注記 |
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熱力学第二法則そのものを根底に据えて, 地球上における再生可能資源の存在や生物の存続の理由を解明する研究は, 歴史的にはまだ新しく, 日本では1976年頃からはじまり, その後, エントロピー学会(1983年創立)において深い議論が展開されてきた. 本稿は, エントロピー学会での議論を整理し, 新たな知見を加えてまとめたものである. 本稿における新たな知見とは以下のものである. ①ピメンテル, 宇田川のエネルギー収支の議論を踏まえて, 農業でも, 工業でも, より化石燃料を消費することが, より多い利益を獲得することを明らかにした. また, その利益がさらにエネルギー収支を悪化させていた. ②室田武, 河宮の議論を踏まえて, 化石燃料に依存した商品生産が, 土地, 時間, 労働節約的であることを, 薪を使った具体的数字によって説明した. ③経済学は熱力学の洗礼を受けていないのではないかという, ボールディング, ジョー ジェスク=レーゲン, 玉野井芳郎, 室田武らによる指摘, について, エンゲルスの熱力学的認識の欠如から論じた. また, 現代の経済学が熱力学の洗礼を受けていないのではないか, という視点でエンゲルス以後, ボールディング, ジョージェスク=レーゲンなどの議論を整理した. ④室田泰弘の「エネルギーの経済学」の議論を批判的に整理した. 室田が短期的な分析によるエネルギー消費の促進と, 長期的な枯渇問題によって, 新たな経済学のパラダイムをもとめざるをえなかった, という解釈を与えた. ⑤持続的な経済社会の基本は農耕にあるという視点で, エントロピー学会での議論を整理した. 以上があげられる. 従来の経済学のパラダイムは, 現在の経済社会全体をおおうものであり, それゆえ現実的な経済学批判を試みれば, それは多面的にならざるをえない. エントロピー学会では, 経済学ばかりでなく, 物理学や様々な分野の研究者, 現場の労働者によって, 現在の経済社会の批判がおこなわれてきた. これらを整理し, 体系づけるための試論としたのが本稿である. それゆえ, 本稿の論述は多面的にならざるをえず, また多面的ゆえに, (専門家から見れば)未整理な論述も避けられないものとなった. しかし, 本稿の目的は, 細かく細分化された専門家の枠内で完結した論を提示するものではなく, 「従来の経済学全般に制約を与える上位理論としての新たな経済学」の枠組みを, 農業の立場から論じようとするものである. 本論文はそのきっかけになったと考える.
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