<博士論文>
手続記述による造形技法に関する研究 : メタボールを用いたディジタルイメージ生成

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概要  本研究では、CGI(Computer Generated Image)における制作方法の一種である手続記述法に着目し、新規なイメージ生成技法を確立することを目的とする。また、得られた技法を応用することで、視覚芸術分野へと適用可能な数理造形の方法を提案する。
 手続記述法は、表現の対象となる形や動きから生成規則を抽出したものを、数式や関数によってアルゴリズム(algorithm)としてコンピュータ上...に記述することでイメージを得る方法である。手続記述法の特徴として、単純な規則から複雑度の高いイメージが生成できる点が挙げられ、自然物をはじめとした表現の応用が多く試みられている。また、手続に与えるパラメータの変更によって、出力結果のバリエーションを容易に得ることが可能であり、パラメータの設定次第では、予期しない意外性のある結果が得られる場合がある。このような柔軟性の高い特徴を考慮すると、手続記述法は自然物の写実的な表現のみならず、非現実的なイメージを生成するための技法としての発展性も期待でき、映画やゲームにおける特殊効果としての利用をはじめ、映像コンテンツ分野への応用に有益であると考えられる。本研究では以上のような視点に基づき、独自の造形アルゴリズムを構築する。具体的に、メタボール(metaball)という形状表現の技法に着目し、それをイメージ生成のための構成要素として用いることとする。
 はじめに、本研究での中核となるメタボールの描画アルゴリズムを確立する。メタボールは濃度分布によって形を表現する技法で、水銀のように球体同士が融合する形状が得られる。メタボールの考え方は二次元においても同様であり、特に二次元では濃度値に対する色彩の設定に関する自由度が三次元より高い。そこで、本研究では二次元メタボールに着目し、二次元でのみ表現が可能なメタボールの描画アルゴリズムを構築することとした。従来の二次元メタボールの描画は、画素の濃度が、あらかじめ任意に設定した閾値に達しているかどうかを判定することで可能となる。一方、本研究では閾値判定のプロセスを、個々のメタボール濃度を加算する度に実行する逐次閾値判定(stepwise threshold detection)という独自のアルゴリズムを採用した。逐次閾値判定によるメタボールは、個々のメタボールの曲線が部分的に現れた棚田状の図形が描ける点が特徴的であり、アニメーションとして表現することで、融合形状は予測困難な不定形的性質を伴う変化を示す。また、メタボールの濃度分布や閾値設定を変化させることで、見た目の大きく異なる形状バリエーションが得られる。これらの特徴は、滑らかな等値面を得ることを目的としていた従来のメタボールとは明確に方向性が異なっている。
 次に、逐次閾値判定によるメタボールに適した画面レイアウトを発生させるための、構成アルゴリズムを制作した。逐次閾値判定を用いたメタボールは、偶然性の要素を属性値として与えることで、不定形的な曲線の特徴を効果的に表すことができると考える。そこで、確率的プロセスによってメタボールの配置を決定する画面構成アルゴリズムの実装を試みた。このアルゴリズムは、乱数の複合的使用により画面のレイアウトが決定され、多様なパターンが生成されるものとなっている。また、アニメーションとして時間的な変化を記述するため、マルコフ連鎖により状態変化を定義する方法を試みた。これにより、プログラム自身が大量のメタボールを制御し、自動的に変化を示すアニメーションが生成されることが確認できた。
 また本研究では、メタボールの異なる応用技法として、幾何学的な構成アルゴリズムと併用する造形法も試みた。具体的には対象構造に基づくメタボールの配置を試み、さらにメタボール自体の濃度分布形状も従来とは異なり、矩形状メタボールであるメタキューブ(metacube)を用いている。結果として従来のメタボールとは大きく異なる、数理的な法則性の感じられる形状が出力できることが確認できた。この技法は、雪の結晶や微生物の形態を表現することにも応用できると考え、微生物等に見られる質感を考慮したメタキューブによる形態の出力を試みた。また、対称構造に基づく別のアルゴリズムとして、自然物の動きを応用したアルゴリズムも制作した。これは、対称に組み上げられたメタボール群に対して生物の動きを適用することで形態のバリエーションを得るものであり、ここでは蠕動運動というミミズに見られる行動様式を用いている。蠕動により形態全体が予測不可能な動きを示し、一つのアルゴリズムから幅広い抽象造形が得られることが確認できた。
 以上のように、二次元メタボール特有の描画アルゴリズムと、それを応用した構成アルゴリズムを開発し、これら一連の研究により、メタボールを用いた手続型の造形技法が確立できた。
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詳細

レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06

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