<博士論文>
聴覚心理測定における学習測度としての反応時間に関する研究

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概要 聴覚心理測定に未経験の被検者、特に、認知機能、運動機能が低下し、個人差が大きな高齢者を効率良く訓練し、短時間で信頼性のある聴覚心理測定を行えるようにするには、測定方法の理解や応答機器の操作等の「応答操作」の訓練が必要である。そのためには検者が学習のレベルを把握するための客観的な学習測度が必要である。特に、臨床検査を想定すると、様々の肉体的・精神的コンディションの患者を対象にしなくてはならないため、...精度重視の一般の聴覚研究と異なり、精度よりも検査のスピードが要求される。 本研究は、測定に未経験の若年成人・高齢被検者が、聴覚研究や臨床検査における聴覚心理測定に参加する場合、被検者が応答操作を理解したかどうかを訓練過程の中で見つけ出す方法として、正答率だけでなく反応時間を学習測度として用いる方法の有効性を示し、さらに、実際の聴覚心理測定中の反応時間を計測することによって被検者の肉体的・精神的コンディションを推定する糸口を掴むことを目的とするものである。 具体的な聴覚心理測定として1kHz純音の周波数弁別閾測定を取り上げて検討した。訓練方法は、「音刺激を検知したら素早く応答ボタンを押す」という単純な検知課題と、十分弁別可能と考えられる刺激対を呈示して、「初めの刺激のピッチが高ければ、スイッチボックスのボタン1を押し、2番目の刺激のピッチの方が高ければ、ボタン2を押させ、正答を被検者にフィードバックする」という周波数弁別課題の2種類の訓練を使用した。 また、周波数弁別閾測定を行い、同時に反応時間を測定し、検討を行った。   第3章では、若年成人において、測定に経験のある者と測定に経験の無い者の訓練過程においてどのような違いがあるか、正確で素早い応答を要求する教示の下で検討した。  その結果、  1)単純反応時間において、経験者の方が未経験者に比較して、有意に短かった。  2)経験者の選択反応時間はすぐに短縮され、未経験者よりも学習が速いと考えられる。一方、未経験者は特に第1ブロックが長いが、すぐに学習がなされ、4ブロック目では、経験者と差がなくなってしまうといえた。  3)反応時間と正答率は、どちらもブロック間の差を表わせたが、正答率よりも反応時間の方が良く経験の違いを出せ、応答操作の学習測度としての反応時間の有効性を示すことができた。  第4章では、未経験被検者に対する周波数弁別閾測定のための訓練を若年成人と高齢者に対して行い、3日間にわたる訓練過程での正答率と反応時間の変化を正確で素早い応答を要求される教示群と、そうでない非教示群で検討した。その結果、  4)反応時間については、若年成人では1日目の第2~3ブロックでプラトーに達し、高齢者では2日目の第1ブロックでプラトーに達し、応答操作の学習が完了したと考えられ、応答操作の学習測度として反応時間の使用が有効であるといえた。  5)正確さの学習測度である正答率については、周波数弁別に必要な知覚判断処理が心的に形成されたと考えられる学習の完了は、若年成人では2日目、高齢者では3日目であった。  6)反応時間で非教示群と教示群との間の違いが出た。教示群の反応時間は応答操作の学習のレベルが明確に出るため、学習の完了の判断が容易だった。  7)正答率については、若年成人では1日目に非教示群と教示群との間に違いがみられたが、高齢者では3日間にわたって違いがみられなかった。  8)正答率、反応時間の両方で、前日の学習結果と較べて次の日に大きな悪化がなく、学習結果が保持されている。高齢者の場合、数日間にわたる測定の方がむしろ好ましいと考えられる場合、数日にわたって測定を行い、1日の負担を軽くすることも可能であることを示唆した。  第5章では、訓練後に若年成人被検者と高齢被検者によって1kHzの周波数弁別閾を測定した。その結果、  9)周波数弁別閾は一般的には繰り返し測定することによって徐々に低下していくが、本研究でも3日間にわたって低下する傾向がみられた。  10)反応時間がプラトーに達した時点は、応答操作の訓練が完了したと考えられる。その時点の周波数弁別閾には、「応答操作に問題はない」という確証が得られるため、その弁別閾の信頼性を増すことになるといえる。特に、臨床では、様々の身体的、精神的コンディションの患者が測定に参加するため、測定回数が制限される。少ない測定回数の中で、測定値の信頼性を増すためにも、応答操作の訓練の完了を確認することは意味があるといえる。  11)訓練および実際の周波数弁別閾測定中の反応時間は、被験者の課題に対する意識の集中度(意欲)や覚醒レベルを反映する。測定パラダイムに対応する基準値が必要ではあるが、反応時間で被検者の状態をモニターすることによって、休憩を与えたり、測定の中止や延期を決定する参考資料として応用が考えられる。  12)素早い応答を要求する教示の下で、訓練の学習測度として反応時間を用いて訓練の完了を判定することによって、その弁別閾の信頼性を増すことができるため、採用されるべき閾値を取り始める時点を、応答操作訓練の完了後とすべきであると考えられる。  さらに、未経験若年成人被検者における周波数弁別閾測定中の刺激レベルと反応時間の関係を調べるために、恒常法を用いて、素早い応答を求める教示の下で、訓練無しで測定した場合は、  13)個人差は大きいが、反応時間と刺激レベルの関係が、被検者が行う判断の確信の程度と関連して変化することが分かった。  第6章では、これからの臨床聴覚検査に関する議論を行い、その結果、  14)より高度の聴覚心理測定を臨床検査で行う場合、応答操作の訓練完了を判定するために、訓練の学習測度として反応時間を用いるべきであることを提案した。続きを見る
目次 目次 第1章 序論 第2章 本研究で使用する基礎事項 第3章 経験若年成人および未経験若年成人被験者に対する周波数弁別課題における訓練 第4章 未経験若年成人および未経験高齢被験者に対する周波数弁別課題における訓練 第5章 周波数弁別閾測定と反応時間の検討 第6章 臨床聴力検査への反応時間の応用に関する検討 第7章 結論 謝辞 参考文献 付録A 付録B

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登録日 2013.07.09
更新日 2023.12.07

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