<博士論文>
随伴陰性変動(CNV)を用いた覚醒水準の評価方法に関する基礎的研究

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概要 ヒトが何らかの意識的な活動を円滑に行うためには、脳がある範囲内の覚醒水準を維持していることが必要である。近年、夜間の労働や交代制勤務などの従事者を対象に覚醒水準の研究が行われている。そしてこれらの研究では特に覚醒水準の低下が問題視されている。一方、労働の場としての多くの人が働くオフィス環境において指摘されている様々なストレッサーは、必要以上に覚醒水準を増加させる可能性があり、この観点からも覚醒水準...を評価する必要がある。  本論文では、脳電図(EEG)の中でも事象関連電位(ERP)に分類される随伴陰性変動(Contingent negative variation;CNV)に着目し、覚醒水準との関係について検討した。CNVは一対の予告刺激(S1)と命令刺激(S2)を一定の間隔で繰り返し披験者に呈示し、S2に対して運動反応を要求したときに出現する脳電位である。そしてCNVの特徴として、覚醒水準のあるレベルまでの上昇に対しては、CNV振幅も増加するが、覚醒水準が過剰に上昇するとCNV振幅は逆に減少する。即ちCNV振幅は、覚醒水準の変化に対して逆U字型の反応特性を示すことが報告されている。従来から覚醒水準とパフォーマンスの間の逆U字仮説はよく知られているが、これらの報告はCNVにも逆U字仮説が存在することを示唆する。また、著者の研究を含めた過去の研究から、このCNVに関する仮説は、パフォーマンスである反応時間に変化はみられない範囲でも成り立つことが推察された。本論文ではこの仮説を従来からの逆U字仮説に対して“新たな逆U字仮説”と呼び、さらにパフォーマンスに影響を与えない程度での高い覚醒水準を、過剰な覚醒水準になる前の状態として“余分な覚醒水準”と定義した。  従来からの覚醒水準の指標である自発脳波の周波数特性は、覚醒水準の上昇に対して速波化の反応というように一方向の反応しか示さないために、覚醒水準の高低の判断しかできなかった。しかし、覚醒水準の変化に対して逆U字型の反応を示すCNVを指標に加え、両指標から覚醒水準を評価することで、自発脳波からだけでは分からなかった余分な覚醒水準について評価が可能になると考えられる。そのためには、まず覚醒水準とCNV振幅の間の“新たな逆U字仮説”の検証が必要となる。したがって、本論文の目的は“新たな逆U字仮説”の検証と、課題遂行時の“余分な覚醒水準”を評価することにある。  その際、実際の作業現場において覚醒水準を変動させる要因として環境要因と課題要因が挙げられるが、この二つの要因から“新たな逆U字仮説”の検証が望ましい。そして、検証のための実験条件には、覚醒水準を段階的に変化させることができること、また反応時間に影響を及ぼさない範囲の条件設定が必要であることを考慮して、環境要因には刺激の強弱によって覚醒及び鎮静効果があり、段階的な条件設定が可能な光刺激を用いた。また、課題要因には段階的な覚醒水準の低下が予想される長時間連続課題を用いた。  最初に、環境要因である光の明るさによって変化する覚醒水準とCNVの間の“新たな逆U字仮説”について検証した。被験者の眼前に呈示する光刺激の明るさは、輝度で10cd/?、100cd/?、320cd/?、1000cd/?、1800cd/?の5条件とした。またCNV以外の覚醒水準の指標にはS1前のα波率(α波(8?13Hz)からβ波(13?20Hz)までの帯域パワー値に対するα波帯域の相対パワー値)を用いた。なおこのα波率はその値が小さければ覚醒水準が高いことを意味する。その結果、輝度の対数値とα波率の間には有意な負の相関がみられ、輝度の上昇に対して覚醒水準が上昇していることが示された。しかも、この覚醒水準の変化は反応時間に影響を及ぼさない範囲に納まっていた。CNVについては320cd/?において低輝度条件の10cd/?と高輝度条件の1000cd/?に比べて有意に高いCNV振幅を示した。これらの結果から、覚醒水準とCNV振幅の間の“新たな逆U字仮説”の存在が示された。そして、低いα波率から判断される高輝度条件における高い覚醒水準は、その時のCNV振幅が低いことから余分な覚醒水準と判断できた。  次に課題要因として用いた長時間連続課題による覚醒水準の変化と、CNVの間の“新たな逆U字仮説”について検証した。この長時間連続課題は200試行の単純反応課題からなり、約40分の時間を要した。また、CNV以外の覚醒水準の指標にはS1前のα波率と皮膚電位水準(SPL)を用いた。課題の繰り返しによりα波率の増加とSPLの減少により覚醒水準が低下した7名の被験者に関しては、覚醒水準の変化に対してCNV振幅は逆U字型の反応を示した。つまり前半の覚醒水準が高いときはCNV振幅は低く、中盤の覚醒水準が中程度の時にCNV振幅は最も高い値を示し、後半の覚醒水準が低いときは、前半と動揺に低い値を示した。しかも、パフォーマンスにその影響がみられなかったという点で“新たな逆U字仮説”の存在が示された。そして、高いSPL及び低いα波率から判断できる作業前半の高い覚醒水準は、その時の低いCNV振幅から余分な覚醒水準であったと判断できた。  以上、二つの実験結果から環境要因と課題要因による覚醒水準の変化と、CNV振幅の間の“新たな逆U字仮説”が証明された。そして、この仮説の証明によりCNVとS1前のα波率及びSPLを用いて相補的に覚醒水準を評価することによって、反応時間課題時の“余分な覚醒水準”に関する新たな評価方法が提案された。続きを見る
目次 目次 第Ⅰ章 緒論 第Ⅱ章 実験条験を設定するための文献的考察 第Ⅲ章 持続的な光刺激による覚醒水準の変化がCNVに及ぼす影響 第Ⅳ章 長時間連続課題(long-lasting task)による覚醒水準の変化がCNVに及ぼす影響 第Ⅴ章 総括 謝辞 引用文献 正誤表

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登録日 2013.07.09
更新日 2023.12.07

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