<博士論文>
電力系統の不平衡解析手法の開発に関する研究

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概要 電力系統解析は,系統構成の策定,機器の制御・保護方式の設計など様々な検討に必須である。検討においては出来るだけ実系統での現象を再現できるように,三相平衡状態のみならず三相不平衡状態を考慮した解析も実施するのが望ましい。そこで従来は三相不平衡の発生状況を的確に捉えた前提条件を設けることで,現象を適切に模擬してきた。例えば実効値による定常解析(潮流計算)では「三相不平衡状態は無視出来る」として平衡で模...擬を,実効値による動特性解析(安定度計算)では「送電配電設備の事故を対象にすれば十分である」として,送電線の不平衡故障や単相再閉路などを主な検討対象としてきた。また瞬時値の動特性解析においては,従来から三相での解析を実施してきたが,計算時間の制約から検討対象の簡略化等が必要となる場合もあった。しかし,近年の電力系統の構成の変化に伴い上記の方針では対応出来ないケースが発生してきている。例えば実効値による定常解析においては,非撚架送電線による三相不平衡を検討する必要がでてきた。しかし従来の計算方法では,三相不平衡を考慮した場合,大規模系統では収束性が悪くなり解を得られない課題がある。また,実効値による動特性解析においては,太陽光発電等の単相機器や静止型無効電力補償装置等のパワエレ機器の影響が大きくなるにつれて,それらの機器が三相不平衡状態に与える影響を検討するニーズがでてきている。これらの機器はその三相不平衡状態が動的に変化するが,従来の解析手法では解析が困難である課題がある。また,三相不平衡状態を模擬する場合,解析規模の増大に伴う計算時間の増大と計算精度の悪化も課題として存在している。瞬時値による動特性解析についてはEMTPが広く使われており,計算手法に関する検討の必要性は低いが,瞬時値解析は多大な計算時間を要する場合が多いため,計算時間の短縮については実務上の要望が多い。そこで本論文は,上記の課題に対する検討を報告する。まず実効値による定常解析については,潮流計算の方程式を電流で表現し,さらに非接地系統のノード方程式に零相の条件式を導入することを発案した。また実効値による動特性解析については,まず計算時間の増大と計算精度の悪化を解決するため,陽的ルンゲクッタ埋め込み法の適用と,適用時の課題である代数微分方程式の計算方法,不連続要素を精度良く扱う方法を発案した。さらに動的な三相不平衡状態の解析が困難である課題については,不平衡故障を複数組み合わせたブランチと電流源による模擬手法を発案した。最後に瞬時値による動特性解析についても検討を実施し,課題である計算時間を短縮すべく,電力変換器の解析モデルの高速化を実現した。本論文は上記の課題に対する検討を纏めたもので,6章で構成されている。第1章は緒言,第2章は電力系統の三相不平衡解析手法と本研究の目的,第3章~第5章が本論で,第6章は結言である。第3章は実効値による定常解析(潮流計算)に関する報告である。本件の課題である難収束を解決するために①潮流計算の方程式を電力方程式ではなく電流方程式を用い,変圧器中性点等の解が零付近となる母線の電圧を安定して求め,②ノード方程式に零相に関する条件を導入し,非接地系統の電圧解が不定になる事を防止するとともに,③直角座標系の採用により浮遊母線のノード方程式を線形化し,計算速度と収束性を向上させることで課題を解決した。発案した手法を実規模の系統に適用して反復回数と残差を確認し,安定して収束することを確認すると共に,EMTPと計算結果を比較し,十分な計算精度であることを確認した。この結果,これまでは200母線程度のきわめて小規模の系統しか解を得ることが出来なかったが,本発案により1000母線規模の解析でも安定して解を得ることが可能となり,これまでは解析できなかった規模の大きい実系統を対象とした三相不平衡の検討が可能となった。第4章は実効値による動特性解析(安定度計算)に関する報告である。実効値による動特性解析において三相不平衡を取り扱う際には,(1) 計算時間の増大と計算精度の悪化,(2) 動的な三相不平衡状態の解析が困難である の2つの課題がある。(1)の課題については,①可変刻み幅と誤差の定量評価が可能な陽的ルンゲクッタ埋め込み法を適用し,②適用時の課題である代数微分方程式の扱いについては代数方程式と微分方程式を交互に求解し,③精度悪化の要因となるリミッタ等の不連続要素については不連続点を通過するタイミングで解析解を補間する方法を発案する事でこの課題を解決した。発案した手法を実規模の系統に適用し計算精度と計算速度を評価し,同程度の計算精度の場合,計算速度向上(解析規模1026母線,許容誤差0.1%の場合,計算時間は約40%に短縮)が図れることを確認し,その有効性を示した。もう一つの課題 (2)は,①まず数値計算上安定して多地点の三相不平衡状態が計算可能な手法を発案した。この手法は正相回路の故障点間に故障等価インピーダンスを作成し正相回路に挿入することで実現する。この発案により,まず静的な模擬ではあるが多地点に接続される複数機器の三相不平衡状態を扱う事が可能となった。②次に,前述の手法を用いて動的な三相不平衡状態を解析する手法を発案した。この手法は三相不平衡発生地点に不平衡故障を複数組み合わせたブランチと正相電流源を接続し逆相・零相の電流源を実現する方法である。さらに発案した手法をEMTPの計算結果と比較し十分な計算精度を有することを確認した。結果として,動的な三相不平衡状態の解析が可能となり,これまで困難であったパワエレ機器等の動的な三相不平衡成分を含む機器の解析が可能となった。 第5章は瞬時値による動特性解析に関する報告である。本件についてはEMTPが広く使われており,計算手法に関する検討の必要性は低い。しかし瞬時値解析は多大な計算時間を要するため計算時間の短縮については実務上の要望が多い。このために今後電力系統への大量導入が見込まれる電力変換器の高速計算用解析モデルを発案し,多数台連系解析を可能とした。検討の対象として風力発電機を対象にモデルの検討を行い,計算精度を維持しながらも高速化が可能方法について提案を行うと共に詳細モデルとの比較により有効性を明らかにした。以上,本論文では非撚架送電線やパワエレ機器の増大などによる電力系統の構成の変化に伴い解析のニーズが出てきたが,従来の計算手法では扱うことが難しい電力系統の三相不平衡現象を模擬する事に取り組み,『三相不平衡を考慮した実効値による定常解析』『動的な三相不平衡状態の解析が可能な実効値による動特性解析』『瞬時値による電力変換器の高速計算用解析モデル』を実現した。続きを見る
目次 第1章 緒言
第2章 電力系統の不平衡解析手法と本研究の目的
第3章 実効値による定常解
第4章 実効値による動特性解析
第5章 瞬時値による動特性解析
第6章 結言
第7章 参考文献
第8章 付録

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pdf Fujiwara Shuhei pdf 1.64 MB 3,338 本文
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レコードID
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授与日(学位/助成/特許)
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注記
登録日 2013.07.08
更新日 2023.11.21

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