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本研究では,農薬挙動予測モデルのうち田面水深の時間的変動を考慮に入れたPaddyモデルを用いて,水田の水管理方法と農薬の物性値の観点から,農薬の水田内の動態特性や環境中への流出特性について検討した.また,Paddyモデルは粒剤タイプの除草剤を対象に構築されたモデルであるが,近年において水稲用除草剤散布にフロアブル剤の使用が増えていることを鑑み,フロアブル剤に対するPaddyモデルの有効性についても合わせて検討した.まず,九州大学農学部附属農場で圃場実験を行い,フロアブル剤として散布した除草剤ダイムロン,イマゾスルフロン,オキサジクロメホンの田面水中濃度の経時変化を調べた.これらの実験結果とPaddyモデルにより再現した計算結果を比較したところ,計算値は散布直後の農薬濃度を過剰評価するものの,実験結果を概ね再現できた.このことから,本モデルの妥当性,およびフロアブル剤への適用性が示された.次に,水田の水管理と農薬の物性値が水田内の農薬動態に及ぼす影響を調べるためにシナリオ分析を行った.圃場条件として,通常水管理,掛け流し管理,浅水管理,深水管理,不耕起栽培管理,間断管理の6条件を設定した.また,対象農薬は,福岡県内で使用頻度の高い初期除草剤であるオキサジクロメホン,ベンタゾン,シハロホップブチル,ダイムロン,ブロモブチドの5成分とし,これらは吸着性,分解性さらには揮発性の物理化学的特性で大きく異なる.まず,田面水中濃度の経時変化の観点からシナリオ分析の結果を考察した.その結果,農薬成分の違いに依らず,深水管理,通常管理,掛け流し管理,不耕起栽培管理条件,浅水管理条件,間断管理条件の順で田面水中濃度は小さいが,通常管理と掛け流し管理はほぼ同程度の濃度で推移した.また,浅水管理条件において,難水溶性の農薬は,散布直後に設定された止水期間でも高濃度を維持するため,止水期間終了直後で表面流出による水田系外への負荷が高くなると考えられた.ついで,散布後30日間の挙動要因の寄与率について考察した.その結果,揮発性の低い農薬成分では,表面流出と降下浸透の水の動きに伴う挙動が卓越し,そのうち,吸着性の低い農薬では降下浸透の寄与が高く,ブロモブチドのような高揮発性の農薬では,揮発の全変動に対する寄与率が70~80%に達した.また,掛け流し管理,深水管理,不耕起栽培管理では,表面流出の寄与率は通常管理のそれと比較して増大し,一方,浅水管理と間断管理では降下浸透の寄与率が増加した.特に,掛け流し管理の場合では,1.5倍程度の増大が見られた.また,間断管理では,表面流出による系外への環境負荷は大幅に削減されるが,その一方で,降下浸透量が増大し,とくに,吸着性の低い農薬については地下水への負荷を十分に配慮する必要があると考えられた.
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