注記 |
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本研究で明らかにした点は次の四点である. まず第一に, 農業白書における農業の多面的機能論についてのレビューを行い, 農業白書における農業の多面的機能論の端緒は1971年であることと, 農業の多面的機能の構成要素の遷移を明らかにした. その上で, 特に指摘したい点は, 農業の多面的機能の一つとしての「景観の保全」が意味する内容についてである. わが国では, 農業の多面的機能論の端緒である1971年当初から, その構成要素として「景観の保全」が挙げられている. しかし, その景観が意味する内容は風景・外観にとどまっており, 本研究で明らかとなった景観の認純はないと考えられる.それは,わが国の農政の生態的視点の乏しきでもある. 景観の概念及び用語法を変更するのは困難であろうが, 景観概念が意味する内容を農業の多面的機能に盛り込む必要がある. そのことによって, 空間の三次元的構造と生態的機能を保全する農業の意義が明らかになるからである. また, この認織は, わが国における景観認識, 生物多様性認識の遅れを取り戻し, WTOといった国際的な議論の場で農業の多面的機能論を論じる際にも有効となろう. 第二に, 農業経済学等の研究蓄積における農業の多面的機能の分類をレビューし, これまでなされてきた分類の視点を明らかにした. これまでの研究蓄積では, 農業の多面的機能の構成要素の概念や用語法が明確にされておらず, 景観概念を導入した分類は十分でなかった. 第三に, 地理学・景観生態学等の研究蓄積のレビューを行い, 地理学的な景観概念を明らかにした. 農業の多面的機能としての景観の保全とは, 単なる風景, 外観, 美観を保全するだけでなく, 無機的要素, 生物的要素, 人間的要素の機能や相互関係の保全までもが含まれる. わが国においても, 生態的機能等に配慮した農業の実践や, 農村の環境整備が望まれる. そのためにも, 本研究で明らかとなった景観概念の学際的共通認織の形成, 農業経済学への導入が必用である. 第四に, 景観概念の視点から農業の多面的機能の分類を拭みた. その結果, 景観という空間の把握方法を用いることによって, 農業の多面的機能を空間的に把握することが可能になった. この分頬によって農業の外部経済効果と外部不経済効果との連続性も表現された. 景観概念と農業の外部経済論とが結合されたと考えられる. 農業に起因する外部不経済効果が軽減され, 外部経済効果が増進(農業の多面的機能が発揮)されるには, 内部経済である農業生産活動が健全に営まれなければならない. 本来の農業の原理とは, 自然が有する物質循環の機能を, 人間労働によって早める作業に他ならない. 健全な農業生産活動とは, 自然環境の有する機能に人間労働を付加しその機能を高めることであり, 健全な内部経済が外部経済効果の増進に直結するのである. そして, この関係を明らかにすることができるのが, 農業が営まれ, 外部経済効果及び外部不経済効果が発生する空間を, 無機的要素, 生物的要素, 人間的要素という構成要素とその相互関係によって把握する景観概念なのである.
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