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以上の住民の意向についての分析結果を要約すると, 以下の4点にまとめられる. 1.全体としては, 集落の活性化をはかるという上位目標を達成するための施策として, 「集落の自治と連帯」が最も重要であるという認識があること. そして, そのための施策としては「自治財源, 施設の整備」「集落施設の整備」が重要視されていること, が明らかとなった. 2. しかし, これを集落別にみると, 農業の担い手が比較的残っているO集落では, 「住民生活の整備・活性化」のウェイトが高く, 「集落の自治と連帯」は2位となっている. 一方, 農業の高齢化が進んでいるM集落では, 「農業生産活動の活発化」が最も重視され, 農業後継者の確保が最重要施策とみなされている. このように2集落を統合した全体の意向と, 各集落の意向とは, 必ずしも一致しない. 3. 男・女別にみた場合, いずれも「集落の自治と連帯」が重視されており, 全体の意向と一致する. しかし, これを集落別に男・女それぞれの意向をみると, 各集落の意向はその集落の女性の意向に一致していることがわかる. この点は, 農村活性化に対する女性の役割重視という視点から興味深い. 4. 就業類型別に検討すると, 一般に「農業者」は, 農業の活性化を重視すると考えられがちである. しかし, 農業の高齢化が進んだM集落においては, 農業者がむしろ「集落の自治と連帯」を重視する一方, 他産業従事者や「その他」住民が, 農業の活性化を農村活性化の最重要施策とみなしている. 以上の分析結果は, 中山間地域住民の意向が多様であり, 必ずしも行政単位としての市町村が提唱する振興計画と住民の意向とが一致していないことを示すものである. 従来の地域振興計画は, モデル地区に指定された集落などには特別な事業が実施されることがあったものの, 一般には, いずれの集落に対しても同一施策による振興計画が考案されてきた. また, 振興計画の作成にあたっては, 行政側の各部・課ごとにそれを作成し, 相互の連関や相対的重要度は, あまり考慮されてこなかったといえる. このように, 従来までの行政主導型の地域振興計画では, 地域住民の意向への配慮が不足しており, それが一因となって, 計画どおりにいかなかった事例が少なくない. 地方自治体が, 振興計画の有効性を高め, 多様な住民の意向をできる限り計画に反映させ, それらを調査するためには, 多様な地域目標に対する優先度の評価方法を導入することが一つの方法として考えられる. この点で, 本稿で用いたAHPによる住民意識構造の分析手法は, 有効な評価手法の一つといえるであろう.
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