概要 |
TiおよびTi合金は, 軽量高強度, 高い耐食性, 生体適合性など優れた特徴を有するが, 材料コストに加え, 加工コストが高いという欠点を持つ. ゆえに, 小型複雑形状の金属部品を高い寸法精度で量産できる金属射出成形法(MIM)を適用することで, TiおよびTi合金部品の製造コストを大幅に低減できることが期待される. さらに, 粉末冶金法の一種であるMIMのもうひとつの特徴として, 原料粉末に種々...の金属素粉末や合金粉末を添加, 混合することで, 高性能なTi合金の創製が期待できる. TiのMIMプロセスの基本はほぼ確立されつつあるものの, 高性能な各種Ti合金を創製するためには, Ti粉末と種々の合金粉末, 金属素粉末を用いたMIMプロセスの開発が必須である. すなわち, MIMによるTi合金の技術開発にあたっては, MIM Ti合金に適用できる各種粉末の選定と, 種々の混合粉末を用いた場合の詳細な焼結挙動と機械的特性との関連を明らかにすることが重要であり, 工業的のみならず, 学術的にも検討すべき課題が多く残存しているのが現状である. 本研究では, 難加工材であるTi合金をMIMの特徴を有効に用いて製品化する技術を確立すると同時に, 高強度化, 低コスト化する手法について検討した. 第1章では、TiおよびTi合金の特徴と, MIMの特徴を述べ, TiおよびTi合金へのMIM適用のメリットとその課題を示した. 難加工材であるTiおよびTi合金へMIMを適用することで, 加工コストの低減が期待されるものの, 各種Ti合金へ適用するためには, 適用できる各種粉末の選定と, 種々の混合粉末を用いた場合の詳細な焼結挙動と機械的特性との関連を明らかにすることが重要であることを述べた. 第2章では、試験片の作製方法と焼結体の各種特性評価方法について述べた. ここでは, 独自開発した脱脂性に優れ, 酸素, 炭素の焼結体への影響を低減するバインダ, および各種処理条件についても述べた. 第3章では, 機械的特性に優れ, バランスの取れた万能合金として, Ti合金の中でも最も用いられているTi-6Al-4V合金について, 種々の混合粉末を用いて, その焼結特性と機械的特性を明らかにし, 高性能化を図った. さらに, 本合金に第3元素を添加することで, さらなる高性能化を試みた. また, これらの合金の疲労特性も評価した. Ti粉末とAl-40V合金粉末を混合した混合粉末を用いた場合, 不規則形状で微細なAl-40V合金粉末を用いることで, より高密度の焼結体が得られることがわかった. 機械的特性について, 引張強度は原料粉末からもたらされる酸素量に強く影響されることがわかった. これら, Ti-6Al-4V合金焼結体の機械的特性など諸特性を総合的にまとめた結果, 焼結体の引張特性は原料粉末, 焼結条件などのプロセス条件よりも, 相対密度, 酸素量に大きな影響を受けることがわかった. Ti-6Al-4V合金焼結体の伸びは, 酸素量が0. 35mass%以下, 相対密度95%以上であれば, 10%以上の良好な値を示すことがわかった. このことから, 焼結体が良好な延性を有するよう, 酸素量を0. 35mass%以下に抑えるため, 諸条件を検討し, プロセスを提案した. Ti-6Al-4V合金焼結体の引張強度(σ)は, 酸素量が0. 35mass%以下, 相対密度94. 5%以上であれば, 酸素量(O)の増加および相対密度(ρ)の向上とともに上昇し, それらは次式に示す相関関係にあることがわかった. σ(MPa)=700O(mass%)+10ρ(%)-315 Ti-6Al-4V合金にβ安定化元素であるMo, Fe, Crを添加した場合, 適切な添加量において, 金属組織の微細化あるいはβ相の固溶強化により, 10%以上の高い伸びを維持したまま, 引張強度を著しく向上させることができた. 焼結体の疲労特性を評価した結果, Ti-6Al-4V合金焼結体の疲労限度は, Ti-6Al-4V合金鋳造材よりも高く, また, HIP処理を施すことにより改善されることがわかった. 高強度化したT i-6Al-4V-3Mo合金焼結体の疲労特性は, 低サイクル疲労領域では引張強度の向上により改善されるものの, 焼結体の気孔率が同等であったため, 高サイクル疲労領域, および疲労限度の向上はほとんど無かった. 第4章では生体適合性, 耐熱性, 高強度などTi-6Al-4V合金と比較してより付加価値の高いTi合金へMIMプロセスの応用展開を試みた. 生体用Ti-6Al-7Nb合金では, Ti-35. 7Al合金粉末あるいはAl微粉末を用いることで, 高密度で良好な機械的特性を有する焼結体を得ることができた. Al粗粉末では, 粗大なAl粉末が焼結初期段階で溶融して生成した流出孔が縮小せずに残留するため, 十分な特性が得られなかった. 耐熱用Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0. 1Si合金では, 合金粉末混合法を用いることにより, 高密度で良好な機械的特性を有する焼結体を得ることができた. 一方, 素粉末混合法では, 高融点の合金元素の拡散が不十分で焼結密度も低いため, 十分な機械的特性を得るには至らなかった. 高強度Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo合金では, Mo添加により, 焼結体の金属組織が微細化され, 引張強度が向上することがわかった. 低温長時間焼結の焼結を行うことで, 合金元素が十分に拡散し, 結晶粒の異常成長も抑えられた. 第5章では以上の結果を要約した.続きを見る
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