注記 |
富士町では,集落ごとに協定を結び,区長が中心となって積極的に「森林交付金」制度に取り組んでいる.生産森林組合の面積が大きいS区やⅠ区のように,集落が共同で「森林交付金」をまとまった形で活用することで,比較的規模の大きい事業が可能となり,より効率的な森林管理がなされている.また,M 区やC区のように,小規模森林所有者それぞれに交付する割合が高い場合でも,区長による積極的な働きかけによって,所有者をとりまとめ,現況調査の実施を促している.これまで,山林に関心のなかった個人の森林所有者が現況調査を行い,所有する森林の状況を把握することで,森林整備の意義を改めて認識する機会となっている.また,富士町での「森林交付金」の運用の背景には,富士大和森林組合の積極的な取り組みがあったことが分かった.35年生以上の人工林も交付対象にする等,富士大和森林組合が,富士町独自の「森林交付金」の運用方法を確立し,集落ごとの団地の取りまとめを行い,制度の説明をする等,行政と森林所有者との仲介役として重要な役割を担っている.富士大和森林組合では,今回の「森林交付金」制度によって実施された現況調査報告に基づいて,改めて町内の森林の状況を把握直し,施業計画に基づいた適切な森林整備の実施することとしており,富士町において「森林交付金」は非常に意義のあるものと言える.しかしその一方で,集落での「森林交付金」制度運用における問題点も明らかになった.富士町では,集落ごとに森林整備の水準が異なり,地域に必要とされる森林管理の課題も異なっている.しかし,対象行為を現況調査に限定しているので,集落によって「森林交付金」制度への取り組み姿勢に違いが見られる.例えば,S区では,森林整備から離れていた所有者が,現況調査を行うことによって,改めて森林整備の必要性を認識する契機となった点で評価できるのに対し,昔から個人による森林管理が積極的に行われてきたM 区においては,現況調査はすでになされてきたことであり,さらに踏み込んだ対象行為が求められている.施業計画に向けて,集落の足並みをそろえる意味では,対象行為を現況調査に限定することは重要であるが,今後は集落ごとの森林整備状況の格差にも対応できるように,対象行為を選定する必要があると考えられる.三つ目に,本制度の積算基礎森林設定条件の複雑さが挙げられる.35年生以上の人工林にも交付対象とすべきだという声は富士大和森林組合をはじめ,多く聞かれた.三つ目は,制度の継続性である.今回の「森林交付金」によって森林所有者の森林整備への意識が向上したとしても,制度自体が継続性のあるものでなければ,実際の森林整備へは結びつきにくいだろう.将来,「森林交付金」で地域の森林の施業委託を検討している集落もあり,地域の森林整備を継続させていくためには,「森林交付金」による長期的な支援が不可欠である.小規模森林所有者を支援する「森林交付金」制度の運用において,集落構造の特徴を活かすことが有効である一方で,集落によって「森林交付金」制度に対する要求に違いがあり,集落の要求に応じることのできる,より柔軟に交付金活用が可能な制度設計が求められる.
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