|
|
作成者 |
|
論文調査委員 |
|
|
|
本文言語 |
|
学位授与年度 |
|
学位授与大学 |
|
|
学位 |
|
学位種別 |
|
出版タイプ |
|
アクセス権 |
|
JaLC DOI |
|
概要 |
この論文の目的は,物理的には別々の音に属するような音の始まりや終わりが,知覚の上でお互いに結びつき,知覚的な音のまとまりが構成されるということを,現象観察および精神物理学的測定法を用いて明らかにすることである。研究には,短い時間的な重なりを持ち,同方向(上昇または下降)に変化するような2つの周波数変化音からなる刺激パターンを用いた。このような刺激パターンを呈示した場合,連続したものとして知覚され...る長い1つの上昇音(または下降音)と,その時間的中央付近に位置する短い音とが知覚されることがわかっている。この短い音をミドルトーンと呼ぶ。この論文では,ミドルトーンの知覚および長い連続する音の知覚について,それぞれ5つの実験を行った。
まず,ミドルトーンの生起が,周波数変化音の時間的重なり部分で生ずる結合音によるものではないことを明らかにするための実験と,周波数変化音の重なり部分でのオンセット,オフセットによって起こるスペクトルの広がりによるものではないことを明らかにする実験を行った。実験結果は全体として,ミドルトーンは2つ目の周波数変化音のオンセットと1つ目の周波数変化音のオフセットとの知覚的結びつきにより生じるもので,それらが近接していることでミドルトーンの知覚が促進されるという仮説(Nakajimaら,2000)を支持するものであった。
重なり部分における2つの周波数変化音の周波数的な距離は,ミドルトーンの知覚に影響があった。すなわち,対数周波数軸上の距離が狭くなったとき,ミドルトーンの知覚が生じやすくなった。また,対数周波数軸上の距離を一定にしたとき,重なり部分にあるオンセット,オフセットの周波数近接によってミドルトーンの知覚が生じやすくなった。
周波数変化音の傾き(周波数変化速度)を増すと,ミドルトーンの知覚が生じやすくなった。傾きが増した場合,重なり部分のオンセットとオフセットの周波数近接の効果は一層明確なものとなった。
周波数変化音の重なり部分の長さもミドルトーンに影響があった。すなわち,重なり部分が短くなったとき,ミドルトーンの知覚が生じやすくなった。重なり部分にあるオンセット,オフセットの周波数距離が一定であるような2つの定常音の場合にもこの傾向が認められ,ミドルトーンの知覚には,重なり部分のオンセットとオフセットの時間的近接も重要であることが示された。
長い連続したものとして知覚される上昇音(または下降音)に関しても実験を行った。長い1つの音の知覚的な連続性は,典型的な連続聴効果のパターンの場合と同程度であることが示されたが,この2つのパラダイムにおいて知覚される連続音の知覚メカニズムは異なると考えられる。短い時間的重なりを持つ2つの周波数変化音からなるパターンにおいて知覚される長い連続した音は,ミドルトーンが知覚的に構成されることの結果であるということが,本研究のいくつかの実験によって示された。ミドルトーンが知覚的に構成されることによって,2つの周波数変化音の残りの部分は,パターンの中央付近にあるオフセットとオンセットを失うことになり,中枢の処理過程で,つながったものとして統合されると解釈できる。
連続した周波数変化音の中央付近に短い時間的空隙を挿入し,2つの周波数変化音に分けた場合であっても,1つ目の周波数変化音のオフセットと,2つ目の周波数変化音のオンセットとが,知覚的に,別の音に捕捉されるような状況では,1つの連続した音の知覚が生じることが明らかになった。
実験の結果から,物理的には別々の音に属するオンセットとオフセットが知覚の上で結びつき,ミドルトーンという新しい音事象を形成しうるということが示された。このことは,視覚システムが視覚情景を輪郭に分解し,それらを結びつけることでオブジェクトを形成するように,聴覚システムが聴覚情景をオンセットやオフセットのような単位に分離し,それらを統合することで音事象を形成しているということを示唆するものである。続きを見る
|
目次 |
Acknowledgments
Table of contents
Chapter1: Introduction and theoretical background
Chapter2: Phenomenological descriptions of the perception of two partly overlapping glides
Chapter3: Psychophysical investigation of other peripheral processes that may be involved in the perception of the middle tone: combination tones and spectral splatter
Chapter4: Further psychophysical investigation of factors involved in the perception of the middle tone in double-tone stimulus patterns
Chapter5: Psychophysical investigation of factors involved in the perception of the pitch trajectory in double-tone stimulus patterns
Chapter6: Typical auditory continuity and the perceptual mechanism behind the pitch trajectory in double-glide stimulus patterns
Chapter7: Summary and conclusions
References
|