<博士論文>
嗅覚・視覚刺激に誘発された快・不快情動の生理反応特性
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| 学位授与大学 | |
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| 概要 | 生き物が快を求め、不快を避けることは、環境に適応するため、生存するための不可欠な行動である。こうした適応行動が起こるためには、外界から入ってきた刺激の生物学的意義(たとえば、有害か否か)を評価する過程が働いている。その過程の中心にある脳領域が扁桃体である。嗅覚刺激の場合、ある種の嗅覚刺激によって、嗅覚受容器が刺激されると、その信号は嗅球を経由して扁桃体と眼窩前頭皮質に直接的に達する。そのため、快...・不快情動を生じさせやすい。一方、視覚刺激は扁桃体に至るまでにV1,V2,V4および内側視覚皮質を経由する。これは視覚情報が扁桃体に至るまでに様々な修飾を受け、様々な情報処理をして、初めて快・不快という情動を誘発することを意味する。そういう点では、視覚刺激の信号処理は嗅覚刺激の信号処理より複雑な系である。 本研究は上記のようにヒトの脳内神経機構の大きな違いがある嗅覚刺激と視覚刺激に誘発された快・不快という情動反応を検討し、その反応は刺激による刺激特有の反応であるのか、情動による反応であるのか明確にすることを目的にする。さらに、情動による反応である生理反応の中でもっとも情動特定的な反応はあるのかを検討する。 第2章では、嗅覚刺激に誘発された快・不快情動の生理反応を検討することを目的にした。快・不快誘発の嗅覚刺激は主観的に異なる情動を生じさせた。そして、快誘発の嗅覚刺激では左前頭葉を活性化し、心拍数を下げ、s‐IgA濃度を増加させた。一方、不快誘発の嗅覚刺激では左右前頭葉、右側頭葉、右頭頂葉、左右後頭葉を活性化し、s‐IgA分泌量を減少させる傾向を見せた。従って、快・不快誘発の嗅覚刺激は異なる生理反応を生じさせることが示唆された。また、本研究の結果、大脳非対称性およびs‐IgAの反応は快・不快誘発の嗅覚刺激を判断する上で重要な生理指標である可能性が示唆された。 第3章では、視覚刺激に誘発された快・不快の生理反応特性を調べ、第2章の嗅覚刺激に誘発されたその生理反応特性と比較検討することを目的にした。また、情動を生物進化の観点から、繁殖行動や生命の維持などに関わる情動(基本的要素;以下、快基本および不快基本)と、集団の形成・促進や集団の維持などに関わる情動(社会的要素;以下、快社会および不快社会)に分類し、快・不快情動を適切に判断できる生理指標を探ることを目的にした。 快基本は快社会より覚醒すると評価され、不快基本は不快社会より不快で覚醒すると評価された。快情動において、快基本は左半球の前頭葉の活動を高め、全末梢血管抵抗の増加により血圧が増加した。そして、左心室駆出時間が延長し、心筋収縮性が増加した。また、刺激呈示15分後にs‐IgA濃度が増加した。しかし、快社会は左右前頭葉の活動が見られず、心拍数の低下によって収縮期・拡張期血圧がともに下がった。そして、唾液分泌量を増加させる傾向があり、刺激呈示15分後および30分後にs‐IgA濃度および分泌量を増加させた。 一方、不快情動において、不快基本は左半球の前頭葉の活動が活性化し、心拍数が減少し、左心室駆出時間が延長した。そして、唾液分泌量が減少し、s‐IgA濃度および分泌量が減少する傾向があった。しかし、不快基本は左右前頭葉の活動が見られず、心拍出量の減少により心拍数が減少した。また、左心室駆出時間が延長した。そして、唾液分泌量が減少し、s‐IgA濃度が減少する傾向があった。 以上をまとめると、第2章の嗅覚刺激と本章の視覚刺激に誘発された快・不快情動の生理反応を比較検討した結果、快・不快情動の生理反応の中で、異なる生理反応(つまり、刺激特定的な反応)が生じたのは不快誘発の刺激時の大脳非対称性、心拍数の変化、s‐IgAの変化である。つまり、不快誘発の刺激時では共通の生理反応は生じず、刺激による固有の生理反応が生じる可能性があることを示唆する。 一方、同様な生理反応(つまり情動特定的な反応)が生じたのは快誘発の刺激時の大脳非対称性、心拍数の変化、s‐IgAの変化である。快情動の視覚・嗅覚刺激において左前頭葉(F3、F7、Fz)が活性化させれ、心拍数を低下させ、s‐IgA濃度を増加させた。従って、嗅覚刺激や視覚刺激に誘発される快情動の大脳非対称性、心拍数の変化、s‐IgAの変化は、情動による情動特定的な反応である可能性が示唆された。つまり、快情動が生じた時は刺激の種類が異なっても出力としての生理反応は共通する可能性が示唆された。その中で、s‐IgA濃度の変化は刺激呈示15分後に嗅覚刺激および視覚刺激の快基本・快社会において増加したことから、もっとも共通性がある情動特定的な反応である可能性が示唆された。一方、心拍数も嗅覚刺激および視覚刺激の快基本・快社会において同様に減少するが、そのメカニズムは異なる可能性があるため、心拍数のみでは快情動を判断することは難しいと思われた。以上のように快・不快という情動は複雑であるが、適切な生理指標を組み合わせることにより、快不快を生理反応から判別および評価することが可能である。続きを見る |
詳細
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| 学位記番号 | |
| 授与日(学位/助成/特許) | |
| 部局 | |
| 登録日 | 2009.08.13 |
| 更新日 | 2020.10.06 |
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