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農村地域の生態系保全は,水路などの農業水利施設などを利用した水生生物のエコロジカルコリドー機能の保全と向上が重要である.河川や頭首工では,魚道の開発が進んでおり,水田と水路を繋ぐ水田魚道は千鳥Ⅹ型魚道,小型アイスハーバー魚道などの開発と研究が行われている.しかし,水路内の堰や落差工および三面水路などの阻害要因によって分断されたエコロジカルコリドー機能の対策は遅れており,多様な阻害要因や水管理に対応できる小型魚道の開発と効果の検証が求められている.さらに,近年の環境保全意識の向上に伴う農家および住民参加による生態系の保全を達成することが期待されている.本研究では,水路の堰や落差工によって分断されたエコロジカルコリドー機能を,農家参加により保全,改善することを目的に,堰によって生じた0.4-0.6mの落差を対象としたラダー型魚道,フリュ-ム型魚道,コンテナ型魚道を新規に開発した.これら3タイプの魚道の実物大モデルを用いて流向,流速測定および流況観測を行い,保全対象種の突進速度などに注目して魚道の特性を評価し,実用化に向けた課題について考察した.ラダー型魚道については,越流箇所の短辺側から1.0m/s程度の速い流速が流れ込み,流心の周辺には保全対象種の遡上に適した突進速度以下の水域や休息に適した巡航速度以下の水域が生じていた.気泡流や流れの剥離の発生,プール部の水深不足,隔壁直上流部の速い上昇流などの保全対象魚の遡上を妨げる要因は確認されず,遡上個体はプール内の定位が容易で,遡上方向を認識しやすいものと思われる.フリュ-ム型魚道については,流心が越流箇所の短辺側から0.3m/s程度のやや速い流速で流れ込み,流心の周辺には保全対象種の遡上に適した突進速度以下の水域や休息に適した巡航速度以下の水域が生じていた.流向が安定し,隔壁下流では巡航速度以下の水域も見られるため,遡上個体はプール内での定位が容易で,遡上方向も認識しやすいものと思われる.コンテナ型魚道については,流心が越流箇所の短辺側から保全対象種の突進速度以下の0.3m/s程度のやや速い流速で流れ込み,流心の周辺には保全対象種の遡上に適した突進速度以下の水域や休息に適した巡航速度以下の水域が生じていた.平均流速が3タイプの小型魚道の中で最も遅いことから,遡上個体はプール内で休息しながら魚道を遡上できると考えられる.以上のことから,ラダー型魚道,フリュ-ム型魚道,コンテナ型魚道は,保全対象種が遡上可能な突進速度以下の水域と,休息可能な巡航速度以下の水域が生じていることが明らかとなった.さらに,保全対象種の遡上を阻害する気泡流や流れの剥離が生じにくいことから,3タイプの魚道とも遡上に適した流況であると思われる.本研究で得られた結果に基づき,保全対象種を含む魚種と魚道模型を用いた室内実験による遡上効果の確認と評価を行い,さらに灌漑期の水路を用いた遡上実験や施設の設置に伴う通水阻害などの影響の把握を行い,実用化に向けた実証的な研究を行う.
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