注記 |
|
この実験は,健全葉の乾燥重量の増加の状況が,近接した病葉の影響を受けて,種々異状を呈してくるということを示していて,昭和23年(1948)に,著者のこの種の研究の最初のものとして行なわれた.当時この実験の結果を検討する資料も乏しく,元来研究の問題点を捜すのが目的でもあつたので,公表を見合わせた.その後,著者(1953)は,葉の病斑周辺の同化澱粉の分布異状を検して,(1)病斑周辺に同化澱粉が集積または消失するものと,(2)病斑より離れた位置にまで広汎にわたり,同化澱粉が消失または減少するものがあることを認めた.Gauman(1951)は,anti-infectionの作用は,病斑に近接したところに起こり,antitoxicの作用は,病斑より遠隔の部に起ると述べているが,後者は上述の(2)の場面に当り,またこの実験結果にも相通ずる.その後,立枯性病害にみられるFusarinic acid,Lycomarasmin,Pectic ethyl esterase,Vasinfuscarin,Patulinなどが,1950年以後次々と発表され,これらを葉につけると,斑点を作ることが知られた.斑点性病害にみられる毒素については,多数の報告がある.Brianその他(1949)はAlternaria solani のAlternaric acid, Brown(1950)はBacterium tabacumtoxin(Woleyその他(1952)のTabatoxin),Bazzigher(1952)はEndothia parasitica にDiaportin,Wheeler(1954)は, Helminthosporium victoriaeにVictorin, 広江(1955)はFusarium bulbigenum var. niveum にPhytonivenin,Lebeauその他(1955)はSnowmouldにHCN,玉利その他(1954)はPiricularia oryzaenにPyricurarinとα-Picolin酸をそれぞれ明らかにした.最近,Rossその他(1960)はHelminthosporium victoriaeにVictoxineを,Robert(1960)はColletotrichum fuscusにColletotineを発見した.化学成分が明らかでない毒素の記載は更に多く,Chester(1946)は小麦の銹病,Sempio(1946)は小麦の白渋病について毒素存在の可能性を述べた.大部分が1950年以後の研究であり,Valenta(1950)はMonilia laxa, Feder (1951)はAgrobacterium tumefaciens, Xanthomonas phaseori; Pooleその他(1952)はLeptosphaeria avenaria; Overell (1952)はSclerotinia sclerotiorum ; Green (1953) は,大麦のSeptoria sp.; Wolf (1953)はphytophthora parasitica ; Sarasola (1953)はAlternaria tenuis; Polyakov (1954)はDeuterophoma tracheiphila ; Whire(1954)はEndoconidiophora fagacearum; Winsted (1954)はFusarium oxysporium; Sauthoft (1955)はBotriis cinerea ; Riggenbach (1956)はPlepspora herbarum ; Swaehly (1956)はPuccinia graminis ; Butin (1958)は Dothichiza populea; Braun (1959)はErwinia carotovora, Pseudomonas tabaci, Gibberella fujikuroi,Bacterium tumefaciens; Silverman (1960) Puccinia graminis について,それぞれ毒素の存在を証明した.このように繁雑をいとわず病原菌を列記したのは,その分類上,広汎な範囲にわたることを示したので,これに関連する著者のこの実験の結果は,(もちろん毒素以外への考慮も必要ではあるが),種々の問題を含むばかりでなく,実験結果そのものが何らかの役に立つように思われる.よつてここに報告することにした.この報文は吉井教授の御校閲を賜わつた,記して深謝の意を表する.
|