<博士論文>
限定空間における対人距離の知覚とその影響要因に関する研究 : 対人場面を想定した評価実験を通して

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概要  人間が建築空間の中で他者と居合わせる場面において、常に自身の心理・生理的な快適性を確保するために対人距離を保とうとしている段階があると定義すると、建築空間の大きさや他者と居合わせる場合の姿勢、対人距離、空間の奥行きなどは、相互に寄与していると考えられる。本論文では、この仮説にのっとり、一般的な住宅居室を想定した限定空間で、他者と居合わせる場合に焦点をあて、評価実験をとおして対人距離の知覚とその影...響要因について明らかにすることを目的とし、得られた結果から対人距離の知覚についてパーソナルスペースをはじめとする領域の概念との関係を整理することを意図している。本研究では三つの実験をとおして以上の仮説を検証した。  第一の実験(第2章)では、住宅居室を想定した実大の実験空間において、居心地・距離感・位置関係の評価項目を用いて、空間を体験する姿勢(立位・座位)の違いと空間の奥行きとの関係について、それらの影響要因について明らかにすることを目的とした。  実験から、座位の場合は立位の場合よりも他者との距離感やその際の居心地について寛容であること、6-12畳の居室程度の規模の空間では、対人場面において空間の規模そのものや立位・座位の姿勢の違いが居心地や距離感に影響していることがわかった。このことは座位よりも立位のパーソナルスペースの方が大きいことを示唆しており、非限定空間で実験を行った西出・高橋らの姿勢とパーソナルスペースについての実験結果の一部(同姿勢どうしの場合「しばらくはこのままでよい」領域の大きさは、座位<立位<椅座位の順で各姿勢による違いがある)と同じ傾向を示した。  第二の実験(第3章)では、限定空間での対人場面を想定し、対人距離の知覚精度について確認しておく必要性から、設定した基準の位置での対人距離(標準刺激)に対し、指示した位置関係における対人距離(比較刺激)を「近い/同じ/遠い」で予測させ、その精度について確認することを目的とした。  実験から以下のことが明らかとなった。  ・限定された空間において、対人距離を10cm前後の範囲で「近い・同じ・遠い」といった距離の違いを判別できる。  ・「ここ」「そこ」「あそこ」といった指示に用いた言葉の違いによる心理的な距離の拡がりを段階的に把握することが可能である。  第三の実験(第3章)では、限定空間における対人場面において、対面する他者(以下、本実験では相手と同義)および自己の手の届く距離を予測させ、その傾向を把握することを目的とした。  実験空間の設定は第二の実験と統一し、被験者には実験空間中央に設置したポールに対して「届く/届かない」の評価を、①自分が手だけを伸ばして、②自分が一歩踏み出して、③相手が手だけを伸ばして、④相手が一歩踏み出して、の4項目について評価させた。同時にさまざまな位置関係におけるポール・相手・対抗壁面のそれぞれの位置を「ここ/そこ/あそこ」という指示語でも回答させた。  その結果、以下のことが明らかとなった。  ・対人場面において他者および自己の届く距離を予測する場合、自分の届く距離と比較して、他者の届く距離を過小評価する傾向にある。今回の実験では、約16%過小評価していた。  ・対人場面において、対人距離そのものは10cm単位の精度で「近い」「遠い」といった判断ができる。今回用いたような規模の限定空間では、対人場面における対人距離が10cm違うことで、他者との微妙な距離感を感じとっているものと考えられ、それが相互の意思表示として機能しうる場合も考えられる。  ・「ここ」「そこ」「あそこ」といった言葉によって、限定空間における自己と他者の位置関係を、心理的な意味の違いとして把握することができる。  ・非限定空間に対し、限定空間では空間の規模に制限があるため常に他者と不快でない距離を保てるとは限らない。しかし、我々はそういう状況下にあっても、他者との距離を調節し、体の向きや姿勢を変えることで心理的に不快な状況を自らの努力で回避しようとしている。  以上の三つの実験結果から、限定空間での対人場面における対人距離の知覚とその影響要因が明らかになった。  これらを踏まえ、それぞれの実験結果とパーソナルスペースを中心とした領域の概念の関係を本研究の総括として整理した(第4章)。  ・座位の場合は立位の場合よりも他者との距離感やその際の居心地について寛容である傾向が示され(第2章)、このことは座位よりも立位の場合のパーソナルスペースが大きいことを裏付ける結果となった。  ・他者の接近を可能にする身体的な状態(姿勢)が、対人距離を知覚する場合や居心地・距離感の判断において影響要因となりうること(第2章:第一の実験)は、第三の実験(第3章:第三の実験)での一歩踏み出す場合の届く範囲の予測との関連からも明らかになった。  ・6-12畳の居室規模の空間では、空間の規模(特に奥行き)や立位・座位の姿勢の違いが居心地や距離感に影響していることから(第2章:第一の実験)、非限定空間で実験を行った西出・高橋ら既往研究と視点・手法を共有しながらも、結果として空間が限定されることが対人距離を知覚する際の影響要因となりうることを示した。  ・対人距離を10cm前後の範囲で「近い・同じ・遠い」の判別できることを確認したうえで(第3章:第二の実験)、対人場面で他者および自己の届く距離を予測する場合、自分の届く距離と比較して、他者の届く距離を過小評価する傾向にあること(本研究では約16%過小評価)が結果として得られたことから(第3章:第三の実験)、第2章:第一の実験との関連からも、快適な対人距離の確保が物理的に不可能な場合は、心理的に自身が不快でない状況を確保しようとする傾向があることが考えられる。続きを見る
目次 目次 第1章 序論 第2章 限定空間における対人知覚と印象評価 第3章 限定空間における対人知覚と領域形成 第4章 結論 謝辞

本文ファイル

pdf k023-01 pdf 75.4 KB 586 表紙
pdf k023-02 pdf 2.95 MB 1,211 第1章
pdf k023-03 pdf 2.09 MB 501 第2章
pdf k023-04 pdf 1.46 MB 339 第3章
pdf k023-05 pdf 529 KB 349 第4章
pdf k023-06 pdf 120 KB 241 謝辞

詳細

レコードID
査読有無
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
受理日
部局
所蔵場所
所在記号
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.11

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