<博士論文>
都市の空間移動に関する基礎的研究 : 経路探索における案内図の認知と記憶について

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論文調査委員
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概要  案内図という情報を入手してから歩行を開始するまでの段階を地図の読み取り段階と定義すると、以後、目的地への経路設定に関しては案内図からの情報選択という認知過程が、経路探索結果に大きく寄与している。本論文では、この仮説にのっとり、経路探索という一連の行動中で、地図の読み取り段階に焦点をあて、探索者の読み取り傾向(必要とされた情報)を明らかにすることを目的とし、得られた結果から適切な案内板のあり方に示...唆を与えることを意図している。本研究では3つの実験をとおして以上の仮説を検証した。  第一の実験(第2章)では、評価グリッド法を用いて、案内図の評価に影響を与える要素について明らかにすることを目的とした。  まず、被験者の言葉から、経路に関する指摘、情報量や情報の内容についての指摘が得られ、そこから案内図における評価構造の上位概念を抽出することができた。そして、グルーピングの結果を分析した結果からは、「案内図の情報量と設定経路」、「設定経路と情報の組み合わせ」が評価に影響していることが明らかとなった。また、街路の形状や場所の持つ要素によって案内図に求める要求事項が変化すること、設定経路が単純、直線的、曲がる回数が少ない場合には、案内図の情報は最低限でよいことを示唆する結果を得た。さらに、地図を読み取る段階においてすでに、実際に移動する場面で生じる状況を想定した読み取り方をしていることがわかった。  第二の実験(第3章)では、一度も体験したことのない街区において案内図を利用し目的地を目指すという場面を想定して実験を行った。経路の選択について、道順記憶の方略について、地図を読み取り移動することが得意か不得意かとの関連性を明らかにすることを目的とした。実験から以下のことが明らかとなった。 ・案内図から経路を選択する場合の条件は〔大きな道沿いであること」「曲がる回数が少ないこと」「より近いこと」であった。経路の選択と、地図の内容を理解するのが得意か・不得意かの関連について検討したところ、地図を理解するのが得意と答えた被験者群は、不得意であると答えた被験者群よりも多くの経路を選択していた。 ・道順記憶の際に、建物名やランドマークで記憶する傾向と、信号の数や道の本数など数的なもので記憶する傾向とが見られた。どちらの傾向でも、名称交差点名称が有効な手がかりとして利用されていた。 ・スケッチマップから、地図の内容を理解するのが不得意であるとする被験者の半数が、地図を読み取る段階で、道路形状や交差の角度を正確に把握できていないことがわかった。  第三の実験(第4章)では、案内図から想起されるイメージと実空間との相違が移動行動に影響を及ぼすと考えられることから、地図を読み取った後、地図からどのようなイメージを想像しているのか、イメージと異なってる場所は地図上のどういう部分なのかを明らかにすることを目的とした。  まず被験者にはSDQ‐S(方向感覚質問紙簡易版)を実施し、地図の読み取り段階でイメージしたものと写真に写った風景の印象を評価させた。 その結果、以下のことが明らかとなった。 ・道路形状、建物の高さ、街の雰囲気、出発地点の様子については、すべての経路で半数以上の被験者がイメージとの違いを指摘していた。 ・道路形状は交差の角度に関する印象の違いが多く見られた。 ・交差点の大きさについては、大きさだけではなく、「名称が見当たらない」、「交差点の数が多かった」、「車が少ない」、「イメージと違いわかりにくかった」、「スクランブルになっていた・複雑」、「殺風景」といった内容の記述が見られた。 ・被験者が地図を読み取る段階で、地図に載っている情報の他に、雰囲気、交通量などのイメージを想起している。  以上の3つの実験結果から、利用しやすい案内図を提供するために、案内図の認知、記憶の方法が明らかになった(第5章)。これらを踏まえると案内図の制作にして、以下の要件を挙げることができる。 ・経路選択の条件として「大きな道沿いであること」が挙げられた。しかしながら、地図から想起される道幅のイメージには、実際のものと差が生じやすい。したがって、案内図に道幅を把握する助けとなる情報を記載が不可欠である。 ・街路の形状や場所の持つ要素によって案内図に求められる要求事項が変化するため、それを考慮し案内図を作成することが重要である。直線的な道路から構成された整形街路地区では交差点の情報を中心に記載することが望ましい。 ・情報の密度によって案内図の評価が下がるため、適度な密度を今後明らかにする必要がある。 ・アーケードや街路樹を道順記憶の手がかりとして利用する人が複数存在した。これらはイメージの想起に役立つと考えられる。したがって案内図に記載するのに有効な情報であると考えられる。 ・建物は道順記憶の際に、多くの人が利用する情報であるが、地図から想起される建物のイメージは実際と差が生じやすい(特に高さに関して)ことが明らかとなった。そこで、建物の簡単な概要(建物規模(階高など)、建物の色彩・外観)がわかるような工夫が必要であると考えられる。 ・道路形状・交差の角度を地図から正しく把握することができない人が複数存在した。 また、地図からはイメージが捉えにくいことも明らかとなった。そこで、案内図には進行方向の景色の見え方がわかるように写真などを併用して記載するようにすれば、誤りを未然に防ぐことができる。続きを見る
目次 目次 第1章 序論 第2章 案内図における「わかりやすさ」の評価構造 第3章 案内図の道順記憶について 第4章 案内図から想起されるイメージと実空間を撮影した写真との相違 第5章 総括 謝辞 注釈

本文ファイル

pdf k024-01 pdf 76.7 KB 251 表紙
pdf k024-02 pdf 2.34 MB 364 第1章
pdf k024-03 pdf 8.04 MB 298 第2章
pdf k024-04 pdf 4.38 MB 289 第3章
pdf k024-05 pdf 3.68 MB 250 第4章
pdf k024-06 pdf 355 KB 207 第5章
pdf k024-07 pdf 56.7 KB 181 謝辞
pdf k024-08 pdf 356 KB 192 注釈

詳細

レコードID
査読有無
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
受理日
部局
所蔵場所
所在記号
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.11

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