急勾配の山地河川では，階段状河床地形(以下，Step-pool system)が形成されることが広く知られている(たとえば芦田ら， 1984). Step-pool systemは，流下方向に数メートルから数十メートルの間隔で，堆積砂磯からなる急勾配部(ステップ)と緩勾配部(プール)とが交互に連続する河床地形である.その形状は過去の土砂移動の痕跡を表していると同時に，次の洪水での土砂移動の際の河床粗度としても機能する.これらStep-pool systemは，河川に生息する水生生物にとって重要な役割を果たしている.プールはヤマメ，ハエなどの渓流魚によって採餌，産卵場所として利用され(河村， 1991，広瀬ら， 1993)，プール内の巨磯はその時の待避場所となっている(山口，1996). また， Step-pool systemの間隔はヤマメの個体数，サイズに影響していることも報告されている(高柳， 1997).このようなStep-pool systemの落差と間隔とは，河床勾配，河床幅などの水路の幾何学的形状と，水路内に堆積する砂磯量，砂礁径とによって支配されている(Abrahams，1995，川西， 1997). このうち水路の幾何学的形状は， 河床や河岸が基岩で構成されている場合には数年～数十年間では大きく変化せず，洪水流に対しでも固定床と考えることができる.一方， 河床に堆積する砂線量や砂様径は，洪水の度にその規模や継続時間に応じて流下方向に変化することが予想される.洪水は水生生物の生息環境を一時的に大きく変化させるので，その影響を評価するためには洪水直後の砂磯量や砂磯径を把握することが重要な課題となる.河床砂礁の粒径について，主として下流の緩勾配河川について多くの調査研究が進められてきた.古典的には，平均磯径が生産原から下流にむかつて漸減する事が示されている(たとえばKrumbein， 1937;Sternberg， 1955). これらの結果は長期間の土砂移動の集積であり，土砂生産源も特定されていないため，洪水による砂磯径の変化については知ることができない. Pizzuto (1995) は，合流点における水理量の変化に着目し，合流点聞の距離Link長をパラメータとして磯径変化を解析した.これによって，本流水路に対する土砂生産源の支流の影響を評価できたが，一洪水ごとの砂磯径の変化を把握することはやはり困難である. Production limitedの卓越する一般の山地河川では，堆積砂磯径の分布は，洪水時における砂礁の堆積と洪水後の砂礁の粒径淘汰の両方によって複雑に変化した結果である.したがって，堆積砂磯径の分布を把握するためには，まず粒径淘汰を受けていない，洪水直後の堆積砂磯径の分布を知ることが必要となる.しかし，このような洪水に遭遇する機会は少ないため，山地河川の堆積砂磯径についての調査事例はきわめて少ない.1997年9月，筆者らが1993年以来河床変動をモニターしているーツ瀬川源流大薮川において洪水が発生し，多量の砂磯が支流から本流に流入した.この洪水によって， 3kmにわたる本流河床がすべて砂磯で埋積されほぼ平坦面となったため，筆者らは洪水直後の砂磯径の分布を実測することができた.本研究では，洪水直後の堆積地表面で砂磯径分布を現地調査し，洪水によってもたらされた堆積砂磯径の位置的変化を合流点の影響を考慮して分析することを目的とした.