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本論文では, 開発前の地域(九州大学新キャンパス予定地域)における気象現況を把握する事を目的とし, 元岡(正式には元岡・桑原地域)において, 1994年6月中旬から気象観測を開始した. これは, 将来開発により気象環境の変化を定量化するための基礎データとなるものであり, 九州大学のためのみならず, 地球環境問題においても重要な示唆を与えるものとなると考えられる. ここでは, 主として夏季および冬季の気温と湿度のデータについて, 元岡ならびに元岡に近い観測点のうち福岡(福岡管区気象台), 前原(アメダス観測点)のデータも加え, 気象特性を考察した. これは, 元岡が植生豊かな地域内に位置しているのに対し, 前原は福岡のベットタウンとして現在都市化が進行中の地域内に, そして, 福岡はビルの立ち並ぶ都市域内にあることも配慮したものである. なお, 本論文では雨量については, この観測期間が干ばつの影響下にあったためデータの蓄積が少なくふれられなかった. 別稿にてとりあげる予定である. 元岡の現況下における気温と湿度に関する気象特性は, 都市として開発された地域にある福岡のデータに対して, 気温, 相対湿度ともに差異があることが明らかになった. まとめると次のようになる. (1)元岡における気温の発現状況 a) 日最高気温は, 夏季においては元岡は福岡と前原の中間にあり, 冬季においては元岡は福岡とほぼ同等の値を示し, 前原よりは高温である. b) 日最低気温は, 夏季においては元岡は福岡, 前原のいずれの地点よりもかなり低い値を示し, また, 冬季においても同じ傾向を示した. c) 日平均気温は, 夏季においては元岡は福岡, 前原のいずれの地点よりもかなり低い値を示し, また冬季においても同じ傾向を示した. d)気温の日較差は, 夏季において福岡, 前原に比べ大きく, とくに晴天日において差が拡大する. この傾向は冬季にも現われた. e)現在の元岡は, 1日の温度変化のうち, 福岡より24時間低温で推移しているが, 前原に対しては日中の太陽放射の大きい時間帯では高温を示し, それ以外の放射の小さいあるいは夜間においては低温となる特性をもつ. f)この低温促進要因としては自然度(都市化の逆)の高さ, すなわち植生の作用, 馬蹄状の地形が持つ風速抑制効果が関係していると考えられる. (2) 元岡における湿度の発現状況は, 夏冬を通して元岡の方が多湿であることがわかる. このことが都市化によりヒートアイランド現象が生じる誘因の1つではないかと考えられる. (3)風速の発現状況は, 元岡では, 昼間に風速が強く, 夜間は無風に近い場合が多い. ただし, 元岡は福岡より風がかなり弱かった. このことが, 両地点の温度差に大きく影響していると考えられる. (4)風向の発現状況は, 元岡では, 夏季も冬季も地形に支配されており, 谷の走行方向である南西寄りの風向と北東寄りの風向が卓越する. 福岡では, 夏季も冬季も北西寄りの風向と南東よりの風向が卓越している.この特徴は, 福岡市が北側に海面をもつ沿岸都市であり, 日中は海風の影響を受けることが多いと考えられる.
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