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概要 |
戦後の日本の経済復興から高度成長、そして現在に至るまで日本を支え、地域の雇用、経済に大きな貢献を果たしてきた製造業において、製品開発力が企業を存続させるための最も重要な要因であることは多くのレポートによって指摘されているが、横断的に業種を調査分析した例は少ない。また、地域の製造業の抱える問題は時間的な制約を持ち、問題が多次元にまたがっており、これまでのような総合的かつ網羅的な問題解決の方法では、対...応できにくくなっている。 本研究は、大きな転機にさしかかっている中小製造業の抱える問題の構造を明確にすることを目的として、佐賀県の主要な地域産業である機械金属、食品、衣料品、医療品、陶磁器・焼物、家具・木工業界を対象として取り上げ、地域の製造業の抱える製品開発に関する問題および現状と将来に対する問題について、因子分析等の手法を用い問題の背景にある因子を抽出すると共に、問題の関係および問題に焦点について検討した。同時に企業を評価する尺度として、利益を目的変数とする重回帰分析によって利益と問題との関係を探った。最後に、得られた結果を基に製造業全般、また業種別に問題の構造と利益の関係を総合考察し、地域の産業が抱える問題の構造を明らかにした。なお、ここでは得られた結果を現場にどの様に応用して行くかの例をあげ、その有効性の検討も併せて行った。 なお、本論文は全8章から構成され、各章の主な内容は以下のとおりである。 第1章では、地域の産業における現状の問題をあげ、従来の研究の現状を述べた後、本研究の目的・意義を明らかにすると共に本研究の位置づけを明確にした。 第2章では、佐賀県の家具産業のアンケート調査を基に問題点の分析を行い、さらに、因子分析によって企業の特性による3因子(価格、企画力、品質)を抽出し、企業をコスト志向型、企画志向型、トータル志向型、志向未確定型の4タイプに分類した後、(1)家具産業は未だ将来に対する明確な方向性を見いだせないでいること。(2)企業の持つ問題意識は企業規模によって差異が見られること。(3)4つのタイプに属する企業は、将来に対し異なった方向性を有することを確認し、同一の業種の中にも異なるタイプの企業が存在することを示した。 第3章では、調査範囲を佐賀県内全域の製造業に拡張し、製品開発に関する問題について分析し、(1)企業は業種や企業規模の違いにより製品開発に異なった意識を有している。(2)重要とされているのは製品の品質、価格、経営者のセンスであること。さらに因子分析によって5因子(マネージメント技術、作る技術、デザイン技術、品質、コストパフォーマンス)を抽出し、企業のタイプを作る技術重視型、製品開発重視型、製品開発無関心型、デザイン重視型、マネージメント重視型の5タイプに分類し、製品開発に対する考え方は、企業規模よりも業種による違いが大きい。(2)医療品業界、陶磁器・焼物業界のタイプ形成の要因には産業の成熟度が関係していると考えられることを示した。 第4章では、製造業の現状の問題点を分析すると共に、因子分析によって3因子(開発体制、販売能力、競争の激化)を抽出し、企業のタイプを開発体制と販売能力の軸によって4つのタイプに分類し、(1)現状の問題点で業種による特徴が顕著なのは食品業界と衣料品業界であり、食品では販売能力、衣料品では開発体制が問題視されている。(2)企業規模によって現状の問題点のあらわれ方が異なり、各タイプの形成は企業規模の成長によって説明できること。また、その原因は製品特性に起因していることを示した。 第5章では、将来に向かって現状の問題がどの様に変化していくかを分析した結果、「景気の動向」、「人材育成」、「販路の拡大」等に不安を感じており、因子分析から企業の将来に対する不安は3因子(組織の対応能力、競争力の低下、人的能力)によって構成されていることを明らかにした。また、将来に対する不安は業種や従業員規模には関係が少ないとの結果を得、さらに現状と将来の問題の比較によって、現状の問題は絞り込まれた形で捉えられているが、将来の問題は総括的に捉えられていることを示した。同時に、各問題の関係を問題間の相関によって表現する「問題の焦点」という考え方を提案し、「問題の焦点」によって問題間のつながりの大きさと各問題間の関係、さらには問題の中で構造上最も重要な問題を表現することが可能になることとその有効性を示した。 第6章では、問題の多くは業種別によって異なるという前章までの結果に基づき、業種ごとの製品開発、現状の問題、将来に対する不安について問題の焦点を探った。さらに、企業の利益を目的変数とする回帰式を求め、説明変数と問題の焦点の関係を探った結果、食品業界はデザインを重視するほど利益が高くなる傾向を示し、機械金属業界は食品業界と相反する傾向を示す。一方、陶磁器・焼物業界は販売に力を入れるほど利益が上り、家具・木工業界は作業環境や販売環境を含めた広い意味での職場環境が充実しているほど利益が高い傾向を示すことがわかった。 第7章では、全企業及び、利益が上がっている企業、利益が減少した企業の製品開発、現状の問題、将来に対する不安についての問題の焦点を探った。さらに、企業の利益を目的変数とする回帰式を求め、説明変数と問題の焦点の関係を探った結果、全体的な傾向として製品開発では、製品に直接関係することや技術に直接関係することを重視する企業、企業のコンセプトやブランドを重視する企業、また、労働力や情報、営業力、販売力に問題を抱えていない企業ほど利益に結びつく傾向か認められた。この回帰式と問題の焦点を併用する方法により、問題解決に当たろうとする問題と他の問題との関係を整理することが可能となった。このことは、問題をより総括的に扱うかまたはより絞り込んだ形で扱うかの選択、また解決すべき問題の優先順位と問題解決時に同時に考慮しなくてはならない問題を明確にすることが可能になることを意味しており、問題解決のための有効な方法となり得ることを示した。 第8章では、本研究で得られた結果を総括すると共に、各章で得られた結果の横断的な検討を行い、業種ごとの問題の構造、利益と問題の焦点の関係を総合考察しながら将来の方向性を示した。また、全企業を分析した結果を例として取り上げ、本研究を企業の問題解決に利用する有効性について検討を行い、本研究で示している問題の構造化の方法が企業における問題解決のための有効な方法であることを示した。 この問題の焦点と回帰式を併用することによって問題の構造を表現し、問題解決の方向性を導く方法は、中小企業の製品開発の方向性を明らかにすることになり、企業の企業戦略、製品開発の戦略のスキーム、製品開発におけるアプローチ、意志決定の支援に資するものであるといえる。続きを見る
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目次 |
目次 第1章 緒論 第2章 諸富地区の家具業界における製品開発の問題と要因 第3章 製造業における製品開発の問題と要因 第4章 製造業の抱える現状の問題の構造 第5章 製造業における将来の不安の構造 第6章 製造業における業種別の利益と問題の関係とその構造 第7章 製造業全般および利益増、利益減の企業における利益の問題の関係とその構造 第8章 研究の考察および結論 謝辞
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