Abstract |
本論文は, 将来的な月・惑星探査ミッションのために, 天体表面の不整地探査に適した脚式ローバの開発を目指して, 従来の脚式移動ロボットシステムとは異なる新たな設計思想をもつシステムを提案し, その有効性について詳しく調査したものである. まず第2章において, これまでに研究・開発されてきた脚式移動ロボットについて, ハードウェアとソフトウェアの両面から形状と運動性能との関連性をまとめて考察した. ...この考察を通して, 現在おもに研究されているような生物システムの模倣を目指した機械システムでは, 天体表面の不整地を転倒することなく探査することは困難であることを指摘した. その結果, このような研究アプローチからの脱却が, 不整地を自律的に探査できる脚式移動ロボットの進展のための1つの鍵になることを示した. 次に第3章において, 上記の考察結果を踏まえて, 脚式移動ロボットを月・惑星探査ローバとして用いるのに適した幾何学的形態について検討した. まず, 脚配置を工夫することで”転倒”の概念自体を排除した新しい月・惑星探査用ローバを提案した. ローバがどのような姿勢においても同じように移動ができるように, ローバ本体(胴体)を正多面体と見なしたとき, この正多面体のすべての頂点に脚を取り付けた3次元等方脚配置をもつ歩行型ローバを取り上げた. 特に, 正八面体をベースとした6脚式ローバと正六面体をベースとした8脚式ローバに着目し, 基本姿勢での並進移動に関する運動学的な性能の比較・検討を行った. ローバの運動性能を特徴づけているのが移動対象面に対する支持脚の幾何学的関係を表す「取り付け角度」であることを示し, 取り付け角度によって運動性能を分類した. 6脚式ローバでは支持脚の取り付け角度の値に2種類のパターンが同時に存在し, それぞれのパターンによって運動学的性能が著しく異なることが示された. これにより, 6脚式ローバ全体のシステムとして, 並進移動の操作性が低下する可能性があることを指摘した. また, 転倒や回転が起こるたびに, どの支持脚がどちらのパターンに属しているかをつねに監視していなければならなくなるため, 制御の煩雑化が見込まれることも問題となる. 一方8脚式ローバは, 脚数が増えるので重量的には6脚式ローバよりも不利(関節への負担の増加)となる. しかし, 基本的な運動性能は6脚式ローバを上回り, さらにすべての支持脚の取り付け角度が同一になるので制御アルゴリズムもシンプルになる. その結果, 転倒や回転が起こってもスムーズな移動・運用が期待できる. 以上の運動学的検討から, 3次元等方脚配置型ローバとして8脚式ローバが月・惑星探査に適していると結論づけた. 続いて, 8脚式ローバの設計について検討した. 胴体のサイズおよび各脚を構成する3つのリンクの長さを適切に決める方法を提案した. さらに, その方法を用いて, 3次元等方脚配置型ローバの実験機を製作し, 歩行および回転運動のデモンストレーションを行った. そして第4章では, 設計された3次元等方脚配置型8脚式ローバの月・惑星探査における利用価値について, 運動性能の観点から議論した. このローバシステムは上記のような脚配置を採用したため, たとえ転倒しても歩行移動能力を失うことはない. したがって, 月・惑星探査ローバとして利用すれば, 転倒を恐れる必要はなく, 不整地の移動にも適している. しかしながら, 従来の歩行型ロボットよりも多くの脚を所有しているため, 重量や消費エネルギが増加するという問題がある. これに対して, 多数の脚を持つことは, デメリットだけでなく, 特殊な脚配置であることに起因するいくつかの利点もあることを示した. まず, 移動対象面に接触していない冗長脚を利用してローバ全体の重心位置を動かすことができる. このことは, 安定歩行のための支持脚の軌道計画・制御を簡略化する効果がある. 次に, 歩行時に移動対象面に接触する脚に選択の余地があり, 移動対象面に近い位置にある下方の脚を支持脚として利用した歩行よりも, 移動対象面から離れた位置にある上方の脚を利用した歩行のほうが, エネルギ効率が良くなることを示した. さらには, 歩行移動だけでなく, 胴体の回転運動を利用した移動方法をとることも可能で, 安全かつ安定に連続的な回転運動を生じさせる方法とこの移動方法のメリットについて議論した. 以上の内容を第5章においてまとめた. 提案したローバシステムが月・惑星の多様な地形に対して, 従来の歩行型ロボットよりも転倒に関する高い信頼性と不整地における踏破能力を発揮できることを示し, 月・惑星探査において3次元等方脚配置型ローバが高い利用価値をもつことを見出した.show more
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