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60年代以降, 韓国稲作農業は経済の高度成長過程における外部条件の変化を受けながら, 内部的にも大きく変わってきた. 70年代には著しい単収の向上によって米の自給が達成されるようになり, 80年代には機械化の進展によって労働生産性が増大した. 一方, 国民経済の高度化による食料消費構造の変化やコメの輸入自由化問題が登場した. このような稲作農業をめぐる与件変化に伴って, 稲作における規模拡大やコスト低減, 新しい担い手確立などのいわゆる構造問題が大きくクローズアップされてきた. 以上のことから, 本研究は農業構造問題への対策の前提となる既存の韓国稲作の規模の経済性に関する研究について検討し, 60年代以降の稲作生産力の展開構造を分析したものである. 分析結果を要約すると, 次のとおりである. (1)規模の経済性に関する論議を時系列分析とクロスセクション分析に分けて検討した. 時系列分析で尹皓燮は費用関数を利用して60年代から70年代前半までは低い機械化率によって規模の経済が作用せず, 70年代には, 小型機械化によって規模の経済が作用したが, 80年代中盤までは中型機械の導入の非効率性のため規模の弾力値が70年代より低下したことを指摘した. これに対して成溍根は1966年から1987年の資料に基づき規模別の費用関数を長期平均費用を用いて分析し, 1.5ha以上の農家層でも規模の弾力値がはるかに低いことを指摘し, 尹皓燮と異なる結論を導いた. クロスセクション分析では, 李重雄らは米産出量によって階層を区分し, 1974年, 1978年, 1982年, 1984年のすべての年度で規模の経済性が成立していることを指摘した. 呉浩成は1977年資料を用いて, 規模の経済性は成立しているが, 労働や土地及び税制の非合理性のため, 規模拡大が進まなかったと指摘した. (2)既存研究の共通の問題点として, 第1に, 個々の生産力要因が規模の経済性や生産力格差に発現するメカニズムを明らかにしえないという点において方法的限界を持つこと, 第2に, 粗収益と費用から算出される収益性の分析が行われていないこと, 第3に, 階層間の生産カ要因の相違と経営組織についての分析, すなわち生産力構造論的分析がなされていないことなどを指摘することができる. (3) 60年代以降の稲作生産力の展開過程は, 生産力要因の変化によって3つの時期区分を行うことが適当である. 第1期は60年代中盤から70年代前半までの, 肥料・農薬などの農業資材の供給と小型機械の普及および耕地整理事業の開始の段階, 第2期は70年代前半から80年代前半までの多収穫品種による単収の向上の一方で, 労働力不足と小型機械の限界が露呈した段階, 第3期は80年代前半から現在にいたる中型機械化体系の普及段階である. (4)第1期の稲作生産力展開の特徴は, 農薬使用量の増加と動力噴霧機, 動カ揚水機の普及などによる災害被害の減少に伴って単収が漸増し, 小型機械の普及と除草剤の使用によって労働生産性が増加したことである. さらに, 高米価政策と低農業資材価格による収益性も増加してきた. しかし, 60年代中盤から始まった食糧増産政策の効果はまだ発現しておらず, いわば, 生産力の増進のための準備段階と捉えるべきである. (5) 第2期の稲作生産力は, 60年代中盤から推進されてきた食糧増産政策の効果が現れて単収が著しく向上し, 米の自給が可能になったが, 小型機械の限界が露呈された段階であった. すなわち, 多収穫品種の開発・普及, 肥料や農薬の安定的な供給, 水稲栽培技術の進歩, これらを支えた小型機械の普及と土地基盤整備などによって土地生産力が増大したが, 小型機械による労働生産性の向上はわずかでしかなかった. 急速な農村労働力の流出, 小型機械の作業能力の限界, 田植と収穫作業における手作業が制約条件となり, 規模拡大の限界が露呈した. (6)第3期は, 田植機, コンバインなど中型機械の普及によって労働生産性が著しく増大し, 規模拡大が進んだ時期である. 稲作の単収は農家への稲作技術水準の定着, 中型機械, 土地改良などによって安定化しているが, 単収上昇には限界が見られるようになってきている. 稲作の収益性は低米価にもかかわらず, 低農業資材価格, 労働時間の減少, 低労賃によって高まった. 80年代後半からの農村労賃の急上昇と, 支払借地料の低下は規模拡大の可能性を高めている. (7)稲作の生産力の展開に伴う階層間の生産力格差は, 第1期においては小型機械や除草剤の導入による労働費の節減によって拡大しつつあったが, 規模の経済性の発現は本格化していなかった. 第2期に入ると, 多収穫品種の栽培面積拡大, 農業労働力の減少, 小型機械の作業限界によって生産力格差が小さくなった. 第3期に入ると大農層は労働力不足に対応して中型機械を導入したが, 無理な機械利用や操作未熟による不効率が発生した. しかし, 中盤からは技術的, 経済的にようやく安定した. 中型機械化による規模の経済性が一層発現し, 規模間の生産力格差が本格的に拡大し, 構造的再編の生産力的条件が整ってきたと評価しうる.
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