能であること，水田を中心とした営農状況を詳細にモデル化していることである．本論文の成果は，混住化流域における窒素・リンの動態解析や将来予測，流域管理対策の影響評価など，適切な流域管理手法の提言に大いに貢献できると考えられる．続きを見る
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| 目次 |
第1章 緒論 第2章 大規模流域を対象とした分布型窒素・リン負荷流出モデルの構築 第3章 精緻な流出解析を目的とした分布型窒素・リン負荷流出モデルの小規模流域への適用 第4章 総括
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