<博士論文>
伝統的背負い梯子「背板」はどのように身体にフィットしているか

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概要 背板とは山口県玖珂郡錦町での伝統的背負い梯子の呼称である。錦町はほとんど平地が無いが、その中でも急勾配の谷間にある3集落で背板は現在も使用されている。そこで複雑な農林業を営んできた人々は、背板によってあらゆるものを運搬してきた。人間は道具によって環境に適応することができるが、そのとき道具は身体の延長であり一部である。本研究では、そうした観点から背板と身体の関係に着目し多角的な分析を試みた。本論文は...6章構成である。  第1章では背負い運搬研究の背景について概説し、本研究の目的と構成を述べた。日本での背負い運搬と運搬具に関する研究は民俗学や民族学で行われてきたが、そこでは道具のみを扱っており身体との関係を論じた研究はほとんどない。一方人間工学や働態学などでは軍事的な背負い運搬に関する研究が主流であり、背負い運搬と運搬具に関する問題が数多く報告されている。しかし背板が使われてきた錦町では非常に多くものを背板によって運搬してきたにもかかわらず、背負い運搬に関する問題は皆無といってよい。そこで本研究は、背板と身体も関係をさまざまな面から明らかにすることを目的とし、調査と実験の両面から研究を行った。  第2章では、背板を作るときに大事だと考えられていることの聞き取り、これまでの生活での運搬履歴、背負い運搬に起因する傷害の履歴について調査を行った。背板を作るときにはツメ(荷台の部分)の位置、腰の当たり(背板の背面の荷重支持部がどこで身体と接触するか)等、いくつか留意点が明らかになった。背板を使っている人々は自分で体に合わせて背板を作り、これまでの生活で現在では考えられないほど多くのものを背板で運搬していたことが確認された。過度の背負い運搬はさまざまな傷害を引き起こすことが報告されているが、背負運搬に起因する傷害の有訴率は非常に低く、それらに対する特別な治療法(民間療法)や通院履歴もなかった。過酷なほどの運搬を背板によって行ってきたにもかかわらず、予想される傷害が無かった。この理由が背板と身体の関係に見いだせるのではないかと予想した。  第3章では、第2章で得られた証言をもとに、背板と身体のフィッティング法に終点を合わせた。背板寸法の実測値とその使用者の生体計測値からそれらの相関関係を示し、写真撮影から背負い姿勢の特徴を明らかにした。背板は、身体と広い面で接触するのではなく、小さな面で荷重を支持する構造であるが、荷重を身体背面のどこで支持するかが最重要課題であった。調査の結果、背板を使用するときには荷重を仙骨上で支持しており(背板フィッティング法)、決して腰椎上では支持しないことが明らかになった。背負うときに仙骨上で荷重を支持できるように、ニオ長(肩紐の長さ)と肩腰ヌキ長(背板の肩紐の上部取り付け位置から腰部接触位置までの長さ)の和を調節していることを示した。これは第2章で背板作りの留意点として得られた「腰の当たり」が重要とする証言を裏付けるものであった。  第4章では、第3章で得られた背板フィッティング法の有効性について実験的に検証した。仙骨上で荷重を支持すること(仙骨支持条件)と腰椎上で荷重を支持すること(腰椎支持条件)について、生理学的な実験によって比較した。実験の結果、仙骨支持条件での歩行は腰椎支持条件よりも酸素摂取量、心拍数、および下肢の筋活動が少ないこと、また仙骨支持条件の方がより少ない歩数であること、を示した。  第5章では、第4章に引き続き、第3章で明らかになった背板フィッティング法について、力学的な面から検証した。重心動揺の実験により、明らかに仙骨支持条件の方が腰椎支持条件よりも動揺距離が小さいことを示した。床反力測定では、鉛直方向下向きの力の最大値、前後方向後向きの最大値および積、左右方向左向きの力積において腰椎侍史条件よりも仙骨支持条件の方が大きな値を示した。鉛直、前後、左右の3方向の結果から、仙骨支持条件では床から足が離れるときに蹴る力を発揮しており通常の歩行により近いこと、腰椎支持条件では蹴る力を使っておらずすり足式歩行により近いことを述べた。また、自作した張力センサおよび腰仙部負荷荷重センサを用いた実験で、腰椎支持条件よりも仙骨支持条件の方が肩紐の張力、腰仙部負荷荷重ともに小さいことを示した。仙骨支持条件は同じ荷重を背負っていても、肩紐の締め付けも少なく、腰の圧迫も小さいことを明らかにした。  第6章では以上のことを総括した。背板を用いた背負い運搬の実態調査から、現代では信じられない物量を背板によって運搬してきたこと、しかしそれによる傷害が見られないこと、背板の荷重を仙骨上で支持するように背板を身体にフィッティングしていることを示した。さらにこの背板フィッティング法を実験的に検証し、エネルギー効率がよいこと、身体動揺も少なく安定性が高いこと、通常の歩容を保てること、そして肩紐の締め付けが少ないことなどを示し、その合理性を明らかにした。  巻末資料として、生体計測記録、背板の実測記録とハシラのトレース図を収録した。
Seita is a traditional carrier frame for back packing used in Nishiki-cho, Yamaguchi Prefecture, Japan. In the mountainous district, people make their living by agriculture and forestry, and carry everything on their back with seitas. The purpose of this study was to investingate the relationships between th ebady and seita from different angles. First, the interviews with seita-carriers made it clear how to make a seita, and that particularly some parts of a seita were thought to be fitted to their bodies. Thoughthey had carried incredibly heavy loads with their seitas, there were no complaint about disorders caused by heavy load carriage. Next, I measured some anthropometric sizes and seita dimensions, and specified where the load-supporting point of seita contacted to the lumbosacral area of the body with the use of photographs. The date of this survey make it clear that when people carry loads with seitas, theysupport loads not on lumbar vertebrae but on sacrum, and that they adjust the lenght of the perimeter consisted of bakd part and shoulder strap of seita. The question then arose about th edifference between carrying a load on the sacrum(LOS) and on the lumbar vertevrae (LOL). The experimentwas held to verify the difference between LOS and LOL in oxygen uptake, muscle activities, heart rate, cadence, and subjective response. The following s were signigicantly lowere in LOS than in LOL: cadence, and rated perceived exertion. However IEMG of th eerector spinae was signigicantly higher in LOS than in LOL. These results suggest that seita-fitting in LOS causes a decrease of the leg muscle activities, which causes to decrease oxygen uptake beyond the increase of the erector spinae activity. Further experiments wereheld to verify the difference between LOS and LOL dynamically. The body seay in LOS was significantly smaller than in LOL. The dynamic gaitpettern in both conditions were examined with a force plate. In LOS, subjects kicked the force plate more strongly to walk forward than in LOL. The gate pattern in LOS could keep similar to the cordinary gait pattern. In LOL, subjects walked with gliding steps. The tension of shoulder strap and the force loaded on the lumbosacral area in LOS were lower than in LOL. It follows trom what has been said that a seita was well-fitted to the body to carry a heavy load, and that the fitting method i.e. to support a load on sacrum with a seita was rational physiologically and dynamically.
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目次 目次 第1章 序論 第2章 運搬履歴および傷害履歴の調査 第3章 背板と身体の関係 第4章 背板フィッティング法の生理学的検証 第5章 背板フィッティング法の力学的検証 第6章 総括 引用文献 謝辞 巻末資料 生体計測記録と背板実験記録

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K025 pdf 49.8 MB 371  

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登録日 2013.07.09
更新日 2018.01.17