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1.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 組み立て方式遮音壁の性能評価に関する研究 — A Study on the Performance Evaluation of an Assembled Noise Barrier
堀内, 章司 ; Horiuchi, Takashi
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 遮音壁は、わが国における道路交通騒音の一般的な伝播経路対策であり、一般的に現地組み立てによって設置される。その構成部材として、殆どは面材として分割された遮音パネルであり、遮音壁の減音性能を左右するのは遮音パネルによるところが多い。次に現行の遮音壁における問題点を挙げる。1つ目は音響性能とその評価方法の問題点である。遮音パネルの性能評価基準値として音響透過損失が設定されている。しかし測定時には、パネル間の継ぎ目に粘土等を覆って設置するのが通例となっている。また、ポリカーボネイト板(板厚5mm)など旧型の透光板は低剛性で音響透過損失も小さいため、高い壁に採用される場合では、パネル放射(音響透過)の影響が懸念される。2つ目は遮音壁構造の問題点である。遮音壁の必要性能を満足するためには、遮音パネルが隙間無く設置されていることが前提だが、その継ぎ目には隙間埋めなど特別な処理は施していない。その結果、遮音壁の現地設置構造は隙間からの漏洩音が懸念される。さらには、性能評価時と現地施工時の設置状態は合致しているとは言いがたく、性能評価結果が現地施工時に期待できるか疑問である。3つ目は設置に対する問題点である。一般的に遮音壁の設置は建設工事と変わりなく、施工業者も音響の専門家では無い工事業者が行うことになる。結果として、遮音壁の音響性能を無視した施工をされる可能性は否めない。これら問題解決の第一段階として、問題の根本となる組み立て方式の遮音壁構造による性能劣化要因について着目し、要因に対する影響を検討する必要がある。そこで本論文では、組み立て方式遮音壁の主な性能劣化要因として、性能劣化の影響が大きいと想定される a)隙間からの漏洩、b)パネル放射に着目する。本論文では2つの性能劣化要因について、フィールド調査・数値解析・模型実験といった観点から検討を行い、性能劣化が生じる場合の性能評価について検討を行うことを目的とする。次に本論文の構成を示す。第2章では、既設の遮音壁に設置された遮音パネルを対象としたフィールド調査を行い、既設遮音壁における隙間と音響性能の関連性を考察する。第3章では、数値解析で適用する2次元境界要素法(BEM)と、BEMと有限要素法(FEM)の結合解法について定式化を説明する。第4章では、遮音壁構造を対象とした2次元BEMを用いて、パネル間に発生した隙間による性能劣化を検討する。第5章では、結合解法を用いて、隙間に加えてパネル放射音も考慮した場合の遮音壁の性能劣化を検討する。また模型実験を行い、数値解析手法の妥当性を示す。さらに、道路交通騒音に対して遮音壁の性能劣化について示す。最後に、パネル放射に対する遮音壁の性能改善について、一手法を提案する。第6章では、これまでの内容をまとめ、今後の課題と展望を示す。 続きを見る
2.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 大臼歯の萌出と石灰化に関する研究
平野, 克枝 ; Hirano, Katsue
学位授与年度: 2009
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究は,大臼歯の萌出と石灰化に関するものである。第一章では「咬合の鍵」である第一大臼歯に着目し,その石灰化と萌出の左右差について検討を行った。また第二章では,第二大臼歯の石灰化遅延と第一大臼歯との関連について検討を行った。いずれも,1998年~2006年の9年間に九州大学病院小児歯科を受診し,パノラマエックス線写真上で上下顎とも両側の第二乳臼歯が完全萌出している小児476名を対象とした。資料はパノラマX線写真のみとし,今回独自に設定した萌出位置の判定基準と,Gleiser & Huntが設定した石灰化段階を指標に解析を行った。歯胚位置の左右差は,萌出の促進あるいは遅延が片側性に生じたものといえる。また,歯の萌出は歯根の石灰化とともに進行していくことから,一般に萌出の遅れは石灰化の遅れに起因すると考えられている。第一章より,第一大臼歯の歯胚位置の左右差は全体の13.2%で認められ,最も差が認められたのは萌出期である6歳の21.3%であった。しかし第一大臼歯の石灰化の左右差は全体の7.4%に過ぎず,最も差が認められたのは同じく萌出期の6歳で12.4%であった。この結果は,第一大臼歯の萌出遅延は,石灰化遅延以外の要因によっても生じうることを示唆している。本研究ではその要因を明らかにすることはできなかった。しかし今回の結果から,たとえ第一大臼歯歯胚の石灰化に左右差が認められない場合であっても,左右どちらかの萌出が遅延する可能性を念頭に,経過観察を行う必要があるといえる。また,萌出位置に左右差を認めた年齢は上顎では8歳まで,下顎では7歳までであった。小児歯科臨床では 第一大臼歯の萌出が片側性に遅延し,位置に左右差が認められる症例をしばしば経験する。その原因が臨床的に特定できない場合,病的な遅延か,あるいは一過性の遅延かの判断は難しい。明らかな異常所見を認めない症例を対象とした本研究結果から,上顎では9歳まで,下顎では8歳までを経過観察の時期とし,その時点で左右差が解消されない場合は,積極的な萌出誘導も検討するという基準を提示することができた。第二章より,第二大臼歯の石灰化遅延は,上顎で3.9%,下顎で2.0%,全体で4.6%の症例で認められることが明らかとなった。このうち,第一大臼歯にも萌出や石灰化の左右差が認められるものは半数であった。これまで第一大臼歯の石灰化遅延の頻度に関してはいくつか報告がなされてきたが,第二大臼歯に関しては不明であり,本研究で得られた第二大臼歯の石灰化遅延の発生頻度は,第一大臼歯のそれと近似していた。以上のことより,同じ大臼歯群である第一大臼歯と第二大臼歯の石灰化遅延歯ほぼ同じ頻度で発生すると考えられ,両者の間には発生過程で何らかの関連性があることが示唆された。 続きを見る
3.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A Study on Non-Photorealistic Rendering Technique for Visualization of Dyeing Cloth — 布染色系ノンフォトリアリスティックレンダリングに関する研究
森本, 有紀 ; Morimoto, Yuki
学位授与年度: 2007
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: コンピュータグラフィックス(Computer Graphics: CG)の研究分野ではこれまでに写実的な表現ばかりでなく、非写実的な表現(Non-Photorealistic Rendering: NPR)も様々な目的に応じて研究されている。このNPRでは水墨画や水彩画、油絵などの絵画調表現が行われている。染め物を題材とした研究としては2004年にろうけつ染めの表現手法が提案されているのみである。本研究は、NPRにおいて画材としての布染色モデルを確立することを目的としている。 布への染料拡散の視覚的特長としては糸毎に現れるすじや場所は隣り合っていても色の濃淡がまだらに現れているものなどがあげられる。これらは糸内での拡散が糸の材質や縒り方、繊維の方向などによって影響を受けるために起こると考えられる。このように様々な物理的要因によって染色の視覚的特長が引き起こされている。本研究では実際の染色過程、染色技法、布の織構造などの機能を、appearanceベース、physicsベース、そして染色理論ベースの三つの異なるモデルとして提案する。appearanceベースのモデルでは、布繊維内での染料量をセルオートマトンによって時間軸に沿って平均化していくことによって拡散のシミュレーションをしている。このモデルはシンプルであるため、比較的処理が高速にできるという特徴がある。physicsベースのモデルでは織布中での染料の拡散をFickの法則に基づき表現している。更にphysicsベースによるモデルを染色理論に基づきパラメータ化したモデルでは、織構造や染料の種類などが染料の拡散に影響を与えるモデルへと発展している。このモデルでは布内のパラメータとして繊維の空隙率を表した多孔度や繊維のねじれを表す屈曲度などを用いており、このようなパラメータを操作することによって染色の視覚的特徴を表現することができる。他に、染色表現に重要な因子として、布の織り構造、布の一部に糊や蝋を置いたり糸で縛ったりすることによって染料の拡散を防ぐことで模様を表現する防染技法、染料の布への吸着などの要素をモデル化する方法を提案している。実験結果によると本研究で提案する染料拡散手法が模様を生成するための染色技法を柔軟に考慮できることができることがわかる。 続きを見る
4.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Ergonomics of human land locomotion with load carriage — 重量負荷を用いたヒトの陸上移動運動に関する人間工学的研究
安陪, 大治郎 ; Abe, Daijiro
学位授与年度: 2007
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 重量物を運搬歩行するときのエネルギーコスト(Cw; ml/kg/meter)を単位距離当たりで評価した場合、エネルギーコストは必ずしも運搬物の重量に比例して増大するわけではなく、体重の約10-20%程度の重量が代謝に反映されない場合があり、これまでそのような現象はfree-rideと呼ばれてきた。本研究の前半部では、free-rideの発生メカニズム解明のために、負荷重量、付加部位、歩行速度、傾斜の影響について検討した。また、ランニングでもfree-rideが観察できるかどうかについては諸説ある。ランニングでは重量物を身体に付加することによって、下肢筋群の筋・腱複合体が適度に引き伸ばされ、「弾性エネルギー」と呼ばれるバネ作用の恩恵を受けることが出来る。つまり重量物を身体に付けてランニングすると、弾性エネルギーをより多く利用できるため、無負荷の場合に比べて走行中のエネルギーコストが低下し、結果的にfree-rideが発生するという説と、重量物による下肢筋群への過剰負担のために、free-rideは発生しないとする説が対立していた。そこで本研究の後半部では、筋電図法を用いてランニング中の弾性エネルギー利用度を測定する方法を確立すると共に、ランニングにおけるfree-rideの有無とメカニズムについて検討した。本研究で得られた主な結果は、1) free-rideは背中に重量物を配置し、低速度で歩行した場合に観察された。2) 歩行において最もfree-ride効果が高いのは、体重の15%に相当する重量物を背中に配置した場合であった。3) 背中の上部と下部に体重の15%相当の重量物を配置した場合、60-80 m/minで後背上部に配置した方が下部に配置した場合に比べて有意にCw値が低かった。4) ランニングでもfree-rideを観察することができた。5)弾性エネルギーの再利用がエネルギーコストと有意な負相関を示した。これらの結果から、歩行におけるfree-rideは、身体重心と付加重量物の相対的位置関係に起因する「身体重心周りの回転トルク」によって発生するが、同時に重量負荷による下肢への過剰負担によってその効果は漸減し、およそ80m/min付近で消滅すると結論した。また、本研究では平地および下り坂ランニングにおいてfree-rideが観察できることを確認した。このメカニズムは重心周りの回転トルクではなく、弾性エネルギーの再利用に起因することが示唆された。 続きを見る
5.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 映像編集におけるショット間の継時的群化の要因 — The Factor of Grouping Shots in Time Series about Movie Editing
井上, 貢一 ; Inoue, Koichi
学位授与年度: 2007
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本論文は、映像情報のデザインという観点から、ショット(映像断片)の「つながり」、すなわち「継時的群化」について、その要因を整理するとともに、主要な要因に関する実験的な検証を行ったものである。 その結果、解釈のレベルにおけるショット間の継時的群化に関する議論は、大きく以下の3点に集約された。1)情報量を小さくするようなショットの構成が認知的負荷を下げ、ショット間の「つながり」に貢献すること。2)「他動詞」の喚起を伴う「アクションとリアクション」の接続がショット間の関係理解(情報処理)を効率化すること。3)映像上に現れる「人・顔(目)・手」といった素材が、「他動詞」を喚起する契機として重要であること。 先行ショットの文脈効果(プライミング)によって後続ショットの範列を制限し、エントロピーを下げること、そして、後続ショットを予測の範囲内に送りだすことで結果的に情報量を下げること。ショット間の継時的群化には、認知的負荷の少ない、より簡潔な解釈を可能にするショット間の構成が重要であることがわかった。 特に、「古典的ハリウッド」における編集の基本といわれる「アクションとリアクション」の構成は、因果印象という効率的な解釈を生起させる点で、ショット間の継時的群化に貢献する重要な要因のひとつであると考えられる。 「見る」、「撃つ」、「照らす」は 後続ショットを目的語としてつながり、「開ける」、「出す」、「振る」などはその行為を契機として後続の出来事に結びつく。ショット間に強固なつながりの印象を与える「アクションとリアクション」の関係には、そのような「他動詞」の喚起が不可欠である。そして、そのためには、人間の顔(目)や手が生み出す「(意識の)動き」を映像化することが重要な要件となる。 そこに「人」がいて「(意識の)動き」がある。この最も日常的な現象の映像化が、「因果印象」という、やはり最も日常的な時空間の「つながり」に貢献する。 続きを見る
6.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A Study on the Design Development of Electric Fan for Home Use in Japan — 我が国における家庭用電気扇風機のデザインの変遷に関する研究
平野, 聖 ; Hirano, Kiyoshi
学位授与年度: 2007
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 明治時代,先進諸国から一般家庭用の電気扇風機を導入するに当って,我が国メーカーは卓上型を選択した。既に欧米では主流であった天井扇については,気候・風土や家屋の構造上の相違によって,当初より我が国一般家庭に定着する兆しはなかった。まず,輸入された卓上型を手本に開発を進めた大企業の存在があった。それとは別に,江戸時代以来の職人技をもって独自の開発を試みた町工場がかなりあった。手動扇風機を含めたこれらの製品が明らかにしている職人の技術力が,「モノ作り日本」の潜在的な能力を表している。大正時代及び昭和の戦前期には,扇風機が富裕層を中心に普及を遂げる。ただし,普及当初は扇風機の貸付制度を利用する市民が多かった。これが,扇風機をステイタスシンボルとして機能させることとなり,富裕層の所有欲をますます掻き立て,さらには庶民にとっては「文化生活」を代表するあこがれの製品としての地位を占めることとなり,やがて家電ブームの牽引力となる。大正時代半ばには扇風機の基本形,すなわち「黒色,四枚羽根,ガード付き,首振り機能付き」が完成している。それとともに,当時の我が国扇風機のデザイン開発における特徴は,ガードが独立化を果たしたことである。当初は危険防止の機能上必要とされたガードが,やがてモデルチェンジをアピールする役割を担うこととなる。形態上は,エトラ扇(幅広三枚羽根)の採用を例外として,扇風機の大きな変化は見られない。機能的には細かな改良を頻繁に行い,扇風機から自然に近い風を引き出すかに意を砕いている。戦後の1,950年代までは,扇風機が一般市民層にも幅広く普及した時代に相当する。戦前と大きく変化したのは,その色彩についてである。戦前までは,「黒色」以外存在しなかったと言っても過言ではなかった。それが,進駐軍のデペンデントハウス導入を機に,一転してカラフルなものに変わった。一方,この時代機能的には首の伸縮が追加され,応接間では床上にフロア扇として,茶の間では畳の上で卓上扇として使用する,一台二役の「お座敷扇」が登場する。扇風機用ガードを独立させてデザイン開発を行うことは,我が国特有の現象であるように見受けられる。戦後には極めて多数のガードが意匠登録出願され,各社の扇風機のデザインにおけるバリエーション展開の豊富さや,モデルチェンジの頻度についての示唆を与えるものとなっている。 続きを見る
7.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Research on design evaluation system that pays attention to value of Kansei — 感性価値に着目したデザイン評価システム構築に関する研究
曽我部, 春香 ; Sogabe, Haruka
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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8.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A Study on the Classification of Moving Units for Facial Expression Robot : Proposal of Moving-Unit for Animatronics — 顔表情ロボットにおける駆動ユニットの分類に関する研究 : アニマトロニクスのためのムービングユニットの提案
權, 泰錫 ; Kwon, Taisuck
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究はアニマトロニクスという映画やテーマパークなどで用いられるエンターテイメント用のロボット(アニマトロニクス)の顔表情の表現に関する研究である。ここでは、人間のように、顔表情の表現のできるロボットを、数少ない駆動ユニットを効果的に制御することにより、豊かな顔表情を実現するために、MU(Moving Unit;ムービングユニット)とその記述方法を提案し、実際の人間の表情と物理的及び心理的な測定を通して有効性について考察したものである。本研究では既存のエンターテイメント型のロボットの制作•制御等に使われている駆動ユニットやその記述方法等について分析し、その結果、Action Unit(AU;人間表情の記述方法の最小単位)の適用や表情筋を含む筋肉名称、動作部位、動作の描写などが混用して用いられていることがわかった。さらに被験者たちにAUで示される17種の基本的な動作をさせ、白黒濃度差法(Intensity Differences Method)によって顔の可動域分析の実験を行い、筋肉の動きに連動関係があることや一つの筋肉でも、複数のAUの組み合わせによるものがあることがわかった。これらの結果を踏まえ、人間の表情研究に用いられるAUやFACSをロボットの顔表情の制御に関連させてロボットのアクチュエータ制御のために新たにMUを提案した。MUは機械的な筋肉構造を考慮し、アクチュエータの作動を基盤にしたアニマトロニクスの顔表情及び、動作表現のための基本ユニットである。MUは全部で26個のMUグループで構成されるが、主要な19個のMUグループを用いて、62個のAUの表現が可能である。ここで提案するMUの有効性を検証するため、被験者(Aモデル)とこの被験者の顔を用いて制作したアニマトロニクス(Bモデル)の可動域を比較分析し、この提案した19のMUグループが効果的に作動していることがわかった。Aモデル、Bモデル、Cモデル(MUを用いて製作した顔筋肉アニマトロニクス)の代表的な基本表情(無表情、喜び、悲しみ、怒り、嫌悪、驚き、恐れ)に対してSD法による印象評価を行った。印象評価において人間の表情にほぼ近い形で物理的なMU制御の妥当性は見られるが、細部にわたっての制御に対してより繊細なムービングポイントの配置やロボットの表情の持つ記号的な意味解釈について更なる検討が必要であることがわかった。 続きを見る
9.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 日本における鉄骨構造建築の導入と発展過程に関する研究 : 官営八幡製鐵所の創設期から昭和初期における工場建築の設計と建設 — A Study on the Introduction and Development process of the Steel structure building in Japan : On the Design and Construction of Factory building in The Imperial Steel Works, Japan (The Japanese Government-controlled Yawata Steel Works )from the Period of the Foundation to the early Showa era
開田, 一博 ; Hirakida, Kazuhiro
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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概要: 明治34年(1901)に官営八幡製鐵所が福岡県遠賀郡八幡村(現在の北九州市八幡東区)で操業を開始したが、操業に先立って、官営八幡製鐵所では本格的な大規模鉄骨工場が建設された。本研究は①官営八幡製鐵所の操業開始時における鉄骨工場建築の建設の背景、②ドイツから導入した鉄骨構造建設技術、③その後の欧米からの鉄骨構造設計技術の移入、そして④わが国の技術者が国産第一号の鉄骨工場建築を設計し発展させた過程を明らかにするものである。なお、研究対象とした年代は明治34年(1901)から昭和初期までである。明治34年(1901)の官営八幡製鐵所の操業に先立って竣工した工場建築には現存する尾倉修繕工場などがあり、わが国における本格的な大規模鉄骨構造建築としては最初のものであった。しかし明治34年(1901)当時はわが国では鉄骨構造の設計能力および経験が不足していたので、工場建築の設計は、当時ドイツの有数の企業であったGUTEHOFFNUNGSH?TTE(グーテホフヌンクスヒュッテ)社(以下、G・H・Hと言う)に依頼された。そしてわが国では、この工場の建設にはドイツ人技術者に建設現場での現地指導を受けながら、機械技術者が工場建築の建設を担当した。以降、官営八幡製鐵所の鋼材生産も順調に推移するに従って、八幡製鐵所の自家鋼材を使用し、自分たちの設計、すなわち、国産による工場建設の気運が高まり、明治42年(1909)に官営八幡製鐵所職員「景山齊」によって、国産第一号となる「ロール旋削工場」が竣工した。この工場建築設計者の「景山齊」は京都帝国大学理工科大学機械工学科を卒業して間もない日本人機械技術者であったことが注目されるが、国産第一号の工場誕生の背景には、大学における鋼構造設計技術教育の充実があったことがうかがわれる。具体的には、明治42年(1909)頃は京都帝国大学理工科大学土木工学科教授の日比忠彦などが「建築雑誌」へ鉄骨構造に関する論文を掲載し、わが国の鋼構造設計技術を大きく発展させた時期であった。国産第一号の「ロール旋削工場」が製鐵所内外に与えた影響は大きく、国内での設計が可能と認められ、軍の工廠建築の設計などを依頼されるまでに発展していった。その後、国内の鉄鋼需要の高まりに伴って、官営八幡製鐵所では拡張計画が進められ、大正5年(1916)には鋼構造設計技術者の不足を補うため、国内技術力の向上に連動して、民間の横河橋梁製作所から鋼構造設計技術を有した建築技術者の招聘を行った。その結果、製鐵所内の多くの工場建築の設計は機械技術者に代わって、民間から招聘された建築技術者によって行われるようになった。大正10年(1921)には民間から招聘された建築技術者は退社し、以後、官営八幡製鐵所における工場建築設計は、建築技術者から土木技術者に移り、昭和9年(1934)の日本製鐵株式会社の設立まで土木技術者による設計が続いた。以上のことから、わが国の鉄骨構造建築の発展に関して次のことが明らかになった。第一に、官営八幡製鐵所において、明治34年(1901)の操業開始に先立つG・H・H設計の工場建築は、わが国最初の本格的な大規模鉄骨構造建築の始まりであった。そしてこれらの工場から始まって、明治42年(1909)の国産第一号工場の誕生に至るまでの鉄骨構造工場建築に関する主導的役割は機械技術者であった。第二に、明治42年(1909)の国産第一号工場の設計者は機械技術者である「景山齊」であった。彼が設計した時期は京都帝国大学土木工学科教授「日比忠彦」が建築雑誌に、当時最新の鉄骨構造の設計技術を掲載した時期と一致する。さらに国産第一号工場の竣工が軍関係の工場建築設計に至ったという事実があり、製鐵所内の技術が国内技術へと広がったことを示している。第三に、大正5年(1916)になると、鉄骨構造建築の設計が民間建築技術者の招聘によって、建築技術者に委ねられることになった。これは民間技術の普及の場ともなり、以後の土木技術者が担当したことも含めて、わが国の鉄骨構造技術発展に大きく寄与した。以上、本研究によって、官営八幡製鐵所における日本の鉄骨構造建築の設計・建設技術が欧米から移入され日本に定着していった発展過程について詳細な知見が得られた。 続きを見る
10.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 我が国における中等建築教育の確立に関する基礎的研究 : 大正末、昭和初期の文部省内と建築学会の検討活動を通じて — A Study on the Establishment of Middle Level Education on Architecture in Japan : Through the Activities by the Ministry of Education and Architectural Institute of Japan, the Later Taisho-era and the Early Showa-era
松永, 文雄 ; Matsunaga, Fumio
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究は我が国の建築教育、特に中等教育がどのような過程で確立したかを明らかにするもので、その対象を大正末に行われた文部省内の建築教育に係る委員会と昭和初期に建築学会内に設置された「実業学校程度ノ標準教科書」編纂委員会の審議(過程と内容)に求め、ここでの議論(調査を含む)をとおして、個別科目の実態でなく、総体としての建築教育に求められる姿を明らかにするものである。第1章では、研究の目的と方法を示し、研究の独自性を説明するだけでなく、技術の発展と社会の変貌が、必然的に新しい教育システムを要求し、これが技術の普及であるとの見解を示した。第2章では、社会の要請に応えるためには先端技術は一般化する必要がある。本章では明治の初期から末に至るまに刊行された代表的な書籍を取り上げ、その発刊の意図を導き出した。研究目的は、文部省と建築学会内で総括的に取り組まれた建築教育のあり方が検討される前の状況を明らかにすることにある。第3章では、今日と異なる教育体制が、明治期から誕生していたことを踏まえて、義務教育以降の職業教育を中心とする学校制度の実態を明らかにした。そして本章の統計資料の分析によれば、実際のところは実務中心の教育が数の上では絶対的多数を占め、この実務教育の需要からも一定のレベルの教育を教授する方法(標準教授要綱や教科書)の整備が焦眉の急であったといえる。また、生徒数の絶対的な増加により、実業学校の改正が行われ、教員資格が、当初の「学士」レベルに加え「検定試験」合格者を含むことを明らかになった。この結果は、誰が何処でも何時でも一定の教育を教授できる教科書及び標準教授要綱の存在を必然としたことを指摘した。第4章では、建築学会が教科書(案)編纂作業に取り組む前の時点での文部省内で検討された実業教育の具体的内容を明らかにした。実業学校は、本来設置される地域条件と連携して産業・経済条件に貢献することが目的であった(明治32年の実業学校令)。しかしながら、余りにも区々な教育システムは、効率性と新しい知識の教授に不都合を生じ、根本的な見直しが行われた。これが、大正9年の実業学校令の改正であり、建築教育について言及すれば、職業教育から技術者に変貌した時期に一致する。本章では、文部省内の委員会の活動と文献資料を通じて、それまでの工業学校規程類の変遷から、建築学における様々な科目名が集約され、今日の科目につながる過程も明らかにした。第5章では、学理追求機関である建築学会が、実業学校程度の教科書を刊行するために編纂委員会を設置した背景とそのカリキュラムの内容と確立過程を明らかにした。建築学会が中等建築教育の改善に関与した功績は、以下のようにまとめられる。・委員会の作業をとおして多大な分野に及ぶ建築教育のコンセンサスが得られた。・この時期に建築学の基礎(科目の種類とそれぞれの内容)が学会関係者の合意のもとに確立された。・学会での審議は、中等教育における建築教育の対象を技能者(クラフトマン)から技術者(フォアマン)、別の言い方をすれば、木工科から建築科への変化を確実なものにした。第6章では、建築学会が編纂した「標準教科書」の内容に準拠した書籍の発刊状況と内容及び著者について明らかにした。発刊の時期は学会が案を建築雑誌に発表した翌年の昭和5年から始まるが、これらを紹介している「図書紹介」では、昭和13年まで存在していた。また、建築学会の教科書案に準拠したとの説明以外に、実業(工業)学校卒業検定試験、(実業)工業学校教員検定試験問題を例題としたものがあり、教科書の機能だけでなく受験参考書の役割も持たされていた。資格化と教育の関係はこの時代から始まっていた。最後に、本研究の成果を今日の建築教育と関連付ける。・総合的視点からの建築教育建築学会が提案した標準教科書は、実業学校を前提としているために、時間数において普通・専門科目のバランス、枠の決められた中での各専門科目の配置(開設時期と開設時問)を前提としていた。したがって個々の科目の内容のみならず、所謂ソフトからハードに及ぶ多様な建築専門分野を等しい尺度で計り、各科目のあり方を捉えた点・姿勢は参考にされるべきであろう。現在、建築士の受験資格要件で教育の見直しが迫っており、この際、本研究で扱ったように、少なくとも我が国の建築教育は如何にあるべきかという高所からの視点が求められる。・最新技術の普及化技術は一般化することにより社会貢献できる。この命題は建築においても然りといえる。本研究知見は、高等建築学あるいは技術を如何に中等レベルへ移行させるかが関係し、「高度な内容を平易に教授する」に集約できる。今後どのような展開、換言すれば、複雑化した建築学全体を俯瞰し、建築教育のレベルをきちんと体系化する必要がある。その体系の中から、中等・高等教育機関が教授すべき科目とその内容を整備するべきであろうと考える。 続きを見る
11.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of The mechanisms of adrenergic modulation of excitatory postsynaptic currents in pyramidal neurons of rat cerebral cortex — ラット大脳皮質錐体ニューロンの興奮性シナプス後電流に対するアドレナリン受容体の活性化を介する修飾
小嶋, 允郎 ; Kojima, Masao
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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概要: アドレナリン受容体アゴニストは,受容体サブタイプ固有の働きを介して大脳皮質における興奮伝播に対して相反する作用を及ぼすことが,光学計測による研究から明らかとなっている(Kobayashi et al., 2000)。しかし,これらの作用がどのような神経基盤によって実現されているかは,不明な点が多い。そこで本研究では,脳スライス標本を用いた電気生理学的手法によって,このメカニズムの一端を明らかにすることを目的とした。はじめに,興奮性ニューロンである錐体ニューロンから細胞内記録を行い,電気刺激によって誘発される興奮性シナプス後電位(eEPSPs)に対するノルアドレナリンとα1 アドレナリン受容体アゴニストであるphenylephrine,β アドレナリン受容体アゴニストであるisoproterenol の効果を調べた。その結果,ノルアドレナリンは,記録ニューロンがⅡ/ⅢあるいはⅤ層のいずれにあっても,eEPSPs の振幅を減少させ,同様の効果が phenylephrine の灌流投与によって観察された。一方,isoproterenol は,Ⅴ層に存在する錐体ニューロンで観察されるeEPSPs の振幅を有意に増大させたが,Ⅱ/Ⅲ層の錐体ニューロンから記録されるeEPSPs の振幅には影響を与えなかった。次に,大脳皮質Ⅴ層に存在する錐体ニューロンを対象にホールセル・パッチクランプ記録を行い,グルタミン酸作動性シナプスを介した興奮伝達に対して,phenylephrine とisoproterenol がどのように作用し,その作用点がどこに存在するかを調べた。頻回刺激(33 Hz,10 連矩形波)によって誘発されるα-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazole-propionic acid(AMPA)受容体を介した興奮性シナプス後電流(eEPSCs)に対して,phenylephrine はその振幅を抑制した。また,1 発目のeEPSCs における振幅の変動係数(coefficient of variation; 以下,CV)および1 発目の eEPSCs に対する2 発目のeEPSCs の振幅比(paired-pulse ratio; 以下,PPR)は,phenylephrineによって変化しなかった。一方,isoproterenol は,2 発目から10 発目のeEPSCs と比較して1 発目のeEPSCs の振幅を顕著に増大させ,その結果としてPPR を減少させた。また,isoproterenol は,1 発目のeEPSCs のCV を減少させた。以上の結果は,isoproterenol がシナプス前終末におけるglutamate の放出確率を上昇させる可能性が高いのに対して,phenylephrine はシナプス前終末に影響を及ぼす可能性が低いことを示唆するものである。その仮説を検証するために,微小興奮性シナプス後電流(miniature EPSCs; 以下,mEPSCs)に対するphenylephrine とisoproterenol の作用を調べた。Phenylephrine は,mEPSCs の頻度を変化させることなく振幅を抑制し,isoproterenol は,mEPSCs の振幅に影響を及ぼすことなくmEPSCs の頻度を増加させた。これらの結果は,phenylephrine がシナプス後膜のグルタミン酸受容体に作用してmEPSCs の振幅を減少させるのに対して,isoproterenol はシナプス前終末におけるglutamate の放出確率を上昇させる仮説を支持するものである。最後に,phenylephrine とisoproterenol のシナプス後膜に存在するグルタミン酸受容体に対する効果を調べた。その結果,isoproterenol の投与は,glutamate,AMPAおよびN-methyl-D-aspartate(NMDA)のパフ投与によって惹起される内向き電流を変化させないのに対して,phenylephrine は,これらいずれの内向き電流も抑制した。以上の結果は,phenylephrine がシナプス後膜上に存在するAMPA 受容体およびNMDA 受容体を介する興奮性シナプス伝達を減弱させるのに対して,isoproterenolはシナプス後膜上のグルタミン酸受容体には影響を及ぼさず,シナプス前終末からのglutamate 放出を促進することを示すものである。これら二つの異なった興奮性シナプス伝達の調節メカニズムは,大脳皮質のノルアドレナリンの要となる機能と考えられている信号―ノイズ(SN)比の向上に寄与している可能性がある。 続きを見る
12.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of functional MRIによるヒト第一次味覚野の機能局在解析 : 刺激装置の開発 — The development of a novel automated taste stimulus delivery system for fMRI studies on the human cortical segregation of taste
西岡(加美), 由紀子; Nishioka-Kami, Yukiko; 西岡, 由紀子 ... [ほか]
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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概要: 機能的MRI(functional MRI: fMRI)は、脳の血流変化を捕えることによって脳活動部位を画像化する手法であり、刺激によって異なる脳の賦活部位を検出することができる。しかし、味覚に関しては、MRI装置内に横たわる被験者の口腔内で味覚刺激を行うことが難しいこと、溶液の嚥下が頭部の動きを誘発して結果が不正確になること、味覚野は味覚刺激だけではなく様々な口腔の刺激によっても活動することなどの理由で、fMRIの実験は困難であった。そこで本研究では、新たに装置を開発することで上記の問題を解決し、ヒト脳における第一次味覚野を解析した。 味覚刺激装置は口腔内と口腔外の装置から構成し、口腔外装置はコンピュータ制御により一定の条件で液体を流し出せるように作製し、口腔外と口腔内の装置の間はチューブでつないだ。口腔内装置は、まず個々の被験者の下顎歯列に合わせたマウスピースを作製し、その切歯部に舌側面を開口した楕円柱を接着し、楕円柱の前面には口腔外装置からのチューブをつなげて使用した。口腔外装置から液体を流せば、その液体は楕円柱内を通過して、側面に接続したチューブから口腔外に排出されるようにした。これらの装置を用いれば、離れた場所から一定の条件で溶液を流すことができ、被験者が楕円柱内に舌を挿入すれば、そこに流れる溶液の味を感じるという原理である。 まず、装置の再現性を確かめるために、3人の成人被験者を対象にして実験を行った。実験デザインは、味溶液(0.5 mol/l ショ糖溶液)とコントロール(純水)を30サイクル繰り返すブロックデザインとし、同一の被験者に対して同じ実験を6ヶ月間隔で2度行った。その結果、再現性のある結果が得られ、3人の 3 共通脳活動領域は2回とも第一次味覚野内の近接した部位にみられ、第二次味覚野にはみられなかった。 次に、この装置を用いて、5人の成人被験者に同様の甘味刺激を与えて脳活動領域を解析した。それぞれの被験者では、第一次味覚野の複数の部位に脳活動領域がみられ、その部位や数は多様であった。そこで、5人に共通した脳活動領域を解析してみると、第一次味覚野の島・前頭弁蓋における領域が分離検出された。 本研究では、被験者の舌に味覚刺激を一定条件下で与えるシステムを開発し、これによりヒトの第一次味覚野における甘味刺激に対する脳活動領域を同定することができた。 続きを見る
13.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 変形性顎関節症と顎顔面形態および咀嚼筋活動の関連性について
松本, 龍介 ; Matsumoto, Ryusuke
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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14.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 新規フロアブルグラスアイオノマー系レジンの臨床応用に関する研究
中村, 紀彦 ; Nakamura, Norihiko
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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15.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 非接触型三次元形状計測装置を用いた下顎後方移動術による顔面軟組織の三次元的形状変化に関する研究
角町, 鎮男 ; Tsunomachi, Shizuo
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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16.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Establishment of the rat trigeminal denervation model by removal of the innervated muscles — 支配筋摘出術による三叉神経運動枝除神経モデルの創出
関, 善弘 ; Seki, Yoshihiro
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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概要: 緒言:近年、血管吻合を用いた再建術を行うことにより口腔外科領域における進行癌の治療が可能になったが、いまだ長期的な機能的再建(咀嚼、嚥下、構音)は困難である。その理由として、移植した筋皮弁に適切な神経支配が再生されないことが挙げられる。これを克服するためには末梢レベルにおける軸索の再生を図るとともに、中枢レベルにおける運動神経細胞死を防ぐことが必要である。そこで本研究では第一に、成体ラット三叉神経運動枝除神経モデルを作製し、免疫組織化学染色法を用いて、除神経後の三叉神経運動核の病理学的変化を解析し、三叉神経運動核の変性過程および保護応答について検討した。また、生体の脳内への遺伝子導入や薬剤送達のためにさまざまな方法が開発されているが、これらの手法には、標的細胞に特異的な送達が困難であることや、侵襲度の高い外科手術を要するという短所があり、新たな手法の開発が望まれている。近年、ミクログリアを血中投与すると血液脳関門を破壊せずに脳特異的に実質内に到達することが報告されており、さまざまな脳疾患の治療につながる可能性が示されている。そのため、本研究では第二に、新しい細胞治療の試みとしてミクログリアの細胞株を樹立し、その細胞生物学的性状について検討した。方法と結果: 雌成体ラット(体重:200 g-400 g)の左咬筋および側頭筋を摘出後、灌流固定し、三叉神経運動核の細胞病理学的変化を経時的に検索した。術後3日目で三叉神経運動核の神経細胞においてオートファジーのマーカーであるRab24 の発現亢進を認め、神経細胞周囲にはミクログリアの集簇を強く認めた。術後4週目をピークにアストロサイトの反応を認め、神経細胞におけるheatshock protein 27(HSP27)の発現が亢進していた。術後8 週目で傷害側三叉神経運動核の萎縮を認めたが、神経細胞にcentral chromatolysis やアポトーシスは観察されず、細胞死は明らかでなかった。同時期にsynaptophysin に対する免疫染色を施行したところ、傷害側三叉神経運動核に発現低下を認めたことから樹状突起およびシナプスに変性が起きていると考えられた。次に、ミクログリア細胞株を樹立するため、生後3 日のラットの脳室下帯から初代混合培養細胞を準備し、SV40 large T 抗原遺伝子を導入して不死化させた。増殖した細胞を剥離・分散し、Aclar film を浸漬してこれに付着した細胞を分離し、培養を継続した。さらに生体内での観察のために、これらの細胞にgreenfluorescent protein (GFP)およびDsRed 遺伝子を導入し、高発現細胞をクローニングすることによって蛍光標識を行った。細胞の純度を検定するために、形態学的および免疫細胞化学的に検討した。分離した細胞はほぼ均一な形態を示し、円形ないし多極性の細胞質内に多数の空胞がみられるとともに、よく発達したラッフリングメンブレンを有し、ミクログリアの形態的な特徴を示した。免疫組織学的にはほぼ全ての細胞がSV40large T 抗原およびミクログリアのマーカーであるionized calcium-binding adaptermolecule-1(Iba-1)、CD11b、MHC class I、CD45 に陽性であったが、CD68 およびアストロサイトのマーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)とglutamate aspartate transporter (GLAST)には陰性であった。考察と展望:本研究で得られた結果より、本実験モデルは手術操作による末梢7神経損傷の中枢レベルへの影響の解析に有用であり、これまでほとんど知見のない脳幹脳神経核の潜在的な再生能についての研究の材料として、将来の再生医療の開発に寄与しうると考えられた。また、我々が樹立したラットミクログリア細胞株は、脳病変部位に特定遺伝子を限局して発現させるデリバリーシステムの開発、および多様な脳疾患の治療の開発に寄与し得る可能性がある。今後は、ラット三叉神経運動枝除神経モデルを含む、さまざまな脳疾患モデル動物への適用を検討していく予定である。 続きを見る
17.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Roles for cathepsin E and RANKL-RANK signaling system in tumor growth and invasion — 癌の増殖・浸潤におけるカテプシンEおよびRANKL-RANKシグナル伝達系の役割
進, 正史 ; Shin, Masashi
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究は癌の増殖・浸潤機構におけるカテプシンE およびRANKL-RANK シグナルの役割について追究したもので2つの章からなる。第1章では、アスパラギン酸プロテアーゼの一つであるカテプシンE の癌細胞における役割をヒト前立腺癌ALVA101 細胞を用いて解析した。ヒトカテプシンE 遺伝子をALVA101 細胞に導入した際の性状変化を調べた結果、in vitro での細胞系では、導入細胞と導入していない細胞の間に増殖能に差異が認められないものの、それらをヌードマウスの皮下に移植したin vivo の条件下では、カテプシンE 遺伝子を導入した癌細胞の方が有意に増殖が抑制された。抗体アレイ解析から、カテプシンE 遺伝子を導入した癌細胞から成る腫瘍は、mock 導入癌細胞から成る腫瘍に比べて、エンドスタチンを含む各種血管新生抑制分子が増加していることが示された。エンドスタチンはタイプXVIII コラーゲンから産生される強力な内在性血管新生抑制因子で、カテプシンE はタイプXVIII コラーゲンから特異的にエンドスタチンを産生することがin vitro 系で証明された。組織学的には、カテプシンE 遺伝子導入癌細胞から成る腫瘍は分葉状の形態を呈しており、その周囲には肥厚した皮膚および皮下組織と発達した線維性被膜が顕著であり、これらによって腫瘍の増大が抑制されている様子が伺えた。また、腫瘍周辺部にマクロファージの浸潤増加と活性化亢進が認められた。さらにカテプシンE 遺伝子導入癌細胞は、対照細胞に比べてマクロファージの遊走を強く誘導することがわかった。以上の結果から、癌細胞に発現させたカテプシンE は、血管新生抑制と宿主免疫応答増強によって腫瘍増殖を抑制することがわかった。第2章では、口腔扁平上皮癌細胞の顎骨浸潤とRANKL-RANK シグナルシステムとの関連を検討した。口腔扁平上皮癌は舌や歯肉に好発するだけでなく、口腔底、口唇や口蓋にも発生し、進行すると顎骨へ浸潤することが多く、顎骨浸潤はその予後を規定する重要な因子となっている。口腔癌の顎骨浸潤の病理組織像を見ると、顎骨破壊部の最前線には多数の破骨細胞が存在し、活発に骨を吸収している像が見えることから、癌細胞が破骨細胞の活性化を誘導することで顎骨を吸収し、さらに深部へと浸潤することが示唆される。そこで、破骨細胞形成因子であるreceptor activator of NF-κB ligand (RANKL)とその受容体RANKからなるRANKL-RANKシステムと口腔扁平上皮癌による顎骨浸潤との関連を検討した。口腔扁平上皮癌患者の腫瘍組織はRANK を発現しており、さらにヒト口腔扁平上皮癌細胞株BHY 細胞とB88 細胞はRANK を発現し、これらの細胞をRANKL で刺激するとRANK の下流シグナルであるNF-κB やERK の活性化が認められた。in vitro においてRANKL がB88 細胞の遊走能を亢進し、この作用はRANKL とRANK の結合を妨げるデコイ受容体osteoprotegerin (OPG)を添加することで抑制された。さらに、ヌードマウスの咬筋にB88 細胞を移植すると腫瘍の増大に伴って顎骨に腫瘍細胞が浸潤したが、OPG の局所投与によりB88 細胞の顎骨浸潤が抑制された。これらの結果から、OPG の口腔扁平上皮癌顎骨浸潤の治療薬としての有用性が示唆された。 続きを見る
18.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 抗菌性蛋白質リゾチーム結合型抗菌性歯科材料の開発
辻, 礼 ; Tsuji, Rei
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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19.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Development of Tissue Conditioner Capable of Binding with Antimicrobial Protein Lactoferrin — 抗菌性蛋白質ラクトフェリン結合能を有するティッシュコンディショナーの開発
山本, 大吾 ; Yamamoto, Daigo
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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20.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of マウスおよびヒトうま味受容体に関する行動学的および分子遺伝学的研究
城﨑, 慎也 ; Shirosaki, Shinya
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(歯学)
学位種別: 課程博士
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概要: うま味は、グルタミン酸Na(mono sodium glutamate: MSG)などが受容体を刺激することにより起こる基本味のひとつである。受容体候補として、現在までにG-タンパク質結合型のT1r1/T1r3、mGluRs(taste-mGluR4、brain-mGluR4、 taste-mGluR1、brain-mGluR1)などが提唱されているがその機能はまだ明確ではない。T1r3-KOマウスを用いた研究では、うま味応答は消失するという報告と、低下するが消失はしないという報告に分かれており、前者はうま味受容体がT1r1/T1r3のみであると主張し、後者は複数のうま味受容体の存在を主張している。そこで、本研究では、まず、1)T1r3-KOマウスのうま味応答が残存するか、もし残存すればその応答がmGluRsに由来しているかどうかについて、条件付け味覚嫌悪学習による行動学的実験により調べた。さらに、2)ヒトにおけるT1Rsの関与について、うま味感受性とT1rsの遺伝子多型性との連関と、アミノ酸変異体の機能解析について、ヒト腎性胚細胞を用いたT1rs遺伝子導入味細胞再構築系を用い解析した。 その結果、1)T1r3-KOマウスもうま味物質に対する条件付け味覚嫌悪が獲得すること、また、うま味物質にmGluR1、mGluR4のアンタゴニストを混合させると嫌悪応答(リック数の低下)が減弱することが明らかとなり、T1r1/T1r3以外にmGluR1、mGluR4がうま味受容体として機能している可能性が示唆された。2)ヒトの実験では、T1r1では、39.2%のアレル頻度で起こるアミノ酸変異(T1r1-Thr372Ala)が、T1r3では9.0%の頻度のアミノ酸変異(T1r3-Arg757Cys)がヒトうま味感受性に影響する可能性が示唆された。またその機能解析の結果から、T1r1-372Thr変異体は-372Alaより感受性の高いうま味受容体を形成すること、T1r3-757Cys変異体は-757Argより感受性の低い受容体を形成することが明らかとなり、ヒトT1r1/T1r3はうま味受容体として機能し、そのアミノ酸変異はうま味感受性に影響することが示唆された。 続きを見る
21.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A Study on the Securing of Safety and Sanitation in Bathing with Improved Comfort : With Particular Regard to Legionnaires' Disease — 入浴における安全・衛生の確保と快適性の向上に関する研究 : 特にレジオネラ症について
赤井, 仁志 ; Akai, Hitoshi
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 対策を採っても後の絶つことのないレジオネラ症に対して、快適性の向上を目指して、人に対する安全と衛生の確保について多角的に研究した。第1章では、入浴施設での安全・衛生と快適性に関する経緯・動向と課題について述べた。入浴施設でのレジオネラ症集団発生前後の法令、条例と行政の指導を調査した。これらの課題について言及すると共に、今後の衛生行政の在り方を考えた。この他、海外の基準等にも触れた。第2章では、入浴施設の実態調査から見る課題について述べた。2004年度と05年度に実施した社会福祉施設の実態調査を踏まえて、課題と今後の在り方等について触れた。塩素濃度の保持時間の国の基準は、2000年だと「1日2時間」であったが、02年に「通常」と変更になった。この変更の裏付けとなった行政調査と報告も詳述した。第3章では、浴槽での消毒剤の濃度管理による安全性と快適性について述べた。レジオネラ症の防止には、塩素濃度の保持が不可欠である。有効に殺菌するためには、塩素濃度の中でも遊離塩素濃度を正確に測定できることが重要である。しかし飲料水の遊離塩素濃度測定の基準はあっても、有機物を多く含む浴槽水の測定方法は確立されていなかった。そこで浴槽水の遊離残留塩素濃度の測定には、SBT試薬の方が適していることの論証を行った。また温泉水の殺菌に有効な二酸化塩素の濃度測定方法についても検証した。この他、浴槽水での塩素濃度の時系列変化、浴槽内での塩素濃度の分布等の実態調査結果から、快適性をできるだけ損なうことなく安全と衛生を保持するための塩素濃度管理の課題等を述べた。第4章では、入浴等による消毒剤の消失と入浴による汚濁について述べた。消毒剤の消失の中で、ヒトの入浴や気泡浴・超音波浴、ろ過器通過時によるものの実験して、解析して定量化をはかった。また入浴による消毒剤の消失実験に併せて、浴槽水の汚濁も同時に測定した。入浴環境の快適性を向上させるための浴槽水の必要換水量などについても述べた。第5章では、温泉の消毒と快適性について述べた。温泉の泉質の違いによって、適応する消毒剤が異なることが認められた。泉質にあった消毒剤を選定することは、温泉泉質の変化も少ないために、本来、温泉水の持つ「癒し」にとっても大切である。実際に温泉水に消毒剤を添加して、消毒剤の残留率の実験やレジオネラ属菌の不活化の実験を行ったので、結果と考察を述べた。 続きを見る
22.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Thermal strain and its alleviation in workers wearing firefighting protective clothing — 消防用防火服着用時の暑熱ストレスとその軽減法に関する研究
周, 金枚 ; Chin-Mei, Chou
学位授与年度: 2008
学位授与大学: 九州大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: The objectives of this study were to investigate the relationship between clothing property factors and physiological effects, and techniques of alleviating physiological strain and enhancement of performance of firefighters on physiological and subjective responses while wearing protective clothing (PC). The studies measured rectal temperature (Tre), mean skin temperature (T(-)sk,), heart rate, body weight loss and subjective responses. The first study examined the relationships between clothing properties and physiological effects on physiological/subjective responses for four types of PC, and a light work garment. Eight male firefighters performed a bicycle ergometer exercise at 30%, 45% and 60% of VO2peak for 10 minutes each at 30℃. Clothing surfaces coated with aluminized sliver (PC2) compared to other PCs were almost the same or lower in terms of clothing weight and thermal insulation (clo-value). The latent heat resistance of PC2 was the greatest. Physiological and subjective heat strain in PC2 was greater than for the other PCs. The physiological strain of firefighting protective clothing, shown in the difference between Tre and T(-)sk, depends more upon resistance to latent heat than clothing weight and clo-value, suggesting that latent heat resistance is more closely related than clothing weight or clo-value to the physiological effects. The second study examined the effectiveness of ice-packs (ICE) and phase change material (PCM) cooling devices in reducing physiological load based on subjects’ physiological/subjective responses while exercising on an ergometer and wearing protective clothing at 30℃. Eight non-firefighter subjects participated in four exposures: control (CON), ICE, PCM at 5℃ (PCM[5]) and 20℃ (PCM[20]), rested for 10 minutes, 30 minutes-exercise at 55%VO2peak ,and had a 10 minute-recovery period. An increase in Tre for PCM(5) and PCM(20) which was less than that for CON and ICE was observed. The increases in mean Tsk were depressed using cooling devices, and the cooling effects of PCMs were greater than ICE. The larger surface cooling area, higher melting temperature and softer material of PCMs, which reduce absorption capacity, caused a decrease in Tre and mean Tsk for PCM(5) and PCM(20) which was more than that for CON and ICE. Furthermore, PCM(20) does not require refrigeration. PCM(20) is more effective than other cooling devices in reducing physiological load at 30°C. The final study examined the effects of wearing trousers/shorts under firefighting protective clothing with PCMs on physiological/subjective responses with exercise on a treadmill at 4.8 km・h-1 with a 3% gradient at 30oC for 30 minutes (the average Japanese actual firefighting task time) and the mobility of firefighters. Performance was improved while wearing shorts under protective clothing with PCMs, although no significant difference in reducing thermal stress while wearing shorts instead of trousers was revealed. 続きを見る
23.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 顔画像処理による個人識別に関する研究
新谷, 洋人 ; Shingai, Hiroto
学位授与年度: 1996
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 人が顔を見て如何なる認識あるいは理解をしているかは、認知科学の立場から盛んに取り上げられている。人は顔を見てそれが誰であるかを識別し、またその表情から何を考えているかまで推察することができる。認知科学は、このような顔の持つコミュニケーション機能が、脳において如何に行われているかを解明しようとするものである。  顔を視覚パターンとして捉え、その分類(個人識別)を如何に行っているかだけに限って考えても、これは興味深い研究対象である。それは、人が顔を見て個人識別を行うことは、相互に非常によく似た顔という等質なパターンを、個人の独自性を元に分類するという問題だからである。例えば、鼻は中央に1つであるが、その大小・高さ・幅・顔の中での位置などが個人の独自性であり、目は左右に2つであるが、その大小・間隔・顔の中での位置などが個人の独自性である。しかし、一重瞼を二重に整形したり、年齢を重ねしわが増えたり、あるいは髪型が変っても、その独自性は大きく損なわれることはなく、人は個人を識別することが可能であると言われている。すなわち、人が個人を識別するとき、視覚パターンをある意味で概略化し、個人の独自性を巧妙に抽出あるいは強調する過程を経て行っていると考えられる。  脳における視覚パターンの認識においては、対象となるパターンの外形的な形状・輪郭など一次元情報に基づくもの、テクスチャなど二次元情報に基づくもの、さらには奥行きをも含めた三次元情報に基づくものなどが、複合的に行なわれていると考えられる。計算機による顔画像の認識処理においても、横顔の輪郭線形状など一次元情報に基づくもの、正面顔画像など二次元情報に基づくものなど、それぞれは簡単であるが、いくつかの処理を統合することにより単独の場合よりも認識率が向上することが期待できる。  本論文は、人物の横顔と正面顔画像をそれぞれ処理し、かつそれらを統合することによる個人識別に関する研究をまとめたものであり、6章から構成されている。  第1章では、本研究の背景と扱っている問題を示し、あわせて論文の概要について述べている。  第2章では、横顔による個人識別について、横顔輪郭線のP形フーリエ記述子を特徴量とする個人識別法を提案している。P形フーリエ記述子では、輪郭線の概略形状の情報がその低域成分に良く集約されるが、低域成分だけを用いることにより、誤認識の原因となる微細な形状の違いを特徴から排除することが可能である。このP形フーリエ記述子を求めるためには、輪郭線の等辺多角形近似が前提となる。これを、ディジタル曲線上で実行する際には、画素数に基づいて距離を測るという簡便法を用いることがこれまで一般的であり、種々の不都合な減少が起きる。本章では、まずユークリッド距離の意味で厳密に等辺なる方法を提案し、その有効性を実験により示した。次に、この等辺多角形近似法を用いて求めた横顔輪郭線のP形フーリエ記述子のパワースペクトルを特徴とする個人識別の実験を行った。75人の横顔画像を辞書パターンとして用い、約85%の識別率を得た。  第3章では、正面顔による識別について、正面顔画像をプロック化して得られるモザイク画像の濃度値を特徴とする正面顔画像による個人識別法を提案している。目・鼻・口などの個々の器官の形状や位置関係を特徴パラメータとする方法では、表情の違いによりこれらの特徴パラメータが受ける影響は大きく、誤認識は避けられない。また、髪型の違いによって正面顔画像から受ける印象は異なるが、個人の独自性として髪型は本質的ではない。ここでは、これら髪の部分は除き、表情も通常の証明写真を撮影するときのようなものに限った。このような写真に対して、両目を基準点とし、正面顔画像の中心部分を照合領域として切り出した上で、矩形ブロックによるモザイク化を行い、各矩形ブロック内の濃度平均値を特徴とする方法を提案した。この方法による75人の正面顔画像を辞書パターンとして用いた個人識別の実験では、約70%の識別率を得た。  第4章では、横顔画像と正面顔画像の情報を統合して個人識別する方法を提案している。横顔画像による個人識別と正面顔画像による個人識別は、それぞれ独立した特徴を用いている。従って、横顔画像による特徴と正面顔画像による特徴とを統合して識別することにより、識別率の向上が図られることが期待できる。実際、横顔画像と正面顔画像の情報を統合して用いた個人識別の実験では、約95%の識別率を得た。  第5章では、顔画像による個人識別への応用を目的として、複数の特徴を統合するニューラルネットの構成について考察を加え、その上で、ニューラルネットの本質的な機能の1つであるクラスタリング機能について調べている。そこでは同次元層状ニューラルネットを考察の対象とし、いくつかの有用な性質を明かにした。また、その具体的応用としてノイズの加わった文字のクラスタリングの問題をとりあげ、顔画像処理への応用の可能性を示唆した。  第6章では、結論を述べ今後の課題について論ずる。 続きを見る
24.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Lagrangeの運動方程式を用いた波動伝搬理論による固体音の建物内伝搬予測に関する研究
縄岡, 好人 ; Nawaoka, Yoshito
学位授与年度: 1996
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 近年、人口の都市への集中はますます加速され、都市部においては鉄道や地下鉄網の整備による輸送力の増強が図られてきた。また、音楽ホールや研究施設などに対するニーズも大きく、これらの文化施設の建設も盛んとなったが、土地の高度有効利用や交通の利便性のために、静寂が強く必要とされるこれらの諸施設が地下鉄や鉄道に近接して建設されることも増えてきている。鉄道や地下鉄は加振力として大きな振動源であるため、電車から発生した振動が建物内に伝搬して生じる固体音問題が固体音に関する新しい問題としてクローズアップされるようになってきた。建物を設計するに当たっては、これらの振動および固体音の影響を事前に予測し、必要であれば適切な防音・防振対策を検討ずる必要がある。  固体音の建物内伝搬性状に関する既往の予測手法は、実験式による予測、統計的エネルギー解析法による予測、波動伝搬理論による予測、多質点系モデルによる予測、FEMによる予測がある。  実験式による予測は、計算が容易であることから、実務に最も良く用いられている。しかし、幾何学的拡散による減衰を表す定数と材料減衰他による過剰減衰を表す量が、建物構造や振動の建物への入力の仕方の違いによって、決定方法がまちまちとなっているのが現状である。また、この手法では、振動源の大きさや振動の建物への入力形態によっては建物内の減衰が距離に依存しない事例や、建物全体のモードや端部の反射による影響は表すことができない。  統計的エネルギー解析法(SEA法)は、船舶などの大型鋼構造物における固体音解析に対しては実用化も行われている。しかし、建築構造物は鋼構造物に比較して減衰が大きく要素間の結合も強いので拡散振動場となりにくいことから、SEA法の適用例は少ない。さらに、モード数が少ない周波数領域では精度が悪くなり、一般的には50Hz以下は適用範囲外となる。  波動伝搬理論による予測法は、要素交差部における変位、傾き、力およびモーメントなど系の個々の成分を別々に考える必要があり、建物全体へ適用していくときには複雑さが増してくるため、実建物に対する適用検討例は未だ発表されていない。さらに、この波動伝搬理論による予測法は、板構造について現在のところ波動の入射条件や共振状態が明確に記述されていないので、複雑な実建物へ適用し精度の良い解を得ることは難しいと思われる。  多質点系モデルによる予測は、建物全体のモデル化が可能であり計算時間も比較的少ない利点があるが、計算可能な周波数範囲が建物モデルのモード数によって決定され、モデル最高次の固有振動数以上の周波数範囲は適用外となる。一般的には、I00Hz以下が適用範囲といえるであろう。  FEMによる予測は、地震応答解析などの構造分野で良く用いられており、また体感振動(50Hz以下の周波数)領域における鉄道振動の建物内伝搬予測に対する適用例はあるが、固体音領域の振動を対象とするには要素数が膨大となるため、現在の計算機の脳力では、建物全体を三次元の立体モデルとして計算を行うことは不可能に近い。  以上、固体音の建物内伝搬性状に関する既往の予測手法について見てきたが、現時点では、地下鉄や鉄道による固体音を対象とする周波数領域(オクタープバンド中心周波数で31.5?250Hz)へ適用し、精度の良い解を得ることができる予測手法は整っておらず、このことがこれらの固体音制御を困難にしている大きな要因となっている。  本研究は、地下鉄や鉄道による固体音の建物内伝搬性状に関して、少ない要素数で高精度な解が求められる手法を開発し、これを実用化することを目的としている。 第1章においては、本研究の背景および目的について説明し、地下鉄や鉄道による固体音を対象とする周波数領域(オクターブバンド中心周波数で31.5?250Hz)へ適用し精度の良い解を得ることができる予測手法の確立が必要なことを記述している。  第2章においては、数値計算手法を導く際の基礎事項として、棒要素および平板要素内を伝搬する擬似縦波、曲げ波、剪断波、ねじれ波について説明し、それらの波動方程式を導いている。また、定式化の基礎となるLagrangeの運動方程式について解説を行っている。  第3章においては、棒要素と平板要素中を伝搬する波動について、建物を各要素の組合せでモデル化する場合に都合の良い境界条件を規定し、境界条件を満足する波動方程式の解を求めている。そして、その解とLagrangeの運動方程式を用いて波動に関する運動方程式を導いている。  第4章においては、第3章で求めた運動方程式を建物全体モデルヘ適用していく場合に必要となる座標変換と各要素の集合としての運動方程式について説明している。 第5章においては、建物模型による予測手法の検証を行っている。  検証は、先ず6層建物の骨組み構造模型について、模型実験結果と計算結果の比較を行っている。その際に、模型実験に必要となる模型相似則および材料の物性値、特に材料の損失係数の測定方法について説明を加えている。次に、11層建物の骨組み構造模型について模型実験結果と計算結果の比較を行い、オクターブバンド幅で予測結果を評価する場合には、入力波形の位相は無視しても実務的な範囲での精度は確保できる可能性があることを示した。さらに、6層の床版付き骨組み構造模型について予測手法の検証を行い、予測手法が有用であることを示している。  第6章においては、鉄骨鉄筋コンクリート造の実建物と鉄骨造の実建物における地下鉄固体音の伝搬性状予測へ本手法を適用し、予測手法が実用性を有することを検証している。  第7章においては、本研究の内容と得られた知見をまとめ、残れさた問題点を列挙し、今後の研究の展望について述べている。 続きを見る
25.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 日本近代都市における歓楽街の成立と展開に関する史的研究
大槻, 洋二 ; Otsuki, Youji
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要:  近年、日本の近代都市史研究は様々な分野から多様な研究が提出される中で、とりわけ都市空間を問題の中心に据えた分析態度が共有され、近代都市施設や近代都市の制度、規範などを通して、近代都市の空間構造を主に普遍性に重点を置いて捉える「都市を支えるもの」と、都市空間を生きる人々の生活意識のありようを基点に、近代都市の空間構造を主に固有性に重点を置いて追及する「生きられた都市空間」の2点の視座を持つに至った。このうち、建築史学の立場にたつ日本近代都市史は、「都市を支えるもの」への研究に偏在し、その背景として、周辺領域と交流を深めつつ一連の体系をなす近代以前の日本都市史の流れが近代になると途絶え、一転して西洋の建築・都市思想の受容とその変容の歴史としてのみ捉えられるようになる点が挙げられる。今後、この点を解消するためには、都市を計画する主体からの視点を一旦離れ、都市空間を生きる人々の総体として物理的な都市空間そのものを捉え直す作業が求められる。  以上の問題意識を踏まえ、日本の比較的大規模な近代都市に多数存在した自律的形成をみた歓楽街に注目する。なお「盛り場」は、各時代を通じて存在する賑わいの場を全て含む広範な概念であり、歓楽街は近代に見られる「盛り場」の在り方の一つと考えられる。また、歓楽街の自律的形成の実態を解明する為には、これまで建築史の立場からの近代都市史研究に見られた計画理念の抽出とその顛末の分析ではなく、歓楽街の自律的形成から展開にかけての過程及び空間構造を、物理的な都市空間そのものに即して解明する方法をとる必要があり、先に指摘した建築史の立場からの近代都市史研究の問題点を解消する上で、妥当な研究対象及び方法である。  この結果、本研究の目的は、日本近代における自律的形成を見た歓楽街を対象に、その物理的な都市空間の成立から展開までを考察し、歓楽街の都市空間そのものが持つ特質を明かにすることにより、計画原理では捉え得なかった新たな近代都市空間像構築の一助とすることにある。  本論は2編で構成されている。第1編と第2編はそれぞれひとつの歓楽街を対象に、各編の前半、すなわち第1章、第3章では歓楽街成立の前提及び要因を、また後半、すなわち第2章、第4章では歓楽街の実態とその変容を中心に、空間に即して詳細な検討を加えた。  このうち、第1編では、近代になって主要な都市空間が形成された都市における歓楽街の事例として、神戸の新開地の採り上げた。第1章では、新開地を取り巻く緒事象に注目し、地図史料を用いた空間分析や文献史料を用いた空間の成立経緯から、新開地の空間形成要因と歓楽街成立の契機を求めた。第2章では、歓楽街としての新開地の空間構造に注目し、地図史料を中心に空間構成や諸施設の配置構成などから、新開地の歓楽街空間の実態とその変容を明かにした。  第2編では、伝統都市の近代における歓楽街の事例として、京都の新京極を採り上げた。第3章では、新京極の起源である寺町の寺社境内の歓楽的な場に注目し、この空間構成の復元作業を行い、その起源及び実態を解明し、歓楽街成立の前提を探った。第4章では、歓楽街としての新京極の空間構造に注目し、第3章の成果との比較の視点を持ちつつ、地図史料を中心に空間構成や諸施設の配置構成などから、新京極の歓楽街空間の実態とその変容を明らかにした。  結論では、第1編、第2編の成果を用いて、歓楽街の特質を明らかにし、本研究の総括を行った。まず、新開地と新京極の特質をその差異と共通点に注目しつつ整理した後、歓楽街成立における空間的成立条件として、既成の都市空間の内部に位置し、周囲の都市空間とは異質な性格を帯び、かつ自律的に成立した点(近代都市構造における空隙性)、1本の主街路と複数の従街路によって極めて指向性の強い都市空間構成をとる点(線形の都市空間)、線形の都市空間の両端において都市機能上の重要な役割を担う都市空間、都市施設と直接的に結合している点(複数の都市機能上の核の結合)の3点を指摘した。続いて、歓楽街の時間的変遷の傾向として、諸施設が主街路に直面し、かつ隙間無く連続して建ち並び、かつ景観統一が行われる傾向が見られる点(主街路に沿った『街』化)、逆に主街路から歓楽的な機能を持つ施設は漸減し、ひいては小売施設を中心とする商店街へと変質する動きが存在する点(脱歓楽街化)の2点を指摘した。  以上の結果、歓楽街はその母都市の近代化過程によって生起された「空隙性」と「核の結合」による「線形の都市空間構成」を基盤に成立するが、「『街』化」という傾向を示しつつ都市空間として充実すると同時に、「脱歓楽街化」という歓楽機能が漸減する傾向が見られた。 続きを見る
26.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 運動後の血中乳酸の消失に及ぼす高濃度酸素呼吸の影響に関する研究
前田, 享史 ; Maeda, Takafumi
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本論文の目的は、第一に運動後の回復処方として、高濃度酸素ガス呼吸の有効性を血中乳酸の消失に着目して検証すること、第二に血中乳酸の消失に対してさらに効果的な回復処方として、高濃度酸素ガス呼吸とクーリングダウンを組み合わせることを提案し、その有効性を検証することであった。以下に各章の要約を述べ、最後に本論文で得られた、高濃度酸素ガス呼吸による回復処方、高濃度酸素呼吸とクーリングダウンの組み合わせによる回復処方に関する知見をまとめ、さらに今後の課題を付け加えた。  第I章では、本研究の背景について言及し、健康的な生活を維持していくための一つの要因として運動後の回復に着目し、運動後の回復の評価として血中乳酸を用いることの意義について説明した。さらに、従来行われている回復処方について説明し、また、高濃度酸素呼吸による回復処方で統一した結果の得られていない原因について、血中乳酸の消失に及ぼす要因から運動能力と運動時の運動強度が関与していると推察した。また、高濃度酸素ガス呼吸とクーリングダウンの組み合わせの回復処方において、血中乳酸の消失をより促進する可能性について述べた。  第II章では、第?章で推察した運動後の高濃度酸素呼吸の血中乳酸消失への影響に関与する要因について検証するために、日頃の運動量及び持久的運動能力の指標である無酸素性作業閾値(AT)の違いによって、被験者のグループ分けを行い実験検討した。運動能力の高いグループ(AT≒60%VO2max)と低いグループ(AT≒50%VO2max)の、二つの運動能力グループにおいて、乳酸消失に及ぼす酸素呼吸の有効性を実証した。また、運動能力の高いグループでは60%O2濃度以上の呼吸条件で、運動能力の低いグループでは30%O2呼吸時で血中乳酸の有意な低下が見られたという結果から、その有効性には運動能力が関与している可能性を示した。しかし、運動終了時の乳酸値レベルが両運動能力グループで異なるという問題点を残した。  第?章では、第I章で推察した運動後の高濃度酸素呼吸の血中乳酸消失への影響に関与する要因について検証するために、第II章で考慮した運動能力に加えて運動的の運動強度を考慮して実験検討した。また、この運動強度は、第?章において血中乳酸消失に関与していると考えられた血流量や、第II章において考慮する必要があると考えられた運動終了時の乳酸値レベルとも関連しており、この事も含めて検討した。その結果、運動能力の高いグループにおいては、第II章同様、60%O2濃度以上の呼吸条件において血中乳酸の有意な低下が見られたが、運動能力の低いグループにおいては、血中乳酸の低下に有効な酸素濃度は認められなかった。この事から、運動後の高濃度酸素呼吸が血中乳酸濃度に及ぼす効果には、運動能力が関与していると考えられた。また、第II章の結果と第?章の結果をまとめて分析することにより、運動能力の高いグループでは、約70%?80%VO2maxに相当する運動時の運動強度では、その強度に関わらず60%O2濃度以上の呼吸条件において血中乳酸の消失に有効であった。一方、運動能力の低いグループでは、約60%?70%VO2maxの範囲の運動強度では、運動時の運動強度によって酸素呼吸の効果が異なり、約65%VO2max以上の強度において、30%O2、40%O2の呼吸が血中乳酸の消失に有効であり、約65%VO2max以下の強度では、酸素呼吸の効果は見られなかった。この事から、運動後の高濃度酸素ガス呼吸は、血中乳酸の消失に対して有効な回復処方であることが実証できた。また、その効果には運動能力と運動時の運動強度が関与することを実証した。  第?章では、血中乳酸の消失をさらに促進するような回復処方として、クーリングダウンと高濃度酸素呼吸という二つの回復処方の組み合わせによる効果について、運動能力の違いも考慮して実験検討した。その結果、運動能力や酸素濃度の違いに関係なく、安静回復時よりも運動回復時において血中乳酸の有意な低下が見られた。この事から回復処方としてのクーリングダウンの有効性を再確認できた。また、安静回復状態における酸素呼吸の効果に関しては、運動能力の高いグループで60%O2の呼吸条件で、運動能力の低いグループでは40%O2の呼吸条件で有意な血中乳酸の低下が確認でき、この事は第II章及び第?章の結果を支持するものであった。また、安静状態でこの最も血中乳酸の低下が見られた酸素濃度よりも、運動回復状態でのAir 呼吸時の方がより血中乳酸が低下しており、この事から高濃度酸素呼吸のみを行うよりクーリングダウンのみを行う方が、運動後の回復処方として有効であることが確認できた。運動回復状態における酸素呼吸の効果に関しては、運動能力の高いグループでは認められず、運動能力の低いグループでは安静回復時同様40%O2の呼吸条件で有意な血中乳酸の低下が確認できた。この事から、高濃度酸素呼吸とクーリングダウンの組み合わせの回復処方では、両運動能カグループ間で血中乳酸の消失に及ぼす効果が異なることが明らかとなった。  以上の結果から、血中乳酸消失に最も効果的な回復処方は、ATが約60%VO2maxである比較的運動能力の高い人ではクーリングダウンのみの処方であり、ATが約50%VO2maxである比較的運動能力の低い人では40%の酸素呼吸とクーリングダウンの組み合わせの処方であった。このように、運動能力の違いによって、最も効果的な回復処方が異なり、これにはやはり、回復時の血流量や乳酸脱水素酵素などが関与していると予測された。  最後に今後の可能性としては、高齢者を含む循環機能がさらに低下した人や、循環機能がさらに発達しているスポーツ選手において、高濃度酸素呼吸処方もしくは高濃度酸素呼吸とクーリングダウン処方との組み合わせ処方について検討する必要があると考えられる。また、回復時の運動強度と呼吸酸素濃度の組み合わせによっては、血中乳酸がさらに低下する可能性も考えられ、この事についても検討する必要があると考えられる。 続きを見る
27.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 地域産業の製品開発における問題の構造に関する研究
釜堀, 文孝 ; Kamahori, Fumitaka
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 戦後の日本の経済復興から高度成長、そして現在に至るまで日本を支え、地域の雇用、経済に大きな貢献を果たしてきた製造業において、製品開発力が企業を存続させるための最も重要な要因であることは多くのレポートによって指摘されているが、横断的に業種を調査分析した例は少ない。また、地域の製造業の抱える問題は時間的な制約を持ち、問題が多次元にまたがっており、これまでのような総合的かつ網羅的な問題解決の方法では、対応できにくくなっている。  本研究は、大きな転機にさしかかっている中小製造業の抱える問題の構造を明確にすることを目的として、佐賀県の主要な地域産業である機械金属、食品、衣料品、医療品、陶磁器・焼物、家具・木工業界を対象として取り上げ、地域の製造業の抱える製品開発に関する問題および現状と将来に対する問題について、因子分析等の手法を用い問題の背景にある因子を抽出すると共に、問題の関係および問題に焦点について検討した。同時に企業を評価する尺度として、利益を目的変数とする重回帰分析によって利益と問題との関係を探った。最後に、得られた結果を基に製造業全般、また業種別に問題の構造と利益の関係を総合考察し、地域の産業が抱える問題の構造を明らかにした。なお、ここでは得られた結果を現場にどの様に応用して行くかの例をあげ、その有効性の検討も併せて行った。  なお、本論文は全8章から構成され、各章の主な内容は以下のとおりである。  第1章では、地域の産業における現状の問題をあげ、従来の研究の現状を述べた後、本研究の目的・意義を明らかにすると共に本研究の位置づけを明確にした。  第2章では、佐賀県の家具産業のアンケート調査を基に問題点の分析を行い、さらに、因子分析によって企業の特性による3因子(価格、企画力、品質)を抽出し、企業をコスト志向型、企画志向型、トータル志向型、志向未確定型の4タイプに分類した後、(1)家具産業は未だ将来に対する明確な方向性を見いだせないでいること。(2)企業の持つ問題意識は企業規模によって差異が見られること。(3)4つのタイプに属する企業は、将来に対し異なった方向性を有することを確認し、同一の業種の中にも異なるタイプの企業が存在することを示した。  第3章では、調査範囲を佐賀県内全域の製造業に拡張し、製品開発に関する問題について分析し、(1)企業は業種や企業規模の違いにより製品開発に異なった意識を有している。(2)重要とされているのは製品の品質、価格、経営者のセンスであること。さらに因子分析によって5因子(マネージメント技術、作る技術、デザイン技術、品質、コストパフォーマンス)を抽出し、企業のタイプを作る技術重視型、製品開発重視型、製品開発無関心型、デザイン重視型、マネージメント重視型の5タイプに分類し、製品開発に対する考え方は、企業規模よりも業種による違いが大きい。(2)医療品業界、陶磁器・焼物業界のタイプ形成の要因には産業の成熟度が関係していると考えられることを示した。  第4章では、製造業の現状の問題点を分析すると共に、因子分析によって3因子(開発体制、販売能力、競争の激化)を抽出し、企業のタイプを開発体制と販売能力の軸によって4つのタイプに分類し、(1)現状の問題点で業種による特徴が顕著なのは食品業界と衣料品業界であり、食品では販売能力、衣料品では開発体制が問題視されている。(2)企業規模によって現状の問題点のあらわれ方が異なり、各タイプの形成は企業規模の成長によって説明できること。また、その原因は製品特性に起因していることを示した。  第5章では、将来に向かって現状の問題がどの様に変化していくかを分析した結果、「景気の動向」、「人材育成」、「販路の拡大」等に不安を感じており、因子分析から企業の将来に対する不安は3因子(組織の対応能力、競争力の低下、人的能力)によって構成されていることを明らかにした。また、将来に対する不安は業種や従業員規模には関係が少ないとの結果を得、さらに現状と将来の問題の比較によって、現状の問題は絞り込まれた形で捉えられているが、将来の問題は総括的に捉えられていることを示した。同時に、各問題の関係を問題間の相関によって表現する「問題の焦点」という考え方を提案し、「問題の焦点」によって問題間のつながりの大きさと各問題間の関係、さらには問題の中で構造上最も重要な問題を表現することが可能になることとその有効性を示した。  第6章では、問題の多くは業種別によって異なるという前章までの結果に基づき、業種ごとの製品開発、現状の問題、将来に対する不安について問題の焦点を探った。さらに、企業の利益を目的変数とする回帰式を求め、説明変数と問題の焦点の関係を探った結果、食品業界はデザインを重視するほど利益が高くなる傾向を示し、機械金属業界は食品業界と相反する傾向を示す。一方、陶磁器・焼物業界は販売に力を入れるほど利益が上り、家具・木工業界は作業環境や販売環境を含めた広い意味での職場環境が充実しているほど利益が高い傾向を示すことがわかった。  第7章では、全企業及び、利益が上がっている企業、利益が減少した企業の製品開発、現状の問題、将来に対する不安についての問題の焦点を探った。さらに、企業の利益を目的変数とする回帰式を求め、説明変数と問題の焦点の関係を探った結果、全体的な傾向として製品開発では、製品に直接関係することや技術に直接関係することを重視する企業、企業のコンセプトやブランドを重視する企業、また、労働力や情報、営業力、販売力に問題を抱えていない企業ほど利益に結びつく傾向か認められた。この回帰式と問題の焦点を併用する方法により、問題解決に当たろうとする問題と他の問題との関係を整理することが可能となった。このことは、問題をより総括的に扱うかまたはより絞り込んだ形で扱うかの選択、また解決すべき問題の優先順位と問題解決時に同時に考慮しなくてはならない問題を明確にすることが可能になることを意味しており、問題解決のための有効な方法となり得ることを示した。  第8章では、本研究で得られた結果を総括すると共に、各章で得られた結果の横断的な検討を行い、業種ごとの問題の構造、利益と問題の焦点の関係を総合考察しながら将来の方向性を示した。また、全企業を分析した結果を例として取り上げ、本研究を企業の問題解決に利用する有効性について検討を行い、本研究で示している問題の構造化の方法が企業における問題解決のための有効な方法であることを示した。  この問題の焦点と回帰式を併用することによって問題の構造を表現し、問題解決の方向性を導く方法は、中小企業の製品開発の方向性を明らかにすることになり、企業の企業戦略、製品開発の戦略のスキーム、製品開発におけるアプローチ、意志決定の支援に資するものであるといえる。 続きを見る
28.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A study on the structure of articulations of sound environments in Japanese culture — 日本の生活文化における音環境の分節化の構造に関する基礎的研究
永幡, 幸司 ; Nagahata, Kouji
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本論文は、日本の生活文化における音環境の分節化の構造を明らかにする事を目的とするものである。  音環境を分節化する際の構造は、音環境を分節化する人の置かれているコンテクストに依存しているので、検討の際には個々の状況とその際の分節化の構造との関係から考察する必要がある。  本論文においては、互いに異なる3つの特徴的な状況に着目し、その状況下における音環境を分節化する構造について検討した。それらの状況は、「視覚障害者が音から場所を特定する過程」「俳句に詠み込まれた音環境における詠まれた音とその音が聞かれた季節、空間との関係性」「ある集落全体に聞こえるように鳴らされる音が騒音と見なされない事例における歴史的及び社会的背景」である。  「視覚障害者が音から場所を特定する過程」についての検討では、視覚障害者に彼らが実際に行ったことのある場所で録音した音を聞かせ、それらがどこの音であるのかを持定させ、さらに、その場所であると特定した理由について自由回答を求めた。得られた回答を分析した結果、視覚障害者が音から場所を特定する際の分節化の構造について、次のようなことが明らかとなった。視覚障害者が音から場所を特定する際に用いる音は多岐に渡っており、それらの音を用いる過程としては、ある音の存在から大雑把に場所の特徴を特定した後に、他の音の存在から詳しく場所を特定するという「階層的」な過程と、ある場所で聞かれる特徴的な音全てを総合的に判断することで場所を特定するという「並列的」な過程の2種類の過程があり、人によってそのどちらかを採用していた。また、「階層的」な過程を採用するにせよ、「並列的」な過程を採用するにせよ、音から場所を特定する際に具体的に用いている音は、人によって異なっていた。  「俳句に詠み込まれた音環境における詠まれた音とその音が聞かれた季節、空間との関係性」の検討では、江戸時代から現代までの音について詠まれた俳句3,810句を、詠まれた音、季節、空間、その句が詠まれた時代について分類し、統計的解析を行った。分析により次のことがわかった。俳句に詠み込まれた音環境は、音と空間の特性との関係によって、自然空間の音風景、居住空間の音風景、水辺の音風景、社寺仏閣の音風景の4つに分類することができ、このような音環境の分節化の構造そのものは、時代の流れに関わらず一定であった。その中で、昔は自然空間の音風景がよく詠まれていたのに対して、現代ではそれらが減少し、人の生活行為にまつわる音風景が取り上げられることが増加している。また、時代と共に、俳句の中で詠み込まれるような音環境のパターンは減少している。そして、ある季節のある空間の情景や、日常生活のある一場面を象徴するような音は、俳句に詠み込まれることが減少し、逆に、そのような象徴作用を持たない音が、多く詠み込まれるようになってきている。このことより、日本の音文化には音を季節や空間の象徴として、あるいは、日常生活の一場面の象徴として敏感に読み取り、そこに情緒を感じるという伝統があったが、そのような文化は失われつつあると考える。  「ある集落全体に聞こえるように鳴らされる音が騒音と見なされない事例における歴史的及び社会的背景」についての検討では、山口県の離島において、集落全体に響き渡るように鳴らされているサイレン及び放送が騒音としては分節化されていないという事例について、それらが鳴らされるようになった歴史的背景について聞き取り調査を行い、さらに、現在それらの音が集落の成員にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を行った。その結果、「ある音を共有する」ということを「人によって意味が違ったとしても、その音に価値があることは誰でも共通に認めている状況」を意味することにすると、集落全体で共有されている音は、騒音とは分節化されないことが明らかとなった。逆に、集落全体で共有化されていない音は、騒音として分節化され得ることが明らかとなった。  そして、これらの結果の検討より、音環境の分節化の構造の持つ特徴として次のことを明らかにした。人間が音環境を分節化する際に、どのような音をその空間を特徴づける音として分節化するのか、そして、分節した音にどのような意味を付与するのかについての構造を規定するのは、知覚する主体のおかれている総合的状況である。そして、知覚する主体である人間のおかれている状況によっては、音環境の分節化に社会的文脈が大きな影響力を持つような状況と、個人的な文脈が大きな影響力を持つような状況の両者が存在している。そして、音環境に何らかの変更を加える際には、その場に居合わせ得る人達全てに、いかにしてその変更を共有化させるかということが、重要な課題であるということを示した。 続きを見る
29.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 混合整数計画によるパターン認識のモデル化と学習アルゴリズム
松永, 浩之 ; Matsunaga, Hiroyuki
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 生体における知覚は感覚入力に基づいて外界の状態を推定する情報処理過程であり、広い意味でパターン認識の問題として捉えられる。認識システムの人出力関係はノイズや遮蔽等の影響により一般に多対?写像となっているので、その逆写像の解は複数あり得る。従って、認識システムはそれらの解の候補の中から最も確からしい解を選択して出力していると考えられる。そこで最適化問題によって定式化を行なった視知覚のモデルがこれまでに数多く提案されてきた。また、一般に生体のパターン認識はある物体が何であるかというカテゴリー化を行なう離散的な処理とその物体の大きさなどの物理量を推定する連続的な処理という性質が異なる二つの処理過程が密接に関係しあって行われている。しかしこれまでに提案されたモデルのほとんどは連続的な処理か離散的な処理のどちらか一方しか扱っていない。本論文では、これら両方の処理過程を不可分に扱う視知覚の数理モデルを混合整数計画問題によって定式化する。  本論文は、知覚や学習の混合整数計画問題による数理モデル化について研究した結果をまとめたものであり、8章から構成されている。  まず第1章では、本研究の背景と扱っている問題を示し、あわせて論文の概要について述べる。  次に第2章では知覚や学習を混合整数計画問題によってモデル化する際に必要となる数学的基礎を概括し、技術的な問題を論じる。ここでは、生体の情報処理過程をパターン認識システムとして捉え、混合整数計画問題として定式化をおこない、認識システムの学習について議論し、認識や学習の具体的な定式化を最近傍識別を例にとり説明する。また混合整数計画問題の解法として勾配系を用いて解くアナログ解法を提案する。  第3章以降では、この基礎理論を知覚や学習の問題に適用する。第3章と第4章では知覚を扱い、第5章、第6章、第7章では学習を扱う。続く第8章で第3章から第7章までの結果を統合して、マルチモーダルパターンの認識モデルと学習法を提案する。  第3章ではラインプロセスを拡張した結合プロセスを提案し、画像処理への応用を示す。ラインプロセスではしきい値が絶対的な値に固定されるので、グレイレベルのスケール変化によって結果が変わるという欠点がある。結合プロセスはこの欠点を緩和し、エッジを保存して平滑化を行なうことができる。またパラメータを変化させることによってマルチスケール表現が得られる。更にインパルスノイズの除去もできるように拡張し、セグメンテーション等も容易に得られることを計算機実験により示す。  第4章では結合プロセスが生体の視知覚のモデルとして有効であることを示すために、結合プロセスを用いて幾何学的錯視のモデル化を行なう。パターンの知覚体制化には様々な要因があるが、ここではドットパターンを対象として最も基本的であると考えられる近接要因による群化のモデルを提案する。代表的な幾何学的錯視図形に対して計算機実験を行ない、錯視現象のモデルとしての結合プロセスの有効性と限界を示す。  第5章ではクラスタリング関数回帰による最近傍識別器の教師あり学習法を提案する。この方法は教師信号に基づいて定数関数への回帰を学習することによって、最近傍識別器の代表点の最適な配置を決める方法である。この方法を用いると代表点の数を多めに準備しておけば必要な分だけが割り当てられることや木探索識別器の代表点を一括して最適化する学習が行なえることを計算機実験により確認する。  第6章では第5章で提案した方法を線形射影を用いてデータベクトルの次元の圧縮を行なうように拡張し、その有効性を実験により示す。教師なし学習ではデータの復元誤差が最小となるように、教師あり学習では識別誤差が最小となるように最適化問題として定式化する。簡単なデータを用いた計算機実験により本学習法の特性を明確にするとともに、パラメータ化された顔データの分類に適用する。  第7章では教師ありのデータと教師なしのデータが混在する場合の最近傍識別器の学習法を提案する。ここでは、代表点の配置を決定するのに識別誤差と量子化誤差を共に最小化するように最適化問題として定式化する。更に教師ありデータだけで学習するよりも教師なしデータも付け加えて学習する方が識別率の期待値が向上することを、理論的な解析と顔データを用いた計算機実験とによって実証する。  第8章ではロバスト推定とベイズ則に基づく複数の入力からなる異種データの統合すなわちマルチモーダル情報による最近傍識別法を提案し画像処理への応用を示す。この統合方法は多数決をファジイ化したものであることを示し、EMアルゴリズムによる教師なし学習法を導出する。更にこの識別方の基本的な性質を簡単なデータで検証し、視覚と聴覚の統合の例としてマガーク効果を定性的に説明する。  最後に第9章では、本研究のまとめと今後の課題を述べる。 続きを見る
30.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 欧米のタイポグラフィにおけるタイムズ・ニュー・ローマンの歴史的位置付け
小野, 英志 ; Ono, Hideshi
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: タイムズ・ニュー・ローマンは、ロンドンで発行されている平日版朝刊紙『ザ・タイムズ』の専用タイプフェイス(活字書体)として、1932年にデザインされたものである。翌1933年、開発主体であるタイムズ紙がその独占的使用権を放棄して一般に解放したため、それ以降たいへん広範にわたる普及をみせ、現在では、例えばパーソナル・コソピュータのシステムに標準的に添付されるような状況にある。  この書体については、その開発経緯に関わる幾つかの研究が行われているが、いずれも開発責任者であるスタンリ・モリスンのディレクションのありかたが中心となっている。「タイプ・デザインに際して独自のラフスケッチを起こした」というモリスン自身による記述に対しては、モリスン没後、複数の研究者によって否定的見解が示されているが、ラフスケッチに代わるものは何であったのか、モデルとした書体はプランタン・モレトゥス博物館のものなのか、あるいはモノタイプ社が20年前に製品化したものか、などの未詳の部分を残しつつも、これらの諸研究は専ら書体史家でタイポグラファたるモリスンの個人的資質にタイムズ・ニュー・ローマンのデザインの契機を見い出そうとしている点で共通している。  本研究では、タイムズ・ニュー・ローマンに対するタイポグラファの評価、先行研究を概観(第2章、第3章)した後、開発を発注したタイムズ紙、それを受注した英国モノタイプ社、開発責任者モリスンの三者いずれにも、当時新聞印刷専用書体として広く普及していたレジビリティ・タイプを忌避し、オールド・フェイスの手直し向かう高い蓋然性が存在していたことを明らかにした。  第4章では、タイムズ紙について検討した。同紙は1784年に印刷所として創業されているが、創業時に於ける最新組版技術ロゴグラフィの特許買収以降、印刷技術面での同業他社に対する優位性を常に主張してきている。特に19世紀に入ってからは、印刷に関わる技術開発で世界的なリーダーシップを発揮し、1828年から1868年にかけては20年毎に自社技術として輪転機を新規開発している。 20世紀に入って経営危機を経験した後は、印刷技術を自社開発する積極的姿勢は後退したが、「スペシャル・プリンティグ・ナンバー」と称する別冊をたびたび発行し、依然として新聞印刷におけるリーダーたることを強くアピールしている。またニューズ・メディアとしての成長も著しく、タイムズ・ニュー・ローマン開発当時、タイムズ紙は自他共に認める世界で、最も権威あるニューズ・メディアであった。したがって、既に広く普及しているレジビリティ・タイプを、しかも他紙に大きく遅れて採用したのでは自己の権威の否定にこそなれ、強化にはならない。すなわちタイムズ紙には、レジビリティ・タイプを忌避する素地があった。  次に第5章では、英国モノタイプ社について検討した。同社は鋳造植字機メーカーとして、米国モノタイプ社から南北アメリカ大陸以外の地域に於ける営業権を獲得して1897年に発足し、1908年にタイムズ紙がモノタイプを導入した後は経営的にも安定した。 1912年の雑誌『インプリント』に対する新書体開発での協力を契機に、オールド・フェイスの覆刻を中心とする新書体開発に力を注ぎ、また、ウィリアム・モリスらに由来する機械の使用に対して否定的な態度を、印刷・出版界から排して徐々に書籍印刷市場に浸透していった。ケンブリッジ大学出版局やナンサッチ・プレスなどの有力出版社が、鋳造植字機としてのモノタイプのみならず、英国モノタイプ社が開発した新書体を積極的に使用する事態が手伝って、タイムズ・二ュー・ローマン開発当時には、同社は英国の書籍印刷市場に於いてほとんど独占的支配を達成する。しかし、英国モノタイプ社の競争相手であり、新聞印刷市場に強いライノタイプ社やインタータイプ社によって開発され普及をみたレジビリティ・タイプと同様のものを開発しても、英国モノタイプ社にとってはマーケットでの競争力の強化にはならないため、英国モノタイプ社にもレジビリティ・タイプを忌避し、書籍市場から歓迎されているオールド・フェイスの覆刻に重点を置く製品計画を継続する素地があった。  次に第6章では、スタンリ・モリスンについて検討した。彼には独学によって形成した書体史に関わる該博な知識と、タイポグラフィックなデザイン・ワークの実務経験はあっても、タイプフェイスそのものをデザインするタイプ・デザイナーとしての実技能力や経験はなかった。したがって、彼にとっては既存の書体の手直しが、最も迅速かつ確実な手段であった。そのためモリスンはタイムズ紙との事前の合意形成の手段として、1930年に『タイムズ紙のタイポグラフィ改訂に関するメモランダム』をタイムズ紙宛てに提出した。その中でまず彼は、より質の高い書籍印刷を新聞印刷も目指すべきことを主張し、さらにその書籍印刷においてはオールド・フェイスの使用が主流となっていることを示唆した。この『メモランダム』を根拠としてモリスンは、オールド・フェイスの採用という方針に沿ってデザイン・ワークを指揮し、タイムズ・ニュー・ローマンをタイムズ紙の専用新書体として完成させた。  第7章で、タイムズ紙、英国モノタイプ社、モリスンの三者に対する検討を総括した後、第8章では、タイムズ・ニュー・ローマンの歴史的位置付けとして、次のように結論づけた。  タイムズ・ニュー・ローマンの形態上の直接的なモデルは、ダッチ・オールド・フェイスと呼ばれる、17世紀頃のオランダのタイプフェイスのひとつであるプランタンに求めることができるが、その開発の姿勢は、19世紀中葉のイギリスに始まった印刷復興の動きと志向性を同じくするものである。この印刷復興はチジク・プレスによるキャズロン製のオールド・フェイスの復刻をもって開始されたと見るのが一般的であり、タイムズ・二ュー・ローマンもまた、英国モノタイプ社に於いて一連の古典的タイプフェイスの覆刻を指揮しつつあったスタンリ・モリスンが開発した点で、オールド・フェイス復活すなわち印刷復興以来の流れに沿うものである。しかし、このタイプフェイスの開発の直接のきっかけは、新聞印刷専用書体であるレジビリティ・タイプの急速な普及によってもたらされたもので、その点ではタイムズ・二ュー・ローマンには、レジビリティ・タイプに対する一つの対案という性格が認められる。すなわちタイムズ・ニュー・ローマンとは、継時的には、ルネサンス期のオールド・フェイスからダッチ・オールド・フェイスさらには印刷復興期の覆刻オールド・フェイスという、欧米のタイプ・デザインの主流の末端に位置するものであり、同時的には、新聞の高速大量印刷を背景としてつくられたアメリカ製レジビリティ・タイプに拮抗する、イギリス製の相対的タイプフェイスとして位置付けられるものである。 続きを見る
31.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 音響管配列を用いたソフトなT型防音壁の遮音性能に関する研究
金, 哲煥
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 道路交通騒音を制御することにおいて、現在最もよく用いられている手段の一つが防音壁である。しかし近年になって、交通量が増えつつ、しかもスピードの上限をアップした高速道路の建設や新幹線のような高速鉄道もさらにそのスピードを増やしている。このような状況の中、従来の防音壁では十分な遮音がとれなくなった場合が多くなり、建物の高層化などの原因で都市内を走る高速道路や鉄道沿いの防音壁もその高さが伸びる一方である。しかし、遮音量を増やす目的で、音源側の防音壁の上部の形状が道路内の方へ曲がり込み、道路を囲んでいる形になってしまって、まるでトンネルのような防音壁もできる状況になった。防音壁の高さが高くなるほど遮音量は増えるものの、建設における経済的な費用や構造上の強度、維持・管理におけるコストなどの問題だけでなく、防音壁沿いの住民への日照の欠如、運転者や乗客に与える圧迫感や退屈さ、さらに道路内部の換気を悪化させるなど、人間に直接与える被害が社会的問題にまでなっている。このような理由で、最近では防音壁の高さを変えず、より良い遮音性能を持つ防音壁を開発しようとする企画で様々な研究が盛んに行われている。本研究は、このような背景により防音壁の高さを変えず、より良い遮音性能を持つ防音壁を開発することを目的とする。  防音壁の遮音効果を向上させるための様々な形の防音壁が試されている中、T型防音壁は単純な形である割には良い遮音効果を示していることがよく知られている。そこで本研究では、藤原らによって提案された1/4波長音響管配列によるソフトな表面をT型防音壁の上端において実現し、上端がソフトな表面となるT型防音壁を提案、その遮音効果について数値計算及び模型実験によって検討を行った。  研究内容としては、まず、(1)単一深さの音響管配列の単体としての効果を検討するため、境界要素法を用いて数値解析を行い、理想的にソフトな表面の効果と比較し、藤原らによって提案された音響管配列によるソフトな表面の効果を検証した。本研究における数値解析の手段として用いた境界要素法は、防音壁が設置された散乱音場のような、開領域を含む開放音場問題を計算的方法で解析するに適した方法としてよく知られている。特に、防音壁の形状が複雑になればなるほどその効果を解析的な方法で求めることは不可能に近くなると言える。こういう面で境界要素法は優れた長所を持っている。特に、地面条件を完全反射性と仮定し、鏡像法を用いて音場をモデリングすると相当の計算容量を節約することができ、本研究全般における数値解析は鏡像法の2次元境界要素法を用いた。次に、(2)音管配列をT型防音壁の上端に設け、防音壁としての遮音効果について数値解析及び模型実験により検討を行い、その特性を調べた、その後、(3)音響管配列による効果の周波数依存性を解決するため配列の形を変形し、変形された配列の単体としての効果を数値解析及び模型実験で検討した。最後に、(4)変形された音響管配列を防音壁に取り付け、ソフトな効果は多少減少するが、効果の周波数依存性を大幅に改善した。音響管配列によるソフトなT型防音壁の遮音効果を数値解析及び模型実験によって確認した。  以上の結果により、剛なT型防音壁の上端に音響管を配列することによって、T型防音壁の遮音効果をほぼ全周波数領域で大幅に改善された。 続きを見る
32.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 画像技術を用いた畜産品及び工芸品の検査・設計支援システムの開発
白仁田, 和彦 ; Shiranita, Kazuhiko
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 人間には、外界の情景を見て、どこにどのような対象物があるかを素早く判断できるという機能がある。このような機能を工学的に実現することができれば、種々の機械に“視覚”を付与することができる。視覚を持った機械は、自ら外界の状況変化を知り、それに適応的な動作をし、人間の代行として様々な仕事を能率良く実行するであろう。  上述のような機械を実現するための基本技術の一つは“画像処理”であると言えるが、計算機の性能向上に伴い、画像処理の産業応用に関する研究は盛んに行われている。しかしながら、人間の視覚による作業を軽減、あるいは代行するためには、画像処理を応用した機械の、なお一層の開発が望まれている。  熟練した専門家の目視により品質評価されているものの一つに、牛枝肉の等級判定(格付け)がある。格付けは、牛枝肉の切開面を格付員と呼ばれる専門家が基準規格見本と照合する目視検査によって行われている。この格付け作業は低温の冷蔵庫中で行われており、格付員にとっては過酷な労働である。牛枝肉格付けを行う自動化技術の開発が望まれる所以である。  一方、陶磁器産業は、伝統工芸的色彩が強く、極めて付加価値性の高い産業である。この産業は多岐にわたる作業に依存している。しかしながら、熟練労働者の不足、若年労働者の雇用難は深刻な問題であり、又生産体勢の質的な高度化も求められており、陶磁器製造における自動化技術の開発は急務と言える。なかでも、陶磁器への線描き作業、絵付け作業は多数の熟練作業者を必要とし、これに関する自動化システムの開発が強く望まれている。  本論文は、画像処理技術の産業界への応用という観点から、牛枝肉等級の自動判定と陶磁器への描画の自動化についての研究をまとめたものであり6章から構成されている。  第1章では、本研究の背景と扱っている問題を示し、あわせて論文の概要と構成について述べる。  第2章では、牛枝肉の肉質のなかで最も重要とされている脂肪交雑の等級付けを、画像処理とニューラルネットワーク及び重回帰分析を用いて実現する方法について述べる。格付員は等級毎の基準画像と牛枝肉とを照合しながら等級付けを行っているので、まず等級判別のための基準を調べるために格付員への聞き取り調査を行い、この調査結果に基づいた等級付けのシステム化の方針について述べる。システムを安価で簡単なものにするために、4ビットの白黒画像を用いれば充分であることを実験を通して明らかにする。この4ビットの白黒画像は、脂肪領域を抽出するために更に2値化(脂肪領域とその他の領域)する必要がある。本論文では、3層ニューラルネットワークを用いて2値化する方法を提案する。ついで、重回帰分析を用いて格付員が目算している物理量の中から等級と相関の高い変量を求め、等級との関係式(重回帰式)を作る。重回帰式を用いて求めた等級が、格付員のものとよく一致することを示す。  第3章では、第2章で述べたシステムを更に精密にするために、牛枝肉の脂肪交雑をテクスチャパターンとして捉え、テクスチャ解析により脂肪交雑の等級付けを行う方法について述べる。テクスチャ解析手法としては、濃度共起行列を用いる。等級毎に10種の4ビット白黒画像を用意し、それに対して濃度共起行列を求める。等級毎に行列の要素を平均し、それぞれを各等級の標準テクスチャ特徴とする。入力画像のテクスチャ特徴と等級毎の標準テクスチャ特徴との類似度を求め、これを用いて入力画像の等級を決定する。この決定結果は格付員の結果とよく一致することを示す。  第4章では、陶磁器形状を3次元的に計測するシステムの開発について述べる。この計測システムでは、スリット光を陶磁器に照射し、その変化をカメラで撮像し、パソコン上のソフトウェアのみで画像処理し、高速に3次元座標値に換算する方法を提案する。陶磁器の凹部は、一般にカメラの死角になるので、2つのカメラを用いて死角への対処法についても述べる。本計測システムを用いて、コンピュータ画面上に3次元的に計測結果を表示し、陶磁器形状が正しく計測できることを示す。  第5章では、陶磁器への描写システムの開発について述べる。このシステムでは、前章の計測システムによる計測結果と、デザイン画とを3次元CADに入力し、計測結果から作成した計算機内の陶磁器に対してデザイン画を投影する。このシステムでは、投影されたデザインの線の軌跡のNC(数値制御)データをCADから出力し、NCデータにより動作す4軸描画ロボットで陶磁器への描画を自動的に行うことができる。実験では、意図したデザインを人間が写しかえるのと同じように自然なかたちで陶磁器へ描画できることを示す。  第6章では、結論を述べ今後の課題について論じる。 続きを見る
33.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A Study of the History of Basic Design : The Basic Design Movement in Britain with Special Reference to the Teaching of Victor Pasmore and Richard Hamilton — 構成教育の史的研究 : イギリスの基礎デザイン運動 : ビクター・パスモアとリチャード・ハミルトンの教育
茂木, 一司 ; Mogi, Kazuji
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本論文は、1954 年から66 年までニューキャッスルのダーラム大学キングス・カレッジでビクター・パスモア(Victor Pasmore,1908-)とリチャード・ハミルトン(Richrd Hamilton,1922-)によって設立、運営された基礎コースの発展を後づけなものである。ニューキャッスルのコースは、戦後のイギリスの美術教育思考を急速に現代化した基礎デザイン運動の一つのモデルであり、コールドストリーム・レポート(1961)による美術学校への基礎教育(前ディプロマ課程)の導入という制度的な支援を明確化した基礎デザイン運動の一つ の「緩やかなモデル」を代表している。それはまた、伝統的に新しいものを拒否し続けてきたイギリスの美術をヨーロッパのモダニズムと統合する典型でもあって、同時に遅れてきたイギリスの美術教育を結果的に急速に現代化した。 本研究は、広義の美術教育における基礎教育、すなわち日本ではバウハウスの基礎教育を昭和の初期に導入した構成教育の歴史的展開という視点から検討したものである。わが国では昭和30年代以降のデザインの発展とも相まって、構成教育は小中学校の図工・美術 教育からデザインを専門する各種学校や大学まで、幅広い造形の基礎教育として定着していった。しかし、この構成教育には平面・立体構成という題材に見られるように、その抽象的な練習が冷たく、子どもの生活感情を害するという批判、あるいはバウハウスやデ・スティールの焼き直し的なものという評価がみられるが、これはイギリスの基礎デザイン教育においても共通する。現在の平面構成や立体構成がバウハウスで行われた基礎造形教育に比べて、固定化され、矮小化され、魅力のないものにされているのはなぜか。その主な理由は、「構成教育」の本質的な問題にあるのではなく、それが制度として美術教育に持ち込まれる時、すなわち教育化された時に生じる問題である。固定化が生じるのは、教育自体が持つそのような性質にもよるが、指導者の力も大きいと思われる。したがって、研 究の目的の一つに、美術家の芸術観がその教育にいかに影響するかを検討することをあげた。今回取り上げるパスモアもハミルトンも現役の芸術家であり、それが彼らの教育に深く係わっていたことは間違いない。つまり、彼らの新しいことに対する果敢な興味や関心が教育システムの改革を促すほど魅力に富んだ美術教育を生んだと言うこともできる。そして、研究目的の二つ目は、戦後のイギリスの美術と教育と美術教育の現代化におけるそれぞれの関わり合い、三つ目にはバウハウスの影響は世界的なものであると言われるが果たしてそうなのかどうか、イギリスを事例に考えることである。 論文は三部から構成さ れる。第一部は、「基礎デザイン思考の起源」と題して、ウイリアム・モリスからバウハウスヘ至る道筋を概観しながら、バウハウスの教育方法や内容、特にイッテン、カンディンスキー、クレーの基礎教育及び彼らの教育のイギリス絵画の影響について検討した。戦前のイギリスでのバウハウスの受容は、H.リードの『美術と工業』からの情報程度で、バウハウスやその基礎教育の情報がイギリスヘもたらされたのは実質的には戦後のことであり、他国に較べて非常に遅れていた。彼らの教育内容は主にその著作の翻訳出版という手段によってもたらされたものであり、直接的な接触ではないことが知られる。 第二部では「イギリスの基礎デザイン運動」に関わる基礎的な問題を検討した。はじめに「基礎デザイン運動へのパウハウスヘの影響」(第一章)、続いて「ニューキャッスルの基礎デザイン教育」(第二章)、「ビクター・パスモアの美術と教育」(第三章)、「リチャード・ハミルトンの美術と教育」(第四章)について論じている。特に、芸術家の芸術観がその教育を形成する基礎となることを示すために、パスモアとハミルトンの1960 年代までを中心とした美術活動、及び彼らが受けた美術教育と実施した美術教育を詳細に考察した。パスモアは抽象への転向者として、モダニズムを積極的に推進するカリスマ的な芸術家/教師として、ハミルトンは新しいポップという具象を皮肉っぽく知的に進めていく芸術家/教師として特徴づけられる。抽象とポップという、2人の芸術活動はこの時期のイギリス の新しい美術の一つの典型を示していた。そして、彼らの正反対の性格や活動はお互いをうまく補完し、ニューキャッスルでの教育を成功に導いた大きな要因であったことを明らかにする。 イギリスの基礎デザイン運動へのバウハウスの影響は、直接的なものというよりは「モダニズムのシンボル」として機能した。つまり、バウハウスが先鞭をつけた「造形の基礎教育」という思考はカンディンスキー、クレー、イッテンらの個性が作り上げたと同時に、当時の芸術を含めたモダニズムの教育が達成した一つの道標であった。 第三部では、「基礎デザイン教育の実際」として、リーズ校とニューキャッスル校が協力したスカーバラ・サマースクールの実践とニューキャッスル校の基礎デザイン教育の理念や方法、内容を具体的に検討した。そして、プレトン・ホール・カレッジの美術教育アーカインに保存されているパスモアとハミルトンの練習課題(学生作品の現物、写真など)を、構成教育の特徴である造形要素の観点から分析した。「線の練習」(第二節)、「点の練習」(第三節)、「かたちの練習」(第四節)、「色彩の練習」(第十節)、「分析的描画・絵画・彫刻」(第十三節)などに分類できる練習課題は、バウハウスの基礎教育と似ているが、これらのアイデアはパスモアとハミルトン自身の芸術的な興味関心から生じたものである。これらの練習は分析的な方法を特徴としていたが、その本質は異なったものが混合された時に生じるダイナミズム、及び全体を包み込む「雰囲気」のような捉えがたいものによって展開されたところに特色があった。基礎デザインは、表現主義的な美術教育の持つ魔術的な指導を科学的なものに転換した功績は大きい。しかし、それがどんなにすばらしいものであったとしても、「スタイル」が固定化された時には新たなアカデミズムに陥る。イギリスの基礎デザイン運動は、それに関わった人、そこで行われた内容も多様なことが一つ の特徴である。個人や統一された理念を持つグループの活動ではなく、美術やデザインのモダン化に興味を持ったさまざまな個性によってなされた多様な実験であり、生まれてくる作品は構成主義的、シュルレアリスム的、ポップ/オップ・アート的とバラエティに富んだものであった。基礎コースは、パスモアが定義づけたように、「発展プロセス」であり、シッスルウッドの言葉を借りれば「継続プロセス」であることによってのみ力を持ち続けられるということである。基礎がもつ総合性と運動性は芸術や教育の全体を瞬間的につかみ取るものであり、したがって、基礎デザイン運動は単なる構成主義美術の応用というレベルではなく、いわば反芸術までも範疇に入れた芸術の豊かさすべてを基礎にして展開される必要があることを示している。すなわち、基礎デザイン教育は、その基礎になる美術を常に新しくすることによって、また、それを扱う芸術家/教師の柔軟な態度に大いに依拠しながら、空間・時間を超えてその現代的意義を新たにつくり出すことが可能なことを教えてくれている。 続きを見る
34.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 音楽演奏に含まれる時間的ゆらぎ : 演奏者の制御能力の限界に起因するゆらぎと芸術表現のゆらぎ
山田, 真司 ; Yamada, Masashi
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 音楽演奏が楽譜を忠実に再現したものではないことは、よく知られている。この、実際の音楽演奏と楽譜とのずれは、「芸術的逸脱」と名付けられ、旧来から様々な側面において研究が行われている。このような中で、時間的側面における芸術的逸脱についても、様々な角度から研究が行われてきた。しかし、音楽演奏には、演奏者が自らの音楽表現のために積極的に付加する、いわゆる「芸術的」表現によるずれだけではなく、演奏者の時間的制御能力に限界があるために、どうしても意図するタイミングからわずかにずれてしまうという、「制御能力の限界」に起因するずれも含まれている。そこで本研究では、音楽演奏における時間的側面における楽譜からのずれの様子を「ゆらぎ」として捉え、このゆらぎを、 1)演奏者の時間的制御能力の限界に起因するゆらぎ 2)演奏者が芸術表現のために付加するゆらぎ の2要因に分解し、それぞれの要因のゆらぎについて測定、検討することで、音楽演奏に含まれる時間的ゆらぎについて明らかにした。  本論文は6章で構成されており、第1章では、本研究の背景、目的などについて述べている。  第2章では、上記の第1の要因である、演奏者の時間的制御能力の限界によるゆらぎについて、等間隔タッピングの課題によって明らかにした。その結果、制御能力の限界に起因するゆらぎは、テンポにかかわらず一定の性質を持つことが示された。すなわち、このゆらぎの生成には、過去約20タップの間隔の情報が記憶され、これらの情報によって次の間隔が決定されるという機構が介在することが分かった。またこの機構によって生成されたゆらぎにおいて、時間間隔の平均値と標準偏差との間にほぼ定比的関係が成り立っており、その変動係数は約4.3%であることが分かった。  第3章では、第2章で示した制御能力の限界に起因するゆらぎが、音楽演奏経験によって変化するかどうかについて検討した。その結果、音楽演奏の熟練者と初心者の間でこの要因のゆらぎにはほとんど違いがないことが分かった。すなわち、第2章で示された制御能力の限界に起因するゆらぎの性質は、テンポだけでなく、音楽演奏経験によっても変化しない一般的性質であることが明らかになった。音楽演奏の訓練によって向上するのは、基本的な時間制御能力ではなく、むしろ、複雑な身体運動を調和させて一連の動きを形成する能力であることが分かった。  第4章では、上記の第2の要因である、演奏者が芸術表現のために付加するゆらぎについて調べた。芸術表現のゆらぎを3要因に分け、それぞれの要因のゆらぎのパワーを制御能力の限界に起因するゆらぎのパワーと比較することで、芸術表現によるゆらぎの「平均的」様相が以下のようなものであることが明らかになった。すなわち、リタルダンド表現によるゆらぎは制御能力の限界によるゆらぎの約85倍のパワーを持ち、繰り返しリズム表現によるゆらぎの成分は制御能力の限界によるゆらぎの同じ周波数成分に対し約500倍のパワーを持つ。また、リタルダンド表現、繰り返しリズム表現以外の芸術表現に起因するゆらぎは、数タップの短い周期および数百タップの長い周期においては、制御能力の限界によるゆらぎと同等、または数倍程度のパワーを持ち、数十タップの周期では、制御能力の限界によるゆらぎの数十倍のパワーを持つ。これらのゆらぎを全て包含した芸術表現によるゆらぎ全体のパワーは、制御能力の限界に起因するゆらぎの約100倍のパワーを持つ。以上が、芸術表現のゆらぎの平均的様相である。  第5章では、同じ楽曲を異なる演奏者が演奏するとき、その時間的側面における芸術表現にどのように演奏者の独自性が発揮されているのかについて、事例研究を行った。演奏から得られたゆらぎについて物理的に検討を行ったところ、演奏テンポおよびリタルダンド表現に演奏者の独自性が発揮されていることが分かった。また、時間ゆらぎを持った合成演奏を作成し、心理実験を行った結果、リタルダンド表現の違いに比して、演奏テンポの違いの方が、聴感上の演奏者の独自性に大きく寄与していることが分かった。  第6章では、以上の結果をまとめ、本研究の成果の自動演奏の制作過程への応用について考察するとともに、今後の課題について述べた。 続きを見る
35.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 調音運動に基づく音声の合成法に関する研究
鏑木, 時彦 ; Kaburagi, Tokihiko
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 音声合成などの音声情報処理技術では、音声スペクトルの包絡特性を表すスペクトルパラメータによって、音声に内在する言語情報を効率的に表現することがおこなわれている。これらの音声合成法では、音節などの合成単位ごとにスペクトルパラメータの時間パタンを保持しておき、これらの単位パタンの連結によって連続音声が表現される。このセグメントベースのアプローチでは、音素環境や発声速度に起因した音素の変動性に対しては、コンテキストに依存したパタンを網羅的に用意することが必要となる。  音素環境などの要因によって音素の特徴が変化するのは、音声の生成が顎、唇、舌などから構成される力学系の運動特性に拘束されるため、隣接した音素の特徴が調音器官の運動パタン上で相互にオーバーラップし、時間的に広がりを持った変動性として表出するためである。したがって、音声情報処理における調音結合の問題をより本質的に解決するには、調音運動のレベルで生じる音声現象を解明し、調音器官の状態に関するパラメータを用いて音声の情報表現をおこなうことが必要である。  本論文では、顎、口唇、舌、軟口蓋などの位置を表す調音パラメータを用いた、調音運動に基づく音声の合成法について述べる。この合成法は、音素の本質的な特徴量から調音パラメータの軌道計算に基づいて連続音声を表現するものであり、固定的なスペクトルパタンの連結による従来法とは、著しい差異をなす。  本論の音声合成法では、まず、入力された音素系列に対応する調音次元での音素目標の設定がおこなわれる。これらの運動タスクに対して、軌道生成モデルによって調音運動の報道を計算し、さらに調音・音響マッピングの適用によって声道スペクトルの時系列が求められる。また、これらのモデルを構成する上では、実際の調音器官の運動に関するデータが必要となる。本研究では、したがって、(1)磁気センサシステムを用いた調音運動の観測手法、(2)調音運動の軌道生成モデル、(3)調音・音響マッピング、(4)音素調音目標からの音声合成、の4項目について検討した。  磁気センサシステムは、観測点に接着した複数の小型円筒形コイル(直経3?、幅4?)の位置を連続的に計測する手段である。このシステムの測定精度は、コイルの位置に応じた適応的な校正法を用いることにより、約0.10mmとなることが明らかになった。一方、コイルの傾きと測定面からのずれに対しては、コイルの傾きをx軸、y軸方向とも20度まで許容する場合、誤差を1mm以下とするためには、測定面からのずれを±2mm以下とする必要があることがわかった。また、舌の調音運動の観測の結果、磁気センサシステムと超音波スキャナの間の観測誤差は約1.16mmとなり、高い整合性を得ることができた。  軌道生成モデルでは、個々の音素の調音を本質的に表す声道形状(運動タスク)から、顎、口唇、舌などの調音器官全体の運動を生成する。このとき、声道形状を表す声道変数に対し、調音器官の位置を表す調音変数の自由度の方が大きいため、特定の運動タスクを満足する調音変数の値の組は無数に存在する。さらに、運動タスクは時間軸上の離散的な点でしか与えられないため、タスクとタスクの間では調音器官は任意の軌道をとり得る。本モデルでは、軌道計画上のこれらの冗長性を解消するため、軌道の滑らかさに関するコスト関数を導入し、この運動規範が最小となる最適な軌道を計算する。単語やショートフレーズについての軌道生成実験の結果、モデルによって計算された軌道の誤差は約0.90?であることが確かめられた。  調音・音響マッピングでは、顎、口唇、舌、軟口蓋、喉頭の位置に対して、声道の音響的な伝達特性を表すスペクトルパラメータの値を決定する。本法では、調音位置と声道スペクトルの間の対応関係は、調音運動と音声波形の同時観測に基づいて得られる調音・音響データ対の形で直接的に表現される。調音位置に対するスペクトルの推定は、調音・音響データ対から構成されるコードブックの検索に基づき、調音位置の近傍のコードベクトルを選択することによっておこなわれる。さらに、入力された調音位置に対する音素の識別と、コードブック中に付与された音素ラベルとの比較によって、音素の種類を基準としたコードブックの予備選択をおこなう。この予備選択は、スペクトル誤差の上では改善効果が見られないが、合成音の品質には寄与することが実験により確かめられた。  最後に、軌道生成モデルと調音・音響マッピングを結合し、音素の運動タスクから音声を合成する実験をおこなった。文章発声における運動タスクを声道変数を用いて指定した場合、軌道誤差は平均で1.44mm、スペクトル誤差は3.94dBとなった。一方、運動タスクを調音変数によって与えた場合には、これらの誤差はそれぞれ0.39mmと2.94dBであった。また、運動タスクから計算されたスペクトルを用いて音声を合成した結果、調音変数によってタスクを与えた合成音の品質は、原音声の位相等化分析合成音と同等となった。一方、タスクを声道変数によって与えた場合には、文章の了解性にはほとんど影響ないものの、自然性に関してはやや劣化が生じた。  以上より、音素の調音的特徴を表す非常に少ない情報から調音運動の軌道を計算することによって、良好な自然性を有する音声の合成が可能であるという結論が得られた。今後は、入力された音素列に対して運動タスクの値と時点を計算する手法の開発と、より高品質な合成音を得る上で最適となる運動タスクの特定が課題である。 続きを見る
36.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 車いす使用脊髄損傷者に適した道路寸法と出入口形式および寸法に関する研究
藤家, 馨 ; Fujiie, Kaoru
学位授与年度: 1996
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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概要: 車いす使用者のための建築指針や街づくり指針が数多く発表されているが、それらにおいては対象となる障害や障害の程度が明示されておらず、また、指針値の根拠が示されていない。本論文では、脊髄損傷者を対象者とし、その障害程度も考慮にいれて、車いす使用に適した通路および出入口の形式と寸法について、人間工学的実験手法を用いて研究した。本論文は、8章から構成されている。  第1章では、国および56都道府県市の車いす使用者のための街づくり指針値を比較し、各指針値間に統一性がないことを見いだし、本研究の必要性を示した。  第2章では、脊髄損傷者の特徴と本論文の被検者の特徴を示した。全被検者55名(頸髄損傷者31名、胸腰髄損傷者24名)が使用している車いすの大きさの平均値および標準偏差は、全幅59.0±4.7?、全長92.2±2.1cmであり、正規分布を仮定して求めた95パーセンタイル値は、全幅66.7?、全長105.5cmとたった。  また、被検者の車いず操作能力を、直線5mを車いすで層工するのに要した時間で表現することを提案し、それを用いて、日常生活における実用的な車いすの操作が可能な障害の程度を明かにすることができた。  第3章では、アンケート調査により、福岡市およびその近郊に在住する車いすを使用する脊髄損傷者の外出の状況を示し、建築物等へのアクセスにおいて通路および出入口に関する問題点が多いことを明かにした。  第4章では、車いすを基準として、車いすでの通過に適した通路幅や車いすの回転スペースを求めるために、実験室内に設けた模擬通路を車いすで通過する時間を測定する実験を行った。車いすで通路壁を意識せずに通れる通路幅は車いす幅+30cm以上、車いす相互のすれ違いに必要な通路幅は2台の車いす幅+35cm以上、車いすで90度および180度回転するのに必要な回転直径は、それぞれ車いす全長+30cm以上、車いす全長+40cm以上であった。  第5章では、実験室に設置した摸擬出入口を用いて、車いすで通過する際、扉を開けるのに必要な力および空間の大きさを求めた。扉を開けるのに必要な力は、障害程度による差が大きく、その平均値および標準偏差は、引き戸で6.0±2.9kgf、開き戸で8.7±4.8kgfであった。扉を開けるのに必要な力の5パーセンタイル値は、引き戸で1.2kgf、開き戸で0.8kgfとなり、この値以下の力で扉が開くようにすべきである。  また、出入口通過に必要な空間は、障害が重度なグループほど多くの床面積を必要とした。 95パーセンタイル値で指針値と比較すると、引き戸においても開き戸においても、指針値よりも広い空間となった。  第6章では、出入口通過時間をもとに、形式が異なる出入口の特徴を調べた。その結果、通過時間は開き戸を押して開ける場合が最も短く、引き戸、そして開き戸を引いて開ける場合の順となった。  出入口通過時間は、通路側方に扉がある出入口形式では通路幅の影響を受けるが、車いす幅+40cm以上の通路幅があれば影響を受けなかった。また、車いすで扉にアプローチするときの袖壁は、通路正面に引いて開く開き戸がある出入口形式では、40cm以上必要なことがわかった。通路正面に扉がある出入口形式の方が、通路側面に扉がある出入口形式よりも通過時間は短かった。  また、障害程度の違いによる出入口通過時間の差が小さいことで評価したとき、開き戸よりも引き戸の方が使いやすいという結果が得られた。  第7章では、建築物等で使われることが多い15種類の出入口形式の特徴を比較した。すべての通過経路を考慮して、出入口を通過するのに必要な時間で比較すると、出入口形式間に差はなかった。しかし、開き戸では通過方向の違いによる通過時間の差が大きく、また、重度の頸髄損傷者では開き戸を開けることはできても、閉めることができない場合があり、この点において引き戸の設置が推奨された。なお、非常時の扉としては、通過時間が短く、また重度の頸髄損傷者にも開くことができる、押して開く開き戸が適している。  第8章では、本研究で得られた成果を総括した。車いすを基準とした通路および出入口の形式と寸法を、人間工学的実験に基づいて客観的に示すことができた。第2章で示した車いすの大きさの95パーセンタイル値を用いて各種基準値を求め、既存の指針と比較すると、各項目とも指針値の下限に近い値となった。  本研究では5および95パーセンタイル値を基準値として採用しているが、本研究で得られた寸法の平均値と標準偏差を用いて、設計思想に応じたパーセンタイル値を求めて利用することができる。 続きを見る
37.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 都市景観イメージコントロールに関する研究
金, 英美
学位授与年度: 1996
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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概要: 本研究では、都市における建物と屋外広告物の色彩の実態を把握し、その中でも特に批判されることが多い屋外広告物をとりあげ、その色彩をコントロールすることが景観整備の上で有効であるのか、またその具体的な方法について検討した。なお、従来の景観コントロールの事例は、歴史的景観地区や自然資源等保護地区、ないしは新規整備地区等に偏っていたが、本研究では既存の一般的な市街地を対象として景観誘導の方法を検討した。 1.研究の方法  (1)性格の異なる地区における建物と屋外広告物の色彩の分布調査を行った。福岡市とソウルの商業地区とオフィス地区の合計4地区の色彩の分布実態を確認した。 (2)地区間のイメージの比較や、色彩の調整によるイメージの変動を把握するための調査方法を考案した。色彩の分布調査を特定地区の固有の現象だと捉えずに、できるだけ客観化して同一の条件のもとで比較実験を行えるように、正方形の背景色にポイント色を規則的に配置した色彩パレットによる刺激をつくった。  (3)その調査方法によって、2地区の色彩を現状+各3通りの方法で調整した刺激によるイメージ調査を行った。福岡の商業地区とオフィス地区の調査結果を色彩パレットに当てはめ、現状、彩度を10以下及び6以下にした場合、彩度10以上のもの面積を1/2にした場合のイメージの変動を調査した。  (4)その地区をどのようなイメージにしたいのかによって景観誘導の根拠が異なるはずであるため、天神地区を例にとって、天神地区として認知されている範囲(色彩調査地区との関係の確認)、現在のイメージ(色彩分布調査から推測できるイメージとの関係の確認)、これから望むイメージ(誘導の方針の確認)について確認するための調査を行った。  (5)具体的な現場で、推論した方法が適切であるのかどうか、シミュレーションによって確認するための検証調査を行った。天神地区の具体的な景観8点を対象とした。 2.研究の結果  (1)屋外広告物の面積は建築物の壁面面積に対して約3%を占めていて、福岡とソウルを比較して見るとその違いは少ないが、地区の類型によるイメージの違いが認められた。  (2)地区を特徴づけている要素のひとつは彩度であり、彩度を調整することによって地域の特性を誘導できる。  (3)色彩パレットによって、彩度をコントロールした場合のイメージの変動を調査した結果、彩度をコントロールすると「まとまり感」が出てくる。高彩度の面積を減ずるよりも彩度を落とす方がイメージの変動が大きい。  (4)天神地区で一般の人々のイメージを色彩と言葉で確認する調査を行った結果、色彩パレットによる調査とほぼ一致しており、色彩パレットによるイメージ調査が実態と類似していることが確認できた。  (5)一般の人々のイメージ調査と色彩パレットによる調査結果、「賑わい感」と「まとまり感」は両立できることがわかった。  (6)地元住民等の意見を要約すると、これからの天神には先進的で「まとまり感」のある景観整備が求められている。  (7)天神の街路を例にとり、実態に基づいた誘導例によってシミュレーションをし、イメージ調査を行った結果、色彩パレットによるイメージ調査、色彩と言葉によるイメージ調査、それを実態に適用させた場合のイメージ調査の3つの結果がほぼ一致していた。  (8)高彩度の屋外広告物の彩度を中彩度や低彩度に落とすべきか、面積を減ずるべきかは現場の状況によってイメージの変動が異なる場合があり、求めるイメージに対してその手法を選択する必要があることがわかった。  本研究において得られた屋外広告物の色彩の誘導の方法は、今後の都市景観計画に十分導入され得るものである。また、これまで最もあいまいでいつも重要な課題とされてきた景観誘導の根拠を明確にするものである。しかも本研究は、特定の個性ある景観地区ではなく一般的な市街地を対象にしており、普遍的な方法として活用できるものである。  ただし、本研究の趣旨は画一的な景観整備の方向を示すものではなく、彩度をコントロールすることによっていくつかの異なるイメージが導かれる点を明かにしたものである。本研究は、景観誘導の現場の問題点を理解し、景観の育成のために具体的に何をしたらいいのか、またその根拠について設計的な観点から研究したもので、今後の景観指導上の基礎研究として位置づけられる。 続きを見る
38.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 低収縮強度での静的筋収縮持続に伴う表面筋電図の変化
大箸, 純也 ; Ohashi, Jyunya
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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概要: 生活・労働の場面における人間の筋負担は小さくなってきている。しかし低収縮強度であっても、作業姿勢の保持のように長時間筋収縮を持続することによって筋疲労が生じる。双極誘導表面筋電図は筋疲労の推定と関連づけて研究されてきた。しかし低収縮強度においては、主観的な疲憊近くまでの収縮を行っても、有効な筋疲労推定法として期待されている表面筋電図の徐波化(低周波数成分の割合が増加すること)は不明確であると考えられている。本研究では、低収縮強度での持続的収縮における筋疲労の表面筋電図による推定のための基礎的研究として、低収縮強度での筋収縮の持続に伴う表面筋電図の振幅と周波数分布の変化、およびその原因について検討した。  先ず収縮の持続に伴う表面筋電図の徐波化の程度と収縮強度の関係を調べた。また、低収縮強度での表面筋電図の徐波化が不明確である原因として、周波数分析が表面筋電図の変化を示すのには適していない可能性があると考え、表面筋電図上の平均的な波形の変化を調べるために、波のピークをトリガにして振幅レベル別平均加算波を求め、収縮持続中のその変化を調べた。筋電図の徐波化は収縮強度が強い方が大きいという傾向があり、最大随意収縮(MVC)の20%以下の収縮では徐波化とは逆の速波化が生じる例があった。トリガ近傍の振幅レベル別平均加算波の持続時間は、収縮の持続に伴って30%MVC以上の収縮強度条件では延長するのに対して、20%MVC以下の条件では短縮する傾向があった。 20%MVC以下の条件におけるこの振幅レベル別平均加算波の変化は、筋電図の徐波化とは逆方向の変化であったが、周波数分布では徐波化が見られた。以上のことから、低収縮強度では表面筋電図上の個々の波(連続した波の一部で、明確な立上りから立ち下がりまでの間)の持続時間の延長が、筋電図の徐波化の主原因ではないことが判った。  運動単位における群化活動が筋電図の徐波化の原因であれば、双極誘導よりも導出範囲の広い単極誘導の筋電図の方が、多くの運動単位の活動を反映するということで徐波化が生じやすくなると推測し、単極誘導と双極誘導とで表面筋電図の収縮持続中の変化を比較した。単極誘導の方が双極誘導よりも安定して大きな筋電図の徐波化を示した。ただし、この誘導法間の徐波化の程度の違いは簡単なモデルから推測した導出範囲の違いよりも大きなものであった。すなわち、単極誘導で徐波化が明確であった主原因は導出範囲が広いためではなかった。群化放電と表面筋電図の波形上の変化を検討するために、双極誘導筋電図をトリガとして用い、単極誘導と双極誘導の筋電図について振幅レベル別平均加算波を求めた。そして、振幅レベル別平均加算波上の各時点の値について、表面筋電図の低周波数成分の割合との相関を求めた。相関が高くなる時点、その符号および振幅レベルの関係が、群化放電が筋電図の徐波化に関与していることを示唆した。単極誘導での筋電位は不関電極の電位に対しての負の方向に発生するため、符号をそのまま用いた単純平均電位は筋放電レベルを反映する。双極誘導では導出電位は基線に 対して振幅がおよそ正負対称の波になるため、単純平均電位は筋放電レベルとは関係しない。この導出電位の極性に関する違いが、単極誘導では筋電図の徐波化が見られても双極誘導では徐波化が見られなかった主原因であるとした。  以上の結果から、単極誘導であれば表面筋電図の変化から筋疲労の推定が期待できる。しかし現場での作業は休憩、非活動期をはさんだ繰り返しであり、筋負担の評価は休憩も含めた作業全体で行うべきである。そのため、休憩を入れて疲労性の収縮を繰り返した場合にも疲労感と表面筋電図の徐波化および振幅の関係が保たれるかどうかを調べた。表面筋電図の徐波化と疲労感との関係は疲労を生じさせるような収縮を繰り返しても保たれた。また、表面筋電図の振幅と疲労感との関係には、一度疲労することにより振幅が増大するという影響があったが、その影響自体が疲労の回復が不完全であることを示していると考えれば、筋電図の振幅も作業の筋負担の評価のための情報になると考えた。  最後に、疲労性収縮中の表面筋電図の振幅の増加と徐波化の原因を考察した。表面筋電図の振幅の増加には、新たに動員された運動単位の特徴が関与していると考えた。表面筋電図の徐波化の主原因は運動単位の活動の群化であり、その群化活動の原因は脊髄よりも上位の中枢にあると推測した。  本研究は、低収縮強度であっても単極誘導であれば、収縮の持続に伴って表面筋電図は徐波化すること、および筋電図の振幅の変化も作業の筋負担の評価に有用であることを示した。ただし、表面筋電図の変化には上位中枢の影響があるため、収縮持続中の表面筋電図の変化の意味を理解するには、持続的収縮に対する運動制御における適応としての解釈も加えることが必要であると考えた。 続きを見る
39.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of コンピュータリレイテッドデザインの方法に関する研究
富松, 潔 ; Tomimatsu, Kiyoshi
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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概要: コンピュータは情報環境に外在化した情報内容を、ユーザの選択的な求めに応じて可視化・表示することで、ユーザと情報内容の対話を可能にしたメディアであるといわれている。  CRD(Computer Related Design)は、このようなメディア的機能を備えた製品と情報内容を計画・具体化するために、ハードウェア、ソフトウェアの両面から問題をとらえて解決するデザインである。すなわち設計・生産の自動化を目的として導入されたCAD/CAMシステムに対応して、3次元形状データを作成し、有効に活用してハードウェアをデザインする方法と、情報処理機能を備えた製品ソフトウェアのデザインを行うものである。  本論文はCRDの領域で実験的研究を行い、デザインプロセスを考察することでCRDの領域におけるデザイン諸要素を抽出・分類し、デザイン諸要素の問題解決を図るデザイン作業を構造化することでCRDのデザイン方法を求めたものである。  本論文の構成は5章からなり、第1章総論では本研究の全般について述べた。  第2章は「コンピュータによるデザイン支援」に関する研究である。  CAID(Computer Aided lndustrial Design)のデザイン方法では、3次元形状データ作成を中核としたデータの利用・展開方法として図形データや画像データの利用による技術文書作成や、多面体データの利用による3次元CGのレンダリングやアニメーションおよびNCデータの利用によるモックアップの自動加工方法を明らかにした。  CGによるデザインシュミレーションでは3次元形状データをデザインの創造段階に適用する具体的方法として、3次元CGを利用して可変的に形状と属性を変化させて表示させる方法を明らかにした。  CAIDのインターフェースデザイン開発では、デザイナにとって困難とされる3次元CADによる形状データ作成を容易にするためのインターフェースのデザイン開発方法として、工業デザイナが3次元形状を作成する思考プロセスを考察し、モデル化を図り、形状を容易に作成する操作フローと必要なコマンドを導きだし、3次元CADシステムのインターフェースデザインに適用した。  以上のように3次元形状データの有効な活用によるデザイン作業の高度化と効率化、およびデザイン作業で使用する3次元CADシステムのインターフェースデザインについてデザイン方法を求めたものである。  第3章は情報内容の構成と情報環境に外在化した情報内容を検索して表示する機能を備えた製品、すなわちユーザが情報内容を利用する際のメディア(Retrieval Media )製品デザインを対象とした「HCI(Human Computer lnteraction)のデザイン」に関する研究である。  空間映像による仮想空間とユーザのインタラクションでは、ユーザの移動経路モデル(パスモデル)を空間のデザインに取り入れることで、写実的である実写映像による空間の表示方法にユーザの求めに応じて映像を表示するような情報内容に選択的表示機能を与える方法を明らかにした。  カーナビゲーションシステムの操作性評価では、HCIのデザインにおいて、ユーザが機器を操作する際の認知的問題を抽出することで、操作性を良くするためのデザイン指標を明らかにした。  以上のようにメディア製品を介してユーザが接する画像情報空間のデザインと、メディア製品のソフトウェアデザインについてデザイン方法を明らかにしたものである。  第4章考察では、「コンピュータによるデザイン支援」と「HCIのデザイン」のデザインプロセスを考察することでCRDの領域におけるデザイン諸要素の抽出・分類を行い、デザイン諸要素の問題解決を図るデザイン作業を構造化した。  メディア(Retrieval Media)製品は、人間(Human)が情報環境(Infomation Environment)を利用する際に使われるもので、コンピュータによる情報処理機能を備え、ハードウェア、ソフトウェア両面で構成されている。デザイン諸要素としては、人間の認知的要素、メディア製品の機能的要素、情報環境の構成要素が、人間を中心とした階層構造をなしている。  第5章結論では、デザイン諸要素の問題を抽出して解決を図るCRDの一方法としてHIERM(Human lnformation Environment Retrieval Media)法を提唱した。 CRDにおけるHIERM法ではハードウェアデザインに関して、デザインを支援するための方法として3次元形状データ作成を中核とし、仮説生成?制作?検証からなる創造的なプロセスにおいてデータを利用・展開するスター型のデザイン方法を明らかにした。ソフトウェアデザインではユーザがメディア製品を操作する際の行動が十分理解できていないことから、ソフトウェアの動作モデルであるプロトタイプを作成することで仮説生成?制作を行ない、プロトタイプをユーザがテストすることで検証し、仮説モデルとユーザのメンタルモデルの一致を図る方法を明らかにした。  HIERM法は人間(H)と情報環境(IE)の間に介在するメディア(RM)をデザインするための方法であり、CRDのデザインプロセスで最も重要な創造の段階において、仮説生成-制作-検証を繰り返すことで、製品のソフトウェアとハードウェアを改善するデザイン方法であると確信する。 続きを見る
40.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 視覚と聴覚の空間知覚における相互作用に関する研究
北島, 律之 ; Kitajima, Noriyuki
学位授与年度: 1997
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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概要: 本研究では、視覚と聴覚の空間知覚における相互作用の特性とその生起過程を解明することを第一の目的とし、5つの実験を行い、検討を重ねた。以下に本研究の概要を記述する。 (1) 音源定位への光刺激の影響における同期性の効果の空間異方性  従来行われていた、音源定位に及ぼす光刺激によるバイアスの研究は、水平面内に限られたものであり、水平面内にある音源が、水平面内にある光によって受ける影響を調べたものがほとんどであった。 そのため、音源定位能力が水平面内と異なる正中面内では、光刺激の影響がどのように現われるかが定かでなかった。さらに、定位バイアスにおいて重要な要因とされる光と音の同期性が、正中面内の定位にはどれほどの影響をもたらすかも明らかではなかった。  実験1では、水平方向と垂直方向における音源定位のパフォーマンスが、光刺激の提示タイミングが操作された条件のもとで、測定された。  実験の結果、水平方向においては、光と音が同期した条件のみで、小さなバイアスが観察された。しかしながら、このバイアスは被験者によっては、まったく見られないこともあった。一方、垂直方向でも、光と音が同期した条件のみにバイアスは観察された。ただし、バイアスの大きさは顕著なもので、音源の位置がどこであろうとも、すべての被験者が光の位置と音の位置をほとんど区別することはできなかった。このように、光刺激が音の定位に及ぼす影響は、水平方向よりも垂直方向で特に明らかになることが示された。 (2) 音源定位に及ぼす視覚的注意の効果  これまで、視覚的注意と聴覚の空間解析との関係は全く明らかにはなっておらず、実験2では、定位バイアスと視覚的注意との関係を直接的に調べることが目的であった。  実験では、まず水平方向において、注意要因によるバイアス量と同期要因によるバイアス量が測定された。その結果、注意を払った位置へ音源の定位がシフトする傾向が認められた。ただし、それはすべての音源位置に対して小さな量であった。一方、同期要因の効果は全体的に大きなものであり、音源位置に依存したものとなった。このように質と量ともに要因間で差が現れ、2つのバイアスが全く異なった過程を通して現れている可能性が示唆された。  この可能性を検証するため、次に、垂直方向で同様に注意要因と同期要因によるバイアス量を測定した。垂直方向では、実験1で、融合を生じさせるような大きなバイアスが同期要因により生じることがわかっており、もし、2つの要因による処理過程が同じものであるなら、注意要因によっても水平方向よりも大きなバイアスが得られることが期待された。しかしながら実験の結果は、同期要因ではより大きな効果が得られたものの、注意要因の効果は統計的には 見られないほど小さなものであった。  従って、2つの要因による影響は、別の過程を通って現れることが明らかとなった。  Radeau(1992)により仮定された相互作用の2つのメカニズム(データ駆動型、概念駆動型)の枠組みに従い、注意要因による効果は、概念駆動的処理あるいは判断基準の変化によって現れ、同期要因による効果は、データ駆動型の処理によって現れたと推測された。 (3) 定位バイアスと同期要因との関係  実験3では、これまでの実験で、定位バイアスに大きな効果をもつことが示された同期要因について、さらに詳細に検討した。特に、光刺激の変化自体が重要であるのか、新たな視覚対象が形成されることが大切であるのかを問題とした。  実験の結果、従来の同期条件であった、光刺激と音刺激の出現と消失の各々が同期する条件だけでなく、光刺激が出現するだけの条件や消失するだけの条件すべてにおいて、これまでの条件と同等な定位バイアスが観察された。光刺激が消失的変化のみを行った場合でも、定位バイアスが同様に観察されたことから、同期要因による効果は、新たな視対象が形成されることにより現れると考えるよりも、視野内の対象の変化自体が重要な原因であると考える方が良いことが示唆された。 (4) 三次元空間における運動光刺激が音の運動知覚に及ぼす効果  Mateeff et al. (1985)によって報告された、静止音源からの音を運動光刺激が捕捉する現象(DVC)を三次元空間において調べた。 Mateeff et al.は、この現象を水平方向のみについて調べただけであり、3次元空間内での運動については調べてはいない。垂直方向や奥行き方向に関しては、水平方向よりも空間の解析能力が劣ることが知られており、水平方向とは異なったDVCが現れることが考えられた。  実験4-1の結果から、水平方向に限らず、垂直方向でDVCが生じ、さらに垂直方向でのDVCは水平方向よりもかなり強いものであることがわかった。また、実験4-2では、音源の運動方向に水平、垂直方向に斜め方向も付加し、被験者には運動方向を二次元平面において自由に報告させた。この場合でも、被験者は音の実際の運動方向を知覚することができず、判断の多くは、光の運動方向と同一であった。さらに、実験4-3では、両眼立体視を用いて光刺激を奥行き方向に運動させるのと同時に、音源も奥行き方向に運動させ、奥行き次元でのDVCが生起するか否かを調べた。結果は、実験4-1の垂直方向と同様に、顕著なDVCが生起するものであった。 (5) 視覚仮現運動知覚に及ぼす音刺激の影響  空間知覚における視覚から聴覚への影響は、上述した実験などから明らかであるが、その逆に、聴覚から視覚への影響を調べた研究は非常に少ない。これまでに視覚の仮現運動の知覚に関して、音の影響を論じた研究がいくらか報告されているが、作用を肯定するもの(Maass,1938; Wemer,1928; Staal & Donderi,1983)と、否定するもの(Allen & Kolers,1982;Ohmura,1985)にわかれている。ただし、いずれの研究でも古典的仮現運動が取り扱われ、被験者の客観的判断が難しかったと思われる。また、音刺激に関しても、左右いずれかからの短音が視覚刺激と同期して提示されるといったものであり、その刺激に対しての運動感の有無は問題とされなった。実験5では、より客観的な判断を得るために、光刺激をランダムドット・キネマトグラムとし、音刺激として頭内運動をシュミレートしたものを用いた。  実験の結果を、従来から知られている仮現運動の2つの処理プロセス(ショートレンジ系、ロングレンジ系)のパフォーマンスと照らし合わせて検討した。それにより、仮現運動の知覚には音による影響は見られず、判断基準の変化と思われる影響のみが観察されたことが明らかとなった。また、この結果は、両刺激の提示タイミングを組織的に操作した場合においても同様に見られた。 続きを見る
41.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 都市サインの視覚的最適化と景観誘導に関する研究
佐藤, 優 ; Satou, Masaru
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 論文博士
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42.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of The effect of spectral distribution on light on arousal level — 照明光の分光分布が覚醒水準に及ぼす影響に関する研究
岩切, 一幸 ; Iwakiri, Kazuyuki
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 我々をとりまく様々な環境要因のひとつに照明がある。この照明は、以前は明るさだけが求められてきた。しかし、技術の進歩により充分な明るさが得られる現在では、単に明るいだけでなく快適な照明が望まれる。その照明は,量と質の二つの要素から見ることができる。室内照明を考えるうえで問題となるのは、前者が照度及び輝度、後者が光源色、演色性である。照度は、光を受ける面の明るさの程度を表し、輝度は、光を受ける面をある方向から見た明るさの程度を表す。照度及び輝度は、これまで作業能率や疲労の面から様々に検討されており、現在では作業の環境や内容に応じて細かく規定されている。光源色は、光源の放つ光色のことで一般照明において色温度(K)で表される。色温度とは、完全黒体を加熱した際に発せられる光色をその温度で表現したものである。7500Kの高色温度は、涼しげな青っぽい光色を示し、3000Kの低色温度は、暖かみのある赤っぽい光色を示す。演色性は、光が物体色の見え方に及ぼす影響のことで、その程度は平均演色評価数(Ra)で表される。Raは、最高値が100を示し、この場合基準となる光源と対象となる光源のもとでみた物体色の見え方が一致することを示す。光源の色温度及び演色性は、作業の環境や内容さらには個人の好みなどにより設定が異なる。このため、照度のような設定基準はなく、さらには充分な検討もされていない。そのようななか、照明の光源色は、これまで光源の色温度のみを基準に設定されてきた。しかし、現在の照明は、様々な演色性さらには色温度では表せない光色などがあり、照明の光源色の違いを光源の色温度のみの属性だけでは表せない。本来、光色は、光の波長構成で定まり、その波長構成は分光分布で示される。このような点から、照明の光色は、光源の色温度ではなく光源の分光分布そのものへの考慮が必要であると考えた。光源の分光分布に関する過去の知見によると、単一波長形と三波長形といった光源の分光分布の違いは、覚醒水準に影響すると示されている。我々が身近に使用している様々な色温度及び演色性の光源も異なる分光分布を示す。したがって、快適な照明環境を構築するには、光源の分光分布が覚醒水準に及ぼす影響について検証し、明かにする必要があると考えた。そこで、光源の分光分布の及ぼす効果を探究することを目的に、光源の色温度及び演色性の違いが覚醒水準に及ぼす影響について実験した。さらに、その結果をもとに光源の分光分布と覚醒水準の関係について検討を加えた。  実験では、色温度及び演色性の異なる蛍光灯を用い、これら光源の分光分布の違いが覚醒水準に及ぼす影響について検討した。使用したRa88の蛍光灯は、三つの狭帯域に発光スペクトルをもつ。この蛍光灯において、高色温度の光源は、低色温度の光源に比べ高い覚醒水準を誘発した。一方、Ra72-75及びRa95-99の蛍光灯は、広帯域に発光スペクトルをもつ。これらの蛍光灯において、色温度の違いは覚醒水準に影響しなかった。さらに、広帯域波長形蛍光灯において、Ra95-99の低色温度の光源は、Ra72-75の低色温度の光源に比べ高い覚醒水準を誘発した。Ra95-99の光源は、Ra72-75の光源に比べ各色温度で短波長帯域のエネルギー放射量が少なく、長波長帯域のエネルギー放射量が多い分光分布を示す。これらの結果は、光源の分光分布の違いが覚醒水準に影響することを示す。したがって、照明の光色は、光源の分光分布の観点から検討する必要があると示唆された。 以上の結果をもとに、光源の分光分布と覚醒水準の関係について検討した。分光分布は、光色の違いを正確に表すが容易に表現できない。このことから、分光分布の違いを簡便に表せる新たな指標が必要と考えた。そこで、光源の分光分布を長波長帯域のエネルギー放射量(L)に対する短波長帯域のエネルギー放射量(S)の比率を用いて表すことを試みた。このエネルギー比率(S/L比)の各波長帯域は、以下に示す三つの条件を設けてその範囲を設定した。それらは、1)三波長形光源における三つの発光スペクトルのピークである450nm、540nm、610nmを区分できること。2)S/L比が光源の色温度及び演色性の違いを表せること。3)S/L比と覚醒水準の関係が実験で測定したFz及びCz部位のCNV及びα波率で同様の関係を示すことを条件とした。両帯域の波長範囲は、これらの条件をもとに選出した。その結果、光源の分光分布の新たな指標は、600nmから780nmのエネルギー放射量に対する380nmから500nmのエネルギー放射量の比率とした。このS/L比を用いて光源の分光分布と覚醒水準の関係を求めた結果、覚醒水準は、S/L比の増加に伴い三相性の変化を示した。このことは、覚醒水準が光の物理的特性である光源の分光分布に依存することを示唆する。 以上の研究により、光源の分光分布は、覚醒水準に影響する要因であることが明らかになった。さらに、その分光分布を示すS/L比は、覚醒水準と曲線的な関係を示した。これは、照明の光色により誘発される覚醒水準が光源の分光分布といった光の物理的特性に依存することを示唆する。つまり、照明の光色の効果は、光の物理的特性が基盤にあると示唆される。したがって、照明環境は、光源の分光分布を考慮することでより快適になると示された。 続きを見る
43.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of Studies on characteristics of communication by multiple-image — マルチ映像によるコミュニケーションの特性に関する研究
脇山, 真治 ; Wakiyama, Shinji
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: マルチ映像は、複数の映像を同時に提示する方法と構成の総称である。1960年代、すなわちコンピュータによる制御技術の進展と同時期に、マルチ映像も数多く制作されるようになったが、表現やシステムの特殊性ゆえに研究例は少ない。そこでマルチ映像の特性を、映画に代表される1画面映像との比較において明らかにすることによって、コミュニケーションメディアとしての機能と表現の可能性を体系的に考察する。 本論文は時代考査、作品分析、実験、概念提示等を統合しながら所期のテーマをまとめたもので、8章から成る。  第1章では、視覚情報の多元化、エンタテイメントの多元化、ビジュアルプレゼンテーションのマルチ化といった現代的状況を、きわめて日常化してきた現象としてとらえ、情報過多の時代性と符号した表現方法と解釈した。 マルチ映像の媒体特性は制作者と鑑賞者の2つの視点で検討しなくてはならない。  第2章では、マルチ映像の最も初期の作品であるアベル・ガンスの『ナポレオン』で採用された「トリプルエクラン」を考察対象として、制作者の立場から構成分析を試みた。分析の対象としたのは1927年の原版(既に散逸)ではなく、1981年の再編集版である。この結果、3つの要素映像の同時展開、3面連続のパノラマ構成、さらに多重露光された映像の組み合わせなど、現在のマルチ映像の多くの表現要素を取り入れていることを明らかにした。「ポリビジョン」といわれる多映像展開は文字どおり視覚的交響楽であり、マルチ映像の嚆矢である。  一方第3章は、鑑賞者の立場から、マルチ映像がどのように<見られて>いるかを実験的に検証した。マルチ映像の作品を上映し、アイマークレコーダを装着した被験者に鑑賞してもらった。この結果、①マルチ映像は鑑賞者によって注視する映像が異なり、選択される映像の順序、注視の時間、その回数などまちまちで、必ずしも同じ<見かた>がなされていない。②映像が点灯した瞬間やカット替わりなどの視覚的刺激が与えられる場合は、被験者に共通した視点の移動がみられる。③提示された映像のすべてが鑑賞の対象となっているとは限らない、等の鑑賞態度が確認された。これらは「選択的鑑賞」と「視覚的誘導」の可能性を示唆している。  第4章は、従来の映画に代表される1画面映像と、マルチ映像の視覚思考の違いを考察した。映画が<直線的集約思考>の鑑賞態度をとるとすれば、マルチ映像は<分散的拡散思考>である。同じように<知性的認知>と<直覚的認知>の違いがある。これらはマルチ映像が視覚的な文脈が同時に見とおせることで、要素映像の文脈における意味がより見えやすくなっていることに起因している。さらに<選択>というマルチ映像独特の鑑賞は、視覚的緊張から視覚的平衡状態への移行であり、ある意味では鑑賞者の本能的な行動である。一方で演出の立場から、特定の映像へ注意を向けることもある。これが視覚的誘導である。  第5章では、1画面映像との表現の違いや、鑑賞態度の特性をふまえてマルチ映像の構成法、すなわちマルチプルモンタージュの考察を試みた。マルチ映像の基本的な構成は2つある。要素映像が網目のように相互に関係しあって全体を構成する<散在映像型>と、特徴的な映像を中心にして、捕捉的な映像が結合している<中心映像型>である。またマルチ映像では映画と異なり、先行した映像と現前の映像との照合、すなわち概念形成のための映像の突き合わせは、記憶像に頼るという心理的負担が軽減される。さらにこの映像には2つのモンタージュが存在する。制作者のモンタージュと鑑賞者のモンタージュである。制作者が構成した意図どおりに、必ずしも鑑賞されるとは限らないところに、構成と解釈の難しさがある。2つのモンタージュはいうまでもなく<二重の情報構造>の存在を意味している。  第6章では、過去の作品を参考にして、時間・空間の側面からマルチ映像の構成法の抽出と分類を試みた。on-off効果、順送りの変化、中心映像だけの変化、連続パターン、アクセント映像、図と地、一部を使う、対称構成等はその代表である。  第7章は、コミュニケーションメディアとしてのマルチ映像のあるべき方向を考察して最終章とした。マルチ映像は動態性の強い構造をもった映像である。従って要素映像は、同時性の中で総合化されることによってイメージの強化がはかられていく。マルチ映像はテレビや映画の1画面映像の対極として積極的にメッセージを発信したとき、もっとも独自の効果を発揮する、表現力に富んだコミュニケーション手段として認知されるにちがいない。  第8章は、1~7章をまとめて総括した。 映画が誕生して100年がすぎた。その間論じられてきた1画面映像の構成論は、マルチ映像の出現で新しい視点からの考察を必要としている。本研究は、体系化された研究がほとんどないマルチ映像を、実験と概念提示をとおして考察してきた成果をまとめたものである。 続きを見る
44.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A study on the experimental efficiency of threshold determination in psychoacoustics — 音響心理実験における閾値測定の効率に関する研究
寺岡, 章人 ; Teraoka, Akito
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 心理物理学において、心理物理定数として、閾値、弁別閾、等価値などがある。このような測定値は、感覚や知覚の特性と構造を知るうえで重要であることはよく知られている。本論文は、閾値測定の効率化について、検討を行ったのもである。閾値測定をする場合、古典的な心理測定法である調整法、極限法や恒常法から、短時間で測定を行う目的で開発された適応法がある。適応法は、実験者側の視点での測定用の効率、つまり、シュミレーションの結果で効率(真値からのずれの平均値及びそのばらつきと試行数で評価し、それらの値が共に小さいほど効率が良いと定義する)を判断するという発想で開発された。効率の良い測定法を用いて測定を行うことは重要であるが、被験者側からの視点での測定のやり易さ、つまり、被験者の負担も考慮すべき問題である。その理由として、最近の測定法の研究の流れとして、最尤推定法を用いる適応法が主流となっている。しかしこの方法は主に被験者の閾値付近のみを集中的に測定を行うため、被験者は相当な集中力を必要とし、作業が非常に困難であることが予想できる。もし、測定の途中で集中力がなくなると、データが安定しなくなる可能性もあり、逆に実験では効率が悪くなることも考えられる。 これらのことを考慮に入れ、まず、従来からあるいくつかの測定法で効率及び被験者の負担などの観点から検討を行った。その結果、他の測定法に比べ、効率が良く、かつ、被験者の負担が少ないという測定法はなかった。 本研究の目的は、被験者の負担が少なく、かつ、効率の良い測定法を開発することである。そこで、新しくRASS法(Rapid Adjustment of Step Size Method)を提案し、その理論及び特徴を述べ、最後にシミュレーションと聴取実験で被験者の負担を含めた総合的な効率を検討した。  第1章では、本研究の背景及び目的を述べた。   第2章では、従来からある恒常法と適応法(PEST法、Best PEST法)の効率を振幅変調音の変調検知閾実験で比較した。聴取訓練を受けた被験者群では、測定法の違いによる閾値の差はなく、実験効率も同じであることが分かった。また、被験者毎に好みの測定法が違うことが分かった。聴取訓練を受けていない被験者群でも、測定法の違いによる閾値の差はなく、実験効率は同じであることが分かった。しかし、恒常法は適応法と比較すると、被験者毎の閾値がセッション間で大きく変動する被験者が多く、効率が悪いことが分かった。また、PEST法は、測定時間が他の測定法よりも長くなり、効率が悪く、Best PEST法の効率がよいことが分かった。一方、内観報告では、PEST法の被験者が他の測定法の被験者より、疲労感を少なく感じていることが分かった。  第3章では、Best PEST法より効率が良く、PEST法より被験者の負担が少ないRASS法(Rapid Adjustment of Step Size Method)を新たに開発し、その理論について述べた。RASS法は、刺激レベルの変化方法のアルゴリズムが非常に単純であり、測定の処理時間が速い。刺激レベルの変化がチャンスレベル付近では、起こりやすく、比較的分かりやすい刺激レベルが出やすくなっている。また、心理測定関数をロジスティック関数と仮定し、その傾きを測定値を使用することで、測定条件のパラメータが簡単に決定できるという利点がある。  第4章では、モンテ・カルロ・シミュレーションで適応法(PEST法、Best PEST法、RASS法)の効率を調べた。刺激レンジが狭い場合には、Best PEST法の効率が良いが、刺激レンジが広くなるにつれ、RASS法の効率が良くなることが分かった。このことは、実験を行う上で、閾値上の刺激レベルなら、どの刺激レベルから測定を開始しても良いという利点がある。PEST法は、測定に要する平均試行数の標準偏差が大きな値を取るが、RASS法はPEST法の約半分以下の標準偏差値を取る。従って、RASS法は、測定時間が予測しやすく、実験計画が立てやすいことが分かった。そして、robustな条件の時にRASS法が、最も効率が良いことが分かった。  第5章では、第2章と同じ変調検知閾実験を行い、3種類の適応法(PEST法、Best PEST法、RASS法)で効率を比較した。聴取訓練を受けた被験者群では、測定法の違いによる閾値の差はなく、実験効率も同じであることが分かった。総合的な判断をすると、比較的実験計画も立てやすく、内観報告からも悪い評価がなかったRASS法が最適であることが分かった。聴取訓練を受けていない被験者群では、測定法毎の被験者個人の閾値にばらつきがあったため、等分散の検定で閾値に有意な差があったが、被験者個人の閾値推移の分散は同じであることが分かった。内観報告の結果から、最も評価が良かったのはRASS法である。そのため、総合的な評価をするとRASS法が聴取訓練を受けていない被験者にも適していることが分かった。  本論文で提案したRASS法は、他の適応法と比較して、シミュレーションで効率が良く、また、聴取実験の結果からも、被験者の負担が少なく、閾値測定に最も適していることが分かった。 続きを見る
45.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 伝統的背負い梯子「背板」はどのように身体にフィットしているか — How is a traditional carrier frame
河原, 雅典 ; Kawahara, Masanori
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 背板とは山口県玖珂郡錦町での伝統的背負い梯子の呼称である。錦町はほとんど平地が無いが、その中でも急勾配の谷間にある3集落で背板は現在も使用されている。そこで複雑な農林業を営んできた人々は、背板によってあらゆるものを運搬してきた。人間は道具によって環境に適応することができるが、そのとき道具は身体の延長であり一部である。本研究では、そうした観点から背板と身体の関係に着目し多角的な分析を試みた。本論文は6章構成である。  第1章では背負い運搬研究の背景について概説し、本研究の目的と構成を述べた。日本での背負い運搬と運搬具に関する研究は民俗学や民族学で行われてきたが、そこでは道具のみを扱っており身体との関係を論じた研究はほとんどない。一方人間工学や働態学などでは軍事的な背負い運搬に関する研究が主流であり、背負い運搬と運搬具に関する問題が数多く報告されている。しかし背板が使われてきた錦町では非常に多くものを背板によって運搬してきたにもかかわらず、背負い運搬に関する問題は皆無といってよい。そこで本研究は、背板と身体も関係をさまざまな面から明らかにすることを目的とし、調査と実験の両面から研究を行った。  第2章では、背板を作るときに大事だと考えられていることの聞き取り、これまでの生活での運搬履歴、背負い運搬に起因する傷害の履歴について調査を行った。背板を作るときにはツメ(荷台の部分)の位置、腰の当たり(背板の背面の荷重支持部がどこで身体と接触するか)等、いくつか留意点が明らかになった。背板を使っている人々は自分で体に合わせて背板を作り、これまでの生活で現在では考えられないほど多くのものを背板で運搬していたことが確認された。過度の背負い運搬はさまざまな傷害を引き起こすことが報告されているが、背負運搬に起因する傷害の有訴率は非常に低く、それらに対する特別な治療法(民間療法)や通院履歴もなかった。過酷なほどの運搬を背板によって行ってきたにもかかわらず、予想される傷害が無かった。この理由が背板と身体の関係に見いだせるのではないかと予想した。  第3章では、第2章で得られた証言をもとに、背板と身体のフィッティング法に終点を合わせた。背板寸法の実測値とその使用者の生体計測値からそれらの相関関係を示し、写真撮影から背負い姿勢の特徴を明らかにした。背板は、身体と広い面で接触するのではなく、小さな面で荷重を支持する構造であるが、荷重を身体背面のどこで支持するかが最重要課題であった。調査の結果、背板を使用するときには荷重を仙骨上で支持しており(背板フィッティング法)、決して腰椎上では支持しないことが明らかになった。背負うときに仙骨上で荷重を支持できるように、ニオ長(肩紐の長さ)と肩腰ヌキ長(背板の肩紐の上部取り付け位置から腰部接触位置までの長さ)の和を調節していることを示した。これは第2章で背板作りの留意点として得られた「腰の当たり」が重要とする証言を裏付けるものであった。  第4章では、第3章で得られた背板フィッティング法の有効性について実験的に検証した。仙骨上で荷重を支持すること(仙骨支持条件)と腰椎上で荷重を支持すること(腰椎支持条件)について、生理学的な実験によって比較した。実験の結果、仙骨支持条件での歩行は腰椎支持条件よりも酸素摂取量、心拍数、および下肢の筋活動が少ないこと、また仙骨支持条件の方がより少ない歩数であること、を示した。  第5章では、第4章に引き続き、第3章で明らかになった背板フィッティング法について、力学的な面から検証した。重心動揺の実験により、明らかに仙骨支持条件の方が腰椎支持条件よりも動揺距離が小さいことを示した。床反力測定では、鉛直方向下向きの力の最大値、前後方向後向きの最大値および積、左右方向左向きの力積において腰椎侍史条件よりも仙骨支持条件の方が大きな値を示した。鉛直、前後、左右の3方向の結果から、仙骨支持条件では床から足が離れるときに蹴る力を発揮しており通常の歩行により近いこと、腰椎支持条件では蹴る力を使っておらずすり足式歩行により近いことを述べた。また、自作した張力センサおよび腰仙部負荷荷重センサを用いた実験で、腰椎支持条件よりも仙骨支持条件の方が肩紐の張力、腰仙部負荷荷重ともに小さいことを示した。仙骨支持条件は同じ荷重を背負っていても、肩紐の締め付けも少なく、腰の圧迫も小さいことを明らかにした。  第6章では以上のことを総括した。背板を用いた背負い運搬の実態調査から、現代では信じられない物量を背板によって運搬してきたこと、しかしそれによる傷害が見られないこと、背板の荷重を仙骨上で支持するように背板を身体にフィッティングしていることを示した。さらにこの背板フィッティング法を実験的に検証し、エネルギー効率がよいこと、身体動揺も少なく安定性が高いこと、通常の歩容を保てること、そして肩紐の締め付けが少ないことなどを示し、その合理性を明らかにした。  巻末資料として、生体計測記録、背板の実測記録とハシラのトレース図を収録した。 続きを見る
46.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of A study of the housing supply policy and its realizing process after foundation in urban area of China — 建国以後の中国都市部における住宅供給政策とその実現状況に関する研究
白, 英貨
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本論文は、現在混迷化している中国の住宅供給を適切なシステムに転換するための方策を明らかにするために、建国以降の住宅供給政策の推移と供給状況の関係に焦点をあて、問題点の所在を明らかにしたものである。 1.研究の背景と目的 1949年の建国以降、中国都市部において住宅は、一種の福祉として国による一元的投資と「単位」(=中国における職場の呼称)による建設・分配という体制下で、無償に近い低家賃で都市民に供給された。これにより国家財政は逼迫し、70年代末に政府は、公有住宅の家賃引上げや新旧公有住宅の払下げ、「商品住宅」の供給などを通しての、国による一元的住宅建設投資体系から「中央・地方・単位・個人」の四者による建設投資体制への方針転換を内容とする住宅制度改革をおこなった。しかし、これらの施策も一定の成果は得たもののいずれも難航、「単位」間の所有住宅の格差と建設する経済力の格差の存在は、現在に至って都市民の住宅格差を一層拡大させている。 本論文は、こうした現代中国の都市住宅問題の解決策を求めるための基礎的研究として、建国から現在に至る約半世紀間に政府が定めてきた改革以前と改革以後とで全く異なる住宅供給政策のそれぞれの策定過程と実施・実現状況を明らかにすることで、建国以降の住宅供給政策に対する総合評価をおこなうことを目的とし、その考察に基づいて、今後の都市住宅供給施策の展開に対する提案を試みたものである。 2.論文の構成と概要 本論文では序章と結章および本編3章の全5章から成る。 第2章では、建国から1978年改革までの政策に着目し、改革以前の政策の三本柱である低家賃供給体系と国による一元的投資の形成過程および「単位」による住宅建設・分配の実態とそれによって自力での住宅取得を考えず「単位」の住宅分配に頼る「等・靠・要」(とう・こう・よう)概念の形成過程を捉えることで、従来ほぼ否定されてきた改革以前の政策に対する再評価をおこなった。ここでの考察では、主に建国初期の政策内容と改革後の新たな政策方針とを比較しながら、建国初期の政策の合理的な部分を評価し、その合理的な部分が失われる過程を考察することで改革に対する政策的提言をおこなった。 第3章では、改革後の政策に着目し、改革の実施状況を捉えた上で政府が定めてきた政策全体の問題点を考察した。それによって、これまでの改革の20年間、政府は公有住宅の取得可能な都市民を偏重する政策を採ってきており、公有住宅が取得不可能な都市民については、経済力のある者だけが重視され、経済力も乏しい都市民は軽視されてきた実態を明らかにした。さらには改革以前の旧体制下はもとより、改革後の住宅供給においても「単位」が変わらず政策上で極めて重要な位置を占め続けたことが、市場経済の下で構築すべき都市民と住宅の直接商品関係を今日まで形成できていない根本的な要因となっていることが分析できた。つまり、「単位」を通じて公有住宅を取得しない限り、都市民は「福祉」政策の受益者から外れざるを得なかったということであり、改革後の政策も全ての都市民の住宅保障政策とはなり得なかったという評価を得ることができた。 第4章では、近年議論の焦点にもなった「商品住宅」の売れ残り問題に着目し、個人の自力による住宅取得の問題点と可能性を考察した。この章は、2、3章における建国以後の住宅政策の総合的検証に基づく現代における住宅問題研究の在り方を示す一例としての性格を持つと同時に、本論文の今後の発展の可能性を示すものとして位置づけられる。 3.結論 中国都市部の住宅供給において、現在なお個人の経済能力に応じた公平な住宅取得体制を形成できていない理由として、①改革による政策転換にもかかわらず住宅の直接消費者である都市民と住宅の間に「単位」が介在し続けたこと、および、②それによって「等・靠・要」という改革実現を困難にする概念が都市民の間に根強く形成されたこと、という二つの要因を明らかにできた。この考察に基づき、中国都市部の住宅供給政策における今後の課題として、(1)より公平な「社会保障型の住宅供給体制」を構築するためには、都市民と「単位」との住宅面での依存関係を断ち、これまでの「単位」ごとの住宅保障体系から社会保障体系へ徐々に転換を図る必要があること。なお住宅供給体制のなかから「単位」がまだ分離されていない現時点では、少なくとも住宅の購入時に「単位」の補助の度合いによって異なる住宅所有権を与える体制を採る必要性があること。(2)今後は都市民に住宅を持たせようとする持家政策に一方的に傾斜せず、公的補助下での安い賃貸住宅および家族形態による期限付き「社宅」的なものの供給の必要性があること、の2点を挙げることができた。 続きを見る
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学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 超音波法を用いた日本人成人における体肢筋群横断面積と筋力に関する研究 — A cross-sectional study of the size and strength of the extremities muscles in Japanese adults using ultrasonography
佐藤, 広徳 ; Sato, Hironori
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究は、フィールド調査においても体肢の完全な横断面画像が撮影できるシステムを開発し、日本人成人男女における大腿部および上腕部の横断面画像の撮影と膝関節・肘関節の伸展・屈曲における等尺性最大筋力測定のフィールド調査を行い、加齢に伴う大腿部および上腕部筋群横断面積と筋力の変化について検討した。調査は平成8年8月から平成10年8月の間に、広島県、福岡県および宮崎県の3県のボランティア集団7団体を対象に行い、実施場所はそれぞれの団体が居住する地域の集会所などであった。被検者の総数は男女508名で、年齢は20~69歳であった。得られた結果は以下の通りである。 Ⅰ.超音波体肢横断面画像撮影システムの開発 1)市販の超音波診断装置を用いて体肢の完全な横断面画像の撮影が可能な超音波体肢横断面画像撮影システムの開発を行った。 2)本研究で開発した超音波体肢横断面画像撮影システムによって、これまでCT法やMRI法などのように高価で、しかも特定の施設でしか得ることのできなかった生体の体肢横断面画像が、比較的安価で簡便に入手することが可能となった。 3)同一被検者の同じ部位を1日以上の間隔を置いて2度撮影し、皮下脂肪、筋および骨の各組織横断面積測定の再現性について検討を行ったところ、1回目と2回目の各組織における横断面積の相関係数は、皮下脂肪がr=0.966、筋がr=0.985、骨がr=0.957と非常に高く、1回目と2回目の計測値はほぼ一致した。 4)本システムとMRIで体肢の同じ部位を同一日に撮影し、各組織横断面積について検討したところ、本システムより得られた各組織横断面積は平均で約7%大きかったが、大腿部全横断面積に対する各組織横断面積の比率において、本システムとMRIの差は、皮下脂肪で0.97%、筋で1.00%、骨で0.08%と両者はほぼ一致していた。 5)本撮影装置は、軽量でコンパクトに作製されているため、可搬性があり、測定も短時間で行うことができるので、本研究のようにフィールドで展開されるような集団を対象とした調査的な研究には有効であり、また、より広範囲な集団における体肢横断面情報の収集が可能となり、今後、体肢組成のデータの蓄積とそれに基づく現代の日本人の基準値といった新たなデータベースの構築が期待される。 Ⅱ.日本人成人における大腿部筋群横断面積と筋力の年齢変化について 1)膝関節伸筋群横断面積は、男女とも60歳代で減少する傾向を示した。膝関節屈筋群横断面積は、男性は60歳代までは加齢による変化はほとんどみられなかったが、女性は20歳代が最も小さく、その他の年齢グループはほぼ同じだった。 2)膝関節最大伸展力において男性は、60歳代で低下がみられたが、女性は年齢による変化はみられなかった。また、膝関節最大屈曲力において男性は40歳代から緩やかに減少する傾向がみられた。 3)男性の大腿部伸筋群・屈筋群における筋単位横断面積当たりの筋力は40歳代頃から低下が始まることが示された。女性は伸筋群において20歳代、30歳代がやや小さく40歳代から60歳代までは変化しなかったが、屈筋群においては加齢とともに低下する傾向がみられた。 Ⅲ.日本人成人における上腕部筋群横断面積と筋力の年齢変化について 1)肘関節屈筋群および伸筋群横断面積において、女性は20歳代が40歳代、50歳代がより有意に小さかったが、男性は年齢グループ間に有意差ほみられなかった。 2)肘関節最大屈曲力では、男性において60歳代が30歳代より有意に小さく、女性においては20歳代が50歳代より有意に小さかった。肘関節最大伸展力は、女性では20歳代が50歳代より有意に小さかったが、男性ではどの年齢グループ間にも有意な差はみられなかった。 3)上腕部屈筋群における筋単位横断面積当たりの筋力は、男性では50歳代および60歳代が、30歳代より有意に小さかったが、女性では各年齢グループ間に有意な差はみられなかった。上腕部伸筋群における筋単位横断面積当たりの筋力は、男女とも年齢グループ間に有意な差はみられなかった。 4)60歳代までは男女とも肘関節屈筋群、肘関節伸筋群、膝関節伸筋群および膝関節屈筋群のすべての筋群が同じ程度の筋単位横断面積当たりの筋力を有する可能性が示された。 本研究の結果より、本邦の男性においてはすでに50歳代頃から筋の構造・機能の低下が始まる可能性が示されたが、女性は60歳代まで大きな変化は認められなかった。今後は、高齢者のみならず、高齢者予備軍である中年者(特に男性)にも筋機能低下防止のための運動処方を示すことが必要であり、そのことが将来にわたって高齢者の自立した日常生活獲得に貢献するものと考えている。 また、今日の本邦においては急激な高齢化のために中高年者の体力レベルの把握が特に重要視されてきたが、これからは10歳代、20歳代の若者の体力レベルにも十分な注意を払う必要があるものと思われる。 続きを見る
48.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 移動体ロボットに対するヒトの個体距離に関する研究 — Personal distance against mobile robot
中島, 浩二 ; Nakashima, Kouji
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究では超高齢社会を目前に控え、介護負担増加、労働人口減少が予想される我が国において、ロボットとヒトが共存する際の大きな問題点であるロボットとヒトの親和性に注目した。ロボットがヒトと同じ空間で活動する場合に、ヒトに心理的圧迫感などを与えないようにしなければならない。 ロボットとヒトとのコミュニケーションの問題について考察する上で、ヒトとヒトとのコミュニケーションにおいて研究されているパーソナルスペースに注目し、その定義から、この概念をロボットとヒトの組み合わせにおいても応用できるものと判断し、特にヒトの正面からロボットが接近する場面を想定して、その時にヒトが不快感を感じ始めるところを申告させ、これをロボットに対するヒトの「個体距離」と定義した。ロボットの移動速度を変化させて、それぞれに対する個体距離を実験により調査した。また、立位と椅座位における個体距離を測定し、姿勢による検討も行った。これらによりロボットの移動速度と個体距離の関係を明らかにし、ロボット及びロボット使用施設の設計に利用できるデータを提案することを目的とした。  また、若年者と高齢者ではロボットに対する感じ方の違いから、個体距離が異なる可能性もあった。従って高齢者に対しても若年者と同様の実験を行った。  上記のような調査から以下に述べる知見を得た。 ロボットの移動速度と個体距離との間には正の相関があった。これは若年被検者21名を用いた場合と、高齢被検者17名を用いた場合の両方に見られた傾向であった。各個人の姿勢2条件、ロボットの移動速度4条件のそれぞれにおける4名の繰り返し試行によって、個体距離における慣れや繰り返しによる誤差は、被検者の個人差や立位と椅座位の姿勢の差、ロボットの移動速度による差に比べて充分に小さいことが判明した。これによって個体距離は信頼性の高いデータであると判断された。同じ実験によって、ロボットの移動速度と個体距離の関係でみられた全体的な傾向が4名の被検者全員にみられた。これによってほとんどの被検者がロボットの移動速度が大きくなるにつれ、個体距離が大きくなるという傾向であると判断でき、パーソナルスペースの概念がうまく当てはまるものとなった。 爪先を基準とした個体距離において、立位と椅座位の姿勢による差は、若年者においても高齢者においても見られなかった。これは設計に利用する際に便利である。目の位置を基準に補正すると、立位に比べて、すぐに逃げられない上に、視線が低いためにより圧迫感が感じられると報告されていた椅座位の方が個体距離は大きくなっていた。この傾向は一般的なパーソナルスペースの研究にみられたものと同じであった。 申告直前と直後の心拍5拍にかかった時間(4心拍間間隔)は、早いロボットの移動速度(0.8m/秒以上)のときに、申告直後の方が短くなっていた。主観的な個体距離の申告の妥当性を、客観的データによって傍証していると考えられる。 高齢者の個体距離に性差は見られなかった。これまでのパーソナルスペースに関する研究と一致する結果であった。また、高齢被検者の中で年齢による個体距離の変化はみられなかった。これらのことから個体距離に関して、今回の高齢被検者を一つのグループとみなし、これを高齢者群として、若年者群と比較を試みた。高齢者の個体距離は若年者のそれと比べて有意に大きかった。これは高齢者の運動能力の低下から、移動体ロボットに対する不安が若年者よりも大きく、これが大きめの距離をとっている一因であると推察された。 高齢者群よりも年齢の高い被検者においては、ロボットが移動を開始してから停止するまで、距離の申告がみられなかった。これは実験の趣旨の理解不足などではないことが確認されている。  以上のことからロボットに対するヒトの個体距離をロボットやロボット利用施設の設計に利用する際に参考とするデータを提案した。爪先基準の個体距離を利用すれば便利であることがわかっていた。若年者に比べ高齢者の個体距離が大きいことから、高齢者の個体距離を考慮すべきである。しかし、年齢が高ければ高いほど個体距離が大きいとは考えられない。したがって高齢者の平均個体距離が一つの提案となる。一般のロボットの移動速度は1.0m/秒以下なので、1.0m/秒の個体距離が最も大きいことが考えられる。その値は3.3mである。 続きを見る
49.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 韓国の看板デザインの歴史的変遷とその社会的文化的背景の分析 — An analysis of the historical change of Korean signboard design and its socio-cultural background
郭, 明姫
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(芸術工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 本研究韓国の看板デザインの歴史的変遷とその社会的文化的背景の分析を目的とし5章で構成されている。   第1章は、序論として研究の目的、研究方法、および看板の定義を明確にした。韓国における看板の歴史的研究は全くされていないため、主に文献と絵画、写真資料、現地調査を元に分析を行った。本研究における看板は伝統的な商業標識である「目じるし」を含め、「商業のために使われている商業標識全般」と定義した。  第2章は、韓国における看板の出現と伝統的な商業形態を中心とし、看板の出現を基盤とした高麗時代の社会構造や都市の基本性格、および看板の特徴を考察した。続いて、朝鮮時代の商業と看板の特徴、市場の機能と役割、常設市場の発達過程、商業建物の特徴、開港後の都市の商業と看板の特徴について考察した。  第3章においては、絵画と写真に見られる朝鮮時代商業と看板を中心とした、ビジュアル的な資料に見られる当時の商業行為の特徴とされる男性中心の社会、酒店と旅宿、看板のない店舗について分析した。最後に韓国の看板と関連を持つ韓国の伝統的な建物標識と看板、扁額と懸板、柱聯、看板を意味する言葉の変遷について考察した。  第4章においては、韓国の近代化と植民地時代の看板を中心として分析した。主に、大都市を中心とした看板の特徴と植民地政策による日本語教育とハングル、またハングルがもつ社会的意味について考察した。また、写真にみられる植民地時代の看板の特徴を看板の文字や素材、形態、看板に書いている内容と分けて考察し、また、当時の看板の調査資料である『朝鮮人の商業』から商店名、文字、形態、素材などについて分析を行った。  第5章においては、現在の韓国の看板の成立過程と特徴において大きく影響していたハングル政策である日本式看板撤去運動とハングル専用表記運動、国語醇化運動について述べた。また、韓国の代表的な都市であるソウルの仁寺洞看板と伝統的な都市である慶州の看板文字を調査結果をもとに、ハングル看板の表記方式、文字の種類、ハングル看板の書体などの特徴を明らかにした。最後に、韓国の看板の歴史的変遷とその意味について結論を述べた。  韓国における看板の大きな特徴は「看板文字」を軸として形成され、変化、発展してきたことである。文献上では高麗時代から看板に漢字が使われてきたが、その文字表記は朝鮮時代を経て今日に至るまで、社会的変化に大きく影響され、時代別に大きな特徴を表わしてきた。 看板に関する最も早い記録である『高麗図経』には市場の坊門には永通、廣徳、興善、通商・存信・資養・孝義などの内容の看板が設置されていたと述べられている。これらの看板は全て2文字であって、商業とは直接関係のない儒教的思想や経営信条などを主に表していた。朝鮮王朝に入ってからは、官設商店や六矣廛は、基本的に一つの店には一種の商品を販売していた。このような常設商店は御用的生活を持ち、その規模や売っている品物によって「廛」、「店」、「房」、「局」、「家」など、それぞれ異なる言葉を表わした。このように朝鮮時代の看板には主に売っている商品の名が商店名となっていたが、看板という言葉は統一されておらず、「榜木」、「懸額」、「懸板」など多様な言葉で表わしていた。これらの言葉が持つ意味の関連性や一般的な建物標識との区別のため、伝統的な看板を「商業懸板」と定義した。 朝鮮時代末期からは身分制度の崩壊や日本による植民地政策が本格化されていくにつれ、ハングル教育とその使用の重要性が高まってきた。この時期は漢字だけではなく、ハングル、ひらがな、カタカナ、アルファベットなど様々な文字が各々混じって使われるなど、植民地政策による社会的な状況を著しく表わしていた。書かれている文字の内容は、主に売っている商品の種類や商号を表していたが、それだけではなく、商品の品質の説明や店の住所、電話番号、店主の名前、シンボルマーク、商標、絵など様々な情報が書き込まれるようになった。韓国における看板という言葉はこの時期につまり、植民地時代に日本から移入された言葉であったことが明らかになった。 1945年、解放と共に日本式の看板は「ハングル専用運動」によって撤去され、中国の看板を除いたすべて漢字表記の看板はハングル表記に書き直された。これらのハングル政策は「看板のハングル化」という大きな軸を形成したが、表音文字である諸問題点を抱えながら、80年代からはハングルのみの「詩的な表現」を看板に用いて、商店名を一つのイメージとして与えようとする新たな現象を生み今日に至っている。 続きを見る
50.
学位論文
Kyushu Univ. Production 九州大学成果文献
Cover image of 聴覚心理測定における学習測度としての反応時間に関する研究 — Reaction time as a measure of learning in psychoacoustical measurement
井上, 仁郎 ; Inoue, Jinrou
学位授与年度: 1998
学位授与大学: 九州芸術工科大学
学位: 博士(工学)
学位種別: 課程博士
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概要: 聴覚心理測定に未経験の被検者、特に、認知機能、運動機能が低下し、個人差が大きな高齢者を効率良く訓練し、短時間で信頼性のある聴覚心理測定を行えるようにするには、測定方法の理解や応答機器の操作等の「応答操作」の訓練が必要である。そのためには検者が学習のレベルを把握するための客観的な学習測度が必要である。特に、臨床検査を想定すると、様々の肉体的・精神的コンディションの患者を対象にしなくてはならないため、精度重視の一般の聴覚研究と異なり、精度よりも検査のスピードが要求される。 本研究は、測定に未経験の若年成人・高齢被検者が、聴覚研究や臨床検査における聴覚心理測定に参加する場合、被検者が応答操作を理解したかどうかを訓練過程の中で見つけ出す方法として、正答率だけでなく反応時間を学習測度として用いる方法の有効性を示し、さらに、実際の聴覚心理測定中の反応時間を計測することによって被検者の肉体的・精神的コンディションを推定する糸口を掴むことを目的とするものである。 具体的な聴覚心理測定として1kHz純音の周波数弁別閾測定を取り上げて検討した。訓練方法は、「音刺激を検知したら素早く応答ボタンを押す」という単純な検知課題と、十分弁別可能と考えられる刺激対を呈示して、「初めの刺激のピッチが高ければ、スイッチボックスのボタン1を押し、2番目の刺激のピッチの方が高ければ、ボタン2を押させ、正答を被検者にフィードバックする」という周波数弁別課題の2種類の訓練を使用した。 また、周波数弁別閾測定を行い、同時に反応時間を測定し、検討を行った。   第3章では、若年成人において、測定に経験のある者と測定に経験の無い者の訓練過程においてどのような違いがあるか、正確で素早い応答を要求する教示の下で検討した。  その結果、  1)単純反応時間において、経験者の方が未経験者に比較して、有意に短かった。  2)経験者の選択反応時間はすぐに短縮され、未経験者よりも学習が速いと考えられる。一方、未経験者は特に第1ブロックが長いが、すぐに学習がなされ、4ブロック目では、経験者と差がなくなってしまうといえた。  3)反応時間と正答率は、どちらもブロック間の差を表わせたが、正答率よりも反応時間の方が良く経験の違いを出せ、応答操作の学習測度としての反応時間の有効性を示すことができた。  第4章では、未経験被検者に対する周波数弁別閾測定のための訓練を若年成人と高齢者に対して行い、3日間にわたる訓練過程での正答率と反応時間の変化を正確で素早い応答を要求される教示群と、そうでない非教示群で検討した。その結果、  4)反応時間については、若年成人では1日目の第2~3ブロックでプラトーに達し、高齢者では2日目の第1ブロックでプラトーに達し、応答操作の学習が完了したと考えられ、応答操作の学習測度として反応時間の使用が有効であるといえた。  5)正確さの学習測度である正答率については、周波数弁別に必要な知覚判断処理が心的に形成されたと考えられる学習の完了は、若年成人では2日目、高齢者では3日目であった。  6)反応時間で非教示群と教示群との間の違いが出た。教示群の反応時間は応答操作の学習のレベルが明確に出るため、学習の完了の判断が容易だった。  7)正答率については、若年成人では1日目に非教示群と教示群との間に違いがみられたが、高齢者では3日間にわたって違いがみられなかった。  8)正答率、反応時間の両方で、前日の学習結果と較べて次の日に大きな悪化がなく、学習結果が保持されている。高齢者の場合、数日間にわたる測定の方がむしろ好ましいと考えられる場合、数日にわたって測定を行い、1日の負担を軽くすることも可能であることを示唆した。  第5章では、訓練後に若年成人被検者と高齢被検者によって1kHzの周波数弁別閾を測定した。その結果、  9)周波数弁別閾は一般的には繰り返し測定することによって徐々に低下していくが、本研究でも3日間にわたって低下する傾向がみられた。  10)反応時間がプラトーに達した時点は、応答操作の訓練が完了したと考えられる。その時点の周波数弁別閾には、「応答操作に問題はない」という確証が得られるため、その弁別閾の信頼性を増すことになるといえる。特に、臨床では、様々の身体的、精神的コンディションの患者が測定に参加するため、測定回数が制限される。少ない測定回数の中で、測定値の信頼性を増すためにも、応答操作の訓練の完了を確認することは意味があるといえる。  11)訓練および実際の周波数弁別閾測定中の反応時間は、被験者の課題に対する意識の集中度(意欲)や覚醒レベルを反映する。測定パラダイムに対応する基準値が必要ではあるが、反応時間で被検者の状態をモニターすることによって、休憩を与えたり、測定の中止や延期を決定する参考資料として応用が考えられる。  12)素早い応答を要求する教示の下で、訓練の学習測度として反応時間を用いて訓練の完了を判定することによって、その弁別閾の信頼性を増すことができるため、採用されるべき閾値を取り始める時点を、応答操作訓練の完了後とすべきであると考えられる。  さらに、未経験若年成人被検者における周波数弁別閾測定中の刺激レベルと反応時間の関係を調べるために、恒常法を用いて、素早い応答を求める教示の下で、訓練無しで測定した場合は、  13)個人差は大きいが、反応時間と刺激レベルの関係が、被検者が行う判断の確信の程度と関連して変化することが分かった。  第6章では、これからの臨床聴覚検査に関する議論を行い、その結果、  14)より高度の聴覚心理測定を臨床検査で行う場合、応答操作の訓練完了を判定するために、訓練の学習測度として反応時間を用いるべきであることを提案した。 続きを見る