<博士論文>
無線バックホールシステムにおける多段無線中継
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概要 | 次世代ブロードバンド無線通信に求められる数百Mbpsの伝送レートを実現するためには、守備半径が数十メートルの狭小セル基地局(スモールセル基地局)を多数敷設することが必要となる。スモールセル基地局の敷設コスト削減は次世代ブロードバンド無線通信を実現する鍵と言っても過言ではない。この目的のため、スモールセル基地局を無線で多段中継接続するセルラシステムが検討されている。基地局群のうち幾つか(コアノード)...を有線で基幹網へと接続し、その他(スレーブノード)はコアノードを介した多段無線中継により基幹網と接続される。基地局と基幹網を接続するための有線回線の敷設数を削減できるため、システム全体の敷設コストを低減することができる。また基地局が有線で縛られないため、基地局の再配置や追加が楽に行える利点も有する。当該無線中継網は通称、無線バックホールと呼ばれている。無線中継可能な段数が多ければ多いほど、システムの敷設に必要な有線回線の敷設量を削減できる。また欧州などで数多く現存する歴史的建造物等の一部の建物における無線エリア構築では、有線回線の敷設が不可能な場合があり、無線中継可能な段数が多ければ多いほど、当該無線システムの適用可能範囲を拡大することができる。すなわち許容可能な無線中継段数は、無線バックホールの性能を測るもっとも重要な指標である。多段無線中継を阻害する最大の課題は電波干渉である。我々の研究室では無線バックホールおいて多段無線中継を高効率に行う手法として、周期的間欠送信法(IPT:Intermittent Periodic Transmission)を提案している。IPTは、パケットの送信源となるノードにおいて一定の送信周期(IPT送信周期)を持って間欠的に送信することにより、中継経路上での同一周波数リユース間隔を調整し、最適な送信周期を設定することで電波干渉によるパケット衝突を回避することを特徴とする。IPTによる中継伝送効率の改善効果は実証実験によっても確認されており、10段以上の多段中継も可能であることが実機上で示されている。本論文ではIPTによりもたらされた多段無線中継の性能を更に向上させるため、3つの研究について取り組んだ。 第一の研究は、安定したIPTの運用を保証するための中継経路の安定性改善である。IPTはツリー構造の中継経路上で運用され、中継経路の設定(ルーティング)はIPTの伝送性能を大きく左右する。無線バックホールシステムでは各基地局は固定的に設置されるため、基地局間の伝搬路特性は変動しないものと誤解される場合があるが、実際には人の移動やドアの開閉等によって変動する。従来のルーティング手法では、無線伝搬路特性の時間変動を考慮しておらず、経路を構築した瞬間の伝搬路特性によって構築された中継経路は、それ以降も最適である保証はない。動的な伝搬路特性の変動に追随しようと、ルーティングを繰り返すと、中継経路が不安定となってしまう。本論文では無線伝搬路特性が時間変動する環境でも安定したルートを構築するためのルーティング手法を提案し、システムスループットの改善について評価を行った。提案手法は、一定間隔でシステムの中継経路の更新を行い、その際、ノード間の伝搬損を過去の履歴を加味した逐次平均で表すことで、漸近的に安定した中継経路へと収束させることを特徴とする。提案手法を実機上で評価した結果、伝搬路が動的に変動する実環境において安定した中継経路が構築でき、システムのスループットが改善されることが確認できた。第二の研究は、IPTの効果を最大化する最適送信周期の自動設定プロトコルについてである。無線バックホールにおいて、IPTに基づいた多段無線中継を行う場合、IPT送信周期は最も重要なパラメータであり、適切に設定しないとIPTの効果は発揮できない。IPT送信周期は、ノード配置や周辺環境などに依存するため、机上計算であらかじめ適切な数値を設定することは難しい。IPT送信周期を自動的に設定する手法が必要となる。本論文ではコアノードが各スレーブノードに対しトレーニングパケットを送信することにより、コアノードから各スレーブノードまでのスループットが最大になるIPT送信周期を設定する手法を提案し、実験とシミュレーション両方で評価を行った。その結果、提案手法によって獲得されたIPT送信周期は常に最適な送信周期となることを確認した。 第三の研究は、指向性アンテナにより電波干渉を物理的に抑制した状態でのIPTの実現についてである。指向性アンテナは送信電力を一定方向へ集中させることにより、他ノードへの干渉を軽減できる長所を有する。指向性アンテナの適用によりIPTの性能は更に向上するものと期待されるが、全方位接続性を担保するためには異なる主軸方向の複数の指向性アンテナを装備する必要があり、その適応的な切り替え処理で生じる遅延時間の影響によって中継伝送効率の低下が生じる問題があった。本論文では各ノードに複数の無線インタフェースを搭載し、インタフェース毎に固定的な指向性を持ったアンテナを接続することにより、この切り替え処理遅延の影響を軽減できる手法(FDA: Fixed Directional Antenna)を提案した。FDAが適用された無線中継ノードに適したルーティング手法を提案し、これとIPTを併用することによって高い中継伝送効率を達成した。提案手法を実機テストベッドにより評価し、無指向性アンテナを適用した場合に比べて約30%の性能改善が確認できた。スマートフォンの爆発的普及に伴うトラフィックの急増により、無線通信のブロードバンド化への要求は一層高まってきている。本論文の成果は、無線バックホールの多段無線中継時の性能を向上させるものであり、無線バックホールが適用できる建造物の対象範囲を広げるものである。これによってスモールセルの導入が促進され、大容量な無線通信網の実現を容易なものとする。続きを見る |
目次 | 1.序章 2.無線バックホールを支える基本 3.無線バックホールにおける安定ルーティングプロトコル技術 4.無線バックホールにおける送信周期自動設定法 5.無線バックホールにおける指向性固定アンテナシステム 6.結論 |
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登録日 | 2013.07.10 |
更新日 | 2023.11.21 |