概要 |
本研究では超高齢社会を目前に控え、介護負担増加、労働人口減少が予想される我が国において、ロボットとヒトが共存する際の大きな問題点であるロボットとヒトの親和性に注目した。ロボットがヒトと同じ空間で活動する場合に、ヒトに心理的圧迫感などを与えないようにしなければならない。 ロボットとヒトとのコミュニケーションの問題について考察する上で、ヒトとヒトとのコミュニケーションにおいて研究されているパーソナルス...ペースに注目し、その定義から、この概念をロボットとヒトの組み合わせにおいても応用できるものと判断し、特にヒトの正面からロボットが接近する場面を想定して、その時にヒトが不快感を感じ始めるところを申告させ、これをロボットに対するヒトの「個体距離」と定義した。ロボットの移動速度を変化させて、それぞれに対する個体距離を実験により調査した。また、立位と椅座位における個体距離を測定し、姿勢による検討も行った。これらによりロボットの移動速度と個体距離の関係を明らかにし、ロボット及びロボット使用施設の設計に利用できるデータを提案することを目的とした。 また、若年者と高齢者ではロボットに対する感じ方の違いから、個体距離が異なる可能性もあった。従って高齢者に対しても若年者と同様の実験を行った。 上記のような調査から以下に述べる知見を得た。 ロボットの移動速度と個体距離との間には正の相関があった。これは若年被検者21名を用いた場合と、高齢被検者17名を用いた場合の両方に見られた傾向であった。各個人の姿勢2条件、ロボットの移動速度4条件のそれぞれにおける4名の繰り返し試行によって、個体距離における慣れや繰り返しによる誤差は、被検者の個人差や立位と椅座位の姿勢の差、ロボットの移動速度による差に比べて充分に小さいことが判明した。これによって個体距離は信頼性の高いデータであると判断された。同じ実験によって、ロボットの移動速度と個体距離の関係でみられた全体的な傾向が4名の被検者全員にみられた。これによってほとんどの被検者がロボットの移動速度が大きくなるにつれ、個体距離が大きくなるという傾向であると判断でき、パーソナルスペースの概念がうまく当てはまるものとなった。 爪先を基準とした個体距離において、立位と椅座位の姿勢による差は、若年者においても高齢者においても見られなかった。これは設計に利用する際に便利である。目の位置を基準に補正すると、立位に比べて、すぐに逃げられない上に、視線が低いためにより圧迫感が感じられると報告されていた椅座位の方が個体距離は大きくなっていた。この傾向は一般的なパーソナルスペースの研究にみられたものと同じであった。 申告直前と直後の心拍5拍にかかった時間(4心拍間間隔)は、早いロボットの移動速度(0.8m/秒以上)のときに、申告直後の方が短くなっていた。主観的な個体距離の申告の妥当性を、客観的データによって傍証していると考えられる。 高齢者の個体距離に性差は見られなかった。これまでのパーソナルスペースに関する研究と一致する結果であった。また、高齢被検者の中で年齢による個体距離の変化はみられなかった。これらのことから個体距離に関して、今回の高齢被検者を一つのグループとみなし、これを高齢者群として、若年者群と比較を試みた。高齢者の個体距離は若年者のそれと比べて有意に大きかった。これは高齢者の運動能力の低下から、移動体ロボットに対する不安が若年者よりも大きく、これが大きめの距離をとっている一因であると推察された。 高齢者群よりも年齢の高い被検者においては、ロボットが移動を開始してから停止するまで、距離の申告がみられなかった。これは実験の趣旨の理解不足などではないことが確認されている。 以上のことからロボットに対するヒトの個体距離をロボットやロボット利用施設の設計に利用する際に参考とするデータを提案した。爪先基準の個体距離を利用すれば便利であることがわかっていた。若年者に比べ高齢者の個体距離が大きいことから、高齢者の個体距離を考慮すべきである。しかし、年齢が高ければ高いほど個体距離が大きいとは考えられない。したがって高齢者の平均個体距離が一つの提案となる。一般のロボットの移動速度は1.0m/秒以下なので、1.0m/秒の個体距離が最も大きいことが考えられる。その値は3.3mである。 Human personal distance' from a mobile robot used in transportation applications in hospitals was studied experimentally by subjective report and heart rate measuremennt. The robot moved toward standing or sitting subjects at constant velocities from 0.2 to 1.0 m/s from 10m away. The personal distance was reported by subjects who raised their hand at the moment when they first felt uncomfortable. The distance at that time between subjects' tiptoe and the robot was referred to as personal distance. The subjects were 21 male students. It was found that the personal distance was proportional to the speed of the moving robot. This suggests that an increase in speed of the robot enlarged the personal space acting as a body-buffer zone' by enhancing cognition of danger. When the personal sistance was measured from the subjects' tiptoes, no difference in personal distance was found between a seated posture or a standing posture. At robot speeds faster than 0.8 m/s, the subjects' heart rate quickened after raising their hand. This is considered to be caused by psychological factors such as fear. The above experiment was repeated 4 times using 4 different subjects, all male students. Individual variation of personal distance was found to be very small. Further, all subjects' personal distance increased in proportion to the robot speed. When the personal distance was measured from the subjects' eyes (as opposed to tiptoes), the personal distance in a seated posture was found to be larger than that in a standing posture. The mobile robot has been used in welfare facilities where there are many elderly people, who may well react differently than the young to moving robots. Hence, it was necessary to research the personal distance of the elderly. This time, the subjects were 17 men and women, aged between 53 and 83 years. It was found that gender had no effect on the personal distance. Again, personal distance was proportional to the speed of the moving robot. However, the personal distance of old subjects were longer than those of the young. From these results, it could be considered that the human personal distance from a mobile robot was 3.3m, when the robot was travelling at the fastest speed, 1.0m/s.続きを見る
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