<博士論文>
仮現運動における形態情報と奥行き手がかりに関する心理学的研究

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概要 2つの対象(第1刺激と第2刺激)を適切な空間を隔てて、順次継時的に提示すると、あたかも単一の対象が、第1刺激の位置から第2刺激の位置へ連続的に移動するように見える。このように客観的に静止している2つの対象が、それぞれ瞬時的に出現し、消失することによって生じる主観的な運動印象は「仮現運動」と呼ばれている。これは映画やテレビ、アニメーションなどの動画像の基本原理をなすものである。  ところで、仮現運...動は早くから動画像の製作に応用されてきたが、この現象生起の視覚メカニズムとなると、まだ科学的に解明されるまでには至っていない。とりわけ、運動誘導刺激の形、奥行き、色といった視覚的属性が、最終の運動事象として、いかに統合されるかという問題は心理学だけでなく光学、神経生理学、情報工学等を含めた、いわゆる認知科学全般に共通した課題でもある。その解明は、視覚系の処理課程の全体像を得る上での必須の前提である。  本論文は、このような観点のもとに、かつ、同上の課題の一翼を担うべく、「仮現運動における視覚情報、とりわけ刺激の形態情報と奥行き手がかりの役割」と題して、次の5つの具体的事項について、実験的研究を行ったものである。  (1) 仮現運動の型と刺激の幾何学的変換形式  2刺激間仮現運動の研究では、これまで、概ね、その「時間空間的条件」の分析に主たる関心が向けられてきた。このため、同一の線分や光点が刺激として用いられた。これに対して、形の異なる刺激間の形態関係が仮現運動の生起に及ぼす効果といった側面については、あまり注意が払われていなかった。2刺激間に単一対象の運動が成立するということは、2つの刺激間の同定を意味するが、いかなる視覚情報が対象同定の知覚を規定するかという問題については、これまでのところ、構成的特徴比較説(Neisser、1967)と、生態学的変換可能性説(Pittenger & Show、1975)が提唱されている。前者は、図形の静的な形態的特徴の類似性を強調し、後者は、生態学的に妥当な数学的変換のもとで不変性を保つ幾何学的抽象的特性を重視している。本論文では、この2つの説を比較検討し、いずれも、刺激の幾何学的変換形式と仮現運動の型との対応関係が考慮されていない点を指摘し、これを時間条件を介して検討した。結果は、1)視覚系が刺激形態の違いを処理する方式として、平行移動、輪郭の可塑的変形、2次元回転、3次元奥行回転の4種あることを見いたした。2)これら4種の知覚的運動の型は、用いられた刺激の幾何学的変換の形式と対応した。すなわち、刺激の恒等変換には平行移動が、合同変換ないし射影変換には可塑的変形運動と回転運動が、アフィン変換ないしトポロジー変換には可塑的変形運動がそれぞれ対応した。3)刺激の持続時間を増大すると、射影変換ないし合同変換にあっては、可塑的変形運動から2次元的ないし3次元的回転運動へと移行した。よかもこの場合、可塑的変形運動は、回転運動に比して、相対的に小さなSOAで生起した(回転運動の優位性)。 (2) マスキング抑制下の刺激の形態情報と仮現運動の知覚  仮現運動における形態情報の役割を、マスキングによる形態情報抑制条件下で検討した。得られた結果は、1)運動生起にとって2刺激のうち、少なくともいずれか一方の刺激の形態情報が必須であった。2)刺激のいずれか一方が抑制されても、なお、回転運動や可塑的変形運動の型が見られた。これらは、抑制された形態情報が依然として仮現運動に関与し、何らかの形で、もう一方の非抑制刺激の形態情報の知覚に働きかけていることを物語るものである。3)両刺激のマスキング条件間で、運動の生起率に差がなく、しかも運動の型別生起率の変化の傾向も同じであった。このことは第1刺激と第2刺激の形態情報の等価性を示すものである。 (3) 仮現運動知覚に及ぼす刺激形態価の相違  実際輪郭長方形、それに対応する主観的輪郭、そのいずれも生じないコントロール図形、のこれら3種の刺激パターンのうち、2種を対にすることによって、運動における刺激の形態情報の縮減効果をしらべた。その結果、1)実際輪郭図形を第1刺激とし、主観的輪郭を第2刺激として提示しても、あるいは、その逆の順序で提示しても、運動生起率に差はなかった。2)形態情報が豊富で等しい刺激対による運動生起率は、形態情報が貧弱で不等な刺激対のそれらよりもかなり高かった。この事実は、両刺激によって構成される刺激の全体的特性の重要性を意味するものである。 (4) 仮現運動による動的遮蔽知覚と刺激の奥行き手ががり  一方の運動対象が他方の運動対象を遮蔽してしまう、仮現運動のいわゆる「動的遮蔽知覚」は、Anstjs (1985) によれば、遮蔽する対象の不透明性によるものとされる。本研究では、動的遮蔽知覚を、運動誘導刺激の奥行き手がかりに関連づけて検討した。その結果、1)動的遮蔽知覚の発現は、2刺激の奥行き手ががりと密接に関係していた。すなわち、動的遮蔽知覚は、遮蔽対象のほうが被遮蔽対象よりも、大きさや輝度が大である刺激条件でしか起こり得ず、逆の条件ないしは奥行きのない条件では、そのような知覚は全く生じなかった。2)大きさと輝度が奥行きにおいて競合する刺激条件では、動的遮蔽知覚は起こりにくかった。3)刺激提示時間の増大は、動的遮蔽知覚の生起を促進した。これらの結果は、動的遮蔽知覚にとって遮蔽対象の不透明性以外に、2刺激間に生じる奥行き情報、時間情報の重要性を示すものである。 (5) 仮現運度の軌道と刺激の奥行き手ががり  2つの運動誘導刺激の間に第3の対象を介在させる場合、仮現運動の軌道が介在刺激を迂回して変化することは知られているが、この迂回を規定する因子については、まだ明らかにされていない。そこで、本研究は、誘導刺激と長さ、大きさ、輝度において異なる静止刺激を介在させ、そこに生じる奥行き手ががりと仮現運動の軌道との関係を検討した。その結果、1)誘導刺激が静止刺激よりも長さ、大きさ、あるいは輝度において大(ないしは小)である時、単一対象が、静止刺激の前方(あるいは後方)の前額平行面上を移動するように知覚された。2)これに対し、誘導刺激が静止刺激と同一である時、奥行き不明瞭な運動か、あるいは静止刺激の提示位置で湾曲する運動、特に静止刺激の後方を湾曲する運動が多く知覚された。これらの結果は、次のように解釈される。すなわち、仮現運動時に、運動対象と介在刺激(静止刺激)とが衝突しないように両者が一定の奥行きをもって前額平行的な軌道を選択する。しかも、この場合、その軌道の設定には、奥行き手ががりが活用されたものと推定される。他方、奥行き手ががりが存在しない場合には、運動対象は、介在刺激の後方を湾曲運動して衝突を避けようとする傾向がみられた。続きを見る
目次 序文 目次 第1章 運動の知覚 第2章 仮現運動の知覚に及ぼす刺激の形態情報と奥行き手がかり 引用文献 謝辞

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登録日 2013.07.09
更新日 2023.11.21

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