注記 |
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九州の阿蘇・久住飯田地域では広大な草地開発事業が実施されている.その事業は肉用牛を対象に粗飼料基盤の拡充を図り,子牛生産経営の規模拡大と所得安定化を目的としている.しかしながら,開発の対象となった農家は殆んどが複合農家であるため,対象部門たる肉用牛だけではなく,従来からの複合部門との結合も考慮しながら開発後の営農の方向を決める必要がある.また,開発された原野は殆んどが入会地であるために,開発後も共同利用を前提とした牧場利用をしていかねばならない.そして,従来の入会権者の集りである地縁集団内においては,その階層分化が起こっているため,その中から新しい秩序を持った機能集団を形成し,その新しい組織の下に共同牧場を利用していくことが必要であると考える.本稿では以上のような現状認識のもとに,開発後の営農の方向を見出すための集落を単位とした集落区分をおこない,さらに,個別農家と牧場組織をとりこんだ地域農業計画を立案した.その内容は次の通りである.(1) 大分県玖珠郡玖珠町と九重町の33の集落を対象に, クラスター分析を用いて集落区分をおこなった.そこでは4つのクラスターに分類することができた.その中の第一の群は入会地が主としてしいたけ生産に供されており,草地開発が実施された段階において,林畜の利用調整問題が生じるものと思われる.また,九重町の集落の方がより多くしいたけ生産の盛んな群に属していることが指摘できる.(2) 久住飯田西部の開発の中ですでに開発のおこなわれた大分郡庄内町高牧野組合を対象に地域農業計画を設計した.用いた方法はゴール・プログラミングと呼ばれるものである.この方法は複数の目標をとり扱うことが可能であるため,個々の農家と牧場組織という複数の意思決定体が存在する地域計画においてち,通常のリニア・プログラミングより有効である.(3) 本稿で設計した地域計画モデルは2つの特徴をもっている. まず,個別農家の農業所得目槙値に,個別経営モデルをリニア・プログラミングで解いた場合の最大農業所得値を置いている点である.次に,級織目槙を,開発後の地域計画であることから事業償還金の返還額においていることである.(4) 以上のモデルから得た請十画値では,個別農家の目標値も組織の目標水準も達成することができた.また,肉用牛の規模拡大も現況より進み,共同牧場の利用にあたっては従来からの組合良平等主義よりも,機能集団のもとの経済合理的な競争システムをとり入れた方が,規模拡大という開発投資の目的に即しているのではないかということがわかった.(5) 外部条件が変化した場合,計画にどのような影響がでるか検討した.子牛価格の下落と価格補償制度の後退は農業所得の減少を招き,特に肉用牛の多頭飼養層に大きなインパクトを及ぼすことがわかった.次に,転作奨励金がカットされた場合,転作田の飼料作付が転換される農家もあったが,肉用牛の給飼養頭数に殆んど変化はなかった.以Lのような結果が本稿で明らかとなったが, ここで残された課題について若干触れておこう.まず,地域計画の解で得られた計画値,及び,外部条件変化の際のインパクトの現われ方をどこまで一般化できるかという点である.つまり,それは広範な草地開発のなされた牧場についてどの程度妥当し得るかという問題におきかえられる.第2に,ゴール・プログラミングの方法上の問題である.本稿では計算プログラムの制限から牧野組合のすべての農家を扱っていない.今後,機能集団化した組織の中でも多様でかつ多数の農家を含む場合の手続きの検討が残されている.さらに,本稿では,目標値から離れることをなるべく避けることを目的としたが,その乖離の程度については何も触れなかった.つまり,その程度を絶対値でおくか,所得目標値からの割合でおくか,或は農家の規模・類型間での差をどう考慮するかなどである.これは目標値が必ずしも満足されない場合の計画の実践性とかかわって非常に重要な問題である.これらの問題についての接近は他日を期したい.
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