概要 |
感染症の経過は宿主と病原微生物との間の相互作用によって決定される.宿主は進化に伴い病原体を排除するために免疫系を主体とする高度な生体防御システムを構築している.生体防御系により容易に排除されるものは宿主に定着すらできずに病原性を発揮するに至らない.一方,宿主防御システムを回避する手段を獲得したものは宿主内で定着,増殖に成功し,宿主を死に至らしめることすらある.このように感染症では宿主と病原体の激し...いせめぎ合いが行われている.マラリアはPlasmodium属の原虫による熱性感染症で,年間3億人の患者,250万人もの死者を出す世界最大規模の感染症である.現在においてもマラリアが猛威を奮っている原因は,特効薬であったクロロキンに耐性を獲得した原虫が拡大したことに加え,いまだに有効なワクチンが開発されていないこと,ヒトにおいてマラリア原虫に対する終生免疫が得られにくいことも挙げられる.これらの事実はマラリア患者においては宿主防御システムが充分に機能していないことを示唆している.実際にマラリア原虫は多様な免疫回避機構を備えていることが多くの研究者により報告されてきている.今後マラリアの撲滅を目指すうえにおいて,まずマラリア原虫の免疫応答系からの回避機構を解明することが先決であると思われる.本稿ではマラリア原虫の宿主免疫制御のメカニズムについて,我々の知見も交えて総説する.続きを見る
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