<博士論文>
快適な睡眠のための照明環境整備に関する研究
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概要 | 近年のライフスタイルの夜型化・24 時間化により我々の睡眠時間は短縮傾向にあり,短時間で効率よく快適な睡眠をとるための環境作りへの社会的要求が高まっている。そこで,本研究ではさまざまな環境要因の中から光,すなわち照明に着目し,夜の入眠から朝の起床にかけての照明環境における,以下の3 つの照明光の影響と問題について,即効性の覚醒作用と自立神経活動の変化という観点から検討し,快適な睡眠のための照明のあ...り方を明らかにすることを目的として生理・心理評価実験を行った。 (1)入眠直前における照度・色温度の影響 我が国では昼光色や白色の蛍光灯が多く使用されており,寝室においてもリビングなどと同様に5000K ~6700K 程度の高色温度の明るい照明空間が形成されていることが少なくない。しかしながら,光の覚醒作用は高照度・高色温度光で強くなるとされていることからすると,覚醒水準の円滑な低下を促すべき入眠前の寝室においてこのような照明設定が行われることは適切でない可能性がある。そこで入眠直前の覚醒水準が低下する過程において,照明光の照度・色温度が大脳新皮質および自律神経系の活動水準に及ぼす影響を調べ,円滑な入眠のための寝室照明設定を検討した。実験結果より,入眠直前の照明においては,3000K の低色温度照明を採用することにより,現在一般家庭に多く普及している5000K の照明と比較して入眠にかけての円滑な大脳新皮質の活動水準低下が促されることが明らかとなった。したがって,寝室のとくに入眠直前の照明においては,白熱灯や低色温度の蛍光灯を使用することが望ましく,これにより円滑な入眠のサポートが実現されると考えられた。 (2)暗順応状態における急激な照度上昇の影響 トイレなどによる深夜の中途覚醒時において,ヒトは視覚的暗順応状態にある。しかしながら,現在,一般家庭の廊下やトイレに設置されている照明設備は,そのような状況であっても昼間や就寝前の明順応状態に対応した明るさで,しかも急激に点灯するものがほとんどで,使用者は点灯による覚醒水準の上昇とともに“眩しさ”といった不快感を感じることとなる。さらに,そのような不快感の生起にともなう情動作用により自律神経活動が交感神経優位な状態へ移行すると,その後の再入眠への悪影響も危惧される。とくに近年の高齢社会においては,トイレへの移動で深夜照明の利用頻度の高い高齢者にとって,この問題はより重大なものとなりつつある。そこで,暗順応状態からの急激な照度上昇が自律神経系および大脳新皮質活動水準に及ぼす影響を調べることによって,深夜の中途覚醒時に適した照明点灯方式を検討した。実験結果より,暗順応状態からの急激な照明の点灯においては,急激な照度の上昇を顔面部鉛直面照度31x までとすることにより,十分な視覚情報を獲得できる範囲で,眩しさという不快感の生起にともなう交感神経活動優位な自律神経活動状態への不必要な移行を軽減できることが明らかとなった。また,点灯後の廊下の歩行などでそれ以上の照度確保が必要な際は,そこから目標照度まで緩やかに照度を上昇させるというソフトスタート調光が有効であることも確認された。したがって,トイレなどによる深夜の中途覚醒時の照明においては,上記のような調光制御による適切な照度設定と時間的変化のコントロールを行うことで,視覚情報の確保と点灯による生理的緊張の軽減を両立させ,安全性とその後の円滑な再入眠のサポートが実現されると考えられた。 (3)起床直前における漸増光照射の目覚めへの影響 最近の実態調査によると,「起床がかなり困難」あるいは「非常に困難」と訴えた人が20歳代を中心に15%前後存在していたことが明らかにされており,現代社会における日常的な目覚めは決しで快適なものではないと考えられる。目覚めの気分に影響を及ぼす生理的要因の一つとして目覚め直前の睡眠の深さが挙げられ,徐波睡眠時起こされると目覚めが悪く,REM 睡眠前後の浅い睡眠時では比較的楽に起きられることが分かっている。そこで,照明光の即効性覚醒作用を利用して,目覚めの改善を促す検討が行われている。つまり,起床設定時刻の少し前から照明光を徐々に漸増させることにより,目覚めの準備として浅眠化を促し,自然な覚醒へと導くことで目覚め感を向上・安定させることができる。過去の研究では,局部照明手法を用いて顔面照度10001x までの起床前漸増光照射を行うことによる目覚めの改善が確認されているが,上記の浅眠化は1001x 程度までの漸増光照射でも生じることが予想されることから,一般的な寝室天井照明(全般照明手法)を用いた低照度光による効果の可能性について検討した。実験結果より,天井照明による顔面照度1001x までの起床直前30 分間の漸増照射が,副作用のない範囲で目覚めの準備としての浅眠化を引き起こし,それにより目覚めの気分の向上が促されることが明らかとなった。したがって,従来の寝室の天井照明器具に漸増光照射機能を付加することで,照明による快適な目覚めのサポートが実現されると考えられた。 以上から,現代社会における快適な睡眠のために考慮すべき事項を以下にまとめた。 ・寝室は遮光カーテンや雨戸により遮光・遮音を施すことで外部刺激による不必要な中途覚醒を防止する ・入眠直前は低色温度照明を採用することで円滑な入眠を促す ・トイレなどによる中途覚醒時は適切な照度設定とソフトスタート調光により生理的緊張を軽減し,円滑な再入眠を促す ・早朝まで暗黒を維持して朝日の覚醒作用による睡眠のロスを防止し,起床すべきタイミングに合わせて人工照明による漸増光照射を行うことで心地よい目覚めを促す これらを考慮することにより実現される照明環境は,現代生活における睡眠の質の改善に貢献するものであると考えられる。続きを見る |
目次 | 目次 第1章 序論 第2章 入眠直前の寝室照明における照度・色温度設定の検討 第3章 深夜の中途覚醒時における照明点灯方式の検討 第4章 天井照明を用いた起床前漸増光照射による目覚め改善の検討 第5章 総括 謝辞 |
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登録日 | 2014.01.24 |
更新日 | 2020.10.06 |