<博士論文>
ヒトの作業能力の評価法に関する研究 : 自転車運動におけるパワーと運動継続時間直角双曲線関係から推定される一定値パラメータ(W´)の生理的規定要因
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概要 | 脚の自転車エルゴメータを用いて,数種の異なった一定負荷高強度運動を行い,それぞれの発揮パワー(P:watts)と運動継続時間(t:sec)の関係(以下P―t関係)をプロットしてみると,直角双曲線で記述されることが知られている[(P―θ_)・t=W´]。この漸近レベル(θ_)は,「クリティカルパワー」あるいは「疲労性作業閾値」と呼ばれ,W´はその単位が仕事量を表すことから,生体の持つ一定のエネルギー...容量に相当すると考えられる。本研究では,W´の生理的規定要因を探る目的で,筋中のエネルギー基質である,PCrおよびグリコーゲン含有量を人為的にあらかじめ増加もしくは減少させる操作を行い,W´への影響を調べることを目的とした。また,筋のエネルギー基質の量を反映すると考えられる筋量がW´の大小関係をある程度は規定しているのではないかと考え,筋量の代用の指標として,自転車運動における作業筋である大腿部筋横断面積を求め,両者の関係を検討することとした。 / 本研究において行われた実験は以下の3つであった。 / 1)パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W´)に及ぼすクレアチン経口摂取の影響。 / 2)パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W´)に及ぼすグリコーゲン枯渇の影響。 / 3)パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W´)と大腿部筋横断面積の関係。 / 1)パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W´)に及ぼすクレアチン経口摂取の影響。 Crの経口摂取により筋中のPCr含有量を増加させた状態におけるP―t関係の検討を行い,W´への影響を検討した。結果をまとめると,すでに広く効果が認められているプロトコールに基づいたCr経口摂取は,P―t直角双曲線関係から推定されるW´に対して有意な増加をもたらした(θ_の増加を伴わない)。この結果は,筋内CrとPCr(もしくはいずれか一方のみ)含有量はパワーと運動継続時間直角双曲線関係から推定される,無酸素性エネルギーの容量側面を示すと考えられるW´の重要な規定要因であることが明らかになった。 / 2)パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W´)に及ぼすグリコーゲン枯渇の影響。 筋内のグリコーゲンをあらかじめ枯渇させた状態でのP―t関係の検討を行い,W´への影響を検討した。結果として,グリコーゲン枯渇(GD)条件下でも通常の(NG)条件下と同様に,パワーと運動継続時間関係に直角双曲線関係が成立することは確認されたけれども,その関係から推定されるθ_とW´への影響は同じではないことがわかった。すなわち,GD条件とNG条件でθ_に有意な差は生じなかったけれども,W´はGD条件においてNG条件に比べて7名中6名の被検者が全体の平均値の有意な差を伴って減少した。1)において,高強度運動中の主要な無酸素性のエネルギー源としての筋内のCr/PCr含有量増大がW´の増大をもたらしたこととあわせて,グリコーゲン含有量やPCr含有量といった高強度運動における主要なエネルギー源がP―t直角双曲線関係におけるW´のまぎれもない生理学規定要因であることを意味している。高強度運動中に,より高い比率で無酸素性エネルギ供給が要求されるような条件下で,筋内グリコーゲン含有量やPCr含有量の変化がW´に強い影響を与えたことは,W´が無酸素性作業容量と強い関係があることを意味するとともに,無酸素性作業能の指標としての妥当性を支持するものであると考えられる。 / 3)パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W´)と大腿部筋横断面積の関係。 W´の量的側面を規定するのではないかと予想される作業筋量の指標としての筋横断面積とW´の関連性について検討した。その結果,W´と働筋である大腿部筋横断面積の間に有意な正の相関関係があることが明らかになった。無酸素性エネルギ貯蔵量を反映すると考えられるW´が作業筋の横断面積と関連性があることは,間接的にではあるがW´の無酸素性作業能力の指標としての妥当性を示唆するものである。 最後に強調しておきたいことは,このパワーと運動継続時間直角双曲線関係から得られるパラメータはふたつあり,ひとつは理論的にはある程度の長い時間にわたって運動が継続可能な上限の運動レベルを意味し,持久性運動の能力の上限を示していると考えられる「クリティカルパワー(Critical power)あるいは疲労性作業閾値(Fatigue threshold)」,もうひとつは,無酸素性エネルギー容量を反映すると考えられるW´“無酸素性作業能力(anaerobic working capacity)”であるということである。本研究において,W´が無酸素性作業能を反映すると確認されるようないくつかの傍証が得られたことにより,精密機器を用いることなく,自転車エルゴメーターとストップウォッチによって,ヒトの作業能力が,有酸素的能力と無酸素性能力を表すふたつのパラメータによって評価できるということになり,その応用的利用価値は極めて高いものであると考えられる。続きを見る |
目次 | 目次 第1章 序論 第2章 パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W’)に及ぼすレアチン経口摂取の影響 第3章 パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W’)に及ぼすグリコーゲン枯渇の影響 第4章 パワーと運動継続時間関係から推定される一定値パラメータ(W’)と大腿部筋横断面積の関係 第5章 まとめ 文献 謝辞 |
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授与日(学位/助成/特許) | |
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登録日 | 2014.01.22 |
更新日 | 2020.10.06 |