概要 |
悪性腫瘍が, 人類にとっていまだ感染症とならぶ大きな驚異であることは言うまでもない. しかし, 癌診療に直接たずさわるものとして癌治療の歴史を顧みた時, 手術療法の登場以後, その進歩はまことに遅々としていると言わざるを得ない. マス・スクリーニングの進歩により, 例えば多くの早期胃癌が発見され, 早い段階で切除されることにより, それまでは失われていた多くの命を救うことができた. しかし, 早期...胃癌でも急速に進行するものや, 遠隔臓器に既に転移を来している症例も経験される. 近年は, このようなひとつひとつの腫瘍の性格の違いを把握することが, 癌治療を新しい段階へとステップ・アップすることにつながるであろうと期待されている. しかも, 近年の分子生物学の進歩は, 腫瘍の性格を遺伝子レベルでとらえることをも可能にした. DNAマイクロアレイなどの大量スクリーニング系を用いて, 腫瘍の性格を総合的に把握し, 治療の個別化(テーラー・メイド治療)をはかっていこうとする最近の動きはこのような文脈上にある. しかし, 腫瘍の性格を遺伝子レベルでつきつめていくと, 結局その腫瘍の出爾, すなわち発がんの問題につきあたる. そして, この問題が依然として未解決であることにあらためて気付かされる. 本稿では, 発がんにおいて重要な1ステップを構成し, その後の腫瘍の性格形成にも大きな役割を担うゲノム変化とその分子背景について, 我々の独自の研究で明らかになってきたことを紹介する.続きを見る
|