<博士論文>
β-ヒドロキノン包接化合物中の双極性ゲスト分子の配向秩序に関する平均場理論

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概要 凝縮系物理学における液体構造論の細胞模型の具体例として、結晶性の包接化合物(クラスレート)が知られている。その特異な構造は、選択的な化学反応場としての応用面などから、これまで多くの関心を集めてきた。この包接化合物は、分子が結合してできた空洞の中に、他の原子や分子が包接された構造をもっている物質である。通常、包接化合物の空洞をつくっている分子をホスト、包接された原子や分子をゲストとよぶ。ホストの作る...空洞とゲストの間には形と大きさの適合性が要求され、その空洞より大きい化学種はゲストにはなりえない。このような包接関係が満たされると、ホストとゲスト間に共有結合や電荷移動のような強い相互作用がなくとも包接化合物が生成する。実際の包接現象が起こる際には、ゲストを包接したホスト、包接していないホスト、包接されていないゲストの3者が化学平衡状態にあるため、一般に、ホストが形成する“かご”の中にゲストが包接されている確率―かご被占率x―は1より小さい。
ヒドロキノン分子をホストとしたβ-ヒドロキノン包接化合物は、X線結晶解析によって、包接化合物の中で初めて構造が明らかにされたものである。6個のヒドロキノン分子から形成されるかごは、ゲスト分子を1分子ずつ包接することができる。β-ヒドロキノン包接化合物は、二酸化硫黄、硫化水素、メタノールなどをゲストとすることができ、ゲストが双極子モーメントをもつ場合、ゲスト-ゲスト相互作用により、ゲスト分子の配向秩序に関する秩序-無秩序相転移を示す。この秩序-無秩序相転移は、相転移温度より低い温度ではホストの無数のかごの中でゲスト分子が秩序のある規則的な配向をとり、相転移温度より高い温度ではゲスト分子の配向が全く無秩序になる現象である。かご被占率が小さくなると相転移温度は低くなる。これは希薄強磁性体の相転移温度の濃度依存性と類似しているが、長距離相互作用に基づく相転移の濃度依存性の理論的研究は、著者の知る限り、これまで行われていない。本論文では、二酸化硫黄や硫化重水素をゲストとしたβ-ヒドロキノン包接化合物(それぞれ、SO2-Qβ、D2S-Qβと略記する)を取り扱い、平均場近似を用いて双極子・双極子相互作用による配向秩序と配向相転移の研究を行う。
本論文は4章からなる。以下に、各章の概要を示す。
第1章では、本研究の背景と目的を述べ、次にこの論文の構成を記す。
第2章では、かご被占率xが1の理想的組成の場合のSO2-Qβの低温相の結晶構造と配向相転移を取り扱う。ゲスト-ホスト相互作用による結晶場Wが配向相転移に及ぼす効果を詳細に調べる。Wはv回対称をもつと仮定する(v=1~6)。各々のゲスト分子が有効双極子モーメントをもつと仮定して、古典統計力学を基にした平均場理論を示す。ホスト格子の構造の相違をWの相違として取り扱い、Wがゲストの配向秩序や配向相転移に及ぼす効果を調べる。SO2-Qβは反強誘電的な秩序をもち、Wの対称性はv=2または3であり、相転移の秩序はWの関数形に依存することを示す。
第3章では、かご被占率x●1の場合のSO2-QβとD2S-Qβを取り扱う。かご被占率xとかごの構造の高次の相違がゲスト系の配向秩序と配向相転移に及ぼす影響を調べる。この章ではWの対称性がv=2または3であるとする。まず、アトム-アトムポテンシャルを用いて結晶場を決める。今までに数多くのアトム-アトムポテンシャルが提案されており、アトム-アトムポテンシャルの選び方には任意性がある。2つのタイプのアトム-アトムポテンシャルを採用して結果を比較考察し、アトム-アトムポテンシャルの相違は、相図における中間相の現れ方、すなわち、最低温相⇔中間相の転移温度と中間相の双極子配列の型に影響するが、最低温相の双極子配列の型には影響しないことを示す。SO2-QβとD2S-Qβに関しては、いずれのポテンシャルモデルも最低温相の配向秩序と相転移温度を説明できると考えられる。次に古典統計力学に基づいた希薄双極子系の平均場理論を展開し、かご被占率xの効果を考慮に入れてゲスト分子の配向秩序を調べる。希薄強磁性体の平均場近似や仮想結晶近似と異なって、相転移温度のx依存性は非線形であることを示す。逐次転移がおこるのは、Wが2回対称をもつ、Wがより高次の項を含む、xと双極子モーメントの積が十分に大きい、という3つの条件が満たされることであることを明らかにする。また、古典論理計算と量子論的計算の比較を行い、古典統計力学に基づく計算は0K付近の配向秩序の決定にも有効であること、および、量子論的効果は相転移温度を下げることなどを示す。さらに、種々のゲストの場合の相転移温度に関する実験データと本論文の計算結果を比較して、本論文の方法はx=1の近傍の相転移温度のx依存性を説明できることを示す。最後に、SO2-QβとD2S-Qβについて、x依存性を考慮に入れて議論する。
4章では、ホスト系がゲスト系の配向秩序と相転移へ及ぼす効果を調べる。ホスト系の影響をゲストに対する結晶場としてゲスト系に含めることにより、ゲスト系とホスト系とのカップリングを無視することが可能になることを実験データに基づいて議論する。次に、包接化合物の自由エネルギーはゲスト系とホスト系の自由エネルギーの和で表わせること、ゲスト系の配向秩序はホスト系とは独立に取り扱えること、および、相転移温度に対するホスト系の熱力学的な効果などを示す。
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目次 目次
1 序論
2 かご被占率xが1の場合の配向相転移:SO2-Qβ
3 かご被占率xが配向相転移に及ぼす効果:SO2-QβとD2S-Qβ
4 ホスト系の効果
謝辞
Appendix : 量子統計力学的計算
参考文献
図目次
表目次

本文ファイル

pdf o001-01 pdf 31.8 KB 197 目次
pdf o001-02 pdf 385 KB 205 第1章
pdf o001-03 pdf 517 KB 152 第2章
pdf o001-04 pdf 492 KB 127 第3章
pdf o001-05 pdf 184 KB 121 第4章
pdf o001-06 pdf 25.5 KB 144 謝辞
pdf o001-07 pdf 144 KB 147 Appendix
pdf o001-08 pdf 128 KB 145 参考文献
pdf o001-09 pdf 46.7 KB 109 図目次
pdf o001-10 pdf 4.58 KB 120 表目次

詳細

レコードID
査読有無
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
受理日
部局
所蔵場所
所在記号
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.16

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