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概要 |
日本における家庭洗濯は,明治期以降の洋装化と,それに伴う西洋洗濯の導入をきっかけとして大きく変容したといえる.明治期から昭和初期にかけて,西洋洗濯器具として,洗濯板,手動式洗濯機,電気洗濯機が相次いで国内に紹介・輸入され,家庭への導入が進んでいった.本論では,電気洗濯機の成立を中心とし,これら戦前の洗濯機器具の進展について「もの」歴史という視点から検証を行い,以下について明らかとした. 洗濯...板は西洋洗濯器具として導入されたものであり,国内での使用が開始されたのは明治期以降である.戦前における洋装化の進展は限られたものであったが,一方で西洋洗濯は早い段階から洋服以外にも応用され,大正期には和服の洗濯を含めた家庭洗濯に洗濯板が使用され始める.洗濯板は,安価で使用法が容易であることから急速に普及し,昭和初期には国産化も進んで,家庭洗濯の必需品とされるに至る.外国製の主流が足つきであるのに対し,国産洗濯板は,和服の解き洗いにも対応できる足なしが主流となり,また,片側にのみ刻み面を持つ木製洗濯板が好んで使用されるなど,短期間のうちに日本人の嗜好が反映されていった. 洗濯板に引き続き,大正期には手動式洗濯機が新規の洗濯器具として婦人雑誌等で取り上げられ始める.欧米で実用化が進んでいた円筒式及び引掛式の国産機が成立し,大正後期から昭和初期にかけて,複数の企業により製造・販売が行われた.また,関連する特許や実用新案が積極的に取得され,価格競争も一部で始まっていたとみられる.このことから,日本における最初の洗濯機市場は,大正期から昭和初期にかけて,手動式洗濯機の成立を契機に形成されたと考えることが可能である.しかしながら,洗濯器具としては高額であることに加え,当時の勤労を美徳とする風潮により,手動式洗濯機の普及は充分に進まなかった. 手動式洗濯機の登場と前後し,大正後期には,家庭電化の一環として外国製電気洗濯機が国内に紹介され始める.初期の家庭電化実践者により有意性が主張され,輸入機の販売が大手企業により開始されたことにより,戦前,既に一部の裕福層には電気洗濯機に対する欲求が生じていたと考えられる.このような状況下で,1924(大正13)年頃には,初期輸入機の主流である円筒式を採用した国産機「日比式洗濯機」が成立した.同機は成立当初こそ複数の文献で取り上げられたものの,1932(昭和7)年の撹拌式国産機「Solar」成立以降はほとんど注目されず,認知はそれ以上進まなかった.以後,戦後の1953(昭和28)年まで,日本における国産電機洗濯機の主流は撹拌式となる. 「Solar」は日本における国産初の撹拌式電気洗濯機である.製造元は芝浦製作所で,東京電気により全国販売が行われた.1938(昭和3)年に,新規の型式として輸入された撹拌式「Thor」との類似性が極めて高く,技術・意匠両面で外国機が直接的に参照されていることが指摘できる.一方で,成立直後より「Solar」には,日本人向けの小型化や,安全装置をはじめとする新規考案の追加,リデザインなど,積極的な改良が加えられており,戦前期だけで6種,戦後を含めると11種のラインナップが存在する.同時に,戦前,戦後を通じて雑誌広告等で継続的に喧伝されており,「Solar」シリーズが国内における電気洗濯機の認知度向上に大きな貢献を果たしたことは間違いない.大戦により中断していた国産機の製造は,戦後間もなく再開され,1953(昭和28)年には20社以上の国内企業が撹拌式を中心とした電気洗濯機の製造・販売を行っていた.このように,成熟しつつある洗濯機市場に1953(昭和28)に新規型式である噴流式が登場し,これ以後,国産機の主流は噴流式へと移行していくこととなる. 以上のように,日本の洗濯文化は,明治期以降一貫して欧米文化を追従しており,特にアメリカの動向が如実に反映されてきたといえる.日本における洗濯器具の進展は,欧米と比較して非常に急速にかつ並列的に進行している.このため,国産機の成立に際しては,機械化の利点や特徴について充分な検討が行われないまま,新規の型式が好まれる傾向が継続してきた.一方で,国産化された洗濯器具には,日本の洗濯文化に適した改良が積極的に加えられ,改良点についての工業所有権が取得されるなど,模倣にとどまらない製品展開が認められる.欧米を目標としながら,追従にとどまらない独自性を確立しようとする姿勢は,日本における近代化の構造とも同調するものであるといえる.続きを見る
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目次 |
目次 緒言 序章 第1章 洗濯板の導入と普及 第2章 手動式洗濯機の導入と普及 第3章 電気洗濯機の導入と初期国産機の登場 第4章 国産機「Solar」の成立と展開 結語 資料 謝辞
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