plantlet

最近では, 炭酸ガスの蓄積の場としての森林の存在が重要視されてきた. ところが, 地球規模での森林面積の減少, 砂漠化の進行, ならびに荒廃地域の拡大などが危倶されている. そこで, 気象害, 塩害, 病虫害, 大気汚染の害など様々な粗悪環境に耐える優良種苗を何等かの手段で創出し, これを速やかに大量増殖して幅広く植林し, 地球の緑化など生活環境の維持増進に努めることが今日的な課題になってきた. こういった背景を踏まえて, 著者等は, 根粒菌の共生による窒素画定能や耐塩性を有し, また葉面のガス吸収能が高いため大気浄化用植栽樹種としてもリストアップされ, さらには全国道路緑化樹木の上位にランクされているニセアカシアに着目し, 各種の新たな耐性を有する個体の創出に向けての一連の研究を行っている. しかし, 新しい耐性個体の創出には, 細胞選抜などの技術をも活用する必要がある. 但し, この場合には, カルス経由で植物体を再生するための培養系の確立が不可欠である. この培養系の確立は, 種苗の大量供給は勿論のこと, 様々な変異体の作出に資するための手段を提供できるという可能性がある. 本研究で扱ったニセアカシアの組織培養については, 成木の枝や芽の培養によって誘導されたシュートの版芽や節間部を利用して増殖できたという報告(Barghchi, 1987; Chalupa, 1983, 1987; Davis et al., 1987, 1988; Han et al., 1990), 芽生えの葉片や胚軸, あるいはこれらの組織から誘導されたカルスからシュートを増殖できたという報告(Brown, 1980; Vavis et al., 1985; Han et al., 1989; Arrillage et al., 1993; 福田ら, 1994), また芽生え由来のカルスから増殖を試みた報告(鄒ら, 1989), この芽生えから誘導したカルスで増殖に成功したという報告(Merkle et al., 1989), また分離したプロトプラストの培養を試みたという報告(Han et al., 1987)など最近ではかなり多くの研究が行われている. このように, 芽生えの組織から誘導されたカルス培養で幼植物体を得たという報告も比較的多い(Davis et al. 1985; Merkle et al., 1989; Han et al., 1989, 1990; Arrillaga et al., 1993; 福田ら, 1994). しかし, 培養条件が著者によってそれぞれ異なり, 一定の傾向を把握できない. そこで, 本研究ではニセアカシアを材料にして, 芽生えからカルス塊を誘導し, その誘導されたカルス塊から再分化を図るための効果的な手法を検討したので報告する. 本研究を進めるに際し, 九州大学農学部林学科農林生物物理学講座奥達雄教授及び九州大学附属演習林汰木達郎教授より多大のご協力と有益なるご助言を戴いた. ここに心から感謝申し上げる. また, 本論文を作成するにあたり, 丁寧なご指導とご校関を賜った九州大学農学部林学科第三(造林学)講座齋藤明教授に深謝申し上げる.